「とりあえず俺に愛されとけば?」
「大丈夫か?」
「え、あの……、」
「なに?」
「ち、近いです、!!」
あまりの近さに顔が熱い。
彼に密着しているというか後ろから抱きしめられているこの体勢でどきどきするなというのが無理な話だ。
全身がどくどくとうるさく鼓動を始めた。
完全な不整脈。
「せっかく助けてやったのに、その言い方はないんじゃない」
「いや、そもそもあなたが手を引くから私は後ろにバランスを崩したんですよ。反省してください」
「帰るとか言うからだろ。……せっかく会えたのに」
なんだ、それ。そんなまるでずっと会いたかったみたいな言い方。どう反応していいのか分からない。
そもそも、誰なのかさえ私は思い出せないというのに。この状況についていけないどころか置いて行かれるばかりで。
私はこの人が苦手だ。心がザワザワ掻き乱される。
するりと、再度彼の手に私のそれは捕まり、ぎゅっと握りしめられた。