「とりあえず俺に愛されとけば?」




「とりあえず、黙ってついて来てくれる?」

「どうして、私が」




綺麗なビルの入り口でこんな言い合い。チラチラと通り過ぎていく人達の視線を感じる。


側から見たらカップルが喧嘩でもしているように見えるのだろうか。私達はそんな関係ではないけれど。


そもそも知らない人だし。


彼にもたれかかっていた体を起こし、じっと向き合って問いかける。握りしめられた手はきつく、解いてはくれない。


この人体温高いななんて、私より高いそれが伝わってきて嫌でも意識が手に集中する。


触れられたところが熱くて、このままではどうにかなりそうで、無理にでも離してもらおうと反対の手で彼の手に触れた時だった。




「好きだからって言ったら?」

「え……?」

「“どうして私が”の答え。なずなのことが好きだから、俺はあんたをここまで連れてきた」

「いや、それは昔の話ですよね……。初恋がどうとかいう。そもそも私はあなたとは初めましてですし……」




“好き”自分に向けられたその言葉にびくりと体が反応する。それに合わせるようにぎゅっと手に力を込めた彼の表情は真剣で。




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