凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「もうねんねしなきゃ祐希、ね」
「待ってくれ茉由里。祐希に……教えてたんじゃないか。写真を見せて、これが父親だって」
俺が父親だって、パパだって。
茉由里は祐希を抱きしめてぶんぶんと首を振る。
「してない。そんなこと……してたとしても、もうしない。あなたをパパだなんて……父親だなんて……」
茉由里はすとんと床に座り、ぎゅうっと祐希を抱きしめなおす。
「苦しくても、悲しくても、ひとりで育てると決めたの。強くなると決めたの」
「俺にも背負わせてくれ、お願いだ。ずっと会いたかった、苦しかった、君のそばにいたかった」
「じゃあ!」
茉由里は勢いよく顔を上げ俺を睨む。
「なんで……なんで迎えにきてくれなかったの」
絞り出すような細い声に、ずっと耐えてきた茉由里のこれが本心なのだと理解できた。
俺のために、病院のために、俺の父親のために、まだ見ぬ患者の命のために身を引いた茉由里。ずっと自分自身さえ騙してきたのかもしれない。これが最善だ、こうするほかないのだと──。
「悪かった、俺が悪かった。全部俺が」
甘かった。弱かった。馬鹿だった。
「ばか、ばか、ばか。宏輝さんのばか」
ぽろぽろと茉由里の両目から涙が溢れゆく。綺麗な涙だった。泣き崩れる茉由里をぽかんと祐希は見て、「まー? よしよし」と首を傾げて頭を撫でる。茉由里は顔を上げて「祐希」と切ない声で呟き、また泣いた。
俺は祐希ごと茉由里を抱きしめる。
「もう大丈夫だ。迎えにきた。ようやく君を守れる男になった。なったから──……結婚してくれないか?」
茉由里はそれでも首を横に振る。信頼されていない俺が心底情けないけれど。
「ならせめて……東京に戻ってきてほしい。祐希をゴタゴタに巻き込みたくないのなら、なおさら」
「……どういう」
ハッと茉由里が顔を上げる。潤んだ瞳の奥に、母親としての強さが滲む。ぐっと胸が詰まった。
「北園会グループとは、こちら有利に提携することができた。だが、完全にあちらに対する影響力を得たわけじゃないし、この提携が気に入らない勢力もいる。犯罪に手を染めて……君たちを人質にしてでも大義のためならば、のような考え方のやつもいる」
北園華月の蛇のような目を思い出す。
そう、そもそも彼らは……。
「……そんな、たかが提携で」
「その『たかが』に数十億の金が絡んでる。人間、欲に支配されるとどれだけクレバーな人間でも簡単に転ぶことがある」
医師としての倫理観すら打ち壊してしまうことも。
茉由里はじっと俺を見つめたあと、ゆっくりと眉を寄せて呟いた。
「考えさせて」
茉由里が祐希を抱き上げ、寝室のドアを閉める。俺はジャケットを脱ぎソファに座る。じっと天井を見つめているうちに眠っていたらしい。優しい指の体温にばっと目を開くと、茉由里が毛布をかけてくれているところだった。
「ご、ごめんね。起こした」
「いや」
答えながら彼女を腕に閉じ込める。
「茉由里」
「な、何」
声は硬いのに俺の腕から出ていこうとはしていない。ホッとして抱き上げ、膝に乗せて頬を包んだ。
「愛してる。かわいい……やっと会えた。やっと」
何度もキスを落とす。額に、頬に、こめかみに、目元に顎に、そして唇に。
わななく唇がおずおずと開き、歓喜に心臓を高鳴らせながら愛する人と舌を絡める。そっと耳を撫でた。かわいい耳だ。びくっと茉由里は肩を揺らし俺の肩を手で押す。
「だめ……」
「そうだな。ふたりめは祐希が俺に慣れてからで遅くない」
「そ、そうじゃなくて」
茉由里は泣きそうな顔で俺を睨む。
「そんな顔をしても無駄だ、茉由里。どれだけ抵抗されようと、俺が君たちを連れ帰るのは確定しているんだから」
茉由里の瞳が揺れる。俺は唇を上げた。
ああ、まったく……わかっていないんだな。
俺がどれだけ君を愛しているのかを。執着しているのかを。
俺は彼女をソファに押し倒す。
『こー』
舌足らずのあどけない声が俺を呼んだあの瞬間から、俺は君しか欲しくないんだよ、茉由里。