「とりあえず俺に愛されとけば?」
佐倉さんはそこまで真剣じゃないのでは?と、思ってみても、じゃあ自分の大切なブランドからわざわざそんな商品作る?とも思うし。
じゃあどうして、いつ会ってるか教えてくれないの?とも思う。
無限ループ。
「ね、そうなるでしょ。考えれば考えるほど分からなくなるの……」
「社長になるくらいの人だしね。頭のいいイケメンの考えることは、あたしたちには分からないってことだ」
「それ、イケメン関係ないんじゃ……」
「あるよ!イケメンは女の心をもて遊び放題だよ!」
「いや、さすがに偏見がすぎるよ香澄さん」
イケメンに恨みでもあるのかな?でも、香澄がこうして話を聞いてくれてちょっとだけ、もやもやが消えたような気がした。
ひとりで悩むのはよくないってことだ。森坂店長の時みたいにきっと時間が経てばゆっくり忘れていける。
「あーもう、この話終わり!テレビでも見よ!」
そう言って休憩室のテレビをつけた香澄はリモコンでチャンネルを回していく。
私は残りの親子丼を食べてしまおうと器に残ったそれをスプーンでかき集めて口に運んだ。
「なーんか面白いのやってないかなー」
「この時間だとお昼の番組の時間だからね」
食べ終えた容器をコンビニの袋に片付けながら香澄の言葉に耳を傾ける。
「え!!」
「今度はなに?」
今日は突然の驚きが多すぎるよ、香澄さん。チャンネルを回していた香澄が手を止めた。
《今回は有名ブランド“SAKURA”の社長、佐倉唯人さんにお越しいただきました》
けれど、テレビから聞こえてきたその名前に、香澄の驚きの意味を知る。
恐る恐るテレビに目を向ければ、さきほどまで私たちの会話の話題になっていたその人がお昼の生放送番組に出演していた。