凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
三章(side茉由里)
【三章】side茉由里
宏輝さんに大切にされているのはわかっている。そうじゃなきゃ、わざわざ迎えにきてくれたりしない。
彼の言葉に嘘がないのも。
この二年の間に彼に起きた様々なことで、宏輝さんがどれだけ苦労したのかも、どんな想いで私たちを迎えに来てくれたのかも。
全てを教えてくれたわけではないだろうけれど、それでもどれだけ彼が辛かったのかはその口調から理解できた。唇を噛む宏輝さんなんて、初めて見た。
でも受け入れることはできない。
だって、そうしたら二度と彼から離れられない。
彼と離れた二年間で身に染みたのは、やっぱり宏輝さんと私では住む世界が違いすぎるということだ。
彼に私はふさわしくない。
きっとこれからも、私が……つまり、なんの後ろ盾もない女が妻であることは彼にとって弱点であり続けるはずだ。
彼に釣り合うのは、それこそ北園さんみたいな女性だろう。美樹さんだって歓迎していたのだし、彼は立場があるのだから自分の感情だけで結婚を決めていいはずがない。
彼がただのお医者様であったなら、私は少しの「ふさわしくなさ」なんて乗り越えてやる、って頑張れたのかもしれない。でも彼はそうじゃない。いずれ、何千人ものスタッフを抱える経営者として後を継がなければならない。
そのときに私は彼の役に立てない。
私個人の努力なんてなんの役にも立たない世界で、彼は生きていく。
足手纏いになりたくない。
でも心は彼を求めて軋んで痛んで切なくて。
だから、一度受け入れれば私は自分勝手にわがままに、無責任この上ないのは百も承知で厚顔無恥に彼のそばにいることを選び、我が物顔で彼の横にい続けるだろう。彼に守ってもらって、優しくつつんでもらってひとり幸せに死ぬまで守り通してもらうのだ。
そんなのはダメだ。
だから東京には、彼の元には戻らない。そう思うのに──……
彼と再会して心臓が弾けるように露呈してしまったのは、ひどい弱さだった。
『なんで迎えに来てくれなかったの』
心のどこかでずっと叫んでいた。待っていた。諦めたはずなのにできていなかった、そんな想いが零れてしまった。
私は強くなければいけないのに。
祐希がお腹にいると分かったときに決めたのだ。
ひとりで生きていけるくらい、ひとりで祐希を立派に育て上げられるくらい、強く、強く、強くなければいけないのに!