「とりあえず俺に愛されとけば?」





「あ、そうだ綾瀬って“SAKURA”ってブランド好きだったよな?」

「え、あ、え、!?」

「あれ?違った?」

「い、いいえ、好きです……」




レジのお金を数えながら不意に、森坂店長が放ったSAKURAの名前。

思わず声が裏返った。佐倉さんのことを思い出しているときになんてタイミングだ。



勝手にドクドクと鼓動が速くなる。
それにしたって、森坂店長がSAKURAを知っているなんて。と思ったところで「あ、そっか」と勝手に冷静になって納得した自分がいた。



脈が正常に戻っていく。きっと、彼女さんが好きなんだろうと思った。




「彼女がSAKURA、好きで」




ほらね、やっぱり。バインダーを握り棚に置いてあるマグカップの数を数えて用紙に正の字を入れていく。ここまでは至っていつもどおり。



ここからはいつもとは違う。にっこり、作り物の笑顔を貼り付けて。




「そうなんですね!私も好きですよ、昨日も香澄と行ってきたところです」




なんでもないフリをしながら、店長の言葉に返答をする。
チクチクという表現は可愛すぎたな。好きな人の、好きな人の話はグサグサ胸に突き刺さる。



店長はなにも悪くない。勝手に傷ついてる私はただ被害者ぶってる卑怯者なだけなのに。



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