美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜

…夢

『……慣れないなぁ、テレパシーってヤツ。まあ、いいけど。誰にも聞かれたくない話って、なんだ?』

と、結は風雷に聞いた。

『ああ。結の話を聞きたかった。』

『…私の話?』

何故、風雷が自分の話を聞きたいのか全く見当もつかない結は、筋肉質な腕を組みながら首を捻った。

普段、学校でもとりわけ仲がいい訳でもない。風雷は桔梗の親友ってだけで、ぶっちゃけ結達と仲がいいという訳でもない。
友達って言っていいのか憚るくらい線引きがあり、挨拶程度の浅い友達って感じ。

そんな風雷が、結に話があるとはどういった用件なのだろうか?

もしかしたら、結に関係なくても結の周りの何かについて知りたい事があるのかもしれない。

なんて、普段使った事のない頭をフルに使って、う〜んう〜ん結は唸っていた。

『そこまで、考えなくていい。まあ、自分達の関係性はそんなところだろうが。やっぱり、そういう所とか鋭いな。』

風雷が、何を言いたいのかよく分からないが本当に何が聞きたいんだろう?

『結は、将来就きたい職業ってある?』

いきなり、そんな事を聞かれてビックリする結。唐突もいいところだ。

…いきなり、何だ!?

意味が分からないな。

確かに、将来はこの国の騎士団…夢を広げるなら、帝王様直属の騎士になりたい。

…まあ、父さんと母さんが反対するだろうから無理な話だけどさ。

なんて、考えていると

『…やっぱり、そうか。』

なんて、脳内に声が響いてまたもや結は

「…うわぁっ!?」

と、ビックリして声を上げ飛び跳ねてしまった。周りの目が怖い。

『…テレパシー…慣れない…』

『最初のうちだけだ。慣れたら大丈夫だ。
…それよりも、結の体付きや言動を見ていて思ってた事がある。
これは、よほど鍛え抜かれた肉体だろうと。
言動もお嬢様は性に合わない、こんな固っ苦しい所から解放されたい。思いっきり暴れたい。そんな感じが、見え隠れしていて気になっていた。…もう一つ…』

…ドキッ!

す…すげ〜!私とあんま関わった事もないのに、そんな事まで分かっちまうのかよ!

頭いい奴って、なんかよく分からないけど、なんかスゲーなぁ。

と、結が感心していると


『…ククッ!結の話をしたら、“ハナ”が是非とも結に会ってみたいって言ってきた。』

…さっきから、笑われてる気がするんだけど…気のせいか?

それよか…

『ハナさんと会うって、何で?会った事もないのにおかしくないか?』

と、結が首を傾げると

『ああ、結は知らなくても、ハナは男女混合パーン格闘技全国大会で結を見て知ってる。だけど、世界レベルにも関わらず世界大会に進出する事もなく国内大会止まり。
あんなに楽しそうに試合をしてる奴が、世界に興味がないわけがない。その理由が知りたい、将来の夢も気になる。直接会って話を聞いてみたいって、言ってきた。』

確かに、そうだ。

本当は世界を見みたい。だけど…

『ハナに会えば、もしかしたら結の努力次第で夢が叶う可能性があるとしたら?』

…ドキィーーーッ!?

…え?

私の望み…

ドクン…ドクン…!

もし、少しでも希望があるならっ!!

『会うっ!ぜひ、ハナさんに合わせてくれ!!』

と、強い願いを込めて結は風雷にお願いをした。

『了解。ハナは忙しい身だから、会う日時はこっちで決めても大丈夫か?』

『もちろんだ!』

ドクン、ドクン、ドクン…!

『話はこれだけだ。長く付き合わせて悪かった。日時については追って連絡する。』

『…あ、ありがとな!』

『こちらこそ。』

そこで、テレパシーは途絶えた。

少し理解に追いついてないが、もしかしたら今まで我慢してきた格闘技の世界進出ができるかもしれない!

…だけど、世界大会のTVは見てるし実力者達の研究は過去から現在まで全て見てきたつもりだ。だけど、“ハナ”なんて選手は見たことも聞いた事もない。

…そう考えると、なんだか自分が望む事から何かが遠のいていく気がしてちょっと気持ちが萎えてしまった。

だけど、約束はしてしまったし…ハナさんに会いに行くしかないか!

と、開き直りの早い結だった。


---一方、会場では---


桔梗がショウのダンスを上手く誘導しサポートしてくれているので、ショウは何か楽しいアトラクションにでも乗ってるかの様な爽快で楽しい気持ちになっていた。
しかも、大好きな恋人と体を密着させてドキドキも止まらない。

とってもオシャレなドレスに身を包み、気持ちは舞踏会で踊るお姫様気分だ。

もう、楽しくて楽しくて堪らなかった。

あまりに、はしゃぎ過ぎて笑いも止まらなかったし心が躍り過ぎて

「ね、桔梗!私、歌いたくなっちゃった!」

なんて、あははと楽しそうにショウは言った。それを聞いて、桔梗は

『大樹、ラッキーだよ。俺の姫が“楽し過ぎて歌いたくなった”みたいだよ。』

と、テレパシーで大樹に伝えた。それを聞いて大樹は

「…本当に!?それは凄いラッキーだよ!
ね、大地!朗報だよ。ボク達の姫が“楽し過ぎて歌いたくなった”みたい!」

近くにいる大地に、それを伝えると

「マジか!?滅多の滅多にない事だぜ?楽しみだな!」

大地はかなり驚き、期待でワクワク、ドキドキした様子で遠くに見えるショウを見ていた。

同じ場所に居た、フジとウダツは何のことだろうと首を傾げている。

すると

会場の音楽がピタリと止み、シーンと静まり返った。何かのトラブルだろうか?会場中が、何が起きたのかとどよめきはじめた。

その時だった。


会場に、透き通るような美しい歌声が響いてきた。その歌声は、会場中に響き渡り気が付けばそこに居る誰もが、その歌声に聞き入りうっとりと酔いしれ心酔していった。

その内、みんなの心がウキウキ、ソワソワし出して物凄く踊りたい気持ちになり

壁の花になっていた人も、虐められて孤立していた人もみんな関係なく近くに居る人達と手を取り踊り出した。

踊り始めると、更に不思議な事が起こった。

みんな、それぞれ“楽しくて楽しくて堪らない”気持ちのイメージが湧き

それは、幻想的で美しい場所であったり、ワクワクやドキドキが止まらないテーマパークだったり、雲一つない青空の広がる大草原だったり

人それぞれで違う場所で踊っていた。

まるで、魔法でも掛けられたかの様に、

みんな、それぞれの

“楽しくて楽しくて堪らない気持ち”

で、ダンスを踊っている。

みんな、最高にハッピーな気持ちだ。
こんな楽しい時間はいつぶりだろうか?今まで、こんな楽しい心踊る体験をした事があっただろうか?

とにかく、楽しくて楽しくて堪らない!!!サイコーだ!!

ショウが歌い終えると、その夢のような世界はピタリと止み…ハッとした時にはみんな現実世界へと引き戻された。

だが、こんな素晴らしいパフォーマンスはない!
鷹司家の長男は、とんでもないサプライズをしてくれた。と、会場中から興奮冷めやらぬ気持ちで大絶賛されていた。さっきまでの余韻も強く残っており、大盛況で盛り上がりに盛り上がっている。

大樹の兄も、何が何だか分からないが家の誰かがサプライズをしてくれたのだろう。今日のお披露目会は大成功だとご満悦の様子だ。

フジとウダツは体を密着させ踊っていた様で、踊り終えた時その密着具合に二人はカァ〜ッ!と、真っ赤になり恥ずかしくてパッと体を離した。

途端に、フジは寂しい気持ちになりチラリとウダツを見ていた。ウダツも

「…声もかけず、いきなり手を取ってしまってゴメンでヤス。何だか、もの凄く楽しい気持ちになって踊らずにはいられなかったでヤス。」

とても、申し訳なさそうにフジに謝ってきた。

「…違うわ!私が、ウダツさんと踊りたくて……ウダツさんと踊れて嬉しかったわ。」

なんて、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてモジモジしていた。

一方で…

「…凄く楽しかったけど、ダンスのパートナーが大地って……そこだけ、とても残念だよ。」

と、大樹は苦笑いし

「え〜?俺は、大樹と一緒に踊れて楽しかったぜ?しかも、大樹は流石ダンスの天才だけあって女役もバッチリできるんだな!ビックリしたぜ。俺、女役のダンスまではできないから助かった。」

「女性パートは滅多にやる機会がないから楽しかったよ。そこは、大地と踊れて感謝かな?」

と、笑って見せる大樹だったが、この場に陽毬が居ない事を残念に思った。
ここに陽毬が居たなら、きっと自分と陽毬が踊っていたに違いない。そしたら、もっともっと楽しかっただろうな。そう考えると、とてもガッカリしたし寂しいと感じた。そんな大樹に

「だけど、“俺達の姫の歌”、相変わらず凄いのな。すっげーーー、楽しかった!!まだ、興奮が収まらないや。」

大地は、至極楽しそうにショウについて話してきた。

「うん。今日は、色々大変だったけど、そんな嫌な気持ちが一気に吹き飛んで、今は最高な気分だよ。姫には感謝しかないよ。
何より、姫には心から楽しんでもらえたみたいで、それだけで十分心が満たされた。」

「それな!」

大地と大樹は、疲れて椅子に座り桔梗に色々とお世話されているショウを見て笑顔になっていた。


---少し、時間は遡るが---

陽毬は、出入りが許可されてる場所の一つでもある、この城の中で三番目に高い塔まで行きそこの窓からボンヤリと外を眺めていた。一番高い塔や二番目に高い塔は、内部の造りも美しいしそこから眺める景色も素敵な為、早い者勝ちで夫婦・恋人関係の人達やセンチメンタルになってる人が来てる事が多い。

残念ながら、三番目に高い塔は質素な造りな為に人気がない事を社交界に行き慣れたボッチの陽毬は知っていた。

だから、あえて三番目に高い塔を選んで来たのだ。

だが、だいたいの人達は会場か休憩室、たまにテラスやバルコニー、中庭で雰囲気を楽しんだり休憩する人達もチラホラいるがエレベーターがあるとはいえ三番目に高い塔に行こうという人達は何故か今まで見た事がなかった。

だいたいの人達は様々な交流で忙しいし、派手さがない地味な三番目の塔に来ようとは思わないのだろうけど。
だからこそ、この鷹司家では一人静かに過ごせる狭いこの場所が陽毬のお気に入りの場所だ。

そこの窓からぼんやり外を見ていると、まだ中庭に真白がヘタリ込んでいた。そこに、騎士の如く駆け寄る…

あれは…結の婚約者である九条 蓮だ。

会話こそ聞こえないが、悲しみに暮れるヒロインと、悲劇のヒロインを救おうと必死なヒーローみたいな雰囲気だ。

そして、しばらく二人は必死な感じで話し合っていて、それから勢いよく真白を抱きしめる蓮がいた。

ついには、お互いに強く抱きしめ合い真白は蓮の胸の中、必死に何かを訴え掛け泣いていた。それを慰めるように蓮は、更に強く真白を抱き締めると熱烈なキスをしてきた。

最初こそ、驚いた表情をする真白だったが、それを受け入れ二人は何かの感傷に浸りながら情熱的なキスを交わしていた。

…蓮令息と真白嬢の愚行を知ってる身としては、ただただ気持ち悪いだけですな。

なに、茶番劇してんだかってシラけるだけですぞ。

……でも、それでも思い合う相手がいる事に関してだけは羨ましく思いますな。自分には縁もゆかりもない事なんで。

と、陽毬は虚しい気持ちで茶番劇を繰り広げる二人から目線を上に移し、満点の星空を眺めていた。

その時だった。

どこからか、聞いた事もない美しい歌声が聞こえてきた。曲も歌詞も全然知らない。だけど、とても心に響く歌で“楽しい!嬉しい!!”と、勝手に心が弾んで、気持ちが高揚してくる。

ドキドキとワクワクが止まらない。

陽毬は、音痴、運動音痴なので、苦手で大嫌いなダンス。なのに何故か、今、無性にダンスを踊りたい気持ちでいっぱいだ。

踊りたい!!

そう思ったら、気がつけば自分は満点の星空を背景に空中にいた。

だけど、不思議な事に怖いとか落ちるなんて考えなかった。

そこで、自分は踊っている。

誰かと一緒に……えっ!?

誰かと一緒に!?

と、驚いていると目の前には大樹にそっくりな誰かが自分の手を取ってダンスをしている。

ドクンドクン…!

自分はダンスが苦手なはずなのに、自分のパートナーになってくれてる大樹そっくりさんが、とても上手にリードしてくれるので、それに身を任せれば

…す、凄いっ!!!?

私、とても上手に踊れてますぞ!!?

アヒャーーーッッッ!!?だ、ダンスって、こんなに楽しいものだったんでござるか!!?

ウッヒョーーーーッッッ!!!

楽しいーーーーーッッッ!!!!!

サイコーでござるよぉぉーーーーっっっ!!!

ずっとずっと、踊っていたいでござるよぉ〜!!!

…それにしても…

この大樹様そっくりな誰か…カッコ良すぎますルゥぅぅ〜〜〜っっ!!

外見は、大樹に容姿そっくり。でも、中身は大樹とは別人の“誰か”に、ハートを奪われ夢見心地でダンスとその誰かに夢中になっていた。

ドキドキ、ワクワクに加えて、キュンキュンときめきが止まりませぬぅぅ〜〜〜!

…はわぁ〜〜、幸せでござるぅぅ〜〜〜…


と、幸せ気分を満喫していたが、残念な事にあのこの世のものではない様な美しい歌声が止むといつもの場所に戻っていて…大樹そっくりさんも消えていた。

余韻がまだまだ残る中、陽毬はキョロキョロと大樹そっくりさんを探していた。だが、いくら探せど大樹そっくりさんは見つからず…段々と正気に戻ってきた陽毬は思った。

…ああ、“夢”か。

なんて、都合のいい夢だったんだろう。

大樹様そっくりさんも、未練タラタラで大樹様を吹っ切れない自分が見せた幻影なんだと、ガッカリし虚しい気持ちになっていた。

…よくよく考えなくても無理ゲーもいい所ですな。

さすが、“夢”!あり得ない事を見せてくれるであります。

…でも、最高にいい夢でありましたな。

と、星空を眺め、夢の中での出来事を思い出し妄想に耽っていた。
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