美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
---次の日---
フジと陽毬は学校を休んだ。
フジは、今まで感じた事のなかった疲労が祟ったのだろう。熱を出して起き上がるのも辛いほどに疲労困憊していた。
そして、熱のせいか悪夢に魘されているらしい。
陽毬は……あまりのショックに立ち直れずズル休みだ。
いつもなら、大好きなアニメや漫画、ゲームなどで癒されたり荒ぶってストレス発散していたのだが。
今回ばかりは何もやる気が起きずベットの中でただただボー…っとしてた。
そして、結構な頻度で昨日の社交界での出来事を思い出し知らず涙を流す状態だった。
学校では、結達はフジと陽毬が休んだ事に対して心配していた。
理由は社交界から帰って来た陽毬が、直ぐに自分の事やフジの事、蓮の事を詳しくメールでショウに送ったからだ。
そして、[さすがに心折れたので明日学校を休むでござる]と、いうメールが届いたきり、いくらショウがメールをしても既読すらつかなくなった。
しょんぼりするショウに、桔梗は
「…今は、心がとても傷付いて疲れてるから、ゆっくり休む時間が必要なのかもしれないね。陽毬がショウやみんなと話せるようになるまで待ってあげよ?」
と、そっと声を掛けショウはそれに頷いた。
ちなみに、今さらだが誰もフジの携帯番号やメールのアドレスを知っている人がいない事に気づいた。
フジもかなり大変な思いをしたらしい話も聞いた。
心配だが、連絡先も知らないし…もし知っていても怖いから下手に電話やメールなんてできなかっただろうなぁと、結とショウは思っていた。
それから、三日ほどしてフジは学校へ来た。
そのフジの変貌ぶりにみんな驚いていた。
まず、見た目だ。
今まで、派手な化粧をしていたが、今は化粧はまったくしておらず。
膝まで長かった艶々サラサラのストレートの美しい髪はバッサリと切られており、今は前下がりボブで肩より少し短いくらいだ。派手なネイルもやめ短く切り揃えられた爪。
今までは、派手な化粧にネイルをしていたが、フジにはそれがとても似合っていた。
しかし、化粧やネイルこそしていたがアクセサリー類は付けた事がなかったし服も乱す事はなかった。つまりは、学校の規則はしっかり守っていたのだ。こう見えて根は真面目なフジである。
そんなフジが、派手な化粧もネイルもやめ自慢の美しい髪も短く切って現れた。
驚くしかない。
だが、それでも驚くのは早かった。
フジは、自分の親衛隊達に向かい
「皆さん、今まで私の我が儘に付き合って下さりありがとうございました。
…ですが、このまま皆さんに頼り切っては、私自身が何も出来ない駄目人間になってしまいます。
どうか、私の将来の事を案じて下さるのであれば、他の級友の方達と同様に同じ学友として接して頂けたらと思っています。
私の勝手な我が儘と思って頂いて構いません。不器用な私ですが、そっと見守って下さると嬉しいです。」
と、フジは親衛隊達に向かって深々と頭を下げたのだった。
当たり前だが、周りのどよめきが凄い。そして、親衛隊トップ達は少し話し合い
「フジ様が、決断なされたのでしたら自分達は何も言う事はありません。自分達、親衛隊一同とファンは、フジ様の決意を応援致します。
今まで、側に置いて下さりありがとうございました。」
親衛隊代表が、そう言葉を掛けると頭を下げ、その後に続き他の親衛隊達も頭を下げた。
そして
「フジ様のご意向により、これより親衛隊は解散する!だが、フジ様を敬う気持ちだけは忘れるな!」
と、フジの親衛隊はここで解散となったのだった。泣いてる人や、慰め合う人達もいて何かの試合に負けたかのような後ろ姿だった。
…ちょっと可哀想だが、彼らはやり過ぎな所があり周りもいい迷惑だったのでみんなホッとしていた。
次に、フジはショウ達の前に来て
「…ショウ、今までごめんなさい。謝って済む事ではないけど…素敵な婚約者がいて羨ましかったの。それを僻んで、酷い事ばかりしてきたわ。どう、償えばいいのか分からないけど…」
と、頭を下げて涙を流していた。体も小刻みに震えていて、心から反省し後悔している事が分かる。
そんなフジの姿を見たショウは思わず立ち上がり、フジの手を両手で優しく包むと
「……え?」
フジは思わず顔をあげた。すると
「フジさんが、ちゃんと私の事考えてくれたのが嬉しい。もし、よかったらだけど…私とお友達になってくれる?」
緊張した面持ちで、フジを見ているショウの姿が見えた。きっと、断られるかもしれないという不安でいっぱいだったが勇気を振り絞ったのだろう。ショウのぷにぷにお手手が震えている。
「…も、もちろんよ!でも、ショウこそいいの?こんな私だけど…」
と、不安気にショウの顔を伺うフジ。それを見て、ショウはハッとしたように
「“こんな私じゃないよ”!今のフジさん、とっても素敵だよ。だから、お友達になりたいって思ったの。」
フジに、ふわっと笑い掛けるショウは別に美人でも何でもないのに、とても可愛らしく思えた。そんなショウの姿に胸がじんわり温かくなり思わずフジはショウを抱きしめた。
「ありがとう、ショウ!あなたが、こんなにも可愛らしい事にも気付けなかったなんて…今まで、私はもったいない事してたのね。」
なんて、いい雰囲気なのにも関わらず、その様子をイライラしながら見ている人物がいた。
「…もう、そろそろ俺のショウを離してもらおうかな?俺が嫉妬するから。」
と、桔梗は冷笑を浮かべながらショウを後ろから抱きしめ、フジから引き剥がした。
…心が狭いわ…
フジはそう思ったが、言いたいのをグッと我慢して、次は桔梗と風雷に向かい
「桔梗と風雷もごめんなさい。二人があまりに魅力的で、私はあなた達の事も考えずに暴走して追いかけ回してたわ。…今、思い返すと…恥ずかしい限りよ。
もう、思い出したくもない黒歴史。」
と、苦笑いしてから、キッと表情を引き締めてまた頭を下げるのだった。
「正直、本当に迷惑極まりなかったけど、最初にショウに対して誠心誠意謝ってくれた。それをショウが許してあげた。それだけで十分だよ。」
桔梗がフジを許す言葉を言った後に続き
「…驚いた。三日前の社交界で色々あった話はうっすらと聞いていたが、この短期間で別人のように変わった。また、前のように戻らない事を祈りたい。」
と、遠回しだが、今のフジの変わりように驚きつつ風雷はフジを褒めた。風雷が人を褒めるという事は滅多にない事なのでフジはそれを真摯に受け止め素直に喜んだ。
「もちろん、そのつもりよ。」
このやり取りを、ほえぇ〜…と見ていた結にフジは
「…あんまり、言われない事かもしれないけど…九条 蓮は、美女達と体を交えるのが本当に好きみたいね。
たまたまだったけど、カーテンに隠れてある御令嬢と発情期の犬みたいに腰を動かして喜んでたわ。…あんなのと、将来結婚ってなったら絶対に不孝になるだけだわ。」
と、悍ましいものでも見たかのように顔を顰め結に打ち明けてきた。
「…うわぁ〜。学校に彼女がいながら…って、事はセのつくお友達!?」
「…そうみたいね。断片的だけど、会話の内容から他にもセフレがいるっぽいの。友達には、不孝になってほしくないわ。
結さえ良ければ、私に何か手伝わせてもらえないかしら?」
と、言ってくれるフジに、本当に変わったなぁ〜。それに、私の事も友達って言ってくれるなんて…と、じぃ〜んと感動していた。
しかし、まあ…
結は、フジをジッと見る。
前は、高飛車で傲慢な女王様って感じだったけど…。
今は、品があって高潔なのに優しい雰囲気があり親しみやすい。まるで、聖女を思わせるようで神々しくも美しい。もはや、何もかもが美しい。
同性であっても、うっとりと見惚れてしまう。
そこで、結はつい聞いてしまった。
「フジさん、凄く素敵に大変身しちゃったけど、何がキッカケでそんなに変わったの?
全くの別人レベルに違うよ!?」
それには、みんなとても興味があったようでみんなフジに注目する。
すると、フジは
「…お昼休みに話すわ。」
と、下を俯いて真っ赤になってしまった。
ここで、みんな
ピーーーン!
ときた。
その話を聞くのが待ち遠しい。
早く、昼休みにならないかなと思う結とショウだった。
そして、待ちにまった昼休み。みんな、それぞれ自慢のお弁当を広げる中…
フジだけが、何故かお弁当の蓋を開けず何とも言えない表情で自分のお弁当をジッと見ていた。
それに、みんな気付いていたが、どう声を掛けていいか分からずいた所
「フジさん、早く食べよう!昼休み時間終わっちゃうよ?」
さすが、結。ちょっと空気の読めない女!
みんな、まだフジとの距離感をどう詰めたらいいか悩んでた時の結の言葉。
それには、みんな“おお、凄い!”と、心の中で賞賛した。
結の言葉に
「…笑わないでね?」
フジが自信無さげに小さく笑うと、小さくて女の子らしいお弁当箱の蓋をパカリと開けた。
すると
そこには、見るも無残なおかずとご飯が敷き詰められていた。
所々黒く焦げてる形にもなってないスクランブルエッグかだし巻き卵か分からない物体。
茹で過ぎてボロボロ崩れているブロッコリー。
ひき肉と大きさの違う玉ねぎが刻んである物体に、茶色の液体が掛かった何か。
ご飯は、お粥だろうか?まともなのは、生のプチトマトだけであった。
それを見て、みんなピシリと固まってしまった。
…これは、一体…?
すると、フジは恥ずかしそうに
「…初めて、お料理を作ってみたの。」
と、俯いてしまった。だが
「…す、すごい!フジさん、凄いよ。」
ショウが、目をキラキラ輝かせながらフジを見てきた。
「…え?」
「だって、私なんか家庭科以外で料理も作った事ないし作ろうと思った事もないの。
フジさんは、料理を作ろうって思って挑戦したんだよね?それが、凄いって思ったの!
どうして料理を作ろうって思ったの?」
と、ショウが質問すると
「…私ね、三日前の社交界で好きな人ができたの。その人は、とても素敵な紳士で…その人の隣に立っても恥ずかしくないレディーになりたいって思ったの。
お料理も、いつかその人に食べてもらいたくて今、頑張ってる最中なの。」
フジは、顔を真っ赤っかにして答えた。そのいじらしい姿に、結とショウはかわいいぃぃ〜〜〜!!!と、キュンキュンした。
桔梗と風雷も、目をまん丸くしてフジを見ている。
「…本当はこんなはずじゃなかったのよ。料理って、もっと簡単なものだと思ってた。
けど、実際に作ってみたら…とても難しくて凄く時間も掛かるしビックリしたわ。
このお弁当だって、できた中で一番良かったものをつめたのよ?
…お料理が、こんなに大変だなんて思ってもなかった。…正直、なめてたわ…。」
ガックリ肩を落とし、自分が作ったおかずを口に含む度に顰めっ面をしているからに…相当不味いのだろう。
「…俺も最初は料理が上手くできなくて、ショウに料理を振る舞う事がなかなかできない時期があったよ。」
そう言ってきたのは、プロ顔負けのお弁当を作ってくる桔梗だ。
……え!?
みんな驚きの表情で桔梗を見ると
「俺だって、何度も何度も失敗を繰り返しては、お抱えのシェフに教わるのはもちろん。
信頼できるメイド長に練習に付き合ってもらったり、色んなレシピ本や栄養や食育の本などを読み漁ったよ。それを、実行しては失敗して。」
少し苦笑いしつつも、自分の失敗談や苦労話をしてきたのは桔梗なりのフジへの応援なのだろう。
「…うん。知ってるよ?」
そこに、ショウの声までも入り、少し驚いたように桔梗はショウの顔を見た。
「凄く小さい時の話だけど、私が眠ってから桔梗がどこかに居なくなちゃう時が多くて。さみしいし気になったから、桔梗が部屋を出てからね。こっそり後をつけて行こうとしたの。
だけど、それをお婆に止められて不思議に思ってるとお婆が教えてくれたの。」
「…何を教えてくれたの?」
「うん。“本当は、ショウ様には内緒なんですが、桔梗様はショウ様に自分が作った料理を食べてもらいたいと料理の練習をしているのです。
ですが、料理とは簡単にできるものではありません。何度も失敗を繰り返し、苦労してできるようになっていくもの。
桔梗様は、その苦戦している姿をショウ様に見られたくないのです。好きな女の子には、いつだってカッコイイ姿を見せたいもの。
だから、桔梗様が自分で納得できるまで待っていてあげて下さい。それが、ショウができる最大の優しさですよ?
それに、桔梗様はカッコつけたがりでプライドが馬鹿みたいに高いので、こっそり内緒で料理の練習をしている事は、桔梗様自身がその苦労話を打ち明けてくれる時まで言わないであげて下さい。
あくまで、ショウ様は桔梗様の料理の練習の事は知らない。頑張って苦労している事も知らないという事を貫き通して下さい。
大好きなショウ様に、自分の作った料理を食べてもらいたいという桔梗様の気持ちを大事にしてあげて下さい。”
って、言われてから、私が寝てから桔梗が布団から抜け出す度に“ああ、今日も頑張るんだね。ありがと、大好きだよ。”って、くすぐったい気持ちになりながら、心の中で見送ってたのを思い出しちゃう。」
と、秘密にしてて、ごめんね?本当は、桔梗が夜な夜なみんなが寝静まった頃にお料理の練習してた事知ってたの。と、打ち明けたショウ。
その事に、とても驚いた表情をして
「……俺の事を思って、お婆との約束をずっと守ってくれてたの?」
桔梗はショウの気持ちが嬉しくて、薄くて美しい唇が小さくふるふる震え始め、心なしか目が少し潤んできている気がする。
そこに
「…あとね!」
ちょっと、イタズラっぽい顔をしたショウが、桔梗の耳に両手を添え、楽しげにヒソヒソと内緒話を始めた。
すると、みるみる桔梗の目は大きく開き驚いた表情を見せる。そして、段々と目を細めていって今にも泣きそうな顔をして、思わずショウを抱き締めると
「……ショウは、俺を喜ばせる天才だよ!」
と、ショウの胸元に顔を埋め肩を震わせていた。
「あとね。私の一番の好物知ってる?」
なんて、ショウの質問に
「…知らないはずがないよ。塩おにぎりとだし巻き玉子、そして、紅茶のシフォンケーキだよ…」
と、この俺がショウの好物を知らないはずがないじゃないかと、少し笑いながら答える桔梗はそこでハッとした。
「んふふ!正解。でも、ちょっとギリギリ正解かなぁ?正確には、桔梗の作った料理が全部大好物。その中でも、特にお気に入りの大好物は、
塩おにぎりとだし巻き玉子、デザートは紅茶のシフォンケーキでしたぁっ!」
なんて、クスクス笑うショウに
「…………ッッッ!!?…ショォ〜〜…!!もう、嬉し過ぎてどうにかなってしまいそうだよ!!こんなに、俺を喜ばせてどうするの?」
そう、塩おにぎりとだし巻き玉子は、桔梗が初めてショウにふるまった料理。そして、紅茶のシフォンケーキは、どうしても桔梗が納得できるものができなくて試行錯誤して苦労の末に作った力作だった。
それを好物と、桔梗の作ったもの全てが一番の好物と言ってくれたショウに積み重なった様々な感情がブワァーーーッと込み上げてきて、今は顔をあげられない状態だ。
それを察して、ショウも桔梗の頭を包み込むように優しく抱きしめながら
「いつも、ありがとう。桔梗が作ってくれたご飯が出る度に、見た目も可愛かったり綺麗だったりするから一つ一つ見て味わって食べてるよ。…でも、美味しすぎて早食いになっちゃう事も多いけど…。桔梗のご飯いつも美味しすぎるから…つい…」
なんて、さらに追い討ちを掛けるものだから、しばらくは桔梗はショウの胸から顔を出すことはできないだろう。
「…いつも、ショウが美味しいって嬉しそうに食べて笑顔を向けてくれるだけで、泣きそうになるくらい嬉しいって思ってたのに。
そんな話聞いてしまったら、今からは嬉しい気持ちが爆発してしまいそう…ありがとう、ショウ。…本当に幸せ…」
イチャイチャしてるが、なんだかホッコリ優しい気持ちになっちゃうのはどうしてだろう?
だが、お互いを思い合うこの二人を見ていて結もフジも、風雷でさえ羨ましく思えた。
特にフジは、桔梗のエピソードを聞いて最初から上手くやろうなんて甘かった。
あの桔梗でさえ苦労に苦労を重ねて頑張ったんだ。自分も頑張らなきゃ!と、自分を奮い立たせていた。
そして、この二人みたいにウダツさんとイチャイチャできる関係になってみせる!
「…あ!それで思い出した!!小学生の頃にバレンタインで桔梗に手作りチョコ渡したくて、桔梗に教えてもらって一緒に作ったんだけどね!作るのも大変だったけど、片付けが本当に大変でビックリしちゃったよ。
合間合間に片付けながら調理してる桔梗がすっごくカッコよかった!」
なんて、…え?桔梗にあげる手作りチョコを桔梗に教えてもらって一緒に作ったの?なんて、ツッコミたい気持ちもあったし、自然に惚気まで入っていたが
「そ、そーなの!?今はシェフに教えてもらいながら作ってるんだけど、全部自分でやりたいって言ったら“後片付けまでが料理です。”って、言われてやってみたの。
そしたら、ガス台から、シンクには汚れた調理器具の山。しかも、いっぱい焦がしちゃってたのもあって洗ったり片付けるのが物凄く重労働で驚いちゃったわ。」
と、とても酷い状況だったのだろう、それを思い出しウンザリした顔でフジは言ってきた。
「うん!分かる気がするよ!あれから毎年、桔梗とバレンタインのお菓子を一緒に作ってて、いつも桔梗が片付けを全部やってしまうから。
片付けもやってみたいってお願いして、ちょっとやらせてもらったんだけど、ちょっとなのにクタクタに疲れちゃって。
毎日、私に料理やデザートも作ってくれる桔梗に感謝の気持ちしかないよ。」
…毎日って、お弁当だけじゃないの?
もしかして、朝昼晩ってショウの食事作ってたりする?学校もあるのに??
そもそも、ショウは桔梗にバレンタインあげたいんだったら内緒で作ろうとは思わなかったのかな?
桔梗と一緒にバレンタインのお菓子作ったら、桔梗にプレゼントする意味がない気がするんだけど…。
桔梗だって、貰う時ありがたみが薄れるし…そもそも自分も作ってるんだから貰っても嬉しくないんじゃないかな?
という、結達の疑問はあったけれど。
「日々、私が何とも無しに食べていたものも、誰かが様々な苦労と努力の積み重ねで作ってるんだって思ったら…感謝するし粗末にできないと思ったわ。」
フジは、不味いおかずを口に入れ噛み締めながらそんな事を言うので
こんな短期間に、人はこんなにも変われるものなのかと感心するばかりだった。
フジの見た目や雰囲気、言葉遣いまで全然違っていて別人に見えるので、本人だと言われてもいまいちピンとこない。
そして、内から滲み出るものなのか、実は今までの化粧が似合っていなかっただけなのか…今のフジの方がより美しく感じる。
社交界で三大美と呼ばれているフジであるが、今のフジであれば三大美の枠に収まらず他の美女達を圧倒する美貌であろう。
そう、ここにいる誰もが感じた。
フジと陽毬は学校を休んだ。
フジは、今まで感じた事のなかった疲労が祟ったのだろう。熱を出して起き上がるのも辛いほどに疲労困憊していた。
そして、熱のせいか悪夢に魘されているらしい。
陽毬は……あまりのショックに立ち直れずズル休みだ。
いつもなら、大好きなアニメや漫画、ゲームなどで癒されたり荒ぶってストレス発散していたのだが。
今回ばかりは何もやる気が起きずベットの中でただただボー…っとしてた。
そして、結構な頻度で昨日の社交界での出来事を思い出し知らず涙を流す状態だった。
学校では、結達はフジと陽毬が休んだ事に対して心配していた。
理由は社交界から帰って来た陽毬が、直ぐに自分の事やフジの事、蓮の事を詳しくメールでショウに送ったからだ。
そして、[さすがに心折れたので明日学校を休むでござる]と、いうメールが届いたきり、いくらショウがメールをしても既読すらつかなくなった。
しょんぼりするショウに、桔梗は
「…今は、心がとても傷付いて疲れてるから、ゆっくり休む時間が必要なのかもしれないね。陽毬がショウやみんなと話せるようになるまで待ってあげよ?」
と、そっと声を掛けショウはそれに頷いた。
ちなみに、今さらだが誰もフジの携帯番号やメールのアドレスを知っている人がいない事に気づいた。
フジもかなり大変な思いをしたらしい話も聞いた。
心配だが、連絡先も知らないし…もし知っていても怖いから下手に電話やメールなんてできなかっただろうなぁと、結とショウは思っていた。
それから、三日ほどしてフジは学校へ来た。
そのフジの変貌ぶりにみんな驚いていた。
まず、見た目だ。
今まで、派手な化粧をしていたが、今は化粧はまったくしておらず。
膝まで長かった艶々サラサラのストレートの美しい髪はバッサリと切られており、今は前下がりボブで肩より少し短いくらいだ。派手なネイルもやめ短く切り揃えられた爪。
今までは、派手な化粧にネイルをしていたが、フジにはそれがとても似合っていた。
しかし、化粧やネイルこそしていたがアクセサリー類は付けた事がなかったし服も乱す事はなかった。つまりは、学校の規則はしっかり守っていたのだ。こう見えて根は真面目なフジである。
そんなフジが、派手な化粧もネイルもやめ自慢の美しい髪も短く切って現れた。
驚くしかない。
だが、それでも驚くのは早かった。
フジは、自分の親衛隊達に向かい
「皆さん、今まで私の我が儘に付き合って下さりありがとうございました。
…ですが、このまま皆さんに頼り切っては、私自身が何も出来ない駄目人間になってしまいます。
どうか、私の将来の事を案じて下さるのであれば、他の級友の方達と同様に同じ学友として接して頂けたらと思っています。
私の勝手な我が儘と思って頂いて構いません。不器用な私ですが、そっと見守って下さると嬉しいです。」
と、フジは親衛隊達に向かって深々と頭を下げたのだった。
当たり前だが、周りのどよめきが凄い。そして、親衛隊トップ達は少し話し合い
「フジ様が、決断なされたのでしたら自分達は何も言う事はありません。自分達、親衛隊一同とファンは、フジ様の決意を応援致します。
今まで、側に置いて下さりありがとうございました。」
親衛隊代表が、そう言葉を掛けると頭を下げ、その後に続き他の親衛隊達も頭を下げた。
そして
「フジ様のご意向により、これより親衛隊は解散する!だが、フジ様を敬う気持ちだけは忘れるな!」
と、フジの親衛隊はここで解散となったのだった。泣いてる人や、慰め合う人達もいて何かの試合に負けたかのような後ろ姿だった。
…ちょっと可哀想だが、彼らはやり過ぎな所があり周りもいい迷惑だったのでみんなホッとしていた。
次に、フジはショウ達の前に来て
「…ショウ、今までごめんなさい。謝って済む事ではないけど…素敵な婚約者がいて羨ましかったの。それを僻んで、酷い事ばかりしてきたわ。どう、償えばいいのか分からないけど…」
と、頭を下げて涙を流していた。体も小刻みに震えていて、心から反省し後悔している事が分かる。
そんなフジの姿を見たショウは思わず立ち上がり、フジの手を両手で優しく包むと
「……え?」
フジは思わず顔をあげた。すると
「フジさんが、ちゃんと私の事考えてくれたのが嬉しい。もし、よかったらだけど…私とお友達になってくれる?」
緊張した面持ちで、フジを見ているショウの姿が見えた。きっと、断られるかもしれないという不安でいっぱいだったが勇気を振り絞ったのだろう。ショウのぷにぷにお手手が震えている。
「…も、もちろんよ!でも、ショウこそいいの?こんな私だけど…」
と、不安気にショウの顔を伺うフジ。それを見て、ショウはハッとしたように
「“こんな私じゃないよ”!今のフジさん、とっても素敵だよ。だから、お友達になりたいって思ったの。」
フジに、ふわっと笑い掛けるショウは別に美人でも何でもないのに、とても可愛らしく思えた。そんなショウの姿に胸がじんわり温かくなり思わずフジはショウを抱きしめた。
「ありがとう、ショウ!あなたが、こんなにも可愛らしい事にも気付けなかったなんて…今まで、私はもったいない事してたのね。」
なんて、いい雰囲気なのにも関わらず、その様子をイライラしながら見ている人物がいた。
「…もう、そろそろ俺のショウを離してもらおうかな?俺が嫉妬するから。」
と、桔梗は冷笑を浮かべながらショウを後ろから抱きしめ、フジから引き剥がした。
…心が狭いわ…
フジはそう思ったが、言いたいのをグッと我慢して、次は桔梗と風雷に向かい
「桔梗と風雷もごめんなさい。二人があまりに魅力的で、私はあなた達の事も考えずに暴走して追いかけ回してたわ。…今、思い返すと…恥ずかしい限りよ。
もう、思い出したくもない黒歴史。」
と、苦笑いしてから、キッと表情を引き締めてまた頭を下げるのだった。
「正直、本当に迷惑極まりなかったけど、最初にショウに対して誠心誠意謝ってくれた。それをショウが許してあげた。それだけで十分だよ。」
桔梗がフジを許す言葉を言った後に続き
「…驚いた。三日前の社交界で色々あった話はうっすらと聞いていたが、この短期間で別人のように変わった。また、前のように戻らない事を祈りたい。」
と、遠回しだが、今のフジの変わりように驚きつつ風雷はフジを褒めた。風雷が人を褒めるという事は滅多にない事なのでフジはそれを真摯に受け止め素直に喜んだ。
「もちろん、そのつもりよ。」
このやり取りを、ほえぇ〜…と見ていた結にフジは
「…あんまり、言われない事かもしれないけど…九条 蓮は、美女達と体を交えるのが本当に好きみたいね。
たまたまだったけど、カーテンに隠れてある御令嬢と発情期の犬みたいに腰を動かして喜んでたわ。…あんなのと、将来結婚ってなったら絶対に不孝になるだけだわ。」
と、悍ましいものでも見たかのように顔を顰め結に打ち明けてきた。
「…うわぁ〜。学校に彼女がいながら…って、事はセのつくお友達!?」
「…そうみたいね。断片的だけど、会話の内容から他にもセフレがいるっぽいの。友達には、不孝になってほしくないわ。
結さえ良ければ、私に何か手伝わせてもらえないかしら?」
と、言ってくれるフジに、本当に変わったなぁ〜。それに、私の事も友達って言ってくれるなんて…と、じぃ〜んと感動していた。
しかし、まあ…
結は、フジをジッと見る。
前は、高飛車で傲慢な女王様って感じだったけど…。
今は、品があって高潔なのに優しい雰囲気があり親しみやすい。まるで、聖女を思わせるようで神々しくも美しい。もはや、何もかもが美しい。
同性であっても、うっとりと見惚れてしまう。
そこで、結はつい聞いてしまった。
「フジさん、凄く素敵に大変身しちゃったけど、何がキッカケでそんなに変わったの?
全くの別人レベルに違うよ!?」
それには、みんなとても興味があったようでみんなフジに注目する。
すると、フジは
「…お昼休みに話すわ。」
と、下を俯いて真っ赤になってしまった。
ここで、みんな
ピーーーン!
ときた。
その話を聞くのが待ち遠しい。
早く、昼休みにならないかなと思う結とショウだった。
そして、待ちにまった昼休み。みんな、それぞれ自慢のお弁当を広げる中…
フジだけが、何故かお弁当の蓋を開けず何とも言えない表情で自分のお弁当をジッと見ていた。
それに、みんな気付いていたが、どう声を掛けていいか分からずいた所
「フジさん、早く食べよう!昼休み時間終わっちゃうよ?」
さすが、結。ちょっと空気の読めない女!
みんな、まだフジとの距離感をどう詰めたらいいか悩んでた時の結の言葉。
それには、みんな“おお、凄い!”と、心の中で賞賛した。
結の言葉に
「…笑わないでね?」
フジが自信無さげに小さく笑うと、小さくて女の子らしいお弁当箱の蓋をパカリと開けた。
すると
そこには、見るも無残なおかずとご飯が敷き詰められていた。
所々黒く焦げてる形にもなってないスクランブルエッグかだし巻き卵か分からない物体。
茹で過ぎてボロボロ崩れているブロッコリー。
ひき肉と大きさの違う玉ねぎが刻んである物体に、茶色の液体が掛かった何か。
ご飯は、お粥だろうか?まともなのは、生のプチトマトだけであった。
それを見て、みんなピシリと固まってしまった。
…これは、一体…?
すると、フジは恥ずかしそうに
「…初めて、お料理を作ってみたの。」
と、俯いてしまった。だが
「…す、すごい!フジさん、凄いよ。」
ショウが、目をキラキラ輝かせながらフジを見てきた。
「…え?」
「だって、私なんか家庭科以外で料理も作った事ないし作ろうと思った事もないの。
フジさんは、料理を作ろうって思って挑戦したんだよね?それが、凄いって思ったの!
どうして料理を作ろうって思ったの?」
と、ショウが質問すると
「…私ね、三日前の社交界で好きな人ができたの。その人は、とても素敵な紳士で…その人の隣に立っても恥ずかしくないレディーになりたいって思ったの。
お料理も、いつかその人に食べてもらいたくて今、頑張ってる最中なの。」
フジは、顔を真っ赤っかにして答えた。そのいじらしい姿に、結とショウはかわいいぃぃ〜〜〜!!!と、キュンキュンした。
桔梗と風雷も、目をまん丸くしてフジを見ている。
「…本当はこんなはずじゃなかったのよ。料理って、もっと簡単なものだと思ってた。
けど、実際に作ってみたら…とても難しくて凄く時間も掛かるしビックリしたわ。
このお弁当だって、できた中で一番良かったものをつめたのよ?
…お料理が、こんなに大変だなんて思ってもなかった。…正直、なめてたわ…。」
ガックリ肩を落とし、自分が作ったおかずを口に含む度に顰めっ面をしているからに…相当不味いのだろう。
「…俺も最初は料理が上手くできなくて、ショウに料理を振る舞う事がなかなかできない時期があったよ。」
そう言ってきたのは、プロ顔負けのお弁当を作ってくる桔梗だ。
……え!?
みんな驚きの表情で桔梗を見ると
「俺だって、何度も何度も失敗を繰り返しては、お抱えのシェフに教わるのはもちろん。
信頼できるメイド長に練習に付き合ってもらったり、色んなレシピ本や栄養や食育の本などを読み漁ったよ。それを、実行しては失敗して。」
少し苦笑いしつつも、自分の失敗談や苦労話をしてきたのは桔梗なりのフジへの応援なのだろう。
「…うん。知ってるよ?」
そこに、ショウの声までも入り、少し驚いたように桔梗はショウの顔を見た。
「凄く小さい時の話だけど、私が眠ってから桔梗がどこかに居なくなちゃう時が多くて。さみしいし気になったから、桔梗が部屋を出てからね。こっそり後をつけて行こうとしたの。
だけど、それをお婆に止められて不思議に思ってるとお婆が教えてくれたの。」
「…何を教えてくれたの?」
「うん。“本当は、ショウ様には内緒なんですが、桔梗様はショウ様に自分が作った料理を食べてもらいたいと料理の練習をしているのです。
ですが、料理とは簡単にできるものではありません。何度も失敗を繰り返し、苦労してできるようになっていくもの。
桔梗様は、その苦戦している姿をショウ様に見られたくないのです。好きな女の子には、いつだってカッコイイ姿を見せたいもの。
だから、桔梗様が自分で納得できるまで待っていてあげて下さい。それが、ショウができる最大の優しさですよ?
それに、桔梗様はカッコつけたがりでプライドが馬鹿みたいに高いので、こっそり内緒で料理の練習をしている事は、桔梗様自身がその苦労話を打ち明けてくれる時まで言わないであげて下さい。
あくまで、ショウ様は桔梗様の料理の練習の事は知らない。頑張って苦労している事も知らないという事を貫き通して下さい。
大好きなショウ様に、自分の作った料理を食べてもらいたいという桔梗様の気持ちを大事にしてあげて下さい。”
って、言われてから、私が寝てから桔梗が布団から抜け出す度に“ああ、今日も頑張るんだね。ありがと、大好きだよ。”って、くすぐったい気持ちになりながら、心の中で見送ってたのを思い出しちゃう。」
と、秘密にしてて、ごめんね?本当は、桔梗が夜な夜なみんなが寝静まった頃にお料理の練習してた事知ってたの。と、打ち明けたショウ。
その事に、とても驚いた表情をして
「……俺の事を思って、お婆との約束をずっと守ってくれてたの?」
桔梗はショウの気持ちが嬉しくて、薄くて美しい唇が小さくふるふる震え始め、心なしか目が少し潤んできている気がする。
そこに
「…あとね!」
ちょっと、イタズラっぽい顔をしたショウが、桔梗の耳に両手を添え、楽しげにヒソヒソと内緒話を始めた。
すると、みるみる桔梗の目は大きく開き驚いた表情を見せる。そして、段々と目を細めていって今にも泣きそうな顔をして、思わずショウを抱き締めると
「……ショウは、俺を喜ばせる天才だよ!」
と、ショウの胸元に顔を埋め肩を震わせていた。
「あとね。私の一番の好物知ってる?」
なんて、ショウの質問に
「…知らないはずがないよ。塩おにぎりとだし巻き玉子、そして、紅茶のシフォンケーキだよ…」
と、この俺がショウの好物を知らないはずがないじゃないかと、少し笑いながら答える桔梗はそこでハッとした。
「んふふ!正解。でも、ちょっとギリギリ正解かなぁ?正確には、桔梗の作った料理が全部大好物。その中でも、特にお気に入りの大好物は、
塩おにぎりとだし巻き玉子、デザートは紅茶のシフォンケーキでしたぁっ!」
なんて、クスクス笑うショウに
「…………ッッッ!!?…ショォ〜〜…!!もう、嬉し過ぎてどうにかなってしまいそうだよ!!こんなに、俺を喜ばせてどうするの?」
そう、塩おにぎりとだし巻き玉子は、桔梗が初めてショウにふるまった料理。そして、紅茶のシフォンケーキは、どうしても桔梗が納得できるものができなくて試行錯誤して苦労の末に作った力作だった。
それを好物と、桔梗の作ったもの全てが一番の好物と言ってくれたショウに積み重なった様々な感情がブワァーーーッと込み上げてきて、今は顔をあげられない状態だ。
それを察して、ショウも桔梗の頭を包み込むように優しく抱きしめながら
「いつも、ありがとう。桔梗が作ってくれたご飯が出る度に、見た目も可愛かったり綺麗だったりするから一つ一つ見て味わって食べてるよ。…でも、美味しすぎて早食いになっちゃう事も多いけど…。桔梗のご飯いつも美味しすぎるから…つい…」
なんて、さらに追い討ちを掛けるものだから、しばらくは桔梗はショウの胸から顔を出すことはできないだろう。
「…いつも、ショウが美味しいって嬉しそうに食べて笑顔を向けてくれるだけで、泣きそうになるくらい嬉しいって思ってたのに。
そんな話聞いてしまったら、今からは嬉しい気持ちが爆発してしまいそう…ありがとう、ショウ。…本当に幸せ…」
イチャイチャしてるが、なんだかホッコリ優しい気持ちになっちゃうのはどうしてだろう?
だが、お互いを思い合うこの二人を見ていて結もフジも、風雷でさえ羨ましく思えた。
特にフジは、桔梗のエピソードを聞いて最初から上手くやろうなんて甘かった。
あの桔梗でさえ苦労に苦労を重ねて頑張ったんだ。自分も頑張らなきゃ!と、自分を奮い立たせていた。
そして、この二人みたいにウダツさんとイチャイチャできる関係になってみせる!
「…あ!それで思い出した!!小学生の頃にバレンタインで桔梗に手作りチョコ渡したくて、桔梗に教えてもらって一緒に作ったんだけどね!作るのも大変だったけど、片付けが本当に大変でビックリしちゃったよ。
合間合間に片付けながら調理してる桔梗がすっごくカッコよかった!」
なんて、…え?桔梗にあげる手作りチョコを桔梗に教えてもらって一緒に作ったの?なんて、ツッコミたい気持ちもあったし、自然に惚気まで入っていたが
「そ、そーなの!?今はシェフに教えてもらいながら作ってるんだけど、全部自分でやりたいって言ったら“後片付けまでが料理です。”って、言われてやってみたの。
そしたら、ガス台から、シンクには汚れた調理器具の山。しかも、いっぱい焦がしちゃってたのもあって洗ったり片付けるのが物凄く重労働で驚いちゃったわ。」
と、とても酷い状況だったのだろう、それを思い出しウンザリした顔でフジは言ってきた。
「うん!分かる気がするよ!あれから毎年、桔梗とバレンタインのお菓子を一緒に作ってて、いつも桔梗が片付けを全部やってしまうから。
片付けもやってみたいってお願いして、ちょっとやらせてもらったんだけど、ちょっとなのにクタクタに疲れちゃって。
毎日、私に料理やデザートも作ってくれる桔梗に感謝の気持ちしかないよ。」
…毎日って、お弁当だけじゃないの?
もしかして、朝昼晩ってショウの食事作ってたりする?学校もあるのに??
そもそも、ショウは桔梗にバレンタインあげたいんだったら内緒で作ろうとは思わなかったのかな?
桔梗と一緒にバレンタインのお菓子作ったら、桔梗にプレゼントする意味がない気がするんだけど…。
桔梗だって、貰う時ありがたみが薄れるし…そもそも自分も作ってるんだから貰っても嬉しくないんじゃないかな?
という、結達の疑問はあったけれど。
「日々、私が何とも無しに食べていたものも、誰かが様々な苦労と努力の積み重ねで作ってるんだって思ったら…感謝するし粗末にできないと思ったわ。」
フジは、不味いおかずを口に入れ噛み締めながらそんな事を言うので
こんな短期間に、人はこんなにも変われるものなのかと感心するばかりだった。
フジの見た目や雰囲気、言葉遣いまで全然違っていて別人に見えるので、本人だと言われてもいまいちピンとこない。
そして、内から滲み出るものなのか、実は今までの化粧が似合っていなかっただけなのか…今のフジの方がより美しく感じる。
社交界で三大美と呼ばれているフジであるが、今のフジであれば三大美の枠に収まらず他の美女達を圧倒する美貌であろう。
そう、ここにいる誰もが感じた。