「とりあえず俺に愛されとけば?」
きゅっと握られた手から佐倉さんの体温が、じわり、じわりと浸食してくる。体温高いな。
この体温が私は苦手だ。優しさを含んだまるで包み込むみたいな佐倉さんの触れ方は、どうしたらいいのか分からなくなる。
名前を呼ばれてちらりと振り返れば、彼の表情に思わず目尻を下げた。どうして?
「佐倉、さん……?」
「……、」
どうしてそんな、泣き出しそうな顔をしているのですか?
「佐倉さん、どうしたんですか……?」
私が問えば佐倉さんは、まるで返答をするみたいに私の手を強く握った。熱が上がる。
ちらりと視線を前に戻せば同時に森坂店長がこちらに振り向く。自動ドア越しに「あれ、帰らないの?」というような表情。私はまた佐倉さんに視線を戻して私の手を握る佐倉さんのそれに左手を重ねた。
「佐倉さん、すみません」
「……なず、な」
左手で佐倉さんの手を剥がし、私は森坂店長を追った。
右手には佐倉さんの熱が残っている。ぎゅっと目を瞑れば、泣き出しそうな先ほどの佐倉さんの顔がパッと浮かんで一瞬で消えた。
ずるい人だな。
佐倉さんの余韻を残したまま。開いた自動ドアを潜り、冷んやりとした外の空気に迎えられる。店長に駆け寄った。後ろで自動ドアの閉まる音が寂しげに聞こえる。