「とりあえず俺に愛されとけば?」
「覚えてない?ふざけるな」
たとえば、大好きだった片想いの相手に彼女がいることを知ってしまったら、
その時点で失恋をしたことになるのだろうか?
「なずな、それは失恋だね」
18時。早番の為、更衣室で制服から私服へと着替えている私の目の前で休憩をしに来た同期の香澄は、パックのカフェオレを飲みながらなんの躊躇いもなくひと言で、ぐさりと私の胸を突き刺した。
切れ味抜群過ぎて、もはや痛みすら感じないよ。
「そんなにはっきり言わなくても」
「いやだって森坂店長、彼女いたんでしょ。失恋でしょ」
「……はい」
ごもっともな正論に、なにも言い返せず頷いた。
東京、港区。駅から15分ほどの場所にある雑貨屋で働き始めて早3年。2年前にこの店に来た森坂店長に私はずっと恋をしていた。
元々、千葉の小さな支店にいた森坂店長。
ずっと上がらないと言われていた千葉の支店で大きな売り上げを作り、大抜擢されて東京のこの店にやってきた。
気が効くし、仕事は出来るし、なんせ優しい顔立ちの所謂イケメンに属するタイプで、お客さんからの評判もいい。