凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
彼は私を寝室に運びこみ、クイーンサイズのベッドにゆったりと横たえる。私の上にのしかかる彼の瞳が昂った熱を宿している。私はそれが嬉しくてたまらない。大好きな人が、私で興奮してくれているのが誇らしくてしかたなかった。
何度もキスを交わしながら、お互い服を脱がせていく。生まれたままの姿で、私たちは一度強く抱きしめ合った。素肌が触れ合う。信じられないほど心地よかった。
ああやっぱり彼なんだと思った。
私にとっての唯一……。
しばらくそうしたあと、宏輝さんは私の首筋に唇を落とす。指で乳房や腰をまさぐられ、舌で舐められたかと思えば甘噛みされ、唇で吸われ、気がつけばすっかりとろんと蕩けたように彼に身を任せてしまっていた。
気を失うようにして眠った私が再び目覚めたのは、朝方のことだった。まだ夜を残す空は太陽に白み始め、紫がかったピンクに染まっている。
ぼうっとそれを見ていた私は、シャワーすら浴びず眠っていたと気がついた。あんなに汗だくになったのに!
慌てて起き上がる私を逞しい腕が再びベッドに引き込む。
『こら、茉由里。どこへ行くんだ』
『だ、だってシャワー……』
宏輝さんはきょとんと私を見つめたあと、ふはっと吹き出した。
『心配するな。軽くだけど拭いたから』
『で、でも』
そう答えながら、ふと違和感を覚える。
『……え?』
そっと左手を見ると、薬指に身に覚えのない指輪が光っていた。金に花の透かし模様の、アンティーク調の繊細なデザインだった。中央にはピンクがかった紫の石が嵌っている。
『これ……』
『実母の形見だ。元々は曽祖母のものだったらしい。……もらってくれないか?』
宏輝さんは恭しく私の手を取り、指輪の上からキスを落としてくる。私はぼうっとその夜と朝のあわいの空のような宝石を見つめ……ハッとして宏輝さんの顔に目線を移す。
『だ、だめだよ。そんなに大切なもの……っ』
『茉由里に持っておいてほしい。ダメか?』
宏輝さんは眉を下げて私に頬を寄せてくる。甘える仕草に胸がきゅんとなり、私は小さく頷いた。
『あ、ありがとう……』
『じきにきちんと婚約指輪は贈るから』
そう言われて目を丸くする。婚約指輪……⁉︎
驚いている私を見て、宏輝さんが逆にびっくりした顔をする。
『茉由里。まさか別の男との将来なんて考えていないだろうな?』
『ま、まさか。でもっ……』
『茉由里』
もう一度はっきりと私を呼び、彼は私の頬をその大きな手で包む。
『俺はきみ以外をそばに置く気もないし、きみが他の男のそばにいるのを許すつもりもない。いいな?』
ぎらぎらとした瞳で断言するように言われ、私は何度も頷き返す。そのうちにじわじわと実感が込み上げて、それは涙になってぽろぽろと溢れてしまう。宏輝さんが慌てたように親指の腹で何度も拭ってくれた。
『茉由里。これはどういう涙だ? 嬉し涙……だよな? まあ、違ったとしても離してやるつもりはないけれど』
しゃくりあげながら私は答える。
『嬉し涙だよ、宏輝さん……大好き』
宏輝さんは私を不安にさせたりなんか一切しなかった。全力で愛してくれた。愛おしかった。
私が上宮病院の系列であるクリニックの受付として就職して数年目、二十三歳の誕生日、今度はニューヨークの動物園のど真ん中で膝をついてプロポーズしてくれた。海外ということもあって素直に彼に抱きついた私を、感極まって私を抱き上げてくるりと回った宏輝さんを、周りのお客さんも拍手でお祝いしてくれて……。
式は宏輝さんの仕事がもう少し落ち着いてからと決めた。けれど『少しでも早く名実ともに君を俺のものにしておきたい』という彼の熱烈な要望もあって、入籍だけは早めにしようと決めた。
私たちが付き合った記念日、三月の半ばに籍を入れようと。
『私はもう宏輝さんのものだよ』
『そんなかわいいことを言うきみが他の男に攫われないか心配でしかたないんだ』
そんなことあるはずがないのに、宏輝さんは変な心配ばかりしている。
年が明けてから、私と宏輝さんはひとつ約束をした。
避妊をやめる。
『すぐにでも子どもが欲しいんだ。君と俺との子ども……』
宏輝さんがそう言うのには、きっと理由がある。
彼はずっと、家族の中でひとりだった。
だからこそ家族が欲しいのだと、なんとなく察していた。私は一切の不安なく頷いた。
永遠の愛を信じていた。
薬指に光るのは、婚約指輪……そして、金の透かしの指輪。そちらに光る夜と朝のあわいのような紫がかったピンクの宝石は、クンツァイトと言うらしい。
石言葉は──『無限の愛』。
けれど、入籍を目前にしたある日、宏輝さんの義母である早織さんが私の家を訪ねてきた。宏輝さんが学会でアメリカに行って不在の、そんなある夜のことだった。