美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「……ううっ!いい話だわ。ウダツさん、カッコ良すぎるぅぅ〜〜〜!早く、私と結婚してぇぇぇ〜〜〜!!」


と、中庭の整えられた植え込みのバラの陰に隠れていたフジは、ウダツのカッコ良さに悶えてキャーキャー言っていた。

その口を結が抑え

「…確かに、ウダツさんは男前だな。あんな男性と結婚できたら幸せだろうなぁ。」

なんて呟くと、フジは白魚の様な美しい手には似合わない馬鹿力で、逞しい結の手をグイッと下げ

「ダメよ!結ちゃんには、九条 蓮ってクズな婚約者がいるでしょ!?ウダツさんは、ダメ!私が誰よりも一番ウダツさんの事、好きなんだからっ!!」

と、つい立ち上がり大声を出してしまった。


「……え!?」

「……嘘……」

そのせいで、興奮したフジの姿を見たウダツと大樹に、二人の様子を隠れて見ていた事がバレる事となってしまった。なので

バラの植え込みの裏に隠れてた、結やショウ達が申し訳無さそうにゾロゾロと出てきた。

それを見て、恥ずかしいとばかりに羞恥で頭を抱える大樹と、笑みを浮かべたまま固まってしまったウダツ。

「…一応はね、止めたんだけどさ。フジが“ウダツさんが虐められてるかしれない”って、暴走しちゃうし…ショウの好奇心もあって止められなかったよ。…ごめん。」

と、ウダツと大樹に、申し訳無さそうに謝る桔梗。その桔梗の後ろに隠れて、悪い事をして怒られる子供みたいな顔をしたショウが

「…大樹君、怒る?怒っちゃった?…ごめんね?」

なんて、しょんぼりして桔梗に頭を撫でられ、たまに額にキスをされながら“大丈夫だよ”なんて慰められている。

「…あ〜…、私は何となく着いて来ちゃったんだけど…何か、ごめんな?」

結もバッと頭を下げて謝り

「…みんなの暴走を止められなかった俺が悪い。申し訳なかった。」

風雷まで、頭を下げて謝るものだからウダツも大樹も許すしか選択肢はない。

それに、みんな二人を心配して様子を見に来てくれた事が何となく分かったから責めるに責められない。

そんな中、大樹は羞恥で頭を抱えながらも直ぐに立ち上がり、ショウの前まで来ると地面に膝をつき目線を合わせ

「…本当なら、ショウには何を知られても疚しくない僕でなければならない。
なのに、今回僕は人道から外れた倫理観も何もない醜くて汚い事に手を汚してしまった。ショウに顔向けできないくらいに。
…けど、今回取り返しのつかない愚かな事をして、色んな人達の手助けもあって自分の愚かさに気づけた。」

と、ジッとショウの顔を見上げ話してきた。それを、ショウはジッと見つめ返して大樹を見る。

「こんな自分だからこそ、愚かな自分だからこそ出来る事もあるんじゃないかって考えてるよ。…まだ、その答えは見つかってないけど。だけど、これだけは言える。もう二度と、こんな愚かな事はしない。ショウに何を知られても、恥ずかしくない自分であり続ける事を誓う。」

そう言って、ショウの靴に額を付けた。

「…大樹君はね。どんなに小さな悩みでも、信頼できる人にたくさんお話ししたり相談もしなきゃダメだよ?
自分一人で何とかできるとか、自分が我慢しなきゃとか考えちゃダメ。まず、誰かに相談して?」

ショウは桔梗が慌てるのも気にせず、ドレスなんてお構いなしに地面にしゃがみ込み大樹の両頬を挟むと上を向かせて、ちょっとプンプンしながらそう言った。

そんなショウの言葉と行動に、大樹は気が抜けふと笑みが溢れた。それを見たショウがにっこり笑うものだから

「仰せのままに。」

心がふわっと和らぎホッとしてショウを見た。

…だが、一人何も言わなかった陽毬。
そんな彼女をチラリと見るが、陽毬は俯いてばかりでどんな表情をしているのか窺い知れなかった。…それだけは残念だと思う。

けど、ショウが笑ってくれた。それだけで、とても温かく気分が高揚した。

「…ショウ、僕のせいでドレスが汚れちゃったよ。ごめんね?」

大樹は、桔梗と共に優しくショウを立ち上がらせると二人で、ショウについたホコリや草をほろい綺麗にしていた。

「こんなの全然、平気なのに。大袈裟だよ、二人とも。それに、大樹君のせいじゃなくて、私がしたくてやった事なんだから謝るなんて変だよ?」

なんて、不思議そうに喋るショウに大樹は心がじんわり温かくなったが

桔梗とフジは、全然平気じゃないし大袈裟じゃない!そのドレスを汚すのは、とてもマズイと焦っていた。

桔梗は、“せっかく、お母さんが選んでくれたのに汚しちゃったぁぁ〜!うわぁぁ〜ん!”と、後になってからショウが悲しむが目に見えてるから。

フジは、ファッションにとても詳しいので、こんな世界的にも素晴らしいドレスを汚すなんてという気持ちと…値段がつけられないであろうドレスの値段と価値にだ。

と、その時だった。


「身分を弁えなさい!庶民の方!その方をどなたと思っているの!?」

慌てて、誰かを制する声が響いた。

何事かと、その方向を向くと真白が此方へ向かって来ている。

おそらく、大樹の別れ話に納得いかず大樹を探して来たのかもしれないと、大樹を含めそこに居た多くはそう思った。

大樹もここは別の場所に移動し“真白を納得させないとな”なんて心の中で、困った様にため息を吐きながら真白に声を掛けようとした。

しかし、真白の向かった先は…

……パシーーーンッッッ!!!

中庭に、思い切り頬を叩いた乾いた音が響いた。

まさかの出来事に、ショウはビックリして硬直する。

周りも目をまん丸くしてそれを見てフリーズ。

何故か、真白もフリーズしている。


「…気が済んだかな?」

そして、打たれたはずなのにビクともしない仮面の少年。

手応えはあったはずだ。だって、少年の頬を思い切り叩いた自分の手は、その反動でビリビリととても痛んでいるから。

…なのに、何故この少年は何事もなかったかの様にしれっとして居られるのか。

だが、真白は思った。叩いた時、頬を叩いたというより分厚く固い壁でも叩いたかの様な感覚だった。とても、人の肌とは思えなかった。

自分の手が骨折でもしたかのような痛みに悶絶して、しばらくの間動けずいる真白。
涙目になりながら、この痛みに「ウクゥゥ〜〜〜…ッッッ!!!?」と声にならない声を漏らしながら痛みが去るのを待った。

…痛いっ!!?

痛過ぎて声も出ない!

どうして、私がこんな目に……!

何なのよ、これっ!!?

…仮面を叩いたから?

でも、それなら仮面が外れるかズレるかしてもおかしくない。なのに、この人の仮面は何一つ動いてない。

いやいや!!

そうじゃないっ!!?

そもそも、真白はこの少年を叩いた訳ではない。

いつの間にか、少年の後ろに避難させられている仮面のチビデブ女を叩いたはずなのだ。

なのに…!


「……え?どうなっているの?私は、あの仮面のチビデブ女を叩いたはずなのに…!??」

困惑する真白は、つい本音の言葉が出てしまっていて、今まで聞いた事のない真白の汚い言葉にウダツと大樹は驚いた。

「そもそも、どうして俺のお嬢様を叩こうとしたの?意味が分からないんだけど、理由を教えてくれる?」

と、ショウを庇い、魔道のバリアーで真白のビンタを防いだ桔梗は静かに真白に聞いた。

「…え?…え?い、いつの間に…?」

まだまだ混乱している真白に

「そういうのは、いいから早く答えてくれないかな?俺は、気が長い方じゃないんだ。」

桔梗は淡々と、真白に早く答えろと急かした。桔梗の冷たい雰囲気に恐怖した真白は、カタカタと震えながら直ぐ後ろにいる大樹を見ると意を決したかの様に勇敢に答えた。


「そこの仮面を被っている女性は、自分の身分も弁えず。王族のしかも帝王様の甥っ子にあたる大樹に、馴れ馴れしく触れたうえ…あろう事か!大樹に、膝をつかせ自分の靴にキスまで要求していました。これは、れっきとした無礼罪です!!
ですが、私が彼女を叩き指導しなければ、きっと彼女はとんでもない裁きを受けるはず。
だから、大樹の恋人であり幼なじみの私があえて彼女を叩き怒って見せたのです。」

と、自分は大樹の為だけでなくショウの為に自分は動いたんだ。正しい事をしただけでなくショウを助けたのだと訴えた。


なのに、何故か周りはシラけた雰囲気だしみんな微妙な顔している。

…おかしい。

いつもなら、自分が言った事に対し

“素晴らしい”

“そんな底辺の者にまで手を差し伸べるとは何と慈悲深い、優しい方だ”

と、みんなが称賛し賛同してくれるというのに。


「…あのさぁ。真白嬢…どんだけ自分が偉いのか知らないけどさ。
あんた、さっきから大樹様の事呼び捨てにしてるけど、それは大丈夫なわけ?あんたも、大樹様と同等の地位なの?
あとな、大樹様の恋人だか幼なじみだか知らんけど、それをひけらかすあたりめちゃくちゃ性格悪くない?」

いきなりショウにビンタかまそうとして、ショウの事を悪く言ってきた真白に、結はかなりイライラして意見した。

ちなみにだが、結は伯爵令嬢で真白と同格である。

「…大樹とは、恋人で幼なじみだから呼び捨ては特別に許されてるわ。」

と、優雅に笑みを浮かべ結を見てきた。

どう?あなたと私では、何もかもが別格なのよ。と、でも言ってる様で、結をはじめそこにいる殆どが顔を顰めていた。

すると

「…申し訳ないが、真白嬢。君とは恋人でもないし、君という人間性に僕は幻滅してしまった。だから、君とこれ以上幼なじみ関係も続ける事はないよ。」

と、ショウを庇うように桔梗の前に立ち、真白と対面する大樹。

ハッキリ、恋人ではない。幼なじみも続けられない。と、言われた真白は、何故だか分からなくて最後まで話を聞いてみようと自分が言いたいのをグッと堪え大樹の話を聞いた。

それこそ、真白は淑女として躾けられ大樹の身分を重んじているからこそである。


「君とは、“少し前まで、幼なじみだった少女”それだけの関係だよ。
強いて言うなら、恋人ではない、幼なじみでもない今の僕と君の関係は“顔見知り程度”だ。
もう、僕に馴れ馴れしくしてこないでほしい。だから、呼び捨てはやめてね。幼い子供じゃないんだからさ。弁えて?」

と、思ってもない言葉が大樹から飛び出してきて、真白はパニック状態に陥った。何故?どうして、いきなり…!?

…これは、悪い夢なのだろうか?現実と思えない。

「…ど、どうしてっ!!?私達、幼い頃から想いあって、ようやく結ばれた恋人なはずよね!?」

ウダツもいるというのに、ウダツそっちのけで自分達の話をする真白。
だが、真白の意見も無しに、いきなり別れただの幼なじみも辞めるだの言われたら誰だってパニックになるし自分の事しか考えられないのは当たり前だろう。


「真白嬢、申し訳ないけど君の事を色々と調べさせてもらったよ。」

「………え?」

大樹の言葉に、大樹が何を言うでもなくとも思い当たる節のある真白はドキリとし全身が凍りついた。

「君とウダツが付き合ってた頃から、大勢のセフレとお楽しみで今も持続中。
多くは人格者だと言われてる人達ばかり。その中には、既婚者や婚約者、恋人がいる人も居るらしいね。
だからこそ、みんな自分の評判をとても気にしている人ばかりだからバレないように慎重だ。
やっぱり、真白は頭がいいね。類は友を呼ぶとは、よく言ったものだよ。似たもの同士が集まるんだね。お似合いの皆さんだ。」

と、言われ、真白は一気に青ざめガタガタと震えている。

「……え?え?…嘘、どうして…?」

自分のセフレとなる相手もしっかり見定め、バレないように入念に抜かりなく上手くやっていたはずだ。なのに、どうして?

大樹と恋人になった時には、その中でも少しでもボロが出そうな相手は切った。

それに、今まで以上に慎重になって遊んでいたのに。だから、バレるなんてあり得ない。

だから、きっと、大樹は私を試しているんだわ。カマを掛けてボロが出るか。

そこで、本当に自分の恋人として相応しいかテストしているのかもしれない。

と、真白は思い


「…酷いわ。私、そんな事なんかしてない。…大樹だって知ってるはずよ?…大樹が、私の初めてだって…。信じて?私はあなただけよ?」

真白は恥ずかしそうに声をひそめ潤んだ瞳で大樹を見てきた。

そんな真白に、大樹どころかみんな眉をひそめていた。

「今さら、白々しいだけだからやめて?気持ち悪いだけだから。
他にも、地位や金銭面、スキルで人を判断して酷い虐めをしてるよね?
しかも、周りには自分が優しく見えるように振る舞いつつ、ターゲットにだけ分かるような巧みな嫌がらせや誹謗中傷して周りを欺きながら楽しんでたみたいだね。」

…ドキーーーーーッッッ!!!?

…え?なんで、それを…

やっぱり、私…何か、悪い夢でも見てる?


「表向きは、とても慈悲深い優等生で清楚で清純な美少女。僕も、君の表向きしか見抜けなかった自分が恥ずかしいよ。
だけど、中身を知ったら…好きな気持ちも一気に冷めて、幼なじみや友人でいる事さえも不快に思っちゃってね。嫌になってしまった。」

笑顔を浮かべたまま、やんわりと話しかけていく大樹。だが、その内容とは全く似つかわしくない口調や態度が、逆に怖く感じる。

真白は、サー…っと青ざめたまま、何も考えられずに硬直していた。


「それに、君は僕の命よりも大切な存在に暴力を振るおうとした。挙げ句、罵詈雑言を浴びせてきた。…僕は怒ってるんだよ。
君は僕の一番を誹謗中傷しただけでなく、大切な友達のウダツをずっとずっと裏切り続けていたんだ。許せるはずがない。」

…どういう事?

仮面のチビデブが、大樹にとって命よりも大切な存在?

大樹とそのチビデブは、どういった関係なの?…婚約者…それはあり得ないわ。

よりにもよって、こんなのを大樹が婚約者に選ぶはずがないし…

と、ショウを見て、真白は困惑している。

「……え?よく、分からないわ。
…私は、誰彼構わず自分の体を捧げる様な節操のない事なんてしないわ!それに、虐めなんてもっての外だわ。虐めなんて許されない事、私がする筈がない!
…それに、大樹とその仮面の女性はどういった関係なの?幼い頃からずっと一緒だったのに、その女性の存在…私、知らないわ。」

真白は、自分を取り繕う為に必死になって抵抗の言葉をぶつけてきた。

「残念ながら、君がなんと言おうと調べもついてるし証拠だって全部あるよ。
真白、忘れてない?僕は、これでも、帝王様を叔父に持つ王族だよ?
バレると困るから、企業秘密もたくさんあるけど、一つバラしちゃうと僕の父上や兄上…僕にもね。優秀な部下である“魔道士”もたくさんいるんだよ。」

と、少しだけ秘密を教えた大樹に

「……ま、“魔道士”って、本当に実在するの?私は、そんな存在は授業でしか習わないし…実際に見た事もないわ。
そんな事言って、私を揶揄っているの?」

なんて、そんな実在しない話は信じられないと真白はまだまだ抵抗していた。
そこに、大樹は少しため息をつくと

「…本当はね。学生の身で、特別な事がない限りは無闇に使ってはいけないと父上達に口を酸っぱくして言われてるんだけど…」

そう言って、大樹は上に手をかざし何か呪文を唱えると、大樹の周りを渦が巻く様に水が巻き付き、それを自在に丸い玉にして見せたり

パンと手を叩くと、丸い水の玉は細かな水蒸気に変わり中庭に何重もの虹を作って見せた。

「僕は、水と草木を属性に持つ、C級魔道士剣士。」

そう言って、水と草木を掛け合わせた美しいレイピアを手に持っていた。

「ここまで特別に見せたんだから、魔道士の存在がいる事は分かるよね?馬鹿じゃないんだから。」

と、大樹はにっこり笑って、一瞬で魔道の効果を消した。

大樹の魔道に、結やフジ、陽毬もビックリしていた。最初の水のエンターテイメントは、とても綺麗で感動したが、最後のレイピア(細い剣)が出てきた時にはゾッとした。武器なんて恐ろしい物を見たら誰だって怖い。

「だから、僕の優秀な部下達に君の事を調べさせたら、出てくる出てくる君の真っ黒い醜い愚行がね。こんなに真っ黒なのに、君は周りの人達を欺いて聖母の様だなんて言われてるんだから大したものだよ。」

と、笑顔のまま、真白を責め立てる大樹はとても怖かった。

「……で、でも、それは大樹に叶わない恋をして、心が壊れてしまいそうなくらい苦しくて…だから……!」

必死に、自分は悪くない。自分の可哀想な理由を聞いてと懸命に取り繕えば取り繕うほど、真白はとても滑稽である意味可哀想に見えた。

もう、何を言っても無理な事は分かってるはずなのに。

今までの自分の立場を失いたくなくて悪あがきで必死なのだ。

「…これ以上、僕を怒らせないで?これで済んでるのは、今まで紛い物だったとはいえ“前まで幼なじみだった”僕の慈悲だよ。
それこそ、侮辱罪で君だけでなく君の家族や親戚まで君の罪のせいで酷い事になってしまうよ?頭の良い君なら分かるよね?」

大樹は、真白のあまりに醜い言い訳のオンパレードに脅しを掛けて黙らせた。

「だから、これをもって君とはこれ以上関わるつもりもない。君とは縁を切るよ。
もう、僕の家族にも君の家族にも事情をしっかり話して縁を切らせてもらっているよ。
今度こそ、本当にさよなら。」

そう、にっこり笑って真白に背を向けた。

そして、ショウに向かい

「醜いものを見せてしまい、誠に申し訳ありません。」

大樹は、深々と頭を下げて謝罪をした。

「…う〜ん、色々ごちゃごちゃしてて分からない事も多いけど。大樹君も確かに悪いよ?
…けど、真白さんは…大樹君の悪い事に似た事をしてるように見えて…なんか違う気がするなぁ。何が違うのか、言葉にするのは難しいけど。“見えちゃうから”。」

ショウは、大樹と真白は似たような愚行をしてる様に思えるが、何かが大きく違うと考えていた。だって、その違いが“見える”から。

例えば、大樹が真白の様な愚行を行っていればショウは、自分と大樹を切り離していただろう。

それくらいに、似てる様でまるで違う何か。

「大樹君が、真白さんと同じ気持ち、同じ考え、悪い事へ対しての気持ち次第で、私と大樹君はバイバイだったね。」

と、ショウに言われ、自分の命より大切な存在に切り捨てられていたかも知れないという恐怖から大樹は、ゾッ…!!?と、全身に冷たいモノが流れた。

…ドックン、ドックンドックン…!

今さらながらに、首の皮一つで自分はギリギリ繋がってるのだと大樹は青ざめダラダラと冷たい汗が吹き出すのだった。

「…ま、何はともあれ、許してもらえて良かったな。あんま、深く考えすぎて余計な事考えんなよ。
そこが、お前のいい所でもあるけど悪い事でもあるんだぜ?ショウにも言われたと思うけど、大樹の場合はとにかく何かあったらどんな些細な事でも相談だぜ?
お前には、俺もウダツだっているんだ。いくらでも、くだらない事だって話は聞くぜ?」

と、凍り付いている大樹の背中をポンと、大地は叩いてニカッと笑って見せた。

「……ありがとう。もう、大丈夫だよ。」

大樹は、そう言って大地とウダツに頭を下げてお礼を言った。

真白はかなり追い込まれて、そこでようやくウダツの存在を思い出し

「…ウダツなら、分かってくれるわよね?
…私、何にもしてないのに、みんなが誤解しているの…助けて!」

と、ウダツが真白を好きな事を利用して、ウダツの元へ走りウダツの手を取り涙ながらに訴え掛けてきた。

…もう、やぶれかぶれだろうが最終手段に出るしかない。こんな冴えないチビの手に触れるなんて寒気が走るが、ここは仕方ない。

大樹もウダツには、絶大な信頼を置いてるからウダツの口から真白をフォローする言葉が出れば、自分は大きく有利になれると考えたのだ。

すると

「……大丈夫でヤスか?」

と、真白の思惑通り大好きで大切な真白という存在を心配そうに見てくるウダツがいた。

“ウダツは、昔からチョロいから扱いやすいのよね。昔から、いい私の手駒になってくれて、ありがとう。”と、真白は心の中でほくそ笑んでいた。

「オイラの手に触れて、気持ち悪いと思っているでやしょう?無理しなくて大丈夫でヤスよ?」

…ドキィィーーーッッ!!?

「…へあ?」

思ってもみなかったウダツの言葉に、思わず素っ頓狂な声を出す真白。

「もう、こんな人を騙すような事はしてほしくないでヤス。…もう、知ってしまった。
真白嬢の取り巻きの皆さんと一緒になって、オイラの事を馬鹿にして嘲笑っていた事も。
オイラの気持ちを利用して、都合良く使っていた事も全部。幼い頃からの真白嬢の愚行も全て何らかのデータに入ってるらしいでヤスから、信じられないのであれば見せてもらう事も可能でヤスが…」

どこか、よそよそしいウダツに違和感を感じつつ

「…ウダツも勘違いしてるの?そもそも、そんな証拠が本当にあるかも分からないのに…酷いわ…」

と、泣く真白にみんなはウンザリで、ついに痺れを切らした桔梗が


『…マジ、うぜぇー。せっかく、“エリー”と社交界を楽しめるって思ってたのに。
あろう事か、エリーを侮辱するわ、暴力振るおうとするわ。いい加減、俺はキレてんの。
どうやって、お前みたいなドブカスのブス女に地獄見せてやろーか考えてたけど。お前がお望みの事してやるよ。
みんなに、それ(証拠)を見てもらって身の潔白を晴らせば?』

なんて、ショウ以外その場に居た全員の脳内にテレパシーを送った。

『…お前、やり過ぎるなよ!?』

と、慌てる風雷に、聞く耳を持たない桔梗は

『…あのクソ女は、俺様の何よりも大切な宝を傷つけた。やり過ぎもクソもねー、命あるだけ五体満足でいられるだけ感謝してほしいくらいだ。』

桔梗と風雷の会話も、ショウ以外みんなの脳内に響く。

そして、次の瞬間。

“ね?こうしたら、バレないわ。念には念を入れて、入念な計画を立てれば大丈夫よ。”

“ハハ!本当、君は頭がいいな。これは、誰にもバレてる事ないな!これで、妻にもバレる事なく君の体の隅々まで愛せるよ。”

“クスクス!みぃ〜んな、馬鹿ばっかりで少しいい顔しただけで騙されるんだから。
ほぉ〜んと、自分の生まれ持った美貌に感謝するわ。”

”大樹を落とすには、けっこう面倒だと思うの。だって、ウダツが私の事好きだって知ってるからウダツの気持ちを考えて、いくら私の事が好きでも恋人になってくれないわ。
だから、ウダツを使うのよ!私がウダツに気があるフリして、ウダツから私に告白させるように誘導するの。”

“大丈夫よ。ウダツは馬鹿でチョロいから、フフッ!それで大樹にいっぱい嫉妬させて、私への気持ちを強くさせてから、『実は私も大樹が好きなの!ウダツには申し訳ないけど』とか、上手くいえば、大樹はイチコロよ。
大樹って、清純で純粋な子が好みだから。”

他にも、色んな男性達(セフレ達)との密会やら、自分が底辺と思うクラスメイトを見下し、周りにバレないように陰湿な虐めをしているシーンなどなど。

魔道で集めた情報を、短時間で真白の愚行の全てが分かる様に、真白と一緒に愚行をした人達の聞き捨てならない重要なセリフの切り抜きや愛の営みのエグい所を抜擢。

真白達の被害に遭った被害者達は誰か特定できないようにプライバシーを守りつつの完璧なまでの編集でギュッと濃縮した素晴らしい映像が会場中のモニターに映し出されただけでなく

今夜の社交界に参加した人達の携帯がしきりに鳴り、それを見ると会場中のモニターに流れている映像や音声と同じものが流れている。

いきなり、会場や自分達の携帯など至る所の画面に真白の悍ましい裏の顔が映し出され、会場中は大混乱の大パニック!

だって、真白だけでなく真白と男女の関係にあるセフレ達との情事も映し出されてるのだから。


「…キャーーーーッッッ!!!!??何ですか!?これは…!?」

「…この淫乱で非道極まりない女性は……ま、真白嬢ッッッ!!!?嘘だろ…???」

「…ちょっと、待って!ゲダン!!私達、まだ結婚してから10日も経ってない、新婚ホヤホヤよね?…短い時間しか映ってなかったけど、確実にあなたと分かるものだわ。
…そう、一年も前から真白嬢とセフレ関係だったのね。その時には、私達…婚約者同士で……うっ…!!酷い裏切りだわ!!」

「……え?真白嬢、人に優劣つけて虐めてたの?全然、気付かなかった…酷い…。相手が誰か分からないけど、相手があまりに可哀想だわ…」


会場中が蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。

もちろん、中庭でも


「…イヤァぁぁーーーーーーーーッッッ!!!!??な、なに、これぇぇぇーーーーーッッッ!!!やめてっ!!止めてっ!!早く、止めてよ!こんなのぉぉーーーーーッッッ!!!?」

携帯を見た真白が、絶叫する声が夜空に響いていた。
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