「とりあえず俺に愛されとけば?」




「18年分取り返さないといけないわけだから、俺だって必死だよ」

「たしかに佐倉さんのことは考えました、でもそれは」

「いいよ、言わなくて」

「え……」




佐倉さんに遮られた言葉が音にならずに消えた。

“恋ではない。恋愛感情ではない”そう言おうとした。

佐倉さんに会ってから佐倉さんを思う日々は続いた。失恋した私の心はあの日、佐倉さんに救われた。会えばどきどきすることもあった。

でもこれが恋愛感情かと問われれば、正直違うと思う。




「俺だって分かってる。恋愛対象としてなずなが俺のことを好きじゃないことは、分かってる。

でもそれは“ 今 は ま だ ”だろ」




ゆっくりと立ち上がった佐倉さんはくるりとこちらを振り向くと、座る私の前に屈んで膝をつく。



その姿はまるで、王子様。



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