美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜

結とショウ、社交界へ乗り込む

「こんな時に、聞きづらいんだけどさ。フジさんが“変わろう”って思ったキッカケ知りたいんだよね。」

結が、いい雰囲気をぶち壊しそんな事を聞いてきた。確かに、みんな知りたい話ではあるが、結は何かと空気をぶっ壊してくれるのでそれがいい時も悪い時もある。今回はグッジョブである。

このままの雰囲気だと、今日はその話は聞けずじまいで終わってしまっていただろうし次の機会と言っても聞くタイミングを失い流れてしまう話だっただろう。

そこを考えると、やっぱり結はいい仕事をした。

すると、フジはしきりに周りを気にしていて、それを察知した風雷が

「大丈夫だ。情報が漏れると不味そうな話の時は“防音バリアー”を張ってる。だから、周りに俺達が話してる声は聞こえない。」

と、とんでもない発言をしてきた。

自分達が知らない間に、サラッととんでもない魔道を使ってたんだなとギョッとする。

…な、なるほど。よくよく考えれば、蓮の話やら聞こえたらマズイ話をしていても自分達が平穏無事であったのはこういう事だったんだと感謝感謝である。
ぶっちゃけ風雷から言われるまで、結もショウもそこまで考え付きもできなかったが。
頭のいい人は、周りの事や先の事まで考えているようだ。…凄い。

風雷の話を聞いてホッとしたフジは

「…実は、同じ中学校に通ってる人。」

と、聞いて、みんな興味あり気にフジに注目する。

「1年C組のウダツって名前の男性なんだけど…苗字は分からないの。
だけど、3日前の社交界でたまたま知り合って、その日、色々な事があってウダツさんと陽毬、大地様と一緒に行動する事になって…」

フジが言ってきた人物に、桔梗と風雷はドキリとする。とんでもない人物と知り合ったものだと。

「その中で、ウダツさんの一つ一つの行動や言葉…どんなに傷つきどん底に落ちそうになっても真っ直ぐあろうと前を向いて立ち続ける強さ。そして、自分よりも他人を優先してしまう優しさに衝撃をうけたの。
私が知らなかった…いえ、知ろうとも見ようともしない。興味があるモノ以外全てに無関心だった自分を恥じたわ。」

結はフジの話すウダツの姿を、背が高くて筋肉質のワイルド系イケメンだろうなぁと想像した。フジさんが、こんなにも興奮して大絶賛するんだから、よほどの美貌の持ち主だろうな。
と、妄想を膨らませる、結。

「気がついたら、いつの間にか…ウダツさんの事好きになっちゃって…!
ウダツさんが、恋人の酷い裏切りで傷心だという所に付け込んで

“一ヵ月、時間を頂戴。その間に、絶対あなたを振り向かせて見せるわ!”

なんて、啖呵まできっちゃって!ど、どうしよう…!あれから、勇気が出なくてウダツさんに会えてないどころか連絡さえできてないの!」

と、小さな顔を覆い隠すフジ。

「社交界が終わって、今までにないくらいの疲労感で熱まで出てしまって初めて学校を休んだわ。その間に、今までの自分を振り返えりつつウダツさんの事も…たくさん、たくさん考えた。

…そしたら、見えてきたのは自分がいかに愚かだったかという事だけ。…恥ずかしくて、外も歩けないくらい恥じたわ。

でも、だからといってウダツさんは諦められない。なら、これからだって間に合うはず!ウダツさんと並んでも恥ずかしくないようなレディーを目指そうって決心したのよ。」

と、いうフジの強い決意に、みんな“おお!”と拍手喝采したい気持ちだった。

桔梗や風雷は長年に渡り、いくら注意しても聞く耳すら持たず頑なだったフジの心を一瞬にして、スルリといとも簡単に解く事のできたウダツに感服した。

そして、自分達にも言える事だが“恋する”とは偉大だなと心から感じた。


「……でも、あの時の社交界で……」

これは言っていいものか良くないものか悩んでいるフジに

「…ああ、もしかして九条 蓮の事?」

結はズバリと、フジに聞いてきた。ピクッと反応している姿を見る限り正解のようだが

朝早くに結達の教室に来て、ショウ達に今までの行いについて謝ったと同時に

結に向かって、3日前の社交界で結の婚約者である九条 蓮が、御令嬢と仲良く大人の腰振り大運動会をしていた事と、他にも九条 蓮にはセのつくお友達がいそうな感じがしたとプンプン怒りながら言ってきていたので

また、それとは別の話か…それ以上に深い話なのか、どうやら深刻そうな話のようだ。

「喋っても大丈夫だ。俺は、大地と大樹から詳しく話を聞いてるし、その話はショウや桔梗も知ってる。結さえ良ければになる話だ。」

と、風雷は言ってきたのに対し

何で、こんなにも筒抜けなのかと驚いてしまうフジ。その疑わしい視線に

「別に、面白おかしく噂してる訳ではないよ?
風雷には少し事情があってね。
大樹や大地と深く関わりがあって、何か大きな出来事やどんなに小さくても将来大きな事件に繋がる様な火種について事細かに情報を流してもらってるんだよ。」

そう話す桔梗に、そういえば学校の傍ら風雷は何らかの仕事もしていたはずだ。おそらく、それ関連なのだろうと思うが…問題は、ショウと桔梗だ。

何で、ショウと桔梗にまで筒抜けなのか…腑に落ちない。と、フジが考えていた時

「…あ、ごめんね。その話ね、私と桔梗は陽毬ちゃんから聞いて知ってたの。」

申し訳なさそうの白状してきた。

「…あ、陽毬!陽毬から教えてもらったんだったら全然いいのよ。ただ、この話が他の人に広まって傷つく人がいると思ったら、なかなか言い出す事ができなかったの。…あと…」

少し恥ずかしそうに、フジはモジモジしながら

「…私も“ちゃん”づけで呼ばれたいし、呼びたいわ。せっかく、お友達になったんだから“結ちゃん”“ショウちゃん”“陽毬ちゃん”って、呼びたいんだけど…」

最後まで言い切る前に

「もちろんだよ!私もね、フジさんの事ずっと、フジちゃんって呼びたかったの!」

ショウが目をキラキラ輝かせて、ブンブンと頭を縦に振っていた。

「“ちゃん”づけって、ちょっと恥ずかしいけど友達って感じがしていいよな!わかったよ。フジちゃん!」

結も照れ臭いながら、ニコッと笑いうなづいた。

「そういえば、本当に今さらって言われてしまうけど。今、気になったんだけど。
ショウちゃんの指輪と桔梗君の揺れもの簪(かんざし)、模様が一緒なのね?
…今まで、ずっと一緒に居ても全然気付けなかったとか…本当…私って…」

と、フジが、ショウの薬指の指輪と桔梗がポニーテールに纏めている簪の柄が一緒な事に気がついた。

「あ!本当だ。気になってたけど、あんまりジッと見るのは失礼かなって、ちゃんと見れてなかったけど、すっごい綺麗だし可愛い!」

フジに続けとばかりに、結は今まで気になってたショウの薬指と桔梗の簪をジッと見た。
こんなにジッと見る事なんてなかなかできないから、もうここぞとばかりに見てしまった。

どういう技術で、何の宝石が使われてるのか分からないが

ショウの指輪は透明な宝石がリングとなっておりその中心に、小さな薄ピンク色の桜と、虹色に輝く薔薇と、紫色の桔梗の花の形をした三種類の宝石がバランスよく可愛らしく収まっている。

桔梗の揺れもの簪も、簪部分は透明な宝石で、飾り部分は上から順番に、桜、薔薇、桔梗の花とショウの指輪に使われている宝石と一緒で、桔梗が動く度にユラユラ動いていてとても綺麗だ。

この学校では婚約者がいる場合、婚約者の証を身につけてもいいという校則がある。

だから、ショウの指輪も桔梗の簪も婚約の証だと承諾を得ているので校則違反にはならない。

「…本当、綺麗ね。小さく加工した宝石もとっても可愛いし。けど、こんな加工技術なんて見た事ないし…知らない宝石もあるわ。」

と、フジは興味津々といった感じにショウの手を取り指輪を凝視していた。

「海外に住んでた頃、たまたま出会ったアクセサリーデザイナーとコンビの技術者の作品に感動したショウが、この人達に自分達のアクセサリーを作ってほしいっておねだりされちゃってさ。

ショウのかわいいおねだりを無碍にできなくて、そこのデザイナーに自分達の意見を細かく聞いてもらいながら、三人でデザインを考えて凄腕の技術者の人に作ってもらったんだよ。」

と、桔梗はフジの手からショウの手を奪い取り消毒液でショウの手を拭き、自分の手に取りショウの指輪を見て愛おしい思い出のように語った。つまり、自慢だ。

「…羨ましい話だけど、どうしてだろーなぁ?ちょっとだけイラッとする。」

結は桔梗を見て、つい本音が出て嫌味ったらしい言い方になってしまった。

それには、フジ達も同意である。なんか、桔梗の言い方は遠回しに自分達だけ幸せ過ぎてごめんね?とでも言っている様に聞こえちょっぴり感に触ったのだ。

だって、結は婚約者の九条 蓮に、絶賛浮気され放題。挙げ句、結に対してブスでデブだと暴言を吐かれ汚物扱いだ。

フジは、絶賛片思い中。

風雷はお互い両思いなのは分かりきっているのに、相手がその気持ちを拒絶していてそれを解きほぐそうとアレやこれやの作戦でただいま大奮闘中。

陽毬はここにはいないが、大樹に悪い遊びのターゲットされ馬鹿にされ笑われてたにもかかわらず、大樹の魅力にノックダウンしうっかり好きになってしまったが…色々あって大樹とはもう関わり合うことはないだろう。

と、みんな恋愛方面は色々とハードモードだった。

このメンバーで唯一、ショウと桔梗だけはカップル成立していて……羨まし過ぎる。その幸せの端くれでいいから幸せを分けてくれと言いたい気分になる。

話はだいぶ逸れてしまったが、何とか話は軌道修正しフジから話される内容は胸糞悪い内容で、フジが真白の名前を出すと

「真白嬢って言ったら、優等生の見本みたいな美女で有名だよな!しかも大樹様とかなり仲が良くて、もしかしたら恋人なのかもしれないって噂のあるらしいけど。大樹様には他に恋人がいるって話もあるから、普通に仲がいい友達なのかもな!」

社交の場とか詳しくないけど、これくらいは知ってるよ!と、自信満々に結は真白について説明してきた。

しかし、周りの反応はイマイチである。

「…え?違ったっけ?」

みんなどうしたの?と、いう感じに結が自分は何かおかしな事でも言ったのと焦っていると

「…その通りなんだけど…」

フジは、少し苦々しく笑うと

ウダツと大樹、真白の複雑な幼なじみ関係を話し、結をめちゃくちゃに驚かせた。

「…ど、ドロドロの三角関係…うわぁ〜…」

しかも、大樹の裏の顔を知りつつ大樹を好きになってしまった陽毬。蓮と真白がセのつくお友達な事も聞き、顎が外れるかと思うほど、あんぐりと口を開けていた。


「…陽毬ちゃん、大樹様を好きになっちゃってたの!?しかも、大樹様と真白嬢の誤解が解けて恋人になったはいいけど、真白嬢の恋人であるウダツさんに“恋人だった時を無くしたい”とか…ありえなさ過ぎる。」

フジの話を聞いて、ドクズまみれじゃないか!と結はイライラしている。

「それに、ウダツさんと真白嬢が恋人だった時、ウダツさんにはキスどころかハグや手を繋ぐ事すらさせなかったのは、大樹様を思う気持ち?心も操も大樹様のものだっただぁ???
じゃあ、真白嬢のセフレって存在はどう説明するんだよ!?イケメンのセフレとはたくさん体の関係ありありです。やってやってやりまくってますって!?
でも、それは大樹様への気持ちを紛らわしてただけとか…!ハァァアアッッッ!!?どんだけ、頭の中お花畑なんだよ!ツッコミどころ満載じゃねーか!!」

あまりに、イライラし過ぎて怒りをぶつけるかのように地面を強くバンバン叩きながら、顔を真っ赤にして怒ってる。

そんな結の姿にみんな、ここに赤鬼がおると心の中で思いながら結に圧倒されていた。

「どんだけウダツさんの事、馬鹿にしてんだよ!ウダツさんの気持ちを蔑ろにして…裏切って。
本当に好きな人と両思いでした。はい、さよなら?…はあぁぁぁ〜〜〜!!?マジで、信じられない!
もう、そこはさすがドクズの九条 蓮のセフレだけあるわ!とんだ、ドクズだよ。もう、クソばっか!!」

結はもう、自分を抑えられないくらいに激怒していた。

「でも、良かったんじゃないか?似たもの同士、大樹様と真白嬢が恋人になってさ。
これで、一つの平和が守られた訳だ。ドクズはドクズ同士勝手によろしくやってろっ!周り巻き込むな!バーカッ!!!」

と、つい我を忘れて、言いたいことを言い切ってスッキリした顔をしていた。

「…おお〜!」

気がつけば、結に向かってショウとフジが感心したようにパチパチと拍手を送っていた。

「…結ちゃん、かっこいい〜〜〜。正義のヒーローみたい。」

ショウはパチパチを拍手を送りながら、そんな事を言うと

「正義のヒーローは、ここまで悪口と嫌味なんて言わないけどね。」

桔梗は、ショウにお弁当のおかずをあ〜んしながら少し苦笑いしていた。

「正義のヒーローじゃないにしろ、全く持って結の考え方に同意見だ。」

と、風雷は賛同し、そこにフジは何度もうなづいていた。

「……でも、心配なのは陽毬ちゃんなんだよね。とっても、ツライと思う。…私、大樹君の事許せなくなりそう。」

そう言ったショウに、何故か青ざめる桔梗と風雷。大樹のように何か後ろめたい事でもあるまいし、何故こんなに青ざめているのか結とフジは首を傾げるのだった。

「それを言うなら、真白嬢だって絶対の絶対に許せないわ!優しいウダツさんの心を弄んで、好きな人と結ばれたら都合のいいようにポイって捨てちゃうのよ?」

これでも、言葉を選んだ方なのだろうフジは真白への怒りは収まらず、ウダツの事を思えば真白に対し日々、恨みつらみが膨れていくばかりだ。

「本当だね!真白さんも、絶対にやっちゃいけない事してフジちゃんの大切な人をいじめた。…ねえ、今度社交界っていつあるの?」

と、腰に手を当てプクーと頬っぺたを膨らませたショウは、桔梗でもない誰かに向かって聞いていた。

…え?ショウ、怒り過ぎて頭でもおかしくなっちゃった?と、結とフジは心配してオロオロしていたが

ショウの影からヌッと、黒ずくめのスリムな人間が忠誠のポーズをとりながら立っていた。

そして

『大樹の一番上の兄が鷹司家継承者になったみたい。だから、婚約者との結婚発表を兼ねて、それらを祝して明後日社交界が開かれる。
そこには、大樹はもちろんだけど真白とウダツも招待されてるよ。』

と、女と男の声が重なってブレた声が聞こえてきた。全身黒づくめだし顔も隠しているので性別不明だった。…なんだか気味が悪い…


「そっか、ありがと。オブシディアン!」

そう言って、正体不明の不気味な人間に嬉しそうに抱きついた。

『だが、そこに行くのはショウのお父上が反対してるよ。
“どうせ、ろくでもない事に首を突っ込もうとしてるんだろ?”そう言ってる。
そもそも、社交の場にショウが行くのはあまり良くない。ショウが悪い訳ではないんだけど色んな影響が出てしまう。』

と、言うオブシディアンに、ショウはプクゥ〜と頬っぺたを膨らませて

「今回は特別なの!緊急事態なんだからね。」

なんて、引き下がらないショウ。

『お父上様からの伝言だ。
“桔梗と風雷共々正体がバレない様にしっかり変装して参加するならいい。あまり、危ない事には首を突っ込まない事。いいか、よく聞きなさい。動くのはショウではない。
あくまで、桔梗や風雷、オブシディアンなんだからな。コイツらの迷惑も考えなさい。
コイツらのうち一人でも許可が出なかったら参加はさせない。“
だ、そうだよ。』

ショウの父親の声真似だろうか?凛々しくもワイルドなとても若い声がした。おそらくは、オブシディアンが若いからだろうと、結とフジは思った。

「…なんか、怒られてるみたい。」

そう言ってむくれてるショウに、みんな“うん、それは怒られてるんだよ”と、心の中だけでうなづいた。

「…桔梗、風雷君、オブシディアン…ダメ?」

と、不安気にそれぞれを見るショウに

「滅多な事でもない限り、俺がショウのおねだりを断る訳がないよね。」

桔梗は当然のように承諾し

「……正直、かなり嫌だが仕方ない。」

風雷は、凄く渋った顔をしていたが、諦めた顔をして深いため息をついていた。

『ボクが、ショウの我が儘を断れる訳がない。』

と、オブシディアンはショウの頭を撫でてからショウの影の中にヌゥ〜と消えていった。

条件はあるものの、これでショウの父親からの承諾は取れた様だ。

「わー!社交界って初めてだから、ドキドキしちゃう!よろしくね?結ちゃん、フジちゃん!
陽毬ちゃんも誘って…ンフフ!楽しみだなぁ。」

…あれ?

これ…自分達も行く事になってる!?

と、社交界が大の苦手な結は、苦笑いするしかなかった。フジは、あれから大樹と真白がどうなったのか、ウダツとの関係性もどうなったのかが気になり、元々行く気満々であった。


もちろん、フジのエスコート役は決まっている。

今までの社交界ではウダツは真白と恋人だった時でさえ、何故か真白は大樹にエスコートされ、その少し後ろをウダツは歩いていたのだ。

そもそも、ウダツと真白が恋人だった事実は本人達と大樹しか知らない隠されたものだったらしい。

真白は、どこまでもウダツを蔑ろにし恥をかかせ続けていたのだ。


ならばと、フジはウダツに自分のエスコート役を願い出た。最初こそ断られていたが、フジのしつこさ…もとい熱意に押されて三度目の交渉でウダツの承諾を得られた。

フジとウダツには婚約者も恋人も居ない。ウダツの恋人問題もあったが、なかった事になったので全然問題ない。

次の社交界が楽しみだと、フジはメラメラと燃えていた。
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