「とりあえず俺に愛されとけば?」
「とりあえず俺に愛されとけよ」
「なずな、誕生日おめでとう」
「佐倉、さん」
片手をコートのポケットに入れ、花束を抱えた佐倉さんは白い息を吐きながら眉尻を下げて微笑んだ。
まさか、どうして?本当に?佐倉さんが私の目の前にいる。
少し赤くなっている鼻の先。その姿にバックのショルダーを思わず握りしめた。
「これ」
彼は持っていた花束を私に差しだす。
その姿が絵になり過ぎて、反応するのに一瞬遅れた。
そっと花束に手を伸ばして。触れる。
たくさんのなずなの花。なずなの花束なんてはじめて見た。小さな白い花が集まったそれは圧巻で、ひとつの大きな花にみえて、とても綺麗で。
“あのさ、なずなちゃん!いまはまだむりだけど、さくらがずっとずっと大きくなって自分でお金もかせげるようになったらそしたら、
なずなちゃんになずなの花をプレゼントするから、なずなちゃんのすべてをさくらにちょうだい!”
私の頭の中で再生されたのは、小学5年生のときのさくらちゃんのその言葉だった。
この人は本当にあの日の約束を果たしにきてくれたんだ。
「とりあえずここじゃ落ち着かないし移動するか」
「え、」
と、花束を受け取った私の手はそのままするりと佐倉さんの指先に捕まる。
冷たい指先に触れられ思わずびくりと反応してしまった。
その手はこの前の温かいそれとは違い、氷のように冷たくて。いつから待っていたらこんなに冷たくなるんだろう。
体温の高い佐倉さんを知ってしまっているから、この冷たさは不安になる。