「とりあえず俺に愛されとけば?」




「でも、じゃああの日、会いに来てくださった日に、どうして教えてくれなかったんですか……?」

「18年想い続けた相手に忘れられてて、簡単に教えるなんて癪だろ」

「いいじゃないですかべつに!教えてくださってたら、あの日に思い出してましたよ!」

「あの日思い出したとして“でも私には好きな人がいるからごめんなさい”じゃ、たまったもんじゃない」

「……」

「……てか、忘れてんなよ」




珍しく弱々しい声音をこぼした佐倉さんがじっと私を見つめる。

口角を上げると薄く唇を開いて、目を細めた。




「でも思ってたより効果覿面でよかったよ」

「……どういう、意味ですか……?」




蠱惑的に笑いながら意味深な言葉を吐いた佐倉さんは、とても楽しそう。




「俺が焦らして教えてやらないから、その間なずなは嫌でも俺のこと考えただろ?」

「策士ですか……?」

「そりゃ、ここまできたら俺で頭いっぱいにしてもらわないと困る」




要するに、佐倉さんの思うつぼだったということだ。佐倉さんに出会ってからの私の頭の中にはいつも佐倉さんがいた。って、香澄も同じようなことを言われたような気がする……。



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