凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

『どうした? 物欲しそうな顔をして』
『そ、そんな顔してないよ……!』

 慌てる私の手を、彼は握り直す。ただ繋ぐものから、指と指を絡める恋人繋ぎに。
 どきっとした。頬どころか、耳たぶまで火照っているのがわかる。

『そうか? ……物欲しそうにしてるのは俺のほうかもな』

 ふっと彼は唇だけで笑う。たったそれだけの仕草なのに、やけに色気があって困る。

『や、やめてよ。宏輝さんかっこいいんだからそんな笑い方しないで……』
『どんな笑い方だよ』

 宏輝さんが明るく笑ったのを契機に、ふたりでパンダ舎に入った。
 透明な強化アクリル板の向こうで、仔パンダがお母さんパンダところころと転がりまわりっている。

『か、かわいいっ』

 思わず口にしてしまう。フラッシュを焚かなければ撮影可能だったから、何枚も携帯で写真を撮った。

『かわいいな』

 ふだん、動物を見てもそう相好を崩さない宏輝さんもさすがに目尻が下がっていた。そこでようやく気がつく。動物にそんなに興味がない彼が、ここを選んで連れてきてくれたのは……私が動物好きだからだ。
 嬉しくなって、きゅっと彼の手を強く握る。宏輝さんは「ん?」と不思議そうにしながらも、私が素直に甘えてきたのが嬉しくてたまらないって顔をしていた。
 大切にされてる。
 それが嬉しくて嬉しくて、泣きたいくらいなのだった。
 パンダ舎をでたあと、なぜか話が赤ちゃんパンダから人間の赤ちゃんへと変遷する。

『赤ちゃんのときの茉由里、ほんとうにかわいかったんだぞ?』

 初めて会ったときの記憶は、私にはない。代わりに宏輝さんは持ち前の記憶力のよさもあってか小さなことまで完璧に覚えていた。

『赤ちゃんって言っても、私一歳だったんでしょう?』
『幼児だな。でもじゅうぶん赤ちゃんだった。まだミルクも飲んでいたし、おむつだったし』

 ……そこの記憶は消えていてほしかった。
 宏輝さんは楽しげに続ける。

『舌足らずで、まだママしか言えないのに、必死で俺の名前を呼ぼうとするんだよ。こー、こー、って。とんでもないかわいさだったぞ、あれは。むちむちの手で俺の服を掴んで……』
『な、なら宏輝さん。いまの私はかわいくないんですか?』

 あまりにも熱弁してくるから、私は照れ隠しもあって少しかわいくない冗談を言ってみた。
 すると宏輝さんは少し目を丸くして、そっと私の腰を引き寄せて耳元に口を寄せた。

『いまも可愛いに決まってる。ただ……俺と君の赤ちゃんが、君そっくりだったらいいと思ってるんだ』

 その言葉に私の方が目を丸くした。頬が火照って、まともに宏輝さんの顔が見られない。
 宏輝さんは飄々と身体を離し、手を繋ぎ直して歩き出す。まさか、まさか、そんなふうなことを言われるだなんて思ってもなかった……!
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