「とりあえず俺に愛されとけば?」





「なずな、もしかして」

「……?」

「俺のこと思い出したのか?」




と、今度はハッとした表情をみせた彼。
女性のお客さんばかりの店内で一際目立っていて、周りからの視線を感じる。




「いえ、あの、全く……」

「……」



思い出せないものは思い出せないのに……。と思いつつ、冷静にこんなところに来ているくらいだ、彼女のひとりやふたりいるに違いないと思った。

そのお顔なら選び放題な人生だろうに。なんて、ひん曲がった発想をしてしまう。




「なんで、あなたがこんなところにいるんですか?」

「それは、」

「あ、彼女さんへのプレゼントかなにかを買いに来られたんですか?」

「彼女なんかいない」




今日は黒のスーツを身に纏っている彼。
私の可愛さのカケラもない嫌味を含んだ質問に少し不機嫌そうに答えながらネクタイを整える仕草を見せた。



昨日突然現れ、初恋だ!と訳の分からないことを言い、仕舞いには私を拉致した、確か名前は佐倉さん……?



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