「とりあえず俺に愛されとけば?」
「綾瀬どうした?帰るぞ」
「……はい」
そう言うと店長はSAKURAに背を向け歩き出す。けれど私の足は重たい。なんでだろう?どうして?もやもやするのは。
「店長!あの、」
「ん?」
立ち止まったまま、数歩先にいる店長を呼んだ。ぎゅっと再び目を閉じれば、あの人の、あの表情が、こびりついて離れない。
なんでかな。寒いはずなのに、図々しくも右手にはまだ温かい体温が残ったまま。
重たい足の原因は、間違いなくこれ、だ。
「あの、えーと、すみません、」
「……?」
「私これから予定があったのを忘れてまして、」
「あ、そうだったの!?」
「そうなんです、なのでここで失礼してもよろしいですか?」
「もう暗いし、駅まで行くなら一緒に」
「あ、えーと、別の場所に用事があるので、」
咄嗟の言い訳に我ながら陳腐な言葉選びだなと思った。けれど店長は気に留めることなく「じゃあ気をつけて帰れよ」と、にこり口角を上げてひらひら、プレゼントを持っていない方の手を振った。
無邪気なその表情に、ああ、この人も、ずるい人だと思った。
私の周りはずるい男ばかりで嫌になる。でもいちばん嫌なのは、そんな男性たちに勝手に振り回されている自分だ。
小さくなる店長の背中を見送り、踵を返した。