美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「…ハァァァッッっ!!?何シラをきってるのよっ!あなた、最低最悪もいい所よ!!
よくも………」
「……っっっ!!!?フジさんっ!いけないっっっ!!!」
と、真白のしてきた事を言ってやろうとした時、後ろから慌て大きな声で自分を呼ぶウダツの声がした。同時に、フジの前に大地が現れ
「フジ嬢ッッッ!!!」
と、声を荒げると、フジはビクッと肩が飛び上がり何事かと大地を凝視する。ハアハアと息を切らているのを見ると、慌ててここに駆けつけた事が分かる。
邪魔しないで!と、口を開こうとした時。
「周りを見てみろ。そして、周りの声に耳を傾けてみてほしい。」
大地から言われて、意味が分からないにしろ何か事情もない限りそんな事は言わないだろうとフジは周りを見渡した。
すると…
…ザワ…ザワザワ…!
自分達に注目する人達。だが、その雰囲気は嫌なものを見ているかのように自分達を見てヒソヒソ言っている。
「…また、フジ嬢よ。ヤダわ、いくら美しいからといって調子に乗りすぎでなくて?」
「傲慢もいい所ですな。我が儘で自己中…絡まれている真白嬢があまりに可哀想だ。…あんなに震えて…」
「しかし、あの高圧的なフジ嬢を前に怯まず果敢に立ち向かう真白嬢の勇姿。気品がありながらも勇気があるとは素晴らしい限り!」
と、フジを罵倒し真白を擁護、称賛する言葉ばかり。それを聞き、カッとなったフジは
「…信じられないわ!悪いのは……」
周りを睨みつけ、悪いのは自分じゃない!真白だと叫ぼうとした。その時だった。
「フジ嬢!宜しかったら、外までご一緒して頂けませんか?」
と、いう声が聞こえ、そこを見ると
王族の礼儀作法で、フジに手を差し伸べるウダツの姿があった。凛とした姿、フジの為に駆けつけて来てくれたのだろう呼吸が荒く数滴の汗が流れている。
フジは、その姿にキュンと胸が熱く締め付けられ目をハートにしながら“素敵!”と、ウダツ以外全てシャットアウトし
「…はい、喜んで。」
完璧な令嬢の挨拶で返しウダツの手を取った。
今、ウダツさんと手が触れてるわ。
…ドキドキドキ!
そして、ウダツのエスコートで会場を歩いてる時、…プクク!と、あちこちから含み笑いが聞こえてきた。
…何かしら?
私が幸せを噛み締めてる時に、気分悪い笑い声ね?
フジは、そう思い周りの声を聞いてみると
「…プス!笑っちゃいけないのは分かるが、フジ嬢とウダツ令息の身長差がありすぎて…まるで、年の離れた姉弟のようだ。」
「ウダツ子息がエスコートすると、背伸びしたお子様にしか思えないよ。」
「それにしても、フジ嬢の美貌にウダツ子息は不釣り合いもいいところですな。
フジ嬢は、自分に見合う美貌の令息にエスコートされるべきだ。」
なんて、好き勝手な事を言ってはウダツの容姿を馬鹿にし笑っていた。
…な、なに、これ!?
酷い…あまりに酷すぎるわ!
と、思って…ふと自分の脳裏にショウと桔梗の姿が浮かび、周りの酷い罵声と自分のしてきた事とが重なり罪悪感でツキリと胸が痛んだ。
だが、それはそれ。今は今だ。
フジは、周りに何かガツンと言ってやろうと口を開きかけたが
「フジさん、ありがとうでヤス。オイラのエスコートを嫌がらないでくれて。」
ウダツに、お礼を言われてビックリした。
「何を言ってるの?嫌がる訳がないわ。…むしろ、とても嬉しい…ずっと、こうしていたいくらいよ。」
そう言って少し俯き赤くなるフジに、ウダツは驚きと同時にとても嬉しく感じた。
「…本当に、フジさんは優しくてとても素敵な女性でヤス。」
そう言って笑いかけてくれるウダツに、フジはキュンキュンが止まらなく夢心地だった。
…だが、周りの声が不愉快で仕方ない。
「…悔しいわ、あの女が悪いのに…!どうして、私が悪者扱いなの!」
本当は、この話題でなくて周りがウダツを馬鹿にした事への文句を言おうと思ったが、ウダツが傷つくかもしれないと敢えてその話題は避けたのだ。
「…それは“人望の厚さ”でヤスね。
いくら裏では手の付けられない悪党でも、表向きだけでも良い人のフリをしたり愛想を良くすれば良く見えるのは当然。
そうすれば、周りはなんて良い人なんだと評価するでヤス。」
…確かに、大樹や真白、九条 蓮は、裏では最低最悪のドクズだけど、周りの人達は彼らの事を素晴らしいと褒め称えている。
「でも、アイツら本当は全然素晴らしくも何もないじゃない!本当、どこ見てるのよって思うわ。みんな、見る目ないんじゃない?」
そんな風にプンプン怒るフジに
「…う〜ん…。あの二人は…ううん。
それでも、みんな相手の事を表面しか知らなくて当たり前。よくテレビを見ていても、その人達が本当はどんな人物かなんて中身までは分からないでヤス。心なんて覗き見る事ができないでヤスから。」
確かに、人の心なんて見えないから本心なんて分からない。そんな事、ウダツに言われてはじめて深く考えた。
ちなみに、ウダツは大樹と真白はとてもいい人達だと言いかけて、今のフジにそんな事言ったら火に油を注ぐだけだと思いやめた。
「だから、表面だけ見て判断して仕方がない事だと思う。だから、公的場では人の目を気にしてみんな少しは仮面を被って生きている。
仮面の被り方や深さは人達それぞれでやしょうけど。だって、みんなプライベートと公的場、真っ赤な他人と仲のいい友達とでは全然違うでヤスよね?
少なくとも、オイラはそう思ってるしそれは悪い事じゃないと思ってる。」
と、話した後
「逆に、本当はとてもいい人なのに不器用な性格が災いして、みんなに勘違いされてしまって損ばかりする人だっている。」
と、少し困った表情で笑みを浮かべ、フジを見てくるウダツにフジの胸はギュッと罪悪感から苦しくなった。
今まで、そこまで考えた事なんてなかったけど。ウダツに言われて、はじめて他人から自分への見え方について考えさせられた。
…それに、自分は…ウダツさんが思っているような人間じゃない。
むしろ…
と、今までの自分の言動を思い出して、カッと羞恥で顔が熱くなった。
…このままじゃ、駄目だわ。
あの女をギャフンと言わせるにしても、私には“人望”も“信頼”すら何一つない!
「…今まで、気にしてなかったけど。確かに、大勢の人達に罵声を浴びさせられると称賛を受けるのじゃ全然違うわね。
それだけで、生きやすくも生きにくくもなるわ。それに、自分だけでなく自分と関わる人にまで自分の評価一つで迷惑を掛ける事もあるし、羨まれる事だってあるのね。」
と、納得したけど、なんだか理不尽な世の中だと悔しそうにぷっくり小さな唇を噛み、容赦なく顔を顰めるフジの顔はグシャグシャでまるで鬼のような顔になっていた。
それを見て、周りは
「…見てみろよ!フジ嬢のあの顔!!きっと、真白嬢の毅然とした姿に負けて悔しがってるんだ。馬鹿だよなぁ、中身で真白嬢に勝てる訳ないのに。」
「…ああ、怖いわ。自分の我が儘が通用しなかったからって怒りを露わにするなんて、レディーの風上にもおけないわ。」
「…怖っ!!?なんでも、自分の思い通りになると思って生きてきたんだろうな。上手くいかないとアレかよ。機嫌の悪いフジ嬢をエスコートするウダツ子息が可哀想だ。」
ハッと気がつけば、自分の表情一つで酷い言われようだ。たった、これだけの事で…。
今の私は……周りから、最低最悪の評価をされてるんだわ。…今まで、知らなかった…いえ、全然気にしなかった。
みんな、どんな風に私が動いても媚びを売って美しいと褒め称えてくれたし、私の気を引きたくて自ら喜んで下僕の様に働いてくれてたから。
だから、まさか自分の評価がこんなにも酷いだなんて思ってもみなかった。
これじゃあ、私が何を言ったところで訴え掛けたところで信じてもらえない。ただの我が儘、癇癪だと思われてしまうだけ。
……悔しいけど、あの女と同じ土台にすら立てていないんだわ、私。…悔しいっ!
それより何より、今…こんな私をエスコートしてくれてるウダツさんに恥をかかせて迷惑を掛けてる状態なのね。
…ごめんなさい、ウダツさん…
と、シュンと落ち込むフジに即座に気が付いたウダツは
「大丈夫。どんな時も背筋をピンと伸ばして堂々としてればいい。フジさんは、それだけで十分魅力的な女性なんだから。」
そう声を掛けて胸を張って見せた。
…きゅん!
…ウダツさん…
ムカつく気持ちや落ち込む気持ち色んな気持ちがぐちゃぐちゃになってるけど、フジはウダツの言う通りシャンと背筋を伸ばし堂々と歩いた。
それだけなのに、周りから
「…ほぉ、なんと美しい。」
「ただ歩いているだけなのに、こうも我々の目を惹き魅了するとは…」
「あれで、中身が残念でなければ最高のレディーなんですけどね。」
「そうそう!性格が最悪!!何様よって感じよね。」
と、賞賛とバッシングを受けながらフジは考えた。
ウダツさんの様に素敵な男性の横に立っても恥ずかしくないレディーにならなくちゃ
ウダツさんに恥をかかせるだけだわ。
それだけは、絶対に嫌!!…もう、恥をかかせちゃってるけど。
ウダツさんが自慢できる完璧なレディーになりたい…いえ、絶対になるわ!
と、ウダツに恋したフジは、強く強く決意するのだった。
フジとウダツの姿が会場から見えなくなって真白は、緊張の糸が切れたのだろう。
「…はぁぁ、怖かった。」
と、ホッとしたため息を吐き
「大地様、先ほどは助けていただきありがとうございました。」
真白は令嬢最大の礼儀作法でお礼を言った。
そして
「あとで、ウダツにもお礼を言わなきゃいけないわ。…でも、大丈夫かしら?
フジ嬢へのエスコートは王族や王の血縁関係者しか許されない作法だわ。それを知らない人は居ないし、周りにはたくさんの目撃者がいるのに…。
何か、お咎めがなければいいのだけど…」
と、ウダツを心配するような言葉を漏らした。
「それは、大丈夫だ。」
「…え?」
大地の言葉に、不思議そうにする真白。それに苦笑いしながら
「地位で言えば、ウダツは俺や大樹よりずっと上。」
なんて言う大地の顔をギョッとした顔で見る真白がおかしくて、大地は笑いを堪えながら
「見た目が、もう違うの分かる?この国にはない白い肌に、白金髪、アクアブルーの目。
まあ、これ以上は教えられないし、あなたのような方には間違っても言いたくないからな。」
と、含みのある言葉を言いながらニッコリと笑って見せた。
その姿に、周りは悲しんでいる真白嬢を元気付けている優しい人だと大地の評価が上がっている。
「ああ、最後に。ウダツの親友として言わせてもらうな?これは、ウダツの言葉と同じと思ってほしい。
ウダツの中で、貴女は今までは幼なじみだった。けど、これからは“昔、幼なじみだった人”繋がりが無いに等しい過去の人に、真白嬢はなった。」
大地は人好きのする絵顔を浮かべたまま声や喋る調子も楽しげにしていて、周りにはとても楽しい話でもしているんだろうと微笑ましく見られている。
「なので、真白嬢はウダツにとって過去幼なじみだっただけの人。だから、二度とウダツに気軽に話し掛ける事も近く事もしないでな。
忠告したぜ?」
だが、内容はウダツから真白を遠ざけようとする話だ。
真白は焦った。何か、おかしい…
…だって、セフレの事だって、後腐れない物分かりのいい相手を選んでるし、相手の人達だって自分の評価を気にする人ばかりだからバレるはずがない。
それに、周りからの信頼や人望には自信がある。何かちょっとしたヘマをしても、知らぬ存ぜぬで通せば
“確かに、真白嬢に限ってあり得ませんね。人違いでしょう。”“きっと、あの令嬢でしょうな。あの令嬢はいい話を聞きません。”
などと、勝手に話が進み勝手に解決。
そんな風に、なかった事になる。
代わりに評判のの悪い令嬢が濡れ衣を被る事になるが関係ない。そこは、自分の評価を下げてばかりの令嬢が悪いのだから。
だから、真白はちょっとやそっとでは自分の評価は揺るがない自信があるのだ。
…だが、今回はなんだか雲行きが怪しい。
目の前にいる大地は一瞬だけ、凍り付くような冷たい目を真白に向けると
「…フジ嬢が言った通り、ウダツが貴女を許しても俺も貴女を絶対に許さない。」
と、さっきの冷たい雰囲気が嘘のように、ニッコリ笑顔で軽く会釈して大地は去って行った。
「…え…?」
大地の姿が小さくなっても、今だ真白の頭は大混乱している。訳が分からない。
フジの事はどうでもいいが、何故こんなも大地様に恨まれなければならないのか。
そもそも、どうしてウダツに近づいてはいけないのか。
…何か、大きな誤解があるのではないかと思い、後で大樹に相談して誤解を解く為に力を貸してもらおうと考えた。
早く、この誤解を解かなければと真白は焦るのだった。
…ドックン…!
一体、何がどうなっているの?
…でも、セフレの件は完璧に隠してたはずだからバレるわけが…ないはず…
ドクンドクンドクン…!
よくも………」
「……っっっ!!!?フジさんっ!いけないっっっ!!!」
と、真白のしてきた事を言ってやろうとした時、後ろから慌て大きな声で自分を呼ぶウダツの声がした。同時に、フジの前に大地が現れ
「フジ嬢ッッッ!!!」
と、声を荒げると、フジはビクッと肩が飛び上がり何事かと大地を凝視する。ハアハアと息を切らているのを見ると、慌ててここに駆けつけた事が分かる。
邪魔しないで!と、口を開こうとした時。
「周りを見てみろ。そして、周りの声に耳を傾けてみてほしい。」
大地から言われて、意味が分からないにしろ何か事情もない限りそんな事は言わないだろうとフジは周りを見渡した。
すると…
…ザワ…ザワザワ…!
自分達に注目する人達。だが、その雰囲気は嫌なものを見ているかのように自分達を見てヒソヒソ言っている。
「…また、フジ嬢よ。ヤダわ、いくら美しいからといって調子に乗りすぎでなくて?」
「傲慢もいい所ですな。我が儘で自己中…絡まれている真白嬢があまりに可哀想だ。…あんなに震えて…」
「しかし、あの高圧的なフジ嬢を前に怯まず果敢に立ち向かう真白嬢の勇姿。気品がありながらも勇気があるとは素晴らしい限り!」
と、フジを罵倒し真白を擁護、称賛する言葉ばかり。それを聞き、カッとなったフジは
「…信じられないわ!悪いのは……」
周りを睨みつけ、悪いのは自分じゃない!真白だと叫ぼうとした。その時だった。
「フジ嬢!宜しかったら、外までご一緒して頂けませんか?」
と、いう声が聞こえ、そこを見ると
王族の礼儀作法で、フジに手を差し伸べるウダツの姿があった。凛とした姿、フジの為に駆けつけて来てくれたのだろう呼吸が荒く数滴の汗が流れている。
フジは、その姿にキュンと胸が熱く締め付けられ目をハートにしながら“素敵!”と、ウダツ以外全てシャットアウトし
「…はい、喜んで。」
完璧な令嬢の挨拶で返しウダツの手を取った。
今、ウダツさんと手が触れてるわ。
…ドキドキドキ!
そして、ウダツのエスコートで会場を歩いてる時、…プクク!と、あちこちから含み笑いが聞こえてきた。
…何かしら?
私が幸せを噛み締めてる時に、気分悪い笑い声ね?
フジは、そう思い周りの声を聞いてみると
「…プス!笑っちゃいけないのは分かるが、フジ嬢とウダツ令息の身長差がありすぎて…まるで、年の離れた姉弟のようだ。」
「ウダツ子息がエスコートすると、背伸びしたお子様にしか思えないよ。」
「それにしても、フジ嬢の美貌にウダツ子息は不釣り合いもいいところですな。
フジ嬢は、自分に見合う美貌の令息にエスコートされるべきだ。」
なんて、好き勝手な事を言ってはウダツの容姿を馬鹿にし笑っていた。
…な、なに、これ!?
酷い…あまりに酷すぎるわ!
と、思って…ふと自分の脳裏にショウと桔梗の姿が浮かび、周りの酷い罵声と自分のしてきた事とが重なり罪悪感でツキリと胸が痛んだ。
だが、それはそれ。今は今だ。
フジは、周りに何かガツンと言ってやろうと口を開きかけたが
「フジさん、ありがとうでヤス。オイラのエスコートを嫌がらないでくれて。」
ウダツに、お礼を言われてビックリした。
「何を言ってるの?嫌がる訳がないわ。…むしろ、とても嬉しい…ずっと、こうしていたいくらいよ。」
そう言って少し俯き赤くなるフジに、ウダツは驚きと同時にとても嬉しく感じた。
「…本当に、フジさんは優しくてとても素敵な女性でヤス。」
そう言って笑いかけてくれるウダツに、フジはキュンキュンが止まらなく夢心地だった。
…だが、周りの声が不愉快で仕方ない。
「…悔しいわ、あの女が悪いのに…!どうして、私が悪者扱いなの!」
本当は、この話題でなくて周りがウダツを馬鹿にした事への文句を言おうと思ったが、ウダツが傷つくかもしれないと敢えてその話題は避けたのだ。
「…それは“人望の厚さ”でヤスね。
いくら裏では手の付けられない悪党でも、表向きだけでも良い人のフリをしたり愛想を良くすれば良く見えるのは当然。
そうすれば、周りはなんて良い人なんだと評価するでヤス。」
…確かに、大樹や真白、九条 蓮は、裏では最低最悪のドクズだけど、周りの人達は彼らの事を素晴らしいと褒め称えている。
「でも、アイツら本当は全然素晴らしくも何もないじゃない!本当、どこ見てるのよって思うわ。みんな、見る目ないんじゃない?」
そんな風にプンプン怒るフジに
「…う〜ん…。あの二人は…ううん。
それでも、みんな相手の事を表面しか知らなくて当たり前。よくテレビを見ていても、その人達が本当はどんな人物かなんて中身までは分からないでヤス。心なんて覗き見る事ができないでヤスから。」
確かに、人の心なんて見えないから本心なんて分からない。そんな事、ウダツに言われてはじめて深く考えた。
ちなみに、ウダツは大樹と真白はとてもいい人達だと言いかけて、今のフジにそんな事言ったら火に油を注ぐだけだと思いやめた。
「だから、表面だけ見て判断して仕方がない事だと思う。だから、公的場では人の目を気にしてみんな少しは仮面を被って生きている。
仮面の被り方や深さは人達それぞれでやしょうけど。だって、みんなプライベートと公的場、真っ赤な他人と仲のいい友達とでは全然違うでヤスよね?
少なくとも、オイラはそう思ってるしそれは悪い事じゃないと思ってる。」
と、話した後
「逆に、本当はとてもいい人なのに不器用な性格が災いして、みんなに勘違いされてしまって損ばかりする人だっている。」
と、少し困った表情で笑みを浮かべ、フジを見てくるウダツにフジの胸はギュッと罪悪感から苦しくなった。
今まで、そこまで考えた事なんてなかったけど。ウダツに言われて、はじめて他人から自分への見え方について考えさせられた。
…それに、自分は…ウダツさんが思っているような人間じゃない。
むしろ…
と、今までの自分の言動を思い出して、カッと羞恥で顔が熱くなった。
…このままじゃ、駄目だわ。
あの女をギャフンと言わせるにしても、私には“人望”も“信頼”すら何一つない!
「…今まで、気にしてなかったけど。確かに、大勢の人達に罵声を浴びさせられると称賛を受けるのじゃ全然違うわね。
それだけで、生きやすくも生きにくくもなるわ。それに、自分だけでなく自分と関わる人にまで自分の評価一つで迷惑を掛ける事もあるし、羨まれる事だってあるのね。」
と、納得したけど、なんだか理不尽な世の中だと悔しそうにぷっくり小さな唇を噛み、容赦なく顔を顰めるフジの顔はグシャグシャでまるで鬼のような顔になっていた。
それを見て、周りは
「…見てみろよ!フジ嬢のあの顔!!きっと、真白嬢の毅然とした姿に負けて悔しがってるんだ。馬鹿だよなぁ、中身で真白嬢に勝てる訳ないのに。」
「…ああ、怖いわ。自分の我が儘が通用しなかったからって怒りを露わにするなんて、レディーの風上にもおけないわ。」
「…怖っ!!?なんでも、自分の思い通りになると思って生きてきたんだろうな。上手くいかないとアレかよ。機嫌の悪いフジ嬢をエスコートするウダツ子息が可哀想だ。」
ハッと気がつけば、自分の表情一つで酷い言われようだ。たった、これだけの事で…。
今の私は……周りから、最低最悪の評価をされてるんだわ。…今まで、知らなかった…いえ、全然気にしなかった。
みんな、どんな風に私が動いても媚びを売って美しいと褒め称えてくれたし、私の気を引きたくて自ら喜んで下僕の様に働いてくれてたから。
だから、まさか自分の評価がこんなにも酷いだなんて思ってもみなかった。
これじゃあ、私が何を言ったところで訴え掛けたところで信じてもらえない。ただの我が儘、癇癪だと思われてしまうだけ。
……悔しいけど、あの女と同じ土台にすら立てていないんだわ、私。…悔しいっ!
それより何より、今…こんな私をエスコートしてくれてるウダツさんに恥をかかせて迷惑を掛けてる状態なのね。
…ごめんなさい、ウダツさん…
と、シュンと落ち込むフジに即座に気が付いたウダツは
「大丈夫。どんな時も背筋をピンと伸ばして堂々としてればいい。フジさんは、それだけで十分魅力的な女性なんだから。」
そう声を掛けて胸を張って見せた。
…きゅん!
…ウダツさん…
ムカつく気持ちや落ち込む気持ち色んな気持ちがぐちゃぐちゃになってるけど、フジはウダツの言う通りシャンと背筋を伸ばし堂々と歩いた。
それだけなのに、周りから
「…ほぉ、なんと美しい。」
「ただ歩いているだけなのに、こうも我々の目を惹き魅了するとは…」
「あれで、中身が残念でなければ最高のレディーなんですけどね。」
「そうそう!性格が最悪!!何様よって感じよね。」
と、賞賛とバッシングを受けながらフジは考えた。
ウダツさんの様に素敵な男性の横に立っても恥ずかしくないレディーにならなくちゃ
ウダツさんに恥をかかせるだけだわ。
それだけは、絶対に嫌!!…もう、恥をかかせちゃってるけど。
ウダツさんが自慢できる完璧なレディーになりたい…いえ、絶対になるわ!
と、ウダツに恋したフジは、強く強く決意するのだった。
フジとウダツの姿が会場から見えなくなって真白は、緊張の糸が切れたのだろう。
「…はぁぁ、怖かった。」
と、ホッとしたため息を吐き
「大地様、先ほどは助けていただきありがとうございました。」
真白は令嬢最大の礼儀作法でお礼を言った。
そして
「あとで、ウダツにもお礼を言わなきゃいけないわ。…でも、大丈夫かしら?
フジ嬢へのエスコートは王族や王の血縁関係者しか許されない作法だわ。それを知らない人は居ないし、周りにはたくさんの目撃者がいるのに…。
何か、お咎めがなければいいのだけど…」
と、ウダツを心配するような言葉を漏らした。
「それは、大丈夫だ。」
「…え?」
大地の言葉に、不思議そうにする真白。それに苦笑いしながら
「地位で言えば、ウダツは俺や大樹よりずっと上。」
なんて言う大地の顔をギョッとした顔で見る真白がおかしくて、大地は笑いを堪えながら
「見た目が、もう違うの分かる?この国にはない白い肌に、白金髪、アクアブルーの目。
まあ、これ以上は教えられないし、あなたのような方には間違っても言いたくないからな。」
と、含みのある言葉を言いながらニッコリと笑って見せた。
その姿に、周りは悲しんでいる真白嬢を元気付けている優しい人だと大地の評価が上がっている。
「ああ、最後に。ウダツの親友として言わせてもらうな?これは、ウダツの言葉と同じと思ってほしい。
ウダツの中で、貴女は今までは幼なじみだった。けど、これからは“昔、幼なじみだった人”繋がりが無いに等しい過去の人に、真白嬢はなった。」
大地は人好きのする絵顔を浮かべたまま声や喋る調子も楽しげにしていて、周りにはとても楽しい話でもしているんだろうと微笑ましく見られている。
「なので、真白嬢はウダツにとって過去幼なじみだっただけの人。だから、二度とウダツに気軽に話し掛ける事も近く事もしないでな。
忠告したぜ?」
だが、内容はウダツから真白を遠ざけようとする話だ。
真白は焦った。何か、おかしい…
…だって、セフレの事だって、後腐れない物分かりのいい相手を選んでるし、相手の人達だって自分の評価を気にする人ばかりだからバレるはずがない。
それに、周りからの信頼や人望には自信がある。何かちょっとしたヘマをしても、知らぬ存ぜぬで通せば
“確かに、真白嬢に限ってあり得ませんね。人違いでしょう。”“きっと、あの令嬢でしょうな。あの令嬢はいい話を聞きません。”
などと、勝手に話が進み勝手に解決。
そんな風に、なかった事になる。
代わりに評判のの悪い令嬢が濡れ衣を被る事になるが関係ない。そこは、自分の評価を下げてばかりの令嬢が悪いのだから。
だから、真白はちょっとやそっとでは自分の評価は揺るがない自信があるのだ。
…だが、今回はなんだか雲行きが怪しい。
目の前にいる大地は一瞬だけ、凍り付くような冷たい目を真白に向けると
「…フジ嬢が言った通り、ウダツが貴女を許しても俺も貴女を絶対に許さない。」
と、さっきの冷たい雰囲気が嘘のように、ニッコリ笑顔で軽く会釈して大地は去って行った。
「…え…?」
大地の姿が小さくなっても、今だ真白の頭は大混乱している。訳が分からない。
フジの事はどうでもいいが、何故こんなも大地様に恨まれなければならないのか。
そもそも、どうしてウダツに近づいてはいけないのか。
…何か、大きな誤解があるのではないかと思い、後で大樹に相談して誤解を解く為に力を貸してもらおうと考えた。
早く、この誤解を解かなければと真白は焦るのだった。
…ドックン…!
一体、何がどうなっているの?
…でも、セフレの件は完璧に隠してたはずだからバレるわけが…ないはず…
ドクンドクンドクン…!