「とりあえず俺に愛されとけば?」
帰宅途中のサラリーマンの群れを掻き分け、けれど私の歩幅に合わせるように長い足で歩く目の前の綺麗な男性。
しばらく歩くと、何やらお洒落で見るからに高そうなビルに入って行こうとする。
こんなところ私には場違いだ。
「あのー、」
「……」
「あの!」
「なに?」
ビルに入る直前でぎゅっと足を止め、引かれる手をこちらに引き返して彼の足を止める。
よくよく考えればなにをのこのこ、こんなところまでついて来ているのだろうか。
というか、手。
頭ふたつ分ほど大きい彼の顔を見つめれば、「なに?」という声音と共に眉根を寄せて怪訝そうな顔をお見舞いされる。
そんなに綺麗な顔を歪めたって負けない。
突然こんな形で拉致された私にこそ怒る権利があると思うのだけれど。
この状況はあまりにも理不尽だ。
「あの、」
「なに?話なら飯食べながらにしてくれる?」
「いや、そもそも私、ご飯に行くって返事してないんですけど」
「今更だろ、ここまでついて来て」
「それはあなたが強引に私の手を引くから!」
本当に、全く勝手な人だ。ついて来たつもりなんかこれっぽっちもない。有無を言わさず連れて来たのはそっちじゃないか。
ばっと、掴まれていた手首を大きく振り、彼の手を払った。