「とりあえず俺に愛されとけば?」
トイレへ向かい鏡に向かってじっと立ち尽くす。ぼんやり森坂店長の顔が浮かんでふるふると首を振った。
名前だけで、動揺しすぎでしょ……。
こんなんじゃ本人にバレるって。
好きじゃない、好きじゃない、好きじゃない。と無心でその言葉を刻みながら。
「好きじゃないよ」
音にして、ちくりと胸が痛んだ。久しぶりに重症だなと自分で思わず笑いが溢れる。
ピンク色の桜柄のポーチからグロスを取り出し簡単に化粧を直して「っよし」とひと言喝を入れて香澄の元に戻った。
「あ、おかえり、なずな」
「うん、なんかごめん」
「んーん、あたしこそ無神経でごめん。あ、それ!」
「ん?」
香澄は話題を変えようとしてくれているのだろう。私の持っているポーチとハンドタオルを指さして「見せて」と促してくる。
「このタオルSAKURAの新作でしょ?」
「そう、ポーチとお揃いのハンドタオル。ずっと欲しくて発売日当日に買いに行ったの」
「えー、可愛い!」
ジュエリーや雑貨、化粧品まで幅広く扱う有名ブランドの“SAKURA”は私が社会人になって初めて自分へのご褒美に購入したブランドでその全てが桜の花を模したものや香り、色をイメージしたものになっている。