「とりあえず俺に愛されとけば?」
28歳で爽やかイケメンで感じもいいとなれば女性のお客さんが放っておくわけもなく。
「結婚してないの?」「彼女さんはいないの?」ときには「ランチご一緒しませんか?」と度々、声をかけられているのを耳にしていた。
森坂店長はその度に「いないんですよ、残念ながら」と答えていたので、勝手に私にもチャンスがある!なんて思っていたのに。
つい最近、まさかの事実が発覚した。
この日、早番だった私は18時になったので上がろうと挨拶をしにストックルームにいた店長の元へ向かえば店長は電話中だった。
申し訳ないと思い電話が終わるのを待とうとストックルームを出ようとしたところで店長の唇が溢した「なのは」という名前。
思わずその名前に反応してしまい足を止めれば、慌てたように店長は電話を切った。
『ごめん、綾瀬上がりの時間だよな?』
『あ、はい、お電話中にすみませんでした……』
『いや、俺のほうこそごめん、仕事中に私用の電話なんか』
“なのは”さんって誰ですか?そう聞こうと思ったけれど、会話を聞いていましたよと言っているようでなんだか聞きづらい。
けれど、気になって仕方がない。まさか、彼女なんてことはないだろう。お客さんにも彼女はいないって言っていたし。
そう思い、冗談ぽく茶化すように、そんなんじゃないよ。と言ってもらえるのを期待して笑いながら問いかける。