「とりあえず俺に愛されとけば?」




どんなにバカでもこの状況で気づかないわけがない。

“社長”
“新商品の打ち合わせ”
“SAKURA”
“これ、ちょっと早いが誕生日プレゼント”




「え、佐倉さんて、このブランドの……」

「社長だが」



なんて、パワーワードだろう。



「え、いただけません、それに新作ですよね。勝手に配ってはいけないんじゃ」

「なずなの為に作った商品だ。それに、俺がどうしようと、俺の会社の商品だ気にするな」




やっぱり。佐倉さんがこのブランドSAKURAの社長なのだ。私は昨日、とんでもない人に、とんでもないことをお見舞いしてしまった……。



サァーッと血の気が引いていく。私の好きなこのブランドの社長がこの人。わけが分からない。




「私の為って、意味が分からないのですが、」

「そのままの意味だが」

「しかも、私の誕生日」

「1月17日だろう。だからこの香水の発売日もその日にした」

「……どうして」




スラックスのパンツからスマホを取り出し「すまない、時間だ」と言った佐倉さんは優しく笑った。




「いちばんに、なずなに使ってもらわなければ意味がない。今日ここで会えてよかったよ」

「え、でも新商品ですし……、こんな高価なもの」




SAKURAの商品は決して安くはない。

返さなければ。そう思った。けれど、佐倉さんは私を追い越そうとしたところで足を止め私の耳元に蠱惑的な声音を落とした。




「申し訳なく思うなら、」

「え、」













< 26 / 110 >

この作品をシェア

pagetop