眼鏡をかけていてもキスできますか?
ファーストキスもまだはウブな私は、言われてみれば確かにそうだと納得した。
キスするたびに眼鏡を外すのは面倒くさそうだ。

「はぁっ?
なに言ってんだ、ソイツ。
眼鏡かけたままだってキスできるってーの」

身を乗り出してきた課長の手が軽く私の顎に触れる。
なにを、とか思っている間に私に唇に柔らかいなにかが触れて離れた。

「……ほら」

おそるおそる課長の顔を見上げる。
二枚のレンズを挟んで目のあった彼は右の口端を持ち上げ、ニヤリと笑った。
それを見て、一気に現状を理解した。

「セ、セクハラです……!」

顔が燃えているんじゃないかというほど熱い。
けれど怒っている私とは反対に、課長は涼しい顔をしていた。

「眼鏡をかけていてもキスができるって証明してやっただけだろ」

それはわざわざ実践する必要があったんだろうか。
しかもハジメテだったのにこんな成り行きみたいなのは最悪だ。

「試してくれとか誰も、一言も……!」

「んー?
あ、ソイツの言うキスはこれじゃないのかもな。
あっちも試しておくか」

課長は私の話をまったく聞いていない。
それどころか勝手にひとりでなにやら考えている。
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