美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「…何があったんだ?陽毬ちゃん?」
思わず、聞いた結に
「大樹様に、私とは二度と関わらないでほしいと言ったでござるよ!なのに、あの自己中は“友達になってほしい”なんて、お花畑な事を言ってきたのでござる!!
私が大樹様を好きだって伝えたにも関わらず!!だけど…クソッ!…身分、考えろよ。断れる訳ないでありますよ!」
怒りのまま、超早口で陽毬が話した内容にみんな微妙な顔をした。
大樹は自己中などではないはずだ。まだまだ若いという事で、何らの失敗や考えの至らなさはあるのは当然だろう。
だが、今回の件で深く反省している彼が軽はずみにそんな事を言うとは思えない。
だが、被害者である陽毬が“二度と関わり合いたくない”と、言ったのならそれを受け入れて深く詫びなければならない立場。
なのに、あろう事か“友達になろう”など、陽毬の気持ちなどまるで無視の浅はかで自分勝手な話だ。
本当の彼では考えられない行動だ。
彼は世間体をとても気にするので人の気持ちには敏感なはず。
詳しく話が聞きたいと、フジは別の場所に移動して話を聞きましょう!と、意気込み、フジの熱意にちょっと圧倒されつつ、みんながフジと共に人目のつかない場所へ移動しようという話になった時だった。
「…オイラ、ちょっと用事があるので、ここで失礼するでヤス。」
と、まさかのウダツの離脱発言に、フジはショックを隠しきれない顔をしていた。
…用事があるなら仕方ないけど、ずっと一緒だと思っていたのでガッカリもいいところである。
せっかく、ウダツに褒められたくてウダツが好みそうなシンプルな装いを選びに選んで気合いを入れてきたというのに。お化粧だって、本当にこんなにシンプルで大丈夫かと不安になるくらいの薄化粧で勝負してきたのに!
今回のフジのコンセプトは”ナチュラル、清楚系”である。
…こんなに気合い入れてきたのに、ガッカリもいいところだとションボリするフジに
「オイラの用事が終わり次第、またみんなと合流してもいいでヤスか?」
と、ウダツが聞いてきたので
「もちろんよ!ウダツさんが居ないだけで、とてもさみしいもの。」
フジは、さっきまでのどんよりした雰囲気はパーンとどこかに吹っ飛び、今度は全身からお花がたくさん飛び散ったような嬉しいを全面に出したような笑顔で、いつでも大歓迎よ!と、ご機嫌になっていた。
そんな姿にウダツは驚いてポカーンとしている。
だって、自分の事でこんなに一喜一憂してくれる人なんて初めてだったから。
ウダツの事を思って、こんなにも感情を露わにして落ち込んだり喜んだりしてくれる…初めての事だらけででフリーズしてしまったが。
みんなと離れ歩き始めると徐々に冷静さを取り戻した時、フジの気持ちがドンドン伝わってきてウダツは、これまで感じた事のないフワフワ浮つくような嬉しくてたまらないドキドキが止まらなくなっていた。
こんなにも自分を必要としてくれる人がいるなんてと。彼女といると、今まで感じられなかった自分の存在意義があるのだと大丈夫と思わせてくれる。
…ドクン、ドクンドクン!
…自分はなんて、心変わりの早い人間なんだろう…あんなにも真白さんが好きだったのに、今はフジさんに強く心が惹かれている。
…この気持ちが、どんな形に変わっていくのかは分からないけど。
と、ウダツは考えながら中庭のベンチに座っている人物の横へと座った。
「今日は、雲一つない綺麗な星空でヤスね。
前回は、白い月は浮かぶものの曇天の空で生憎の天気でやしたから。」
すると、ベンチに座りずっと空を眺めていた大樹が、自分の所にウダツが来てくれた事に少し驚きつつも
…やっぱり、ウダツだな。
と、少々お節介が過ぎるウダツに苦笑いすると共に、一緒にいてくれるだけで心強くとても嬉しく感じた。
「…うん。僕も今日は凄く綺麗な空だなって、ずっと星空を眺めてたよ。」
たくさんたくさん泣いたのだろう、大樹の目と目の周りは真っ赤になっていて鼻の頭も赤い。
きっと、色々…思い詰め自分を責め続けていたのだろう。
本来の大樹は、誠実で責任感の強い男なのだ。そんな彼を狂わせてしまった原因は真白だけでなく自分にもあるとウダツは考えている。
だけど、言ってしまえば自分も大樹も、まだ、中学生なのだ。
起きてしまった事は、もうどうしようもない。だけど、その失敗を糧にそれにどう向き合い、自分の信じる道へ真っ直ぐに歩むかだとウダツは考える。
「自分達は、取り返しのつかない大きな間違いを起こしてしまったでヤス。ただ、これからでヤスよ。この先、自分が堂々と胸を張って生きる努力をしなければならない。」
と、力強い意志を表示してきた。
夜空を強い眼差しで見上げているウダツを見て
「…ウダツは、凄いね。とても、強いって思うよ。僕には、ウダツのような心の強さはない。今回の事だって、僕の心の弱さが招いてしまった事だから…。だから、いつでも強くてめげないウダツの様にはなれないよ。」
自傷気味に笑い、弱音を吐く大樹に
「…オイラも全然、強くなんてない。本当は、小さい時から傷ついたり何かあっても、それをグッと我慢して人前ではずっと笑ってた。
だけど、家に帰ると大泣きでヤス。悔しくて情けなくて、泣いて泣いて泣き疲れて寝てしまう事もザラだった。」
と、ウダツは恥ずかしそうに笑って見せた。
ウダツの告白に、大樹は驚きを隠せなかった。誰よりも強靭な心を持っているウダツだと思っていたから。
だけど、蓋を開ければ自分達と同じような心が存在していて、それでも周りを思い強くあり続けようとするウダツの気持ちをはじめて知った。
そんなウダツの事なんて考えず、大樹はウダツは強靭なハートの持ち主だから。どんな事があったって、優しく包み込む包容力があり何をしても許してくれる寛大な心の持ち主だと思っていた。
「…痩せ我慢でヤス。みんなに笑顔でいてほしいから、いっぱいいっぱい我慢して我慢して耐えれば、きっとみんなもオイラを見てくれるはずだと信じて。
だけど、今回の事で我慢や耐えるだけでは何も伝わらないと知ったでヤス。
どんな醜態を晒してでも、本音でぶつかり合う必要性もあるんだと学んだ。」
そう話す、ウダツに
少し前までは、ウダツの事を無意識に何処か馬鹿にして見下していたんだと思う。
だから、ウダツの事を軽んじて深く考えた事もなかったし、ウダツの気持ちも知ろうとは思わなかった。
だけど、今だからこそ言える。
そうでありたい、こうなりたいという意志を貫こうとするその姿勢こそが“強い”って、事なんだよ、ウダツ。
お前、本当にかっこいいよ。
大樹が、ウダツに憧れの眼差しを向けていると
「…聞きづらい事でヤスが、、、」
と、ウダツが少し重い雰囲気に変わり、真白関係かなと想定して心を備えて置いた。
「どうして、陽毬さんと関わろうとするでヤスか?
陽毬さんは、大樹君によって心がとても傷付けられた。陽毬さんの望みは、もう二度と大樹君と関わり合わない事。そんな彼女の気持ちを無視して、大樹君は“友達になろう”と、無神経な事をお願いしたんでヤス。
身分の違い過ぎる陽毬さんは、それを断れるはずがないのに、…どうして、大樹君は陽毬さんを苦しめる事ばかりするでヤスか?」
まさかの陽毬関係だった。まさか、陽毬の事を言ってくるなんて想像できなかった大樹は一瞬、頭の中がパニックになったが直ぐに整頓してウダツに答えた。
「…陽毬の事を思えば、そうするのが一番だと分かってる。本当は、陽毬の気持ちを受け入れて関わり合わないようにする覚悟だった。」
……?
…覚悟??
何か、おかしな事言ってる気がするのは自分だけかな?…んん?
と、首を傾げるウダツ。
だが、まだそこは聞かず大樹の話を聞く。
「そして、いざ陽毬から“もう二度と関わり合いたくない”と、いう類の言葉を聞いた時、俺の目の前は真っ黒になった。
そして、思った。本当にこれで陽毬とは赤の他人になるんだ。関わる事が無くなるって思ったら急に、もの凄い寂しさと不安に襲われて気がついたら陽毬の腕を掴んでた。」
悪い遊びの標的になっただけの人に、どうしてそんなに執着をするのかな?
騙しているうちに情が湧いてしまったでヤスかね?
…ん〜?だけど、腑に落ちない…
それなら、今までお付き合いしていた恋人達はどうなるのかな?情が湧いて離れがたいって理由なら、歴代の彼女さん達にだってそんな執着を見せてたはずでヤス。
陽毬さんの情報通りなら、大樹君の女性関係(美人に限る)は来るもの拒まず去るもの追わずでアッサリしたものだと聞きやしたが…。
むしろ、大樹君は女性に関しては気が多く飽き性な為に、頻繁に彼女が変わっているうえ全部自分から彼女達を振っている。
しかも、彼女がいるにも関わらず、その場限りの女性は数え切れないほどの女好き(美人に限る)。
そんな風に聞いたし、その情報は優秀な探偵さんがその証拠となる映像を幾つか入手しているので間違いないし、本人も認めているらしいから間違いないものらしいけど…
…どうも、なんだか今の大樹君は、そのどれにも当てはまらない気がするでヤス。
「…どうしても繋がりを消したくなくて、でも、なんて言葉を掛けたらいいか分からなくて…。慌てて、つい言葉に出てしまったのが“友達になろう”だったんだ。」
…う〜ん…
大樹君にとって陽毬さんは、よっぽど気の合う人だったんでヤスね。
きっと、騙して一緒にいる間に
いつの間にか、心の許せる数少ない友達のようになってしまっていた。
心許せる、安心できる相手なんて、一人でもいればとてもありがたい希少な存在。
そんな大切な存在はもう二度と現れないかもしれないと思ったら急にとてつもない不安に襲われて逃したくないと思った。
そんな感じでやしょうか?
…けど、いつの間にか大樹君の事を好きになってしまっていた陽毬さんの気持ちを考えれば複雑もいいところ。
なにせ、最初の出会いが出会いなだけに…。
その気持ちを知られたうえで“友達になろう”と言われるのは、相当なまでに心が辛いはず。
それもあって、関わりたくないって陽毬さんは強く思っていたはずなのに。
…上手くいかないものでヤスね。
と、何とも微妙な雰囲気になった所に
「…あ、そういえば、ウダツがエスコートしてきた美女。今まで見てきた美女達も目が霞むくらいの、とんでもない美女だったね。
桔梗や風雷と並んでも、遜色ないくらいの美女なんじゃないか?そんな美女をエスコートできるなんて、ウダツもなかなか隅におけないな。」
大樹が、何かを思い出したかのようにイタズラっぽくウダツに言ってきた。
「あの御令嬢の名前は?今まで、どの社交界でも見た事がなかったんだけど。」
とても興味あり気に、大樹はウダツに聞かれて
「あの御令嬢は、フジさんでヤスよ。」
なんて事ない風に答えてきた。それを聞いて
「………………ん?」
大樹は、何を言ってるのか分からないと首を傾げている。その反応にウダツは、少し苦笑いしながら
「今日、オイラがエスコートさせてもたった御令嬢は常盤 フジ嬢で、ヤスよ。」
と、次は分かりやすいように、苗字付きで丁寧に説明した。すると
「……は?…あの気品溢れる女神を思わせるような美女が、あのフジ嬢!?…嘘だよね?
あの美女がフジ嬢って言うなら…外見から中身まで。もう、何もかもが別人レベルだよ!
なんで、いきなりあんな風に変わっちゃったの!?ビックリし過ぎて、パニック起こしそうだよ。」
大樹はフジの変わりように本当に驚いた様子で、どうしてあんなに変わったのか知りたがっていた。
「…最近色々あって、フジさんは今までの自分の行いを振り返る機会があって、それをとても恥じたみたいでヤス。自分は、とんでもない勘違い行動をしていたと。
そこで、フジさんは自分自身を見直し改善しようと頑張ってる最中だと言ってやした。」
「…へえ。フジ嬢にとって何か大きなキッカケがあったんだろうね。だけど、自分の嫌な所から目を背けず向き合い改善する実行力は大したもんだよ。やろうと思っても出来る事じゃない。」
と、大樹がとても感心してフジを褒めるものだから、何だか自分が褒められたような気持ちになってウダツはとても嬉しい気持ちになった。
「…僕も、フジ嬢を見習って頑張らないとね。僕も変わらなきゃ。」
大樹は、上を見上げグッと手に力を入れた。
「…あとさ。真白の事なんだけど、今日、別れたよ。」
と、打ち明けた大樹に「…え?」と、驚きの表情で大樹の顔を見るウダツ。
「…本当はさ。ウダツには、真白との思い出を綺麗なままで終わらせてあげた方がいい。
って、思ってたんだけど今回、俺がウダツに相談したい話が真白。
それに、下手をしたらウダツがまた真白にいいように使われる可能性が大いにあるからそれを危惧してって事もあってね。ウダツにとって残酷な話になるけど…大丈夫?」
そう言って、真剣な眼差しでジッと見てくる大樹に何かかしら感じ取ったウダツは覚悟を決めうなづいた。
そして、真白の話を目を逸らす事なく静かに聞いていた、ウダツ。
「…それは、かなり衝撃的な話でヤスね。
それに、真白さんがオイラを都合良く使ってる事は分かってたでヤス。
だけど、大樹君も真白さんも嬉しそうなら、それでいいかって思って無理矢理自分を納得させてた自分の不甲斐なさにも情けなさを感じるでヤス。
それにしても……オイラに対しての真白さんの気持ちを知れたのは良かったでヤスが……流石にかなりキツイでヤスね。」
と、苦笑いしたウダツ。
かなり、しんどい。オイラの事、何だと思ってるでヤスかーーーー!!?と、泣き叫びたいくらい辛い。
その時、ウダツの脳裏に、ウダツの為に感情剥き出しに怒って泣いて暴れ回るフジの姿が浮かんで…好きだなぁ…と、ついウッカリ思ってしまった。
フジの事を考えてたら、思っていたより冷静でいられた自分がいた。とても、ショックを受け傷ついたし辛い苦しい気持ちはあるけど。
「教えてくれてありがとうでヤス。知れて良かった。これで、真白さんの事はスッパリ忘れて前を向いて歩けるでヤス。
そもそも、オイラと真白さんが恋人だった事なんてなかった事になったでヤスからね。その時の真白さんの喜びようが、今も頭から離れないでヤスよ。そんなに、オイラと一緒にいる事が嫌だったのかって。」
そう言ってくるウダツに、大樹はズキリと胸が痛んだ。その時、真白と一緒になって喜んだのは自分も一緒だ。
…最低だ…
「…オイラは、幼い頃からみんなに邪険にされてた。誰にも…両親でさえ見向きもしなかった。話しかけてさえもくれなかった。
そんな時、唯一オイラを大切に育ててくれた兄が、気晴らしにと海外旅行に連れて来てくれた。そこが、この国だった。そこで、初めて優しく人に話しかけられたでヤス。それが、真白さんだった。
それが衝撃で、とても嬉しくて真白さんはオイラにとって天使の様な人だと思った。そこで、真白さんに一目惚れしたオイラはこの国に長期留学を決めた。」
ウダツの話を聞いていて、何となくだがとても酷い状況下で育てられていたようだ。親にも見放されるって…一体、どんな生活していたのか気になる。大樹の頭に“虐待”の文字が浮かびゾッとする。
そんな状態の時に、例え真白でなくても、誰かに普通に話しかけられただけで、ウダツにとってその人は“天使”に思えただろう。
何の意図は無くとも、それは一種の刷り込みに近いものがあったに違いない。冷遇され続けたウダツは真白に一筋の光に見たにかもしれない。
そして、悪い所は見ないように目や耳を塞ぎ、真白のいい所ばかり探して今まで精神を保ってきたのだろう。
だから今、ウダツの中の真白のイメージはガラガラと音を立てて崩れたに違いない。大樹だってそうだったから。
「…結局、真白の本質や中身は見抜けず、ハリボテな姿に騙された俺らって感じかな?」
なんて、苦く笑う大樹に
「…けど、オイラは真白さんに感謝してるでヤスよ。本音はどうかなんて分からないけど、あの旅行の時、例え紛い物な気持ちであっても、人の心の温かさに触れ人を信じようと思えたのは本物だったから。
それがなかったら、オイラは大樹君や大地君、フジさん達にも出会えてなかった。
そのキッカケをくれたのは、理由は何であれ間違いなく真白さんでヤス。裏切られていた事はとても悲しいでヤスが。それでも、とても感謝してる。」
と、力強く夜空を見上げていた。
…マジで、カッコいいな。男の僕も惚れ惚れしてしまいそうになるよ。
大樹は、ウダツの気持ちにグッと胸に込み上げるものがあった。
「…まあ、代償は大き過ぎたけど、真白の事は色々と勉強になったよ。人の事言えないのは分かってるけど、女性不信になりそう。
けど、変わろうと努力するフジ嬢を見たら、人間捨てたもんじゃないなって思えたし。俺には、可愛いショウもいるからね。」
と、大樹の奥底にある“愛”を不思議に思う、ウダツ。
「大樹君の話には、よくショウちゃんの話が出てくるでヤスね?いつも、不思議に思っていたでヤスが、大樹君や大地君のショウちゃんへ向ける気持ちが何よりも強い気がするけど気のせいでやしょうか?」
そう、首を傾げるウダツに
「ウダツが感じてる事はあながち間違えてないよ。まだ、言えない事だけど“僕達にとってショウは特別”。」
「…“僕達”?」
「そ。それ以上は教えられないけどね。」
と、人差し指を唇に当て、悪戯っぽく話す大樹はこれ以上自分とショウの関係性について言うつもりはなさそうだ。
「関係性といえば、これからウダツは真白とはどう付き合っていくつもりなんだ?今まで通り“仲のいい幼なじみ”って、訳にもいかないだろ?」
大樹がウダツに聞くと
「…真白さんの本音を知ってしまった以上は、今まで通りはできないし。何より、真白さんはオイラの事を毛嫌いしてるから仲良くは無理でヤスね。
それに、いくらオイラだって都合良く使われるだけの道具にはなりたくないでヤスよ。…オイラだって、みんなと同じ人間でヤスから。
だから、必要最低限の挨拶以外は関わり合う事はないでヤスよ。」
複雑そうな笑みを浮かべ、ウダツは言った。
「…そっか。僕も、ウダツに似た感じかな?
僕の場合、百年の恋も冷めちゃってさ。今は、真白に触れる事も気持ち悪いし、声を聞いても誰かが真白の名前を出しただけでも不愉快になってしまうよ。
…真白に対して理想が高すぎたのか、色々と真実を知る度に冷めていって最終的に…真白が“汚物”にしか見えなくなっちゃったんだ。
…最低だろ?だから、気持ち悪くてさっさと別れちゃったよ。」
と、本音を語る大樹に、ウダツも複雑な気持ちになる。
きっと、自分達は都合の良い理想を真白に夢見ていて、本当の真白を知ろうとはしなかった。
真白だってそう。大樹の事もウダツの事もきちんと知ろうとせず、外面とスペックだけを見ていた。
だから、きっと
今回の事は、みんな悪かった。
これは大き過ぎる大失敗であり、次へ繋がる勉強にもなったと大樹とウダツは長い間、あーでもない、こーでもないと、互いの意見を出し合いながらずっと語っていた。
「…あ〜、でも。陽毬に、ボロクソに言われた時は本気で泣いちゃったよ。陽毬、容赦ないんだもん。特に、真白の愚行が許せなくて別れたって話したら
“お互い似た者同士でお似合いなのに、どうして別れたのか意味不明”
みたいな事、言われた事は物凄く傷付いたしショックも受けたけど、その通りだから何にも言えなかったよ。」
と、苦笑いしながら打ち明けてきた大樹に、ウダツは何も声を掛けてあげる事はできなかった。
確かに大樹にとっては、陽毬の言葉は言い過ぎにも程があるんじゃないかと思っているだろうが残念ながら、陽毬にとっては言っても言っても言い足りない。
暴言を吐きながら暴力を振るって病院送りにしたって足りない程に大樹を恨み、悲しみ苦しみ続けている可能性がある。
それを軽はずみに、“それは、さすがに陽毬さんは言い過ぎだよね”なんて、口が裂けたって言えない。
それだけの傷を負わせたのだ、大樹は。
友達として、それらの罪を背負い向き合いながら、自分の進むべき道へ向かい幸せを掴む事に対して全力で支えようとは思うが。
今、大樹が話している内容については、ウダツが口を挟むべきではない。ただ、側で肯定も否定もせず、聞いてあげる事しかできないのだ。
「…けど、陽毬からの“飽き性の腰振りモンスター”って言葉は、本当にきつかったなぁ〜。
本気で、トラウマになりそうだし…思い出しただけで、今も泣きそう。」
俯き泣きそうになる大樹の背中を優しくポンポンと叩き無言で慰めていた。
「どんな時も、前を向くでヤス。辛かったら上を見上げる。」
と、ウダツはそれ以上何を言うわけでもなく、大樹の背中にグッと手を置き上を見上げていた。
その力強い眼差しを見て、グッと押された背中は後押しされ力をもらった気がした。
「ああ。」
大樹もキラキラ輝く夜空を見上げた。
これからだ!そう、心に誓う大樹だった。
思わず、聞いた結に
「大樹様に、私とは二度と関わらないでほしいと言ったでござるよ!なのに、あの自己中は“友達になってほしい”なんて、お花畑な事を言ってきたのでござる!!
私が大樹様を好きだって伝えたにも関わらず!!だけど…クソッ!…身分、考えろよ。断れる訳ないでありますよ!」
怒りのまま、超早口で陽毬が話した内容にみんな微妙な顔をした。
大樹は自己中などではないはずだ。まだまだ若いという事で、何らの失敗や考えの至らなさはあるのは当然だろう。
だが、今回の件で深く反省している彼が軽はずみにそんな事を言うとは思えない。
だが、被害者である陽毬が“二度と関わり合いたくない”と、言ったのならそれを受け入れて深く詫びなければならない立場。
なのに、あろう事か“友達になろう”など、陽毬の気持ちなどまるで無視の浅はかで自分勝手な話だ。
本当の彼では考えられない行動だ。
彼は世間体をとても気にするので人の気持ちには敏感なはず。
詳しく話が聞きたいと、フジは別の場所に移動して話を聞きましょう!と、意気込み、フジの熱意にちょっと圧倒されつつ、みんながフジと共に人目のつかない場所へ移動しようという話になった時だった。
「…オイラ、ちょっと用事があるので、ここで失礼するでヤス。」
と、まさかのウダツの離脱発言に、フジはショックを隠しきれない顔をしていた。
…用事があるなら仕方ないけど、ずっと一緒だと思っていたのでガッカリもいいところである。
せっかく、ウダツに褒められたくてウダツが好みそうなシンプルな装いを選びに選んで気合いを入れてきたというのに。お化粧だって、本当にこんなにシンプルで大丈夫かと不安になるくらいの薄化粧で勝負してきたのに!
今回のフジのコンセプトは”ナチュラル、清楚系”である。
…こんなに気合い入れてきたのに、ガッカリもいいところだとションボリするフジに
「オイラの用事が終わり次第、またみんなと合流してもいいでヤスか?」
と、ウダツが聞いてきたので
「もちろんよ!ウダツさんが居ないだけで、とてもさみしいもの。」
フジは、さっきまでのどんよりした雰囲気はパーンとどこかに吹っ飛び、今度は全身からお花がたくさん飛び散ったような嬉しいを全面に出したような笑顔で、いつでも大歓迎よ!と、ご機嫌になっていた。
そんな姿にウダツは驚いてポカーンとしている。
だって、自分の事でこんなに一喜一憂してくれる人なんて初めてだったから。
ウダツの事を思って、こんなにも感情を露わにして落ち込んだり喜んだりしてくれる…初めての事だらけででフリーズしてしまったが。
みんなと離れ歩き始めると徐々に冷静さを取り戻した時、フジの気持ちがドンドン伝わってきてウダツは、これまで感じた事のないフワフワ浮つくような嬉しくてたまらないドキドキが止まらなくなっていた。
こんなにも自分を必要としてくれる人がいるなんてと。彼女といると、今まで感じられなかった自分の存在意義があるのだと大丈夫と思わせてくれる。
…ドクン、ドクンドクン!
…自分はなんて、心変わりの早い人間なんだろう…あんなにも真白さんが好きだったのに、今はフジさんに強く心が惹かれている。
…この気持ちが、どんな形に変わっていくのかは分からないけど。
と、ウダツは考えながら中庭のベンチに座っている人物の横へと座った。
「今日は、雲一つない綺麗な星空でヤスね。
前回は、白い月は浮かぶものの曇天の空で生憎の天気でやしたから。」
すると、ベンチに座りずっと空を眺めていた大樹が、自分の所にウダツが来てくれた事に少し驚きつつも
…やっぱり、ウダツだな。
と、少々お節介が過ぎるウダツに苦笑いすると共に、一緒にいてくれるだけで心強くとても嬉しく感じた。
「…うん。僕も今日は凄く綺麗な空だなって、ずっと星空を眺めてたよ。」
たくさんたくさん泣いたのだろう、大樹の目と目の周りは真っ赤になっていて鼻の頭も赤い。
きっと、色々…思い詰め自分を責め続けていたのだろう。
本来の大樹は、誠実で責任感の強い男なのだ。そんな彼を狂わせてしまった原因は真白だけでなく自分にもあるとウダツは考えている。
だけど、言ってしまえば自分も大樹も、まだ、中学生なのだ。
起きてしまった事は、もうどうしようもない。だけど、その失敗を糧にそれにどう向き合い、自分の信じる道へ真っ直ぐに歩むかだとウダツは考える。
「自分達は、取り返しのつかない大きな間違いを起こしてしまったでヤス。ただ、これからでヤスよ。この先、自分が堂々と胸を張って生きる努力をしなければならない。」
と、力強い意志を表示してきた。
夜空を強い眼差しで見上げているウダツを見て
「…ウダツは、凄いね。とても、強いって思うよ。僕には、ウダツのような心の強さはない。今回の事だって、僕の心の弱さが招いてしまった事だから…。だから、いつでも強くてめげないウダツの様にはなれないよ。」
自傷気味に笑い、弱音を吐く大樹に
「…オイラも全然、強くなんてない。本当は、小さい時から傷ついたり何かあっても、それをグッと我慢して人前ではずっと笑ってた。
だけど、家に帰ると大泣きでヤス。悔しくて情けなくて、泣いて泣いて泣き疲れて寝てしまう事もザラだった。」
と、ウダツは恥ずかしそうに笑って見せた。
ウダツの告白に、大樹は驚きを隠せなかった。誰よりも強靭な心を持っているウダツだと思っていたから。
だけど、蓋を開ければ自分達と同じような心が存在していて、それでも周りを思い強くあり続けようとするウダツの気持ちをはじめて知った。
そんなウダツの事なんて考えず、大樹はウダツは強靭なハートの持ち主だから。どんな事があったって、優しく包み込む包容力があり何をしても許してくれる寛大な心の持ち主だと思っていた。
「…痩せ我慢でヤス。みんなに笑顔でいてほしいから、いっぱいいっぱい我慢して我慢して耐えれば、きっとみんなもオイラを見てくれるはずだと信じて。
だけど、今回の事で我慢や耐えるだけでは何も伝わらないと知ったでヤス。
どんな醜態を晒してでも、本音でぶつかり合う必要性もあるんだと学んだ。」
そう話す、ウダツに
少し前までは、ウダツの事を無意識に何処か馬鹿にして見下していたんだと思う。
だから、ウダツの事を軽んじて深く考えた事もなかったし、ウダツの気持ちも知ろうとは思わなかった。
だけど、今だからこそ言える。
そうでありたい、こうなりたいという意志を貫こうとするその姿勢こそが“強い”って、事なんだよ、ウダツ。
お前、本当にかっこいいよ。
大樹が、ウダツに憧れの眼差しを向けていると
「…聞きづらい事でヤスが、、、」
と、ウダツが少し重い雰囲気に変わり、真白関係かなと想定して心を備えて置いた。
「どうして、陽毬さんと関わろうとするでヤスか?
陽毬さんは、大樹君によって心がとても傷付けられた。陽毬さんの望みは、もう二度と大樹君と関わり合わない事。そんな彼女の気持ちを無視して、大樹君は“友達になろう”と、無神経な事をお願いしたんでヤス。
身分の違い過ぎる陽毬さんは、それを断れるはずがないのに、…どうして、大樹君は陽毬さんを苦しめる事ばかりするでヤスか?」
まさかの陽毬関係だった。まさか、陽毬の事を言ってくるなんて想像できなかった大樹は一瞬、頭の中がパニックになったが直ぐに整頓してウダツに答えた。
「…陽毬の事を思えば、そうするのが一番だと分かってる。本当は、陽毬の気持ちを受け入れて関わり合わないようにする覚悟だった。」
……?
…覚悟??
何か、おかしな事言ってる気がするのは自分だけかな?…んん?
と、首を傾げるウダツ。
だが、まだそこは聞かず大樹の話を聞く。
「そして、いざ陽毬から“もう二度と関わり合いたくない”と、いう類の言葉を聞いた時、俺の目の前は真っ黒になった。
そして、思った。本当にこれで陽毬とは赤の他人になるんだ。関わる事が無くなるって思ったら急に、もの凄い寂しさと不安に襲われて気がついたら陽毬の腕を掴んでた。」
悪い遊びの標的になっただけの人に、どうしてそんなに執着をするのかな?
騙しているうちに情が湧いてしまったでヤスかね?
…ん〜?だけど、腑に落ちない…
それなら、今までお付き合いしていた恋人達はどうなるのかな?情が湧いて離れがたいって理由なら、歴代の彼女さん達にだってそんな執着を見せてたはずでヤス。
陽毬さんの情報通りなら、大樹君の女性関係(美人に限る)は来るもの拒まず去るもの追わずでアッサリしたものだと聞きやしたが…。
むしろ、大樹君は女性に関しては気が多く飽き性な為に、頻繁に彼女が変わっているうえ全部自分から彼女達を振っている。
しかも、彼女がいるにも関わらず、その場限りの女性は数え切れないほどの女好き(美人に限る)。
そんな風に聞いたし、その情報は優秀な探偵さんがその証拠となる映像を幾つか入手しているので間違いないし、本人も認めているらしいから間違いないものらしいけど…
…どうも、なんだか今の大樹君は、そのどれにも当てはまらない気がするでヤス。
「…どうしても繋がりを消したくなくて、でも、なんて言葉を掛けたらいいか分からなくて…。慌てて、つい言葉に出てしまったのが“友達になろう”だったんだ。」
…う〜ん…
大樹君にとって陽毬さんは、よっぽど気の合う人だったんでヤスね。
きっと、騙して一緒にいる間に
いつの間にか、心の許せる数少ない友達のようになってしまっていた。
心許せる、安心できる相手なんて、一人でもいればとてもありがたい希少な存在。
そんな大切な存在はもう二度と現れないかもしれないと思ったら急にとてつもない不安に襲われて逃したくないと思った。
そんな感じでやしょうか?
…けど、いつの間にか大樹君の事を好きになってしまっていた陽毬さんの気持ちを考えれば複雑もいいところ。
なにせ、最初の出会いが出会いなだけに…。
その気持ちを知られたうえで“友達になろう”と言われるのは、相当なまでに心が辛いはず。
それもあって、関わりたくないって陽毬さんは強く思っていたはずなのに。
…上手くいかないものでヤスね。
と、何とも微妙な雰囲気になった所に
「…あ、そういえば、ウダツがエスコートしてきた美女。今まで見てきた美女達も目が霞むくらいの、とんでもない美女だったね。
桔梗や風雷と並んでも、遜色ないくらいの美女なんじゃないか?そんな美女をエスコートできるなんて、ウダツもなかなか隅におけないな。」
大樹が、何かを思い出したかのようにイタズラっぽくウダツに言ってきた。
「あの御令嬢の名前は?今まで、どの社交界でも見た事がなかったんだけど。」
とても興味あり気に、大樹はウダツに聞かれて
「あの御令嬢は、フジさんでヤスよ。」
なんて事ない風に答えてきた。それを聞いて
「………………ん?」
大樹は、何を言ってるのか分からないと首を傾げている。その反応にウダツは、少し苦笑いしながら
「今日、オイラがエスコートさせてもたった御令嬢は常盤 フジ嬢で、ヤスよ。」
と、次は分かりやすいように、苗字付きで丁寧に説明した。すると
「……は?…あの気品溢れる女神を思わせるような美女が、あのフジ嬢!?…嘘だよね?
あの美女がフジ嬢って言うなら…外見から中身まで。もう、何もかもが別人レベルだよ!
なんで、いきなりあんな風に変わっちゃったの!?ビックリし過ぎて、パニック起こしそうだよ。」
大樹はフジの変わりように本当に驚いた様子で、どうしてあんなに変わったのか知りたがっていた。
「…最近色々あって、フジさんは今までの自分の行いを振り返る機会があって、それをとても恥じたみたいでヤス。自分は、とんでもない勘違い行動をしていたと。
そこで、フジさんは自分自身を見直し改善しようと頑張ってる最中だと言ってやした。」
「…へえ。フジ嬢にとって何か大きなキッカケがあったんだろうね。だけど、自分の嫌な所から目を背けず向き合い改善する実行力は大したもんだよ。やろうと思っても出来る事じゃない。」
と、大樹がとても感心してフジを褒めるものだから、何だか自分が褒められたような気持ちになってウダツはとても嬉しい気持ちになった。
「…僕も、フジ嬢を見習って頑張らないとね。僕も変わらなきゃ。」
大樹は、上を見上げグッと手に力を入れた。
「…あとさ。真白の事なんだけど、今日、別れたよ。」
と、打ち明けた大樹に「…え?」と、驚きの表情で大樹の顔を見るウダツ。
「…本当はさ。ウダツには、真白との思い出を綺麗なままで終わらせてあげた方がいい。
って、思ってたんだけど今回、俺がウダツに相談したい話が真白。
それに、下手をしたらウダツがまた真白にいいように使われる可能性が大いにあるからそれを危惧してって事もあってね。ウダツにとって残酷な話になるけど…大丈夫?」
そう言って、真剣な眼差しでジッと見てくる大樹に何かかしら感じ取ったウダツは覚悟を決めうなづいた。
そして、真白の話を目を逸らす事なく静かに聞いていた、ウダツ。
「…それは、かなり衝撃的な話でヤスね。
それに、真白さんがオイラを都合良く使ってる事は分かってたでヤス。
だけど、大樹君も真白さんも嬉しそうなら、それでいいかって思って無理矢理自分を納得させてた自分の不甲斐なさにも情けなさを感じるでヤス。
それにしても……オイラに対しての真白さんの気持ちを知れたのは良かったでヤスが……流石にかなりキツイでヤスね。」
と、苦笑いしたウダツ。
かなり、しんどい。オイラの事、何だと思ってるでヤスかーーーー!!?と、泣き叫びたいくらい辛い。
その時、ウダツの脳裏に、ウダツの為に感情剥き出しに怒って泣いて暴れ回るフジの姿が浮かんで…好きだなぁ…と、ついウッカリ思ってしまった。
フジの事を考えてたら、思っていたより冷静でいられた自分がいた。とても、ショックを受け傷ついたし辛い苦しい気持ちはあるけど。
「教えてくれてありがとうでヤス。知れて良かった。これで、真白さんの事はスッパリ忘れて前を向いて歩けるでヤス。
そもそも、オイラと真白さんが恋人だった事なんてなかった事になったでヤスからね。その時の真白さんの喜びようが、今も頭から離れないでヤスよ。そんなに、オイラと一緒にいる事が嫌だったのかって。」
そう言ってくるウダツに、大樹はズキリと胸が痛んだ。その時、真白と一緒になって喜んだのは自分も一緒だ。
…最低だ…
「…オイラは、幼い頃からみんなに邪険にされてた。誰にも…両親でさえ見向きもしなかった。話しかけてさえもくれなかった。
そんな時、唯一オイラを大切に育ててくれた兄が、気晴らしにと海外旅行に連れて来てくれた。そこが、この国だった。そこで、初めて優しく人に話しかけられたでヤス。それが、真白さんだった。
それが衝撃で、とても嬉しくて真白さんはオイラにとって天使の様な人だと思った。そこで、真白さんに一目惚れしたオイラはこの国に長期留学を決めた。」
ウダツの話を聞いていて、何となくだがとても酷い状況下で育てられていたようだ。親にも見放されるって…一体、どんな生活していたのか気になる。大樹の頭に“虐待”の文字が浮かびゾッとする。
そんな状態の時に、例え真白でなくても、誰かに普通に話しかけられただけで、ウダツにとってその人は“天使”に思えただろう。
何の意図は無くとも、それは一種の刷り込みに近いものがあったに違いない。冷遇され続けたウダツは真白に一筋の光に見たにかもしれない。
そして、悪い所は見ないように目や耳を塞ぎ、真白のいい所ばかり探して今まで精神を保ってきたのだろう。
だから今、ウダツの中の真白のイメージはガラガラと音を立てて崩れたに違いない。大樹だってそうだったから。
「…結局、真白の本質や中身は見抜けず、ハリボテな姿に騙された俺らって感じかな?」
なんて、苦く笑う大樹に
「…けど、オイラは真白さんに感謝してるでヤスよ。本音はどうかなんて分からないけど、あの旅行の時、例え紛い物な気持ちであっても、人の心の温かさに触れ人を信じようと思えたのは本物だったから。
それがなかったら、オイラは大樹君や大地君、フジさん達にも出会えてなかった。
そのキッカケをくれたのは、理由は何であれ間違いなく真白さんでヤス。裏切られていた事はとても悲しいでヤスが。それでも、とても感謝してる。」
と、力強く夜空を見上げていた。
…マジで、カッコいいな。男の僕も惚れ惚れしてしまいそうになるよ。
大樹は、ウダツの気持ちにグッと胸に込み上げるものがあった。
「…まあ、代償は大き過ぎたけど、真白の事は色々と勉強になったよ。人の事言えないのは分かってるけど、女性不信になりそう。
けど、変わろうと努力するフジ嬢を見たら、人間捨てたもんじゃないなって思えたし。俺には、可愛いショウもいるからね。」
と、大樹の奥底にある“愛”を不思議に思う、ウダツ。
「大樹君の話には、よくショウちゃんの話が出てくるでヤスね?いつも、不思議に思っていたでヤスが、大樹君や大地君のショウちゃんへ向ける気持ちが何よりも強い気がするけど気のせいでやしょうか?」
そう、首を傾げるウダツに
「ウダツが感じてる事はあながち間違えてないよ。まだ、言えない事だけど“僕達にとってショウは特別”。」
「…“僕達”?」
「そ。それ以上は教えられないけどね。」
と、人差し指を唇に当て、悪戯っぽく話す大樹はこれ以上自分とショウの関係性について言うつもりはなさそうだ。
「関係性といえば、これからウダツは真白とはどう付き合っていくつもりなんだ?今まで通り“仲のいい幼なじみ”って、訳にもいかないだろ?」
大樹がウダツに聞くと
「…真白さんの本音を知ってしまった以上は、今まで通りはできないし。何より、真白さんはオイラの事を毛嫌いしてるから仲良くは無理でヤスね。
それに、いくらオイラだって都合良く使われるだけの道具にはなりたくないでヤスよ。…オイラだって、みんなと同じ人間でヤスから。
だから、必要最低限の挨拶以外は関わり合う事はないでヤスよ。」
複雑そうな笑みを浮かべ、ウダツは言った。
「…そっか。僕も、ウダツに似た感じかな?
僕の場合、百年の恋も冷めちゃってさ。今は、真白に触れる事も気持ち悪いし、声を聞いても誰かが真白の名前を出しただけでも不愉快になってしまうよ。
…真白に対して理想が高すぎたのか、色々と真実を知る度に冷めていって最終的に…真白が“汚物”にしか見えなくなっちゃったんだ。
…最低だろ?だから、気持ち悪くてさっさと別れちゃったよ。」
と、本音を語る大樹に、ウダツも複雑な気持ちになる。
きっと、自分達は都合の良い理想を真白に夢見ていて、本当の真白を知ろうとはしなかった。
真白だってそう。大樹の事もウダツの事もきちんと知ろうとせず、外面とスペックだけを見ていた。
だから、きっと
今回の事は、みんな悪かった。
これは大き過ぎる大失敗であり、次へ繋がる勉強にもなったと大樹とウダツは長い間、あーでもない、こーでもないと、互いの意見を出し合いながらずっと語っていた。
「…あ〜、でも。陽毬に、ボロクソに言われた時は本気で泣いちゃったよ。陽毬、容赦ないんだもん。特に、真白の愚行が許せなくて別れたって話したら
“お互い似た者同士でお似合いなのに、どうして別れたのか意味不明”
みたいな事、言われた事は物凄く傷付いたしショックも受けたけど、その通りだから何にも言えなかったよ。」
と、苦笑いしながら打ち明けてきた大樹に、ウダツは何も声を掛けてあげる事はできなかった。
確かに大樹にとっては、陽毬の言葉は言い過ぎにも程があるんじゃないかと思っているだろうが残念ながら、陽毬にとっては言っても言っても言い足りない。
暴言を吐きながら暴力を振るって病院送りにしたって足りない程に大樹を恨み、悲しみ苦しみ続けている可能性がある。
それを軽はずみに、“それは、さすがに陽毬さんは言い過ぎだよね”なんて、口が裂けたって言えない。
それだけの傷を負わせたのだ、大樹は。
友達として、それらの罪を背負い向き合いながら、自分の進むべき道へ向かい幸せを掴む事に対して全力で支えようとは思うが。
今、大樹が話している内容については、ウダツが口を挟むべきではない。ただ、側で肯定も否定もせず、聞いてあげる事しかできないのだ。
「…けど、陽毬からの“飽き性の腰振りモンスター”って言葉は、本当にきつかったなぁ〜。
本気で、トラウマになりそうだし…思い出しただけで、今も泣きそう。」
俯き泣きそうになる大樹の背中を優しくポンポンと叩き無言で慰めていた。
「どんな時も、前を向くでヤス。辛かったら上を見上げる。」
と、ウダツはそれ以上何を言うわけでもなく、大樹の背中にグッと手を置き上を見上げていた。
その力強い眼差しを見て、グッと押された背中は後押しされ力をもらった気がした。
「ああ。」
大樹もキラキラ輝く夜空を見上げた。
これからだ!そう、心に誓う大樹だった。