美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
フジのお気に入りのルーフバルコニーへ向かう途中

「…陽毬!」

と、声を掛けられ、振り向いてしまったが最後。そこには、大樹と真白が二人並んで立っていた。

実は、冷静さを欠いたフジがウダツを抱き上げ走り出すのを止めようと大地が追いかけ、そのあとを陽毬も追いかけたのだが…

フジの足はめちゃくちゃ早かった。もちろん、それを追いかける大地も。
たくさんに着飾れたアクセサリーにどっしりと重いドレス。そして、かかとの高いヒール。
なのに、なんであんなに早く走れるのかと驚いてしまう。

すっかり、三人の姿を見失った陽毬だが場所なら何となく分かる。三人を追いかけて運動不足でカクカクと膝が笑ってるので、仕方なくゆっくり休み休み移動している時だった。

運悪くも、大樹に声を掛けられてしまったのは。

…クソッ!

まだ、重たいドレスとアクセサリー、歩きづらいヒールさえなかったら!!

と、悔やまれる。

会いたくないのに!顔も見たくないのに!

最悪だ!!

まさに渡り廊下に足を踏み入れる寸前で声を掛けられた。最悪だが、せめてもの救いだ。

コイツらにだけは、フジ達の居場所を知られたくない!

「どうかなさいましたか?」

と、平静を装い二人に聞く。すると、少し都合の悪そうな顔をした大樹が

「…この人に大事な用があるんだ。先に会場に戻っていてくれないかな?」

大樹は申し訳なさそうに真白に謝罪すると

「…あとで、事情を聞いてもいい?」

「そのつもりだよ。」

真白は怪訝そうな顔をして大樹を見ると、ワザとらしく陽毬にニッコリと丁寧な挨拶をして会場へ向かって行った。

敵意剥き出しやんけ!

…怖っ!!

陽毬は真白にビクつきながらも、仕方ないので大樹を見た。すると、バルコニーを指差しそこで話したい事があると言ってきた。

何となく、内容は分かるがムカつく。

重い足取りで、バルコニーに入ると誰にも聞かれないようにだろう。大樹は…バタンとバルコニーに繋がる扉を閉めた。

なんか、色々あり過ぎて疲れちゃったし、どうでもいい気分の陽毬はさっき走ったせいで疲れちゃったのもあって

歩きづらく履いてるだけで窮屈なヒールを脱ぎ適当に床に置くと

「…どっこいしょ!」

オッさんくさく言葉を出しながら、胡座をかき座った。そして、腕組みをすると

「…で?話って何でしょうか?
幼い頃から好きだった幼なじみの真白様と恋人になったから悪い遊びはやめるって話でしょうか?」

急に陽毬が話しだし、意表を喰らった大樹が驚きの表情で陽毬を凝視している。話してる内容も内容なだけに固まってしまっているようだ。

…バカめ。

そう、心の中で陽毬はしてやったりとニヤリとした。

「だから、悪い遊びでターゲットの一人にされた私に申し訳なかったと。
過去、真白様と恋人になれないと勘違いして、気持ちの暴走を抑える為に悪い遊びをして憂さ晴らししてた。
だけど真白様と両思いだと知り、今までの事は出来るだけ清算しようとそんな感じでしょうか?」

と、くだらなそうに溜め息混じりに大樹に言ってやった。

「……え?…ちょっと、待って。頭が追いつかないんだけど…“悪い遊び”って?」

混乱してる大樹に、陽毬は投げやりな気持ちで言った。

「社交ダンスの海外遠征に行った時など、
ダンス仲間であり友達でもある方達と海外の御友人達と一緒に、自分とお友達は周りに身バレしないように入念に変装をして通常では絶対に手に入らない“声を変える魔具”まで使って、”悪い噂のあるクラブ”で、楽しんでたようですな。
母国にいる時は、一般のマンションを借りて溜まり場にして一般人の中から選りすぐりの美女を選び彼女を作り放題遊びたい放題。」

その通りなだけに大樹はたじろぎ、声がグッと締まる。その間にも


「色々と悪い遊びをして、マンネリした大樹様はついに初めて自分が実行役を買って出た。
しかも、スリルを楽しみたかったんでしょうな。大胆にも、令嬢の一人をターゲットにしようと決めた。
条件は、“容姿も残念で全てに置いて底辺のモテなくて大人しそうな令嬢、そして底辺な家柄。いくら、騒ぎ立てようと誰も聞く耳を持たないような友達も居ない可哀想な人間。”
それで選ばれたのが私ですな。」

と、言った所で

「…え?…ちょっ…ちょっと待って!
なに、それ?どこ情報なの?何か、変な誤解をしてないかな?」

大樹は、その話は違うとばかりに否定して誤解するなと言った。だから、本人からの承諾も得ているので

「同じ中学校に通う“親友の宝来 ショウ”から、聞いたし証拠もありますぞ。携帯に証拠が入ってますのでお見せしましょうか?」

と、言ってやった。

すると、大樹の顔が見る見る青ざめていって変な汗までかき始めている。

「…ショウ…。まさか、君とショウが友達だったなんて。確かに、ショウは幼稚園で友達ができたと喜んで話してくれた事があったな。それが、君だったなんて。
…ああ、だからか。半年前あたりから、妙にショウから距離を置かれてると思ってたんだ。」

と、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「…じゃあ、どうして僕の悪い遊びと知っていて、その遊びに付き合ったの?」

震える声で聞いてきた大樹に

「当たり前ですぞ。」

「……え?」

「あまりに身分が違いますからね。大樹様のご機嫌を損ねるだけで、私はおろか家族や親戚にまで何らかのお咎めがある可能性があったから。かなりムカついたしブン殴ってやりたい気持ちはありましたが、そこをグッと抑え騙されたフリをするしかなかったのであります。」

想像だにできない状況にパニック状態の大樹は


「…どうして、今それを打ち明けてきたの?」

と、恐る恐る陽毬に聞くと、軽薄な笑みを浮かべながら

「…どうでもいいって思ってしまった。」

なんて、投げやりな言葉を聞いて思わず大樹は顔を上げた。

「今日は色々あって。大樹様と真白様は、さまざまな犠牲のもとに念願叶って恋人同士になった。多分、大樹様の心の問題も解決したから悪い遊びから足を洗う。
だから、その清算をする為に遅かれ早かれ私に謝って罪悪感から解放されて自分だけスッキリして終わりにしようと考えたのでしょうかね?」

陽毬の言葉に、まったくその通りだったのでドキリとしてしまった。

「自分だけスッキリしても、言われたこっちの気持ちはどうなる?それで、今までの事はなかった事にしろとでも?許されたとでも思ってる?
言われたこっちは、なんじゃそりゃ!!って、不快極まりないし恨みや辛み…憎悪が日に日に募っていくだけですぞ。こんなの謝って済む問題じゃありませぬ!」

陽毬からの思ってもなかった言葉に目を泳がせる大樹。

「…ああ、そういえばお偉い様の大樹様に、こんなにも口答えしてしまいましたな。
いいですぞ。どんなお咎めも受けましょう。家族や親戚を巻き込んでけっこう。
よく考えてみたら、自分は親や兄妹達、イトコ達にとても嫌われて悪口や陰湿なイジメまで受けてたのに、あんな奴ら庇うのも変だと思いましてな。むしろ、地獄へ堕ちろと思っているので、ご自由に。」

そう言って、陽毬は立ち上がり窮屈なヒールを履くとバルコニーを出る為、扉に手を掛け

「あー、真白様とお幸せに。せいぜい、海外でハメ外してその場限りの美女達と乱交などして浮気しないようお気をつけ下さいませ。
それと、この事は友達以外誰も知らない事だし、他の誰かに言うつもりもありませんのでご安心ください。」

そう言い残してバルコニーから出て行った。

まさかの事態に、大樹は青いを通り越し真っ白な顔でヘナヘナと腰を抜かし床に座り込んでしまった。


「…これって現実?…嘘でしょ…?…そんな事までバレてたなんて…あ、、、
ショウには桔梗がいるからね。調べようと思えば容易いか…。…ショウ…幻滅しちゃったかなぁ…?…最悪。どうして?…どうして、こんな事になってしまったんだろう…?」

大樹は放心状態になりかけ、目が虚ろになってしまった。だが、そこを何とか踏み止まり、さほど働かない頭の中で考える。

「…陽毬…。最初から僕の悪い遊びを知ってのに、僕に騙されたフリして、さぞかし僕は滑稽に見えただろうね。……違うな。
陽毬は、自分が馬鹿にされてる事を知りつつ知らないフリをしなければならなくて、悔しくて情けなくて堪らなかったって言ってた。
ここで、滑稽だと笑える人はよほど余裕があって自信のある人だ。そして、なんらかの逆襲を企てる事のできる切れ者。

……うん。彼女は酷い屈辱を味わいながら僕の遊びに嫌々付き合ってた。それが正解かな?」


大樹は何故か、陽毬との偽恋人期間を思い出していた。

最初こそ、お互いにぎこちない二人だった。

大樹の場合は、いくらなんでも“こんなデブス眼鏡”選ぶんじゃなかった。せめて、もっと普通に見目のいい令嬢を選べば良かった。
どうしても異性に感じないし、生理的にちょっとキツイと初っ端のデートで大きく後悔していた。

隠れて大樹達の様子を見て笑っている友達に、そんな趣旨のメールを送った。そしたら、隠れてる場所から大笑いする声が聞こえてイラッとした。

友達から直ぐにメールが返ってきて

[自分から言い出したんだから、責任持ってネタバラシの時まで我慢してよ。デブス眼鏡がどこまで調子づくかスッゲー楽しみなんだからさ。
それに、キスやエッチはしないんだからいいじゃないか。ファイト!]

なんて、こっちの気も知らないで、友人達はこれからどうなるか考えると面白すぎるし楽しみでゾクゾクすると興奮していた。

…でも、確かに。彼らの期待もあるし、この大人しい令嬢がどれだけ僕にハマってどんな醜い姿を曝け出してくるのか興味ある。
彼女が僕にゾッコンになった所で、ネタバラシしてポイした時の反応を考えるとかなり笑える。

この僕が、君みたいなデブス眼鏡になんてあり得る訳ないじゃないか。本当、間抜け過ぎる。

と、僕は陽毬を見下し嘲笑っていた。


だが、予想に反して陽毬はドライだった。最初は照れてるか萎縮してるだけかと思ってたんだけど

毎日のメールのやり取りも

[おはよう。]と、送れば[おはよう御座います。]と返ってくるだけ。

いつも、僕からメールをして陽毬は淡々と返事を返すだけ。

今、考えたらおかしい事だって思うよ。
だって、君は君の友達とのメールのやり取りが大好きだったのを知っているから。
まさか、その友達がショウだったなんて驚きでしかないけど。

デートする計画の電話だって、思えば僕ばかりが喋ってた。陽毬は人間関係に乏しいだろうと勝手に決めつけて、僕が率先してデートコースの計画を提案して君が頷く。

今までの恋人達の経験から、女の子達はこういうのが好きだろうって知っているから今まで外した事がない。

だけど、どのデートでも君はとても詰まらなそうだったのに、僕はそれさえ気付かず君の取り繕った下手くそな笑顔を見てチョロいといい気になってたんだ。

それから、嫌々ながらも面倒ながらもデートやメールを続けているうちに気付いてきた。

僕が、今までの経験をフルに駆使して立てたデートプラン。陽毬は心底、面倒くさそうに興味のカケラすらなく、ただただ僕に合わせていただけだという事に。

僕は陽毬に驚かされてしまった。

今までの彼女達なら目を輝かせて喜んでくれた。そのどれもが、陽毬には通用しない。

だから、次はプレゼント攻撃を仕掛けるも高級なバックや財布、アクセサリーなどをプレゼントすると今までの彼女達は飛び跳ねるほど喜んでくれたのに

「…え?あ〜…ありがとうございます?」

陽毬はその価値すら分かってないのか微妙な反応をしていた。

そして、ある日のデート終わり僕はショッキングな光景を目の当たりにした。

陽毬はその日、僕がプレゼントした高級バッグを質屋で現金に変えて、直ぐ隣の……アニメ専門店に入ると


「ウッヒョ〜〜!やったでありますぞぉ〜〜〜!高くて買えなかった“へっぽこ勇者と虚弱体質な大魔王”の初回盤特典付きの新作が買えちゃいましたぞぉぉ〜〜〜!
まさか、あのヘンテコなバッグがあんなにするとは!あのドクズもたまには役に立ちますなぁ!グフフッ!!」

なんて、今まで見た事もない笑顔でスキップしながら、周りにお花でも飛ばしてるんじゃないかってくらい幸せそうに帰って行った。

その姿を見て僕は呆然としたよ。

まず、言葉遣いが違う。大人しいだけと思ってたら、なんだか違う面白そうな子だと思った。

それに、多くの女の子達が喉から手が出るほど欲しがるブランドには一切の興味が無くて、むしろ大人気のブランドを“ヘンテコ”呼ばわりしてた。

それが、なんだか面白くて。そして、彼女はアニメオタクなんだって事も知った。

知ったけど、敢えてそこは言わないでデートの時アニメ関連の近くにきて、ワザとそこを素通りして意地悪してみると

もの凄いリアクションが見れて、いつの間にか彼女の地が出て一緒にいて楽しかった。

…そう、楽しかったんだ。

そのキッカケがあり、僕達の気持ちは急接近していたと思う。

最初の頃、陽毬と一緒にいる事が苦痛で苦痛でで仕方なかったのに。
気がついたら、陽毬と一緒にいる時、気兼ねなく何も取り繕わない素の自分でいられる事に気付いてしまった。

…いつの間にか、陽毬といる時間が心地よく感じていて、陽毬が居なくなると…凄く寂しくなってしまう自分に気づいた。
だから、陽毬にメールは欠かさなかったし、どうしても声が聞きたくなった時は電話もした。

そんな奇妙な関係を続けていると、俺の友達が

「もう2ヶ月になるぜ?当初の予定じゃ2週間じゃなかった?そろそろ、あのデブス眼鏡に現実見せてドン底に落とそうぜ?」

なんて、ネタバラシの催促が強くなっていった。友達に言われるまで、最近陽毬が悪い遊びのターゲットだなんて忘れてた。言われて、初めて思い出す。

どうしちゃったんだろ、自分?とは、思ったけど単に陽毬で遊ぶと飽きないし面白いからという考えに至った。

コイツらはもう飽きてるっぽいし僕は言った。


「僕は徹底的にやりたいから、僕が満足するまで完璧に騙して最後にネタバラシするよ。
飽きた人居たら遠慮なく抜けて大丈夫だからね。」

と、言っておいた。それから、さらに3ヶ月経ったが、僕は悪い遊びだという事をすっかり忘れて、自ら好き好んで陽毬と遊ぶ様になっていた。

陽毬は自分の本性が僕にバレてから、僕にも容赦なく接してくるようになったし。自分の好きなアニメやゲームの世界に僕を引きずり見事に沼らせてくれやがった。

アニメのコラボのカフェや、僕の知らなかった未知なる世界が広がった。

今までは、アニメやゲームはオタクのするものと毛嫌いして関わろうともしなかったけど、しっかりと本気で向き合えばこんなに素晴らしくもあり楽しいものだった。知らなかった。

でも、やっぱりアニメやゲームが好きになったって周りに知られたくないから、みんなに内緒の隠れオタクになってしまった。

陽毬から言わせれば、僕は全然オタクなんかじゃないし、それ如きでオタクを名乗ろうなんて百万年早い!オタクに失礼だと、本気で説教されてしまった。

陽毬に会える事が嬉しくて楽しみで。

陽毬は、僕に未知なる世界を教えてくれた。
それに、人はそれぞれ違う生き物なんだって事も教えられた。


…でも、まさか…

僕の愚行が祟って、こんな事になるなんてね。


未知なる生物である陽毬は僕の前から居なくなったけど、よく考えたら僕には長年好きで好きで堪らなかった真白と恋人になる事ができた。

…うん。

それで、いいじゃないか。ウダツだって祝福してくれたし。

…ショウには…どうやって、ご機嫌とろう?

今度、ショウが美味しいって大絶賛してた店のケーキ全種類買ってご機嫌伺いしに行こうか?それか、ショウの好きなミュージカルに連れて行ってあげようかな。

アクセサリーとか衣服も買ってあげたいけど、桔梗が怒るからそれは買ってあげられないんだよなぁ。残念。

…ああ、そういえば陽毬との次のデート映画館だったなぁ。確かタイトルは“クズ王子は最後はザマァで終わるのよ!オホホ”だっけ?変なタイトル。…フフ!

…けど…ああ、それもキャンセルになっちゃうか。くだらなそうだけど、ちょっと楽しみだったんだよなぁ…。


…そっか…


と、大樹の中で心がきまり、重い足取りで愛しの真白の待つ会場へと向かって行った。
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