「とりあえず俺に愛されとけば?」
そうあの日。私は佐倉さんに問われて、答えられなかった。
『なずなの花言葉って知ってる?』
『なずなの花言葉ですか?』
『そう』
『……いえ、すみません』
『そっか』
悲しそうに音を落とした佐倉さんは『じゃあ、目の腫れもだいぶ引いたみたいだし』とソファから立ち上がる。
『俺、まだ仕事があるから送って行ってやれないけど大丈夫か?』
『大丈夫です!送っていただくほうが大丈夫じゃないので、ひとりで帰れます』
こんな状況でも、この人はまだ優しくしてくれるんだと思った。
『そうだよな、俺と一緒なんて嫌だよな……』
『あ、いえ、そういうわけではなくて!これ以上、ご迷惑をかけるわけにはいかないので、」
『はは、必死すぎ!冗談だよ。気をつけて帰れよ』
佐倉さんはそう言うと少し遠慮がちに私の頭に手を乗せて、髪を撫でた。彼はそうやってまた、自分の体温を私に残す。
佐倉さんに見送られて私はSAKURAを後にした。
ひとりになって、ルール違反だとは思いつつ、
“なずなの花言葉って知ってる?”
そう問われたら気になってしまうわけで。しかもなんだか、ずっと前にも誰かに同じことを聞かれたような気がするのは気のせいだろうか。