「とりあえず俺に愛されとけば?」
「僕、諦め悪いので」
私なんかが佐倉さんを振ってしまってから、かれこれ約1か月。佐倉さんにはもちろん会っていない。
佐倉さんがこの店に来ることもなく、私がSAKURAに行くこともなく、びっくりするほど彼に出会う前の日常となんら変わらない私の生活。
でも少し、変わったこともある。
数日前、森坂店長はあの日SAKURAで買ったプレゼントを彼女さんに渡したようで、とても喜んでもらえたと嬉しそうに報告をしてくれた。
その笑顔を見て、前みたいに胸が痛まないのはたぶん佐倉さんのおかげだ。
彼女さんと幸せになってほしいと心の底から思っている私がいる。強がりではない私の本心。
あの日たくさん泣いて、すっきりできた。だから森坂店長への気持ちは前みたいにもやもやしたものではなくなったはずなのに、私の心はなぜか晴れない。
「はぁ、」
「なにそのため息」
お昼休憩、香澄とコンビニ新商品の親子丼を突いていれば無意識に溢れたそれ。
「なんでもない」
「いやいや、そんなあからさまにため息こぼしてなんでもないことないでしょ!」
「……本当になんでもない」
「なに?森坂店長のことまだ諦めきれてないの?」
親子丼を口に運びながら香澄は「もう、そろそろ諦めよーよ」と私を説得するように続けた。
それについてはもうだいぶ諦めはついてるんだよ香澄さん。と思いながらじっと親子丼を見つめる。