美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
人前では話づらい事があると大樹の誘いにより中庭に来た陽毬と大樹。

大樹は、中庭の人目のつきづらい場所まで来ると、いきなり陽毬に対し頭を下げてきた。

いきなりの事で、陽毬はギョッとして

び、ビックリしたであります!

…い、いきなり、何事でありますかっ!?

オロオロしていた。


「……謝って済む事ではない事は、よく分かってるつもりだよ。けど、君にした事は決して忘れる事はない。それほど酷い事をした。」

と、頭を下げながら謝ってきた所を見ると、さっきショウと桔梗にガツンと怒られてショウの出した“条件”を実行しているのだと分かった。

妹のような存在だというショウに大樹がどうしてあんな態度を取ったのか全然分からないが。…本当、どうしてだろう?

得意の妄想でも想像がつかないでござる。


「それは前も聞きましたので結構です。
…が。少し前に身分の差も考えず大樹様に対してとても失礼をしてしまったのですが、お咎めはいつあるのでしょうか?そして、お咎めの内容をお聞きしても構わないでしょうか?」

と、少し面倒くさそうに大樹に質問した陽毬。陽毬の言葉に、大樹は驚いた顔をして

「…そんなのある訳がないよ。悪いのは僕なのに陽毬にお咎めなんてある訳がない。むしろ、お咎めを受けるのは僕の方だ。」

何をどう思ってそう思ったのか、前に陽毬の考えを聞いた事があったので慌ててそんな事はしないと陽毬に説明した。


「…ああ、そうですか。ありがとうございます。話はこれで終わりですよね?では、失礼します。」

陽毬は、さっさと終わらせようと早口で淡々とお礼と簡単な挨拶をし頭をペコと下げ、この場からとっとと逃げたいと足早に去ろうとした。…だが、

「どうして、君の携帯に連絡がつかないのかな?いくら、メールしても既読がつかない。電話しても繋がらない。
僕は、きちんと君に謝りたくて何度も連絡をした。君の家を調べて、直接謝罪に行こうとも考えたけど、お互いの立場を考えたら混乱を起こすだけだし、在らぬ噂が立ち揉め事の種になりかねない事を恐れてそれは断念した。」

…ゲッ!?

コイツ、家まで来ようとしてたのでありますか!

本当に思いとどまってくれて助かりましたぞ。

と、ホッと胸を撫で下ろす陽毬。


「用件は何でしょうか?早く戻らなければ、恋人の真白様が心配しますよ?」

そう、言った陽毬に冷たくドキリとして

「…真白とは、ついさっき別れたよ。」

都合悪そうに大樹は苦く笑った。

「……はやっ!?3日も保たなかったんですな!いやはや、さすがの女たらし。
幼い頃からずっと好きだった女性とようやくの思いをして恋人になっても、一度手に入ったら一気に冷めてしまうたちですかな?」

と、もの凄くドン引きした表情を浮かべる陽毬に、苦々しい笑みから傷付いた笑みに変わる大樹。

「きっと、大の女好きな大樹様は、その日のうちに美味しく真白嬢をいただいたのでしょうな。何となく、想像がついてしまいますぞ。
…さて、これ以上何を話すのでしょう?
私といると、私の勝手な妄想で好き勝手言っては大樹様を不快に思わせるだけですぞ?」

大樹も真白も、お互いに好きで好きで堪らない。悲劇のヒロイン・ヒーローのように、二人は様々な犠牲を払ってまで結ばれたはず。

なのに、たった3日で別れた?…は?

二人に存外に扱われ、ずぅぅーーーーーっと傷ついてきたウダツ。その苦しい気持ちを隠し、ずっと二人の事を思い優しく見守ってきた、ウダツ。そんなウダツをアッサリと二人は裏切り恋人になった。

そこまでして恋人同士になったのに?…ハア?

「…返す言葉もないよ。その通りだから。」

…ギョ!適当な事言ったのに、マジでその日のうちに真白嬢をペロリですか!?さすが、下半身モンスター。

「散々、色々な人達を地獄に落としながらも手に入れた真白嬢なのに、どうして別れたんですかな?」

呆れたように、陽毬が大樹に聞くと

「…真白は、僕に嘘をついていたんだ。」

「…嘘ですと?」

「真白は、僕の事を思ってウダツと体の関係がない清い体だと言った。最初は、僕もそれを知って嬉しくて毎日のように…あ…」

と、言いかけて、真白との情事を仄めかす話をするのを戸惑い言葉に詰まっていた。

「…いやいや。今さら、純情ぶるのやめてもらえませぬかな?数えきれない程、たくさんの女性と絡み合い乱交までお手のものな腰振りモンスターが、情事の話でいちいち私への配慮はしなくて結構。」

なんて、ズバズバ酷い言葉を吐く陽毬に、大樹の精神はもうズタボロだ。正直、その場に座り込んで大泣きしたくなる程ダメージが大きかった。…当分、立ち直れなさそうだ。その通りなだけに。

「…だけど、真白はたくさんのセフレがいた。僕と付き合ったその日も、真白は僕に隠れてどこかの令息とヤっていたのを知った。
僕には、誰にも触れされてない清い体だと嘘をついて、初めてのフリをして…僕と恋人の間もお気に入りのセフレと会って楽しんでいたみたいで……」

と、下を俯き悲観的に話す大樹に

「だから?」

「……え?」

陽毬は、それが何だとばかりに面倒くさそうに話す。

「自分だって、似たり寄ったりでしょ?
大樹様は、色んな女性とその場限りという刺激的な事を覚えてしまいました。…あ、他に、“彼女”というしっかりした恋人も欲しくてちゃっかりそんな存在も作っておられましたな。
ですが、すーぐ飽きてしまって、上手い事言ってポイ捨てしていたらしいですな。」

「……え?…いや、あの…ひ、陽毬?」

「きっと、真白嬢とは、手に入って燃え上がってる時こそ夢中になるでしょうが。すぐに、マンネリ。もう、あの刺激を知ってしまってる体は真白嬢だけでは物足りない。」

「…ちょっと、本当に…待って…」


「…ハイ!そこから、大樹様はその刺激を求めその場限りの刺激に再度、どハマり。
真白嬢は真白嬢で、色んな男の味を知っているので一人じゃ飽きてしまい、また摘み食いして楽しむ。似た者同士、お似合いの二人ではないですか。そんな二人が、何故別れる必要があるんでしょうか?理解できませぬな。」


「……本当に、泣きそう……」

と、ついに大樹はその場にしゃがみ込み涙を流してしまった。

……はああ!!?

なに、コイツ!メンタル、弱々の弱助ですかな!?散々、人を傷つけて弄んでは捨ててきたくせに。自分の事を言われると、もうこれ以上責めるのはやめてですと…!?

…本当に、泣きたいのは…


「…泣きたいのは、こっちでありますよ。どうして、あなたが泣くのか意味不明ですぞ?」

陽毬の言葉に、何か思う節のあった大樹は思わず泣いてる顔を上げた。

…クソッ!思わず、抱き締めたくなりますな。
女の庇護欲を掻き立てられるであります!これだから、イケメンはっ!!最悪だ!

「これで、面と向かってお話しをするのは最後でしょうから話しますがね。
大樹様達の思惑通り大樹様の悪い遊びの計画を知りつつも、裏の顔はとんでもない悪魔だと知りつつも最初こそ騙される訳がないと鷹を括ってたけど最終的に…好きになってしまった愚か者でありますよ、私は!」

「……え?」

「さあ、笑って下さい。あなた方の思惑通り、デブス眼鏡は最初こそ最悪だ、早く帰りたいと毛嫌いしていたのにも関わらず!
大樹様と接する度に心惹かれ、やめろと抵抗する理性をも押し倒してしまい…愚かにも好きになってしまった。
その矢先に、大樹様と真白嬢が恋人になり、大樹様は真白嬢の為に心を入れ替えてハッピーエンド。以上!」

と、話す陽毬は泣きたいのを我慢してたのに、勝手に涙が出るわ、止まらないわ。涙を止めようと踏ん張ると唇が震えるわで散々だ。

そんな陽毬に、大樹は

「…そんな思いしてたなんて、全然知らなかった。…陽毬…陽毬、本当にごめん。」

と、ハンカチを出し陽毬に近づいた…が…

…バチンッ!

「…………ッッッ!!?」

思い切り、陽毬にハンカチを叩き落とされ


「…余計な優しさは見せなくて結構!私の傷が大きくなるだけですぞ。
もし、少しでも私の事を思う気持ちがあるのであれば謝罪の心があるのであれば、今後一切、二度と私と関わらないで下さい。それが、大樹様にできる私への償いであります。」

と、言って「…うぐぐぅ〜〜〜ッッッ!!!…うぐっ!」堪えても出てくる涙や嗚咽と戦いながら陽毬は中庭から怒りのままドスドス音が出そうな勢いで地面を踏み付け出て行くのだった。


…ズキン、ズキンズキン…!!

泣くもんかと耐える陽毬の後ろ姿を見て、大樹は「…ごめん…」と、泣く事しかできなかった。

だが、その中で大樹の頭に浮かんだのは

真白と恋人になってから、陽毬と一切の連絡が取れなくなりショックを受けていた自分。
何かの間違いだと何度も連絡を試みるも一向に繋がらない。

もう、あの時のような心から楽しめる日々を送れなくなる事に焦りを感じるばかりで…無くしたくない、無くしたくないっ!!と、ずっとずっと連絡を試みては撃沈していた。

でも、自分には真白がいる。そう思って、真白と過ごすも隣にウダツはいない。

ずっと、幼なじみだったせいか真白とデートをしても、陽毬だったら…と、陽毬の事ばかり考えては違うだろ!今は陽毬じゃなくて、ようやく手に入れる事のできた真白とのデートだろ!!陽毬は違うだろ!と、否定して真白とのデートに集中しようと頑張った。

やはり、真白は他の女の子達と同様に自分の経験を活かし考えたデートコースを喜んでくれたしプレゼントも飛び跳ねるくらいに喜んでくれた。

……とても、つまらなかった……

凄くシラけてしまう。

気が休まらない、とても疲れる。

どうしても、奇想天外な毒舌陽毬と比較してしまう。

これでは、いけないと思い

長年の真白への恋心を思い出し自分を奮い立たせた。そして、真白の事を考える。
そうだ!真白はウダツにも触れさせなかった。僕を思って真っさらな体のままだと言っていた。それくらい真白は僕を思ってくれてる!

大事にしなければ。

気持ちに応えなければ。

と、真白を丁寧に優しく抱く事で、これで良かったんだ。と、自分に言い聞かせていた。


…それでも、時間が経つほど陽毬の声が聞きたくて繋がらない電話を掛ける。

繋がらない電話の横で、愛しい真白が生まれたままの姿で静かに眠っている。真白は、本当にどこもかしこも綺麗だと思った。

ただ、それだけだった。それ以外、何にも感じない。抱いても、他の女性達との違いが分からなかった。
たまに見せる、“はじめてだから優しくして?”、という、初心な反応には興奮したけど。

ようやく結ばれたはずなのに、なんの感動もないのは何故だろうと思う。自分は幸せを手にしたはずなのに…虚しさしかない。…落ち着かない。

…もしかしたら、大地や陽毬の真白への意味深発言で、僕自身が真白に対し不信感を抱いてしまっているせいだろうか?

…だけど、まさか真白に限ってそんなはずはないだろうと信じたいが、陽毬は開き直るとズバズバと正直に言ってくる。

たまに、超毒舌でズバズバ言ってきて精神的ダメージが大きくて寝込みそうになる時もあったけど。それでも、そんな陽毬が開き直って僕に言ってきた言葉は…嘘じゃない。

…だけど、真実を知るのが怖い…

大切な人達を傷つけ、裏切ってでも真白を選んだ自分は間違ってないと思いたかった。
これで、いいんだと何度も何度も自分に言い聞かせて。

だが、現実はシビアだった。


ウダツから絶交宣言された、あの日。
ウダツの話を聞いて、なんて僕はこんなにも情けなく小さな人間なんだと思った。…滑稽過ぎて恥ずかしい。今から自分自身を見つめ直して、冷静に真白と向き合いお互いの気持ちを確認しよう。

そこで、真白の言っている事と大地から貰った真白の不貞のデータを照らし合わせて考えよう。このデータの中身が真白じゃない可能性だってあるんだ。まずは、そこからだ。

それが、今の状況に繋がる訳だけど。

…ダメだ。

陽毬をこのまま返してしまったら、本当に僕と陽毬は赤の他人になってしまう気がしてならない。

僕が陽毬に対して感じる感情はよく分からないけど一緒にいたい。離れるなんて嫌だって思うんだ。

離しちゃ絶対にダメだと本能が訴え掛けてくる。

「………ッッッ!!?」

今を逃したら、二度と無いんだと。

ドクン、ドクンドクンッ!!

「……陽毬ッ!!」

大樹は、全力で陽毬の名前を呼び陽毬のむちっとした腕を掴んだ。

「…えぇ〜〜!?何で、ございましょうか?もう、話す事なんてありませんぞ?」

今度は何だとばかりに、ウンザリした様子プラス冷たぁ〜い声で大樹に聞いてきた。

…正直、大樹自身もどうして陽毬を引き止めてしまったか自身でもよく分からない。分からないけど…

「…陽毬を離してはいけないと思った。」

これが、今の大樹の本音。それ以外、よく分からない。

…は?なに、言ってんのコイツ。頭、沸いてんのか?

と、何だかんだ半年の付き合いのある大樹は、陽毬の冷たい視線に、何となく陽毬の思っている事が想像できてしまい…グサリと傷付いたし、これ以上嫌われたくなくて焦った。本当に焦って、出た言葉がこれだ。

「……あ、えっと…烏滸がましいのは分かっているけど、僕と友達になってくれないかな?」

あんな酷い事をしていて、しかも自分を好きだと言った女性に対して言う言葉ではないのは分かってるけど…これしか思い浮かばない。

「…いいですよ。」

「……え?」

拍子抜けするように、アッサリと承諾する陽毬。呆気に取られている大樹に

「別に、結ちゃんやフジちゃん達と同様な友達ならいいって言ってますぞ。これから、お友達でよろしくお願いします。」

「…え?…あ、こちらこそ、よろしくね。」


ぺこりと頭を下げて、陽毬は大樹を置いてさっさと会場へ戻って行ってしまった。

…友達なら一緒に会場に戻っても良くない?と、思った大樹だったが、これで陽毬との繋がりが切れなかった事に対して良かった…と安堵するのだった。


-----一方、ショウ達は-----


「…あ、陽毬ちゃんからメールきてるんだけど。[ムカつくし悔しぃぃ〜〜から、自分の口からはどうしても言えそうにないので代弁よろしくでござる!
この度、拙者陽毬は大樹様と色々ありお友達になったでござる。]って、きてるんだけど…」

ショウが、陽毬から受け取ったメールを代弁すると

「“もう、大樹様とは関わり合いたくない。顔も見たくない。声も聞きたくない。名前すら聞きたくもない。”って、陽毬ちゃんは大樹様を毛嫌いして怒りまくってたのに、何がどうなって友達になる事になったんだ?」

結が不思議そうに首を捻っている。

「よく分からないけど、何か色々とお互いに事情があるのかもしれないわ。…けど、何か拗れてる予感がするわ。」

フジは、う〜んと考えながら自分の考えを絞り出していた。

「…大樹とも付き合いは長いんだけどさ。
多分、大樹は“憧れや理想”に恋してたんだろって感じてるよ。周りの目をかなり気にするタイプだからさ。すっげー疲れる生き方してんなぁって見てた。」

と、ため息混じりに大地が言うと

「…あ〜、それは言えてるね。それでも、自分の心には限界があるからね。容量オーバーしちゃって今があるのかもね。
でも、やっぱり世間体をかなり気にするから、自分の頭の良さをフルに使ってバレないように隠れて憂さ晴らししちゃってたのかな?」

桔梗は何とも言えない表情で、今回の大樹の愚行の裏に隠された心理を考えていた。

「…けど、好きは好きでヤスよ。その好きがどんな種類の好きであれ、その気持ちの大きさで好きの種類の枠を超える事だってあるのを知っているでヤス。身近にそんな親友がいるでヤスから。
例えば、大地君や大樹君がショウちゃんに抱いている気持ちは決して恋や恋愛ではないでヤス。だけど、その気持ちに近いくらい愛おしくてたまらないのでやしょう?」

そう言われ、驚いたように大地はウダツを見ると

「…たまに、お前はもの凄く鋭い事言ってくるよな!ビックリだぜ。確かに、“俺達のショウ“に対する気持ちは生半可なもんじゃないぜ。
俺にとってのショウは、“永遠のヨチヨチ歩きの赤ちゃん”って、感覚に似てるなぁ。妹ってより、娘って感じ。」

と、まるで自分の子供でも見ているかのような父性愛溢れる笑みをショウに向けた。

大地の発言に「赤ちゃんじゃないし、私と大地君は同い年だよ!」と、ブスくれてるショウに大地はアハハッ!と、凄く楽しそうに「ごめん、ごめん!かわいいなぁ。もっと、いっぱい食べて大きくなれよ?」なんて、笑ってショウの頭を撫でていた。

いやいや、ショウがこれ以上大きくなったら体重三桁も夢じゃなくなるから!
と、結とフジは心の中で大いに突っ込んだし、桔梗と風雷はショウに対する大地の行動は父性愛ってより、一般家庭の世話焼きな親戚の叔父さんって感じがすると苦笑いしていた。

…よく、分からないショウ達のこの奇妙な関係。知りたいような、知ったらいけないような…そんな感覚になる結とフジだ。

そうこうしているうちに、大樹の兄の婚約者お披露目の式典が始まり会場は大いに盛り上がっていた。

「…うわぁ〜!大樹君のお兄さんも婚約者さんもとっても綺麗。キラキラ、王子様とお姫様みたい。」

と、ショウは目をキラキラさせて二人を大絶賛していた。

「ふふ。俺のショウの方がずっとずっと綺麗だよ。」

桔梗はすかさず、ショウの耳元でそんな口説き文句を言ってなんかイチャイチャし始めた。
黙って主役の二人を見せてあげたらいいのに、ショウが自分以外に強く関心を持つのが嫌なショウ限定の構って君の桔梗には…ヤレヤレである。

その内、般若の顔をした陽毬が怒りのまま、ドスドス床を踏み鳴らし現れてみんな凍りついた。

…な、何があったというのか…!?
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