美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
素晴らしい鷹司家の社交界が名残惜しくも終わり、それぞれが自宅へ入ってからが修羅場であった。

もちろん、九条 蓮の家でも

「…き、貴様という奴はっ!?なんて事をしてくれたんだ!!婚約者がいながらも、白鳥家のご令嬢と浮気とはっ!…しかも、白鳥家ご令嬢も貴様と同類とは……はぁ。見た目では分からんものだな。…いいか?
婚約破棄なんて事は絶対にあってはならんぞ!どうあっても、貴様得意の嘘方便で結嬢を宥め説得しろ。
向こうの家には、俺達が何回でも頭を下げて納得してもらう。」

と、いう父親に

「……まさか、バレるなんて思ってなかったんだよ。しかも、セフレ関係の期間まで…どうやって、あんな過去の事まで調べたんだ?
しかも、セッ◯スも音声もかなりエグい所ばっかり抜粋して!!あんな分かりやすい編集されたら、何から何まで筒抜けじゃないか!?」

なんて、自分の素性がバレた事に対し蓮は顔面蒼白で頭を抱えていた。

「…だが、ありがたい事に結嬢との話だけは出てこなかった。それだけでも良しとしよう。貴様の本性はバレてしまったからな。評判は地に落ちた。
しかし、貴様は幸いにも容姿がいい。スキルも申し分ない。だが、世間体というのは一番大事な所でもある。
遊びは別として、もう、貴様と結婚を考える者はいないだろう。だからこそだ。
どうしても、結嬢に許しを得て結婚してもらわなければならない。」

父親の横では、母親がもう駄目だと泣き崩れている。だけど、どうしてそんなに結にこだわるのだろうと蓮は腑に落ちなかった。

「…何故、結でなくてはならないの?結じゃなくても、他に男に困ってそうな地位の高い令嬢ならたくさんいるよね?」

と、いう蓮の質問に、ウググ…!と、何とも答えづらそうな呻きの後、父親は

「……家には莫大な借金がある。」

なんて、とんでもない話を暴露してきたのだ。

「…え?借金?」

そんな筈はない。

だって、今のいままで裕福に暮らしてるし習い事だってたくさんやってる。お小遣いも使いたい放題だったし、メイドや使用人達も大勢いるじゃないか。
洋服やアクセサリー類も、毎日のように買い漁り食事だって贅沢してるのに借金だなんてあり得ない。

それに家に借金があるとしたら、噂好きの上流層で何処から話を聞きつけ既に噂になっている筈だ。

「…だって、今まで全然お金に困ったことがないよね?」

と、蓮はこんなの冗談にしか思えないと父親に聞いてみた。すると

「…俺達の生きてる場所は、あっという間に噂になる。悪い噂が立てば、はじかれ者にされ仕事も何も回って来なくなる。結果、この世界では生きていけないのは分かるな?
だから、世間体と人付き合いが大事な世界だ。
莫大な借金の事は、随分昔から続いている事で今も借金は膨らみ続けている。」

では、何故、噂になっていないのか?

そんな昔からの借金だったなら、とうの昔に“家柄だけが取り柄の借金まみれ”だと、噂のタネになっている筈だ。
そういった家も、たくさん知っている。そういう輩を惨めなものだと鼻で笑っては虐めてやったが。

…まさか、自分の家もそうだなんて…!

「…では、何故俺達にはそんな噂が立ってないの?」

…ドックン、ドックン、ドックン!

「借金まみれになった我が先祖が、昔からお人好しで有名だった西園寺家に頼み込んで借金を肩代わりしてもらっていたからだ。」

「………え?」

「借金が増えるたびに肩代わりをしてもらい続けた。今当主までは良かったんだ。
だが、次期当主の長男が成長し成人を迎えた時、それに意義をとなえた。これ以上は、借金を肩代わりできない。そして、今まで肩代わりしていた借金を返せとな。次期当主は、今までの西園寺家代々とは違い甘くない。」

………は?

じゃあ、この贅沢な暮らしは全て西園寺家の恩恵で成り立ってたっていうのかよ!?

借金もあるのに、こんな贅沢三昧の生活してたら借金は無くなるどころか膨らむ一方に決まってる!!

「そこで、今当主が“末っ子の娘とお宅の息子さんが結婚してくれたら今までの借金は無しにしてあげる”と、持ち掛けてきた。
次期当主は大反対していたが、今は今当主が力を持っているからな。次期当主を無理矢理黙らせて、そういう話になった。」

聞いた事はある。西園寺家は代々、仕事はかなりのやり手だが、お人好しが過ぎると。

だが、次期当主は全くお人好しではなく、むしろ厳しいらしく仕事も厳しさが加わった分、先代以上のかなりのやり手らしい。

「…それを、貴様の愚行のせいで…全て台無しになりそうなんだぞ!?」

…確かに、そんな大事を抱えていたなんて知らなかったけど、借金の形に俺を売ったって事だよな!と、蓮はかなり腹立だしく親に売られたという悲しい気持ちに襲われた。

「…じゃあ、何でもっと早く教えてくれなかったんだよ?」

蓮は、ボロボロ泣きながら父親と母親に怒鳴りたい気持ちを何とか抑え聞いた。

「……こんな見っともない事、教えたくはないだろ!」

と、いう見栄の言葉が返ってきて、蓮は何だよ…それ…と、馬鹿みたいだと親に対して感じた。

「…そんなに、借金があるなら贅沢しなきゃ良かったんじゃないの?」

そう意見を言えば

「生活水準を下げれば、直ぐに噂の的になって示しがつかないだろ!恥ずかしくて、外も歩けなくなるんだぞ!?今まで良好だった人達にも見切りをつけられ縁を切られるかもしれない。」

やはり、自分達の見栄の為の話しかしてこなかった。…アホらしいと蓮は思った。

両親達の見栄の為に、自分は売られた…自分は家の道具でしかなかったのかと心がへし折られた気持ちになった。

悲しいやら辛いやらが一気に襲ってきて、心の中はグチャグチャだった。

「……借金の為に、俺は売られたの?あんなデブスと結婚しなきゃいけないの?」

と、力なく聞いた蓮に

「馬鹿者がっ!大事な息子を売ったつもりなんてない。貴様は、親を何だと思っているんだ。恥を知れっ!それに、自分の婚約者にデブスなど紳士の言葉ではないぞ!」

ものすごい勢いで父親に、理不尽な説教を食らってしまった。

「…何なんだよ!最悪もいい所だ!!俺は、あんた方の道具になんかなりたくないっ!!!」

蓮はグチャグチャの感情を剥き出しにして、勢いのまま家を飛び出して行った。

「何処へ行くんだ!?待ちなさいっ!!」

と、後ろから、父親の怒号と啜り泣く母親の鳴き声が聞こえたが、それを無視して蓮は走った。

泣きながら走って走って、行きついた先は…真白の家の前。そこで、真白の家の外壁に背中を預けると携帯で真白に電話をした。

数コールで出た真白は涙声で、自分と同じ様な状況なのだと分かった。…いや、真白は自分以上に辛い立場であろう。

せっかく、幼い頃から好きだった大樹様と恋人同士になれたというのに、あの悪質な映像のせいで振られてしまったらしい。挙げ句に、後は言わずもがなだ。

真白の話を親身になって聞き、蓮も自分の胸の内や家の事情などを話した。

すると


『……え?莫大な借金?』

と、真白は驚いた様子で聞いてきた。

「…そうみたい。家は昔から大きな借金があったみたいでさ。借金の形に、俺は両親に売られたっぽい。」

なんて、辛い胸臆を打ち明けると

『…そうなんだ。じゃあ、私達の関係もこれまでね。』

さっきまでの悲劇的な雰囲気から一転。真白は、どうでもいい相手に話すように淡々と話してきた。

「……え?」

真白の言っている事に理解が追いつかず困惑する、蓮。

「…それって、どういう事?」


『残念だけど、借金持ちなんて私と釣り合わないでしょ?他は完璧なのに、残念だわ。だから、私達これで終わりね。さようなら、蓮。』

と、一方的に淡々と冷たく別れを告げられ切られた。まさか、優しい真白に限ってと再度かけ直すが繋がらなくなっていた。ブロックでもされたのだろう。

…信じられない…

この時、蓮の頭の中に“ 今まで良好だった人達にも見切りをつけられ縁を切られるかもしれない。”と、いう父親の言葉が浮かんできた。

実は、真白に恋心を抱いていた蓮はかなりのショックを受けていた。真白と大樹は両思いだって事は誰が見たって明白だった。
だが、何故かお互いに恋人関係を否定しただの幼なじみだと恋人にならない二人。何より、真白は高嶺の花で手の届かない存在に思えた。

だが、ある日。真白から蓮にアクションを仕掛けてきて、あれよあれよと言う間に体の関係を持った。そこで、真白のズル賢いところや悪い感じが、清純で清楚な外見とのギャップがありそこにも惹かれた。

それから、真白とはセフレ関係を続けていた。

…だが、それにしたって…

人間ってこんなにも軽薄で薄情非情なものなのか?と、蓮は絶望した。

お互い本音を語り合い、悪い人と笑い合いながら互いの体を求め合い快楽とスリルを楽しんでいた。セフレであり悪友のような存在だった真白。
だから、情くらいあるんだとばかり思っていた。

だが、現実はこれだ。

次に思い浮かんだのは恋人の二階堂 雫だった。蓮は少しでも早く真白の家から遠のきたくて、雫の家に向かって足早に歩きながら電話をした。

そして、無一文で飛び出してしまった蓮は、携帯決済やのカードも考えたが借金を思うとそれもできなかった。

そこで、思い立ったのが

恋人かセフレの家にはしょっ中親や使用人達にバレないようにコッソリ泊まってはスリルを楽しんでいた事を思い出していた。

だから、恋人やセフレに宿泊を頼めばチョロいと考えていた。なので、現彼女の雫に今の状況を話し泊めてほしいとお願いしたのだ。

そしたら

『……ダッサ!彼氏が借金持ちとか絶対無理。』

と、電話を切られてしまった。他のセフレ達も同様で蓮に借金があると分かるとみんなガラリと態度が変わってしまった。

だが、蓮の容姿とスキルはとてもいい為、セフレ達はこのままの関係を続ける方向ではあったが、今までの可愛らしい態度が一変して

上から目線でものを言い始め

“性奴隷にして飼ってあげる”

“結婚や恋人は絶対ムリ。人目に触れない様にしなきゃね!知り合いとか関わりあってるって思われたら嫌だから。けど、割り切った遊びだけなら全然いいよー。今までみたいに楽しもうね。”

“お金がないんでしょ?私の奴隷になったらお金をあげるよ”

なんて、蓮を下に見て嘲笑ってきた。それが惨めで悔しくて…だから、セフレ達はみんなこっちから切ってやった。

どいつもこいつも、クソばっかじゃないかよ!!

……最悪だっ!!!

と、結局行く宛のない蓮は、こっそり家に帰って自室でイライラ、モヤモヤしていた。


「…………クソッッッ!!!」


そして、今日あった事、今までの事を思い出しては負の感情に苛まれ、その度に「…クソッ!!」と、声を荒げては握り拳を震わせベットを叩きつける。
そんな事をループしている間に、朝になり学校へ行く時間へとなっていた。

家に居ればムシャクシャする。それよりだったら学校へ行ってる方がマシだと学校へ行くと最悪もいい所だった。

みんな、自分を見る目がいつもと違うとは感じていたが。

自分を見て、みんなヒソヒソと話しているのが聞こえる。

「家柄だけが取り柄の借金まみれが来たわよ〜!ヤダヤダ、貧乏がうつっちゃう。」

「ねえねえ、聞いた?恋人が居ながら真白嬢といいご関係だとか。他にもたくさんの女の人と関係を持っているって。」

「まだ、中一なのによくやるわね。あ!小学生の頃からだっけ?すっごぉ〜い!
今も絶望的なクズなのに、将来どうなるか想像しただけで怖いわぁ〜。」

「聞いてよ!あのクズ、何人も妊娠させては中絶をさせてたらしわよ。本当、最低だわ。さすが、借金まみれの底辺のする事は違うわね。」

「あんな暴露映像が流れて本性がバレバレだってのに、よく学校に来れるよな。俺なら、無理だわぁ〜〜〜!」

「そのくらい図太くなきゃ、あんなに女遊びはできねーよ。イケメン様は違うなぁ〜。
金が無くても女に媚びて下半身運動してりゃ、どうにでもなるんだもんなぁ〜。羨ましい限りで、俺も真似したいぜぇ〜。」

なんて、蓮を誹謗中傷して嘲笑っている。そして、ゲスの極みだと気持ち悪いとまるでバイ菌でも見るかのように距離を置かれる。

…何なんだよ…これはっ!!?

恋人だった人にも、あからさまに無視された挙げ句、早くも雫が新しく目をつけた男にアプローチしていた。
きっと、何人か自分の好みの男性を見つけ、ランク付けをして一番いいと思った相手からアプローチしているのだろう。そうでもなきゃ、こんなに早く次の相手が見つかる筈がない。
男もまんざらでは無さそうなので、早ければ今日のうちにでも恋人関係になりそうだ。

…昨日の夜までは自分達は恋人だったのに、朝のうちに雫には新しい彼氏ができそうだ。

完璧に孤立してしまった蓮は、この世にいる全ての人間が敵に思えてきた。

…俺が、お前らに何したっていうんだよ!

借金は俺が作ったもんじゃないし、セフレだって最初は向こうからアプローチしてきたんだ!

妊娠の事だって、最初は避妊はしっかりしてたんだ。…なのに、できちゃって…

それから、向こうが生で大丈夫って言う度に……。…………。

蓮が教室に入ってからが、もっと酷かった。生徒だけでなく教師までも自分を白い目で見てきて、授業中にも関わらず嫌味、嫌がらせまでしてくる始末。

蓮はこの状況に耐えられなくなって、休み時間になると逃げるように学校を飛び出して行った。

…こんなっ!!?

無理だ、こんなの耐えられないっ!!!

学校では何とか耐えられたが、学校を出た途端に涙が溢れ出てきた。

…何で、俺ばっかりこんな目にあうんだ!

急遽、家のドライバーに連絡を入れ迎えに来てもらい家に帰っても最悪だった。

家に帰るなり両親が仁王立ちで待っていて

「学校から連絡があったぞ!無断で学校を早退したようだな?」

「…しかも、何故かうちの借金がバレてしまって…仕事に差し支えが出ている。仲間だった者たちからも見放されそうだ…このままでは…」

と、家が潰れると深刻な話までしてきた。

…どうして、借金の事が周りにバレてるんだ?と、思った時にハッとした。

昨日、自分は何をした?

…そうだ。誰かに助けてほしくて、せめて話だけでも聞いてほしくて真白や雫、セフレ達に借金の話までしたんだった。

知っているのは、西園寺家当主夫婦と次期当主だが、この人達はずっと固く口を閉ざし借金の事は内緒にしてくれて今までがあった。だから、この人達ではないはず。

なら、考えられるのは真白、雫、他のセフレ達の誰か。

けど…昨日今日の短期間で、こんなにも大規模に噂が広がっているのを思えば、もしかしたら全員が噂を流した可能性がある。

…最悪だ…

自分の軽率な行動でこんな事になるなんて!

と、蓮は昨日の自分の行動を悔いた。
できるなら、昨日に戻って…いや、できるなら過去に戻って女の誘惑に乗って軽はずみに性行為をしてしまう前に戻りたい。そう、強く心から思った。

絶望的な蓮なんかお構い無しに、父親は蓮の腕を引っ張ると

「今から、西園寺家に行く!そこで、許しをもらう。貴様の愚行がバレて、昨日婚約破棄の連絡がきた。それだけは、どうあっても阻止しなければ我々は路頭に迷う事になる!」

そう言って、無理矢理に蓮を引っ張り西園寺家へと連れて行かれた。

…最悪だ…最悪だ…!

嫌だ、あんなデブスとなんか結婚したくないっ!!

前までの状況なら、あのデブスと結婚しても良かった。結婚しても別宅を作ってアイツを放置して居ないものとして扱う。
そして、俺は自由奔放に暮らすはずだった。

だけど、今の状況だと

俺は弱味を握られた頭の上がらない存在。
あのデブスに、媚びをうってご機嫌伺いをしなければならないし…世間一般的な夫婦生活を送らなきゃならない。

…俺に見合ったいい女なら全然問題ないけど、相手があのデブスって考えただけで気色悪いしどんな地獄だと思う。…本当に嫌だ!

でも…俺が、あのデブスと結婚しなきゃ…ホームレスか…或いは…

………ゾッ………!!?

………………っっっ!!!?

デブスとの結婚より、ずっとずっと酷い地獄しかないっ!!

蓮は泣き腫らしながら、父親に腕を引っ張られ引きずられるように歩く。
まだ、中学生になったばかりの蓮はまだまだ体ができてない為、大人で男な父親に強く握られ引っ張られる腕は引きちぎれそうに痛かった。

何度、「…痛いよっ!逃げないから手を離してっ!!」と、訴えかけても父親の耳には、そんな息子の悲痛な声も少しも届かなかった。

そんな状態で、西園寺家の門を通った時だった。


「おじさん、その手を離してあげなよ!」

と、勇ましい女子の声が後ろから聞こえてきた。

その声に、蓮の父親が歩みを止め「なんて、礼儀知らずの娘だ!」と怒りのままに振り返った。その声に、思わず蓮も後ろを振り向くと

……ドクン……

そこには、顰めっ面をした結が立っていた。
すると、父親は西園寺家の娘だと気がつくなりコロッと態度を変え

「これは、これは結嬢。学校はどうなされたかな?…いや、そんな事よりもこの度はうちの愚息がとんでもない愚行をはたらき申し訳なく思っている!
これからは、この馬鹿にキツく指導し直す。だから、今回の事は許してもらえないだろうか?」

そう言って、蓮の頭を強く下に押し付けた。
大人の力に負け、蓮は勢いよく地面に倒れた。そんな蓮の頭を無理矢理地面にグリグリと押し付ける父親に蓮は殺意が芽生える。
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