凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】




『親父、あんたが素直に治療を受けないせいであんたの妻が暴走した。責任とって素直に生体肝移植を受けろ』

 実家の書斎、父親の重厚なデスクを叩きながら言う。黄疸の出た瞳で、父親はじっと俺を見つめていた。
 肝臓を悪くして以降、父の病院への影響力はがくりと下がっていた。……らしい。
 それを巧妙に隠されていたのは、北園会の息がかかった役員のせいもあるが、なにより。

『なぜ俺と美樹に連絡しなかった?』

 父親は泰然と俺を見つめている。

『この状況より医師としての研鑽を優先したのは俺の判断ミスだ。それがいまやこの状況を招いている。何がなんでも挽回しないといけない。まだ間に合う』

 言い募ると、父親がようやく反応した。

『移植……お前からか』
『特に問題はないでしょう』

 モデルである美樹の身体に手術痕を遺すわけにはいかない。

『いま、お前にとってとても大切な時期なのは理解しているのか?』
『あなたから親らしいことをしてもらった記憶はほぼないが、あなたがいい医師なのは知ってる。俺のキャリアはいくらでも取り戻せる。せいぜい遅れて三ヶ月程度だ』

 俺は頭を下げる。

『生きて、もっとたくさんの人を救ってくれ。息子としてじゃない、医者として頼んでる』



 生体肝移植は、国内例すでに五千件を超えている。安全性がほぼ確保された手術で、父親が怖がっていたのが自身の死ではなく、ドナーになるであろう俺の健康だったことには少し驚いた。そして病気を知れば俺が移植を希望するだろうことを懸念し、俺たちに伝えなかったのだと。

 あの人にも親らしい感情があったのか。
 幸いにも術後は順調で、俺も三週間の入院のあと退院した。切り取った肝臓も退院前にはほぼ術前と同じ大きさに回復していた。肝臓は唯一の回復する臓器なのだ。

 その入院中に、茉由里が妊娠しているらしいと情報を受け取って今すぐにでも駆けつけたい気分になる。どれほど心細いだろう、どれだけ不安だろう。茉由里が通うクリニックのスタッフは嫌というほど身辺調査をさせた。茉由里になにかあれば俺は自分でも何をするかわからない。
 
 正式に婚約を了承したつもりはないのに、北園は勝手に婚約を公表した。胸くそ悪いインタビューまで受けて。早織さんが青い顔をして右往左往していたけれど、視界に入れないようにした。
 この人だって巻き込まれただけだ。わかってはいるのに苛ついた。
 動向を調べるために美樹が北園に近づいてみたが、飄々と交わされるばかりのようだった。



 茉由里が産んだのは男の子だった。写真と動画を出産したクリニックから手に入れて何度も見た。

『祐希』

 茉由里が付けた名前を、画面の中の赤ん坊に向けて口にする。ふにゃふにゃの新生児を茉由里が抱き上げ幸せそうに頬擦りした。
 ふたりともが可愛くて愛おしい。同時に悔しくてたまらなかった。俺に力がないばかりに、最愛の人をひとりにしている。そばにいたかった……。
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