「とりあえず俺に愛されとけば?」




「え……、さ、くらさん……」

「嘘じゃん!あの社長、テレビ出るの!?」




《はじめまして、SAKURAの社長をしております佐倉唯人と申します》

《今回とても思い入れのある商品が発売になるということで商品についてと、ブランド立ち上げについて佐倉社長に詳しくお話を聞いていきたいと思います。それではいったんCMです》




毎回、俳優や歌手、大手企業の社長といった様々な人を呼び、役作りや作品制作秘話、企業活動などの話を聞くお昼の生放送トーク番組。


女性アナウンサーは爽やかに佐倉さんを紹介すると、佐倉さんは定型文のような自己紹介を返していた。


1ヶ月ぶりに見る佐倉さんは画面越しでもあいも変わらずイケメンで。


テレビの中にいても違和感がない。まるで本当のモデルさんみたいで、改めて住む世界の違う人だと突きつけられた。


この前、私はあの人の前で大泣きしたんだっけ。恥ずかしすぎる。




「え、なずなどーする?見る?」

「え……」

「正直あたしは見たいけど」

「……うん」




私は見たいのかな?見たらなにか分かるのかな……?この画面に映る人は本当にあの佐倉さん……?


見慣れたCMがいくつか流れていき、あっという間に番組が始まった。


私の見たい、見たくないなんてそんな個人のちっぽけな葛藤などお構いなしにもちろん番組は進んでいく。




《改めまして、佐倉社長本日は宜しくお願い致します》

《宜しくお願い致します。どうぞお手柔らかにお願いします》

《こんな機会めったにないので、根掘り葉掘り聞かせていただきます!》

《はは、怖いですね》




営業スマイルを貼り付けた丁寧な口調の佐倉さんと、お昼の番組にぴったりな元気なアナウンサーのやり取りを画面越しに見つめる。


今のところの感想は、とりあえず変な感じ。




< 79 / 110 >

この作品をシェア

pagetop