ロミオとジュリエットにはほど遠い
第3章 後悔と心情と
◯自宅・玄関(午後)
その日の放課後、自宅に帰った鞠絵。
使用人にカバンやコートを渡す。
使用人「家庭教師の先生がお見えになっています」
使用人の報告に、鞠絵は嬉しそうにする。
鞠絵「準備したらすぐに行くわ」
◯自宅・鞠絵の部屋(午後)
鞠絵が部屋に入ると、家庭教師・鍋田 みどりがスツールから立ちあがって微笑む。
鍋田「鞠絵さん、この度はご成婚おめでとう」
鞠絵は複雑な表情を浮かべる。
鞠絵「先生、祖父が無理を言って申し訳ありません」
鞠絵が頭を下げると、鍋田は慌てて頭をあげるように言う。
鍋田「鞠絵さんのせいではありませんから」
鞠絵「いいえ、いきなり祖父が『結婚させるから勉強の計画を変更してほしい』と言いだしたりして」
鍋田「無茶な変更ではありませんでしたから、大丈夫ですよ」
鍋田は鞠絵の両肩を抱く。
鍋田「鞠絵さんこそ大変でしょう?」
鍋田「突然今までの勉強をやめて、英語と中国語だけ集中的に学ぶなんて」
鞠絵は真一文字に結んでいた唇を開く。
鞠絵「いいえ、ちっとも」
鞠絵「これからの時代、両方とも大事になってきますもの」
鍋田は鞠絵の言葉に目だけでうなずいてみせる。
鞠絵「先生、早速始めましょう!」
鍋田「ええ、早いところ終わらせて、旦那様と夕飯が食べられるようにしないと!」
鍋田の言葉に鞠絵は苦笑する。
◯自宅・ダイニングルーム(夜)
勉強が終わり、夕食をとりにダイニングルームににやってきた鞠絵。
一人分しかカラトリーがなくて首をかしげる。
鞠絵「幸樹さんの分は?」
嫌な予感がしながらも、控えていた使用人に声をかける。
使用人「今日はいらない、とだけうかがっております」
鞠絵「帰ってきてないの?」
使用人「お嬢様と同じ時間に帰っていらっしゃいました」
鞠絵はますます訳がわからなくなる。
鞠絵「玄関では会わなかったのに」
使用人「いつも裏口から帰っていらっしゃいますので」
鞠絵「……まさか、お祖父様が?」
鞠絵の声のトーンが低くなるが、使用人はそっけない態度をとる。
使用人「私は何もうかがっておりません」
鞠絵はさらに言いつのろうとする。
それと同時に、幸樹が姿を現す。
幸樹「水差しとコップをもらいたいんだけど、かまわない?」
鞠絵と使用人の背後から現れた幸樹。
幸樹の顔は赤く、息もあがって具合が悪そうだ。
鞠絵は突然のことに驚いて、すぐに行動できない。
使用人「少々お待ちください」
使用人はキッチンへと引っ込む。
鞠絵はその声にハッとなって幸樹に声をかける。
鞠絵「幸樹さん、薬は?」
幸樹「いらない、寝てれば治る」
鞠絵を遠ざけるように、自分もキッチンへ向かおうとする幸樹。
その姿に、鞠絵は『家来にも召使いにも……』という幸樹の言葉を思い出す。
使用人「お待たせしました」
幸樹「ああ、ありがとう」
水差しとコップがのったお盆を受け取り、幸樹はダイニングルームから早々に出て行く。
鞠絵「私、自分の部屋で食べるわ」
そう言い捨てて自分の部屋にこもる。
◯自宅・幸樹の部屋の前(深夜)
水差しを持ったまま立ち尽くす鞠絵。
鞠絵(新しい水差しを持っていくぐらいはいいわよね)
覚悟を決めてノックしようとする鞠絵。
その背後に黒い影が近寄る。
幸樹「鞠絵さん?」
鞠絵「!?」
鞠絵は水差しを落としそうになる。
それを幸樹がキャッチする。
幸樹「──っと、危ない」
鞠絵「ああ、やだ私ったら……」
鞠絵「ありがとう」
幸樹「服は? 濡れてない?」
まるで家族だったときのようなやり取りに、2人は顔を見合わせて笑う。
鞠絵「びっくりしたわ、どこ行ってたの?」
幸樹「トイレに行ってただけだよ」
幸樹「鞠絵さんこそ、幽霊かと思った」
鞠絵「まぁ、ひどい!」
この流れなら言える、と確信した鞠絵は幸樹に水差しを渡す。
鞠絵「幸樹さん、新しい水差しです」
鞠絵「夕飯のときのはもらいますね」
幸樹「わざわざ……ありがとう」
夕飯のときとは違い、穏やかに微笑む幸樹に鞠絵はドギマギしてしまう。
鞠絵「それじゃ、おやすみなさい。お大事に」
赤くなった顔を見られたくなくて、足早に去ろうとする鞠絵。
幸樹「待ってくれ!」
幸樹の声に立ち止まる。
幸樹「少しだけ、話していかないか?」
幸樹「時間は取らせないから」
鞠絵は振り向く。
幸樹は真剣な目をしている。
鞠絵はうなずいて、幸樹に促されるまま部屋に入る。
その日の放課後、自宅に帰った鞠絵。
使用人にカバンやコートを渡す。
使用人「家庭教師の先生がお見えになっています」
使用人の報告に、鞠絵は嬉しそうにする。
鞠絵「準備したらすぐに行くわ」
◯自宅・鞠絵の部屋(午後)
鞠絵が部屋に入ると、家庭教師・鍋田 みどりがスツールから立ちあがって微笑む。
鍋田「鞠絵さん、この度はご成婚おめでとう」
鞠絵は複雑な表情を浮かべる。
鞠絵「先生、祖父が無理を言って申し訳ありません」
鞠絵が頭を下げると、鍋田は慌てて頭をあげるように言う。
鍋田「鞠絵さんのせいではありませんから」
鞠絵「いいえ、いきなり祖父が『結婚させるから勉強の計画を変更してほしい』と言いだしたりして」
鍋田「無茶な変更ではありませんでしたから、大丈夫ですよ」
鍋田は鞠絵の両肩を抱く。
鍋田「鞠絵さんこそ大変でしょう?」
鍋田「突然今までの勉強をやめて、英語と中国語だけ集中的に学ぶなんて」
鞠絵は真一文字に結んでいた唇を開く。
鞠絵「いいえ、ちっとも」
鞠絵「これからの時代、両方とも大事になってきますもの」
鍋田は鞠絵の言葉に目だけでうなずいてみせる。
鞠絵「先生、早速始めましょう!」
鍋田「ええ、早いところ終わらせて、旦那様と夕飯が食べられるようにしないと!」
鍋田の言葉に鞠絵は苦笑する。
◯自宅・ダイニングルーム(夜)
勉強が終わり、夕食をとりにダイニングルームににやってきた鞠絵。
一人分しかカラトリーがなくて首をかしげる。
鞠絵「幸樹さんの分は?」
嫌な予感がしながらも、控えていた使用人に声をかける。
使用人「今日はいらない、とだけうかがっております」
鞠絵「帰ってきてないの?」
使用人「お嬢様と同じ時間に帰っていらっしゃいました」
鞠絵はますます訳がわからなくなる。
鞠絵「玄関では会わなかったのに」
使用人「いつも裏口から帰っていらっしゃいますので」
鞠絵「……まさか、お祖父様が?」
鞠絵の声のトーンが低くなるが、使用人はそっけない態度をとる。
使用人「私は何もうかがっておりません」
鞠絵はさらに言いつのろうとする。
それと同時に、幸樹が姿を現す。
幸樹「水差しとコップをもらいたいんだけど、かまわない?」
鞠絵と使用人の背後から現れた幸樹。
幸樹の顔は赤く、息もあがって具合が悪そうだ。
鞠絵は突然のことに驚いて、すぐに行動できない。
使用人「少々お待ちください」
使用人はキッチンへと引っ込む。
鞠絵はその声にハッとなって幸樹に声をかける。
鞠絵「幸樹さん、薬は?」
幸樹「いらない、寝てれば治る」
鞠絵を遠ざけるように、自分もキッチンへ向かおうとする幸樹。
その姿に、鞠絵は『家来にも召使いにも……』という幸樹の言葉を思い出す。
使用人「お待たせしました」
幸樹「ああ、ありがとう」
水差しとコップがのったお盆を受け取り、幸樹はダイニングルームから早々に出て行く。
鞠絵「私、自分の部屋で食べるわ」
そう言い捨てて自分の部屋にこもる。
◯自宅・幸樹の部屋の前(深夜)
水差しを持ったまま立ち尽くす鞠絵。
鞠絵(新しい水差しを持っていくぐらいはいいわよね)
覚悟を決めてノックしようとする鞠絵。
その背後に黒い影が近寄る。
幸樹「鞠絵さん?」
鞠絵「!?」
鞠絵は水差しを落としそうになる。
それを幸樹がキャッチする。
幸樹「──っと、危ない」
鞠絵「ああ、やだ私ったら……」
鞠絵「ありがとう」
幸樹「服は? 濡れてない?」
まるで家族だったときのようなやり取りに、2人は顔を見合わせて笑う。
鞠絵「びっくりしたわ、どこ行ってたの?」
幸樹「トイレに行ってただけだよ」
幸樹「鞠絵さんこそ、幽霊かと思った」
鞠絵「まぁ、ひどい!」
この流れなら言える、と確信した鞠絵は幸樹に水差しを渡す。
鞠絵「幸樹さん、新しい水差しです」
鞠絵「夕飯のときのはもらいますね」
幸樹「わざわざ……ありがとう」
夕飯のときとは違い、穏やかに微笑む幸樹に鞠絵はドギマギしてしまう。
鞠絵「それじゃ、おやすみなさい。お大事に」
赤くなった顔を見られたくなくて、足早に去ろうとする鞠絵。
幸樹「待ってくれ!」
幸樹の声に立ち止まる。
幸樹「少しだけ、話していかないか?」
幸樹「時間は取らせないから」
鞠絵は振り向く。
幸樹は真剣な目をしている。
鞠絵はうなずいて、幸樹に促されるまま部屋に入る。