「とりあえず俺に愛されとけば?」
ーー翌日。早番のため、9時から出勤した私はいつもどおりトイレ掃除に、商品の在庫確認とひとりで仕事をしていれば、昨日の売り上げを銀行に預けに行っていた森坂店長が戻ってきた。
「お疲れ様です。店長、寒い中銀行ありがとうございます」
「いえいえ、綾瀬こそトイレ掃除ありがとう。いつも綺麗にしてくれて助かるよ」
「とんでもないです」
くしゃっとした笑顔を向けられ、キュンとなる自分の胸が憎らしい。
失恋してもこうして毎日のように顔は合わせるわけで。店長は私に好かれていることも、私が失恋したことも知らない。
だからこうして変わらず優しく接してくれる。でも、その優しさが今の私にはちょっぴり痛かったりする。
失恋って、針で胸をチクチク刺されているような感じだ。
あの人もそうなのだろうか。と、ふと佐倉さんの顔が脳裏に浮かんだ。私を好きだと言った佐倉さんの顔が。
無神経だったなと彼に初めて会ったときの自分の対応に申し訳なくなった。
自分が失恋した直後で、その痛みを知っているはずなのに彼の言葉を否定して、ましてや覚えてさえいないなんて。