「とりあえず俺に愛されとけば?」
ピンク色の建物の自動ドアを再び開く。暖かい暖房に迎えられ開いたドアの向こうには、佐倉さんが立ち尽くしていた。
私を見て眉根を寄せた佐倉さんは唇を開く。
「なに?なにか忘れ物?」
先ほどの表情が嘘のように真顔でじっと視線を送ってくるから思わず身構えてしまう。
「あの、えーと、」
「なに?」
「忘れ物……」
「……、」
「えーと、」
きょろきょろと周りを見渡し、数人お客さんのいる営業中の店内で申し訳ない気持ちになる。そんな私を察したのか「外、出るか」と佐倉さんは、ふいっと顔で入り口の方を指す。
さっき、私の手を掴んだ佐倉さんは別人?というくらい何事もなかったかのように普通に振る舞ってくる佐倉さん。
あれ?
スタスタと店の外に出ていく佐倉さんの背中を追った。店の横の人目につかない脇道に入っていく。
「あいつを追って、帰ったんじゃなかったのか?」
「……その、」
「……」
「その、つもりだったのですが、」
ぴたりと足を止めた佐倉さんがちょっぴり低い声音で言葉を紡ぐから、思わず俯きコンクリートの地面を見下ろすというなんとも間抜けな逃げの姿勢に入る。