凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

「茉由里……っ。すまない、俺が余計なことをしたせいで眠れなかったんじゃないか?」
「そんなこと……」
「本当は、迷った。あのまま君たちが京都で幸せに暮らしていくのを見守っていったほうがいいのかとも思った。けれど、離れているだけでも胸が苦しいのに、君に他に想う男ができたら? そいつと幸せに暮らすのを俺はただ黙って見ているだけなのか? 無理だ。そんなことになったら、俺は死ぬと思う」
「宏輝さん……」

 そんなことあるはずがないのに。
 なんとか口にしようとする間に、彼は次の言葉を紡ぐ。

「すまない茉由里」

 宏輝さんの腕に力がこもる。

「俺には、とてもそんなこと、受け入れられなかった」

 宏輝さんの声が低く掠れる。

「すまない、俺の事情に、エゴに巻き込んで。ただこれだけは信じて欲しい。今の俺は全てを守る自信がある。それだけの力をつけたと自負してる。だから──だから」

 宏輝さんはほんの少し腕の力をゆるめ、私の顔を覗き込んだ。

「だから、茉由里。君は俺に守られていろ」
「……宏輝さん」
「君が君でいること、そばにいてくれること、ただそれだけで俺は強くなれる」

 真剣な瞳に、射抜かれた。
 思わず息を呑みながら、彼が全身全霊で私を必要としていることを納得する。
 釣り合わないとか、ふさわしくないとか、そんなものを超越して……彼は私を求めているのだと。

 どうして私は、子どもは道具でないことを理解しておきながら、伴侶はそうではないと考えていたのだろう。利用するものだと。

 そんなはずないのに。
 ただお互いを慈しみ睦み合うことができれば、それはきっと何にも勝る幸せ。

「茉由里、愛してる」
 宏輝さんが蕩けるような笑みで言う。ただここに私がいることが幸福なのだと、そう言われている気がした。

「宏輝さん」

 私は彼の背中に震える手を回す。そうして何度か息を吸い、小さく口にした。

「私も、です」

 思った以上に声は震え、小さかったけれど……宏輝さんの肩がびくっと動いた。

「私も、好き。大好き」

 すうっと息を呑み、続ける。

「愛してる……っ、んん……っ」

 唇が奪われた。重なり合う唇、口内を蹂躙していく彼の舌が私のものと絡み、執拗に擦り合わされる。

「茉由里、茉由里……」

 唇を重ねたまま、宏輝さんは私を呼ぶ。
 私はただ彼に身を委ねる。……ずっと、私、宏輝さんをみくびっていた。私の基準で考えていた。

「宏輝さん、聞いて。あのね」

 まだ唇の皮一枚が触れ合っているほどの距離で、私は話す。宏輝さんの吐息がなまなましい。

「私、宏輝さんをみくびってた。ごめんなさい」

 謝る私に、宏輝さんは不思議そうな顔を見せる。

「宏輝さんは私と祐希を守るのなんて余裕だったんだ。なのに宏輝さんを私はみくびって勝手に逃げてた。軽んじてた。私がすべきことは、ただ」

 ひとつ息を吐いてから、続けた。

「あなたを信頼することだけだったのに」

 早織さんから話があった時点で、相談するべきだった。そばにいるのが危険だったのなら、彼と話をして遠くへ行くべきだった。それこそ海外でも、どこでも。
 宏輝さんは笑う。

「茉由里が俺をみくびってるのなんか、まったく気にならない。それくらいも受け入れられない男だとでも? 俺は君がそばにいれば、それだけで世界でいちばん強くなれるんだから」

 朗らかに笑い、宏輝さんは告げる。
 ありとあらゆる私を、清濁ぜんぶ合わせて呑み込んで慈しんで愛してくれる彼に、何も返せないからふさわしくない、なんて思うのはやめよう。

 返せるものはたくさんある。
 それは愛情であったり、微笑みであったり、温もりであったり、色々だろう。私は私のできることをしていけばいい。

「遠回りして、ごめんなさい」

 謝る私に触れるだけのキスをして、宏輝さんはそっと身体を離す。

「……これ以上触れていると、我慢できなくなりそうだから」
「私も」

 素直に言うと、宏輝さんはものすごく珍しく頬を赤くして、それを隠すように口元を大きな手で覆う。

「……あまり煽るのはやめてくれないか」
「ごめんなさい」

 宏輝さんは私の顔をまじまじと見て、それから大きく幸せそうに笑った。
 昔、なんの不安もなく睦み合っていたころの、朗らかな優しい笑顔だった。
 きっと私も、同じ笑顔を浮かべている。
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