凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「まずは、これを」
宏輝さんはその視線を無視して、スマホをいじり音声を再生する。
『結婚したら、お子さんが欲しいのかしら? 母子ともに健康で退院できるといいですよね』
北園さんの声だった。
同時に宏輝さんがすぐに私を迎えにこなかった理由を知る。私の身の安全が確保されるまで、彼は動けなかったんだ……。
「当時俺は別の愛するひとと婚約していて……彼女の腹には俺の子どもがいた。この録音は、彼女との入籍寸前の話です」
それが、とはっきりとした声で宏輝さんが続ける。
「それが、先日あなた方が『愛人と隠し子』だと報道したふたりです。あのふたりが俺の最愛で、唯一です」
宏輝さんが言い切って、私に向かって頷く。私はきゅっとひざの上で手を握りしめた。
北園さんはどこ吹く風だ。それがどうか? みたいな顔をしている。
けれど続けられた言葉に、さすがに微かに顔色を悪くする。
「さらにもうひとつ。彼女は臓器売買に関わっています」
会議室内が一気に騒がしくなる。
「臓器売買? 全く身に覚えはないけれど、あたしが何をしたと言うのかしら」
張りのある声だった。なんら瑕のない人間の声。けれど宏輝さんは無言でスマホをいじりプロジェクターに映像を映し出した。
それは信じられない内容だった。
どこか、外国での隠し撮り映像だ。質素な病院だった。窓から見える景色は、決して豊かな国ではないことを示していた。
そこでボランティアのドクターとしてだろう、診察をしていた北園さんが若い女性の患者さんに英語で提案する。現地の通訳の人の言葉に患者さんが目を丸くした。臓器の一部を日本の患者に提供すればこの国の貨幣価値で十年近く暮らしていけるお金が手に入ると。彼女は熱心に患者さんを説得する。提供したとしても日常生活に支障はないと、入院費用などはこちらで持つこと。
『弟さんを学校に通わせてあげられるよ?』
この言葉に若い女性は目を見開き頷いた。
私は思わず息を呑み、口元をおさえる。
「こういった行為を、学生時代から主導していたのは──あなたですね、北園華月さん」
北園さんはしばらく宙をみつめたあと、本気で不思議そうな表情で首を傾げた。
「わからないわ」
咳きひとつ聞こえない部屋の中で、北園さんは呟いた。
「この人たちはお金がもらえて、患者は助かって。使えるもの使って、何がいけないの……?」
シンと静まり返っていた会議室が、蜂の巣をつついたかのような大騒ぎになった。
私は以前に入院した病室に連れ出された。病室には美樹さんが待っていて、私をそっと抱きしめてくれた。