「とりあえず俺に愛されとけば?」
「あ!ねぇ、そんなことより!SAKURAのあの、イケメン社長とはどーなったの?」
「どうもなってない」
「あたし、もうかれこれ1ヶ月近く見てないんだけど」
私もです。と心の中で相槌をうつ。てか、そんなことよりって……。一応私の中では森坂店長への一世一代の片想いが終わったつもりなのだけど。
「なんで?進展ないの?」
「ないよ。だって私、佐倉さんのこと振ったんだもん……」
「は!?」
「……」
「え、初耳なんだけど!」
「うん、いま初めて話した」
信じられない。そう言いたげな香澄の視線が私を責める。言いたいことは分かる、分かるよ。
でもいまは、佐倉さんの話題はちょっと、と思う私の心などお構いなしに、香澄は続けて口を開く。
「なずなが振られたんじゃなくて、なずなが振ったの?」
「うん」
「バカなの?」
失礼な。でも、こればかりはバカ上等。未だに心が晴れない原因は“佐倉さん”だって、自分でも分かってる。バカだって分かってるから。
「バカなりに出した答えなの」
「バカは認めるんだ」
「うん」
「うんって、」
「ねぇ、香澄」
「なーに?」
「“なずなの花言葉って知ってる?”」
「は!?え、なにいきなり!?」
突然の質問に動揺してスプーンを落とす香澄。私は何事もなかったかのようにスプーンに親子丼をすくう。
「佐倉さんに聞かれた最後の質問」
「え、ごめん、全く意味が分からないんだけど?」
「私が佐倉さんを振った日に、佐倉さんに聞かれたの“なずなの花言葉って知ってる?”って」
「それで?なずなはなんて答えたの?」
すくった親子丼を口に運び咀嚼しながらあの日のことを思い返す。