美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
外の騒ぎを聞きつけてだろう。家の中から、結の父親と兄が出てきた。
そして、蓮親子を見ると結同様に顰めっ面をすると
「蓮君が、怪我をしているかもしれないよ?その手を離してあげてくれないかい?九条伯爵。」
やんわりと結の父親は、蓮の頭を地面に押し付ける蓮の父親に声を掛けた。
「西園寺伯爵、この度はこの馬鹿がとんでもない愚行をはたらき申し訳なく思っている!」
今度は、結から結の父親に体を方向転換して、またも蓮の頭を地面に叩き付けた。
あまりの痛さに
「……グゥッ!!?痛っ…!!!」
思わず、蓮は声を上げた。
すると、ますます結達親子は渋い顔をした。
「どうでもいいから、息子さんから手を離してあげて下さい。話はそれからです。」
結の兄が、そう言った所でようやく蓮の父親は蓮を解放した。
そして、顔をあげた蓮に結達は不快感を露わにした。
地面に叩き付けられた蓮の額は、痛々しい擦り傷になっており血まで流れている。
どれだけの力で、未熟な子供の頭を打ちつけたのか…
しかも、かなり痛むのか蓮は片方の腕を押さえ、いつから泣いていたのか瞼が腫れあがり鳴咽混じりにしゃくりあげている。
思わず、近くにいた結は
「ちょっと、ごめんな?」
と、言って蓮が庇っている腕を巻くった。すると、その腕には見ていても痛々しくなる程の手型のついた痣が見えた。
いくら何でも、地面に頭を打ちつけるにしろ腕を強く握り引きずるにしろやり過ぎだ。もはや、虐待以外の何者でもない。
「…これは酷いな。手当するから家に入ってくれないか?」
結が心配そうに、蓮に声を掛けると
「……う、家を助け……っ…助けて…下さい…!!」
と、結の父親達に向かって、鳴咽混じりに助けをこい土下座をした。
「…話は、後で聞くから。まずは、君の手当が最優先だよ。」
結の父親は、そう言うと結の兄と目くばせをし
「私は九条伯爵と話をするから、結と颯真(そうま)は蓮君の手当をしてあげてね。」
にっこり笑って結達に話し掛けると
「分かったよ。」
結はうなづいて、蓮を支え家の中に入っていった。そして、医者である颯真により手当をしてもらっている時に、怒る父親から解放されて安心したのか蓮はポツリ…ポツリと自分の話をし始めた。
小さい頃から、両親は自分には関心がなく放任主義で寂しい思いをしてきた事。
両親の関心を引きたくて勉強や習い事を一生懸命に頑張ったけど見向きもされなかった事。
何か悪い事でもすれば、両親の気を引けると悪い事をしても金と権力を使い揉み消された。
だけど、そこで自分を少しだけど叱ってきて構ってくれた事が嬉しくて、それから悪さをする癖がついた事。
だけど、何度も悪さをするうちに呆れられまた相手にされなくなった。
そんな時に、当時の父親のセフレに誘われるがまま性行為をした時、とても柔らかくて温かいものに包まれて…その時ばかりは寂しい気持ちが埋まる気がした。
その温もりが忘れられなくて、祖父や父親の愛人やセフレから誘いを受けてはを繰り返していった。
その内に、自分も祖父母や両親を見習いセフレを作りどんどん増えていった事。
その内、しっかり避妊してもセフレの一人が妊娠した時にパニックになったが、自分が知らない内に親の金と権力でその事も揉み消されて、そのセフレも中絶してからも全然平気そうにセフレ関係を続けていた事。
それから、相手が妊娠しても何とかなると思うようになって、自分自身避妊も厳かになっていたし相手が生で大丈夫と誘ってきたら、その誘いに乗って避妊をしなかった事。
など、話してきた。
最後あたり、本当に最低最悪…マジでクズだが。その原因の元を辿れば祖父母や両親の存在があった。
蓮は、まだまだ子供なのだ。
本来親から教わるべき倫理も教えてももらえなかった、親の愛情に飢えた放置児だ。しかも、どうやら祖父母や両親は蓮がクズになるお手本を見せてきたクズofクズなようだ。
それが当たり前だと教えてこられたのだ、蓮は。
クズではあるが、蓮もまた被害者だった。
そう思ったら、子供を持つ親の身としてはとてもやるせない気持ちになる颯真だ。
結もまさか、蓮にそんな事情があったとは思っておらず酷くショックを受け悲痛な気持ちになっていた。
「……俺に興味が無くて構う事なんてなかったと思ったら、借金の形に西園寺家の末っ子と結婚しなければ我が家は終わりだって言われて…。
本当は、俺に見合う女性と結婚したい。
…こんな風に結婚だなんて嫌だけど、借金してるし西園寺家には恩恵を受け続けてるって聞いたら逆らえないだろ?」
なんか、遠回しに結を馬鹿にされた気がして、ムッとした颯真は
「まあ、その話も今までしてきた蓮君の愚行によって白紙になったから、もう無理に結と結婚しなくて大丈夫だ。」
と、ニッコリと笑顔で言ってきた。
すると、下を俯いてた蓮は勢いよく顔をあげ
「…そ、そんな事したらっ!!家は……っっっ!!!?」
見捨てないで!助けてと、悲痛な面持ちで颯真を見てきた。そこで、颯真は深いため息を吐くと
「なら、条件を出そう。」
「…条件?」
「そう。これから、一ヵ月うちが経営している病院の産婦人科の診察、オペに看護助手の助手として立ち会う事。そして、孤児院へ行って子供達の面倒を見る事。
それができたら、今までの借金を全てチャラにしてあげるよ。」
そう、言ってきた。颯真の条件の意味が分からないが、産婦人科と聞いてこれは自分に対する嫌味だと感じ不快感を露わにした。
だが、たった一ヵ月ただ産婦人科で立ち会うだけ。孤児院の子供達の面倒を見るだけで、自分の家の借金が無くなる。そう考えたらチョロいと思った。だから
「やります!やらせて下さい。一ヵ月、産婦人科の立ち会い、孤児院の子供達の面倒を見れば本当に借金が無くなるんですよね?」
即答した。
「では、さっそく今日の午後から産婦人科に行くよ。そして、これから一ヵ月ここで住み込みで、俺と仕事場に向かう事になるがいいかい?」
…え?住み込み?
と、思ったが、いまの自分の家の居心地の悪さを考えたら、とても条件がいい話に思えた。…デブスと一緒に暮らすのは気色悪いが仕方ない。
「では、学校側には長期休みを取る事にしよう。君の頑張り次第で、君が学校に戻った時には君の悪い噂はだいぶ薄くなっていると思うよ。」
そう言ってくれた颯真は、蓮にとって救世主のように思えた。
だけど、一度あんな思いをしたら、あんな学校には絶対に戻りたくはない。めちゃくちゃ怖いし不愉快だし…トラウマだ。
これから一ヵ月、結と蓮は同じ屋根の下暮さなければならくなった。お互いに、不愉快極まりない。
だが、ありがたい事に西園寺家は5階建てで屋敷が広く部屋数も多い。各階にお風呂場とトイレが設置されている。
用意された蓮の部屋は一階で、結の部屋は5階にあるので滅多に顔を合わせる事がないだろう。
食事の時は、できるだけみんな一緒という約束事がなされている一家なので、その時だけ我慢すれば問題ない。…玄関でバッタリくらいはあるだろうが。
---学校の昼休み---
「ーーーって、事があって、あのクズと一緒に住んでるんだよ。そういっても、向こうが私を毛嫌いしてるからね。食事の時以外滅多に会う事はないし、食事もさっさと済まして自分の部屋に戻っていくからね。居ないに等しいよ。」
と、昨日あった出来事をショウ達に説明する結だ。ショウ達が誰かに言いふらすって事がないと信じてるから話せる内容だ。
「…ビックリですぞ!まさか、そんな事になっていただなんて。けど、まさか九条君にそんな過去があったなど想像も出来なかったでありますが…。けど、今も置かれてる状況は変わりないどころか、借金の話まで出て悪化…悲惨という他ないでありますな。」
陽毬は、蓮の話を聞きとても可哀想で、だけど今までの蓮のクズ行動はとてもではないが許されるものではないと複雑な気持ちになった。
「昨日、九条君が学校来た時なんか、周りの反応があまりに酷すぎて見ていられなかったわ。先生達まで、あからさまな嫌味や嫌がらせしてくるんだから!
先生方や周りの人達に、何か言ってしまいたい気持ちになったけど、下手に首を突っ込むと、今度は私とのありもしない変な噂が立ちかねないと思ったら何もできなかったけど…」
フジは、教室での出来事を思い出し苦々しい顔をしながら、不味そうなお弁当を食べては渋い顔をしていた。
「……とっても可哀想だね。でも、九条君のやってきた事はダメな事で許せない気持ちもあるよね。
何より、自分と同じ人を人として見れてない。借金があるって九条君を馬鹿にして虐めてる人達と自分の考え方が一緒だって事に気付けなきゃ、このまま変わらない同じ事の繰り返しになるよ。」
と、意外にもショウは、とても厳しい事を言っていたがその通りだと結達は思った。
「…けど、本当に許せないのは九条君をここまで追い込んだ九条君のお父さんとお母さん。
だけど、九条君が少しでも変わらない限り、九条君もお父さん、お母さんと同じ道を辿る事になるね。」
そうショウは言って、怒りを含んだ悲しそうな表情をしていた。
そんなショウに桔梗は
「ショウが、そう言うならそういう運命の人なんだろうね。俺を含めて多くの人は、なかなか自分の悪い所を認めたくなくて見て見ぬふりしてしまうから。」
と、言う桔梗の言葉に、コイツは本当に自分達と同い年の12才か!?年齢偽ってないか??
そう、結とフジ、陽毬は疑問を抱いてしまった。
「そして、自分の過ちを振り返り見つめ直して、変わろうとする努力をする、それは簡単そうに思えて実はとても難しい事だからね。
俺も、頭では分かっていても変わるなんて天地をひっくり返す様な大きな事でもない限り出来ないと思うから。もしかしたら、天地がひっくり返っても変われないかもしれない。」
なくて、変わる事の難しさを言葉にしながら、ショウの頭を撫で何度もショウの頭に慰めるようにキスをしていた。
…いやいや!あんた、何才だよ!?
と、結達は心の中で強く突っ込んだ。
「……ハア。こうなると大体の予想はついていたが何度経験しても、予想と実際にその現場を見るのとでは違うな。
想定外な事が起こるのは想定していても、何が起こるかまでは具合的には想像できない。その現場を実際に見た自分の気持ちも、な。」
と、風雷は桔梗を咎めるようにジロリと見た。だが、風雷の睨みも素知らぬ顔で桔梗はショウに構っている。
そんな桔梗に、風雷は困った奴だと再度深いため息を吐いていた。
そして、風雷君もあんた達、本当に私と同い年の中学生で間違いないよね?
その年にして、悟りでも開いてる???
と、ギョッとしながら桔梗と風雷を見る結達だった。
---なんてあったのが、一週間前---
またまた、昼休みに結達はいつもと同じ様に屋上でお弁当を食べていた。
「そういえば、結ちゃん。あれから、九条君はどうしてるの?」
と、ショウは蓮の事が気になっていたらしく、結に蓮の様子を聞いてきた。
それは、ショウだけでなくフジや陽毬達もとても気になるところ。女性陣はみんな、結に注目している。
「…あ〜…。九条君は、初日こそ張り切っていたんだけどね。初日、病院での見学でショッキングな事があって精神的に相当堪えたみたいでさ。青白い顔して精気を無くしたみたいな感じだったよ。」
確か、初日は結のお兄さんに付く感じで午後から産婦人科の見学だったはず。
…一体、何があったんだろう?
と、ドギマギしながらショウ達は、結の次の言葉を待った。
「毎日、午前中は兄さんに付いて、看護師の助手の助手に扮して産婦人科の見学。年齢を誤魔化す事と九条君だって、バレない様に女装させてるらしいよ。ウケるよな!
で、午後からは孤児院に行って子供達の面倒を見るボランティア。」
九条君は、中性的だしまだまだ成長途中だから女装めちゃくちゃ似合いそう。
と、ショウ達は蓮のナース姿を思い浮かべていた。
「毎日、死にそうな顔をして帰って来てるみたいだね。たまに、思い詰めたような酷い顔をしてる日もあったよ。
我が家のルールのせいで朝食と夕食の時は、嫌でも必ず顔を合わせるからさ。
初日の夕食なんて、九条君は夕飯を見ただけで吐きそうになっていたよ。せっかくのステーキだったのに。結局その日、九条君は何も食べれなかったみたい。」
……え?
本当、何があったんだろう?
内容を知るのが怖い…
「一週間経った今も、食欲もなくて全然元気がない状態だよ。だから、元々線が細かったけど、今は不健康に痩せちゃって病人みたいになってるよ。」
と、苦笑いしている結に、みんな複雑な気持ちで聞いていた。
蓮の様子を聞く限り、壮絶な場面に直面したっぽい。確かに、病院関係や孤児院となれば色々ありそうだ。
正直、産婦人科と孤児院と言っても詳しく知らないのでなんとも言えないが。あんまり想像がつかないが色々あったんだろうと思う。
---一方の蓮は、ナース姿に女装して産婦人科で颯真の後ろで見学させられている。---
初日、張り切って颯真の見学をしようとしたが、無理矢理女装させられ…事情が事情でやも得ないが。
初っ端から、運が悪く壮絶な場面に出くわしてしまった。何かと問われれば、とても人に言えないような壮絶な事だ。
あまりの事に、蓮はショックを受け現実として受け止めきれないものだった。
あとは、性病やら生理の悩み。おめでたなど、色々あったが、やはり初っ端の壮絶なものが頭から離れない。
終盤にも、命に関わる事を見て酷くショックを受け、こんなの見てられないと逃げ出したい気持ちになった。
最後に、颯真が
「蓮君は、お盛んで色んな女性と性行為をしてたみたいだからね。念の為に、性病があるか検査してみよう。」
と、言ってきて、そんなの自分には関係ないと思い断ったが強制だよと言われ、渋々検査を受けた。
…結果、初期段階ではあったが二つも性病が見つかり治療する事となってしまった。
…絶望だ。まさか、自分が性病にかかるなんて!恥ずかしい…。
全く症状がなかったから、まさか自分が性病にかかってるなんて思いもしなかった。
性病も様々で同じ種類の性病でも男女では、症状が違う事が多いらしい。
蓮のかかった性病は、悪化すると手術、入院が必要で長く薬を飲み退院してからもしばらく通院点滴しなければならない大変な病気だったっぽい。
初期で早い段階で見つかったので注射と一週間薬を飲み続ければ治るようだ。調べて良かったねと颯真に笑顔で言われた蓮は苦笑いするしかなかった。
複雑な気持ちだが、無理矢理でも検査してもらって良かったというしかない。
だけど、自分が性病になってたなんてショックが大きい。性病もショックだし、産婦人科の見学も壮絶で精神的ダメージが大きく当分立ち直れそうにない。
もう、産婦人科に行きたくないと思うが、借金を思えば行かなくてはならない。
これを一ヵ月…堪えられるだろうか不安しかない。
次の日には、午前は産婦人科、午後から孤児院だ。
この日の産婦人科は、精神的ダメージは少なく済んだ。でも、ダメージは大きい。
だが問題は孤児院で、これもまた壮絶。子供達みんな一人一人がそれぞれ様々な問題を抱えていて、あまりの事に泣いてしまった。
中には、見てられない聞いてられない程の生い立ちの子供達も多く、自分の育った環境がまだまだマシだった。…いや、この子達に比べれば幸せだったんだと思わざる得ない。
産婦人科の見学、孤児院でボランティアをする前までは、自分ほど不幸で可哀想な人はいない。どうして、自分ばかりこんな目にあうんだと悲観的にしか思えなかった。
…知らなかった…
こんな酷い世界があるなんて…
こんな日々を過ごし、5日目には産婦人科でオペ室に連れて行かれ残酷な手術を見せられた。
だけど、それは自分がセフレ達にさせていた事。無責任だが、自分が手術する訳でもないし親が勝手に尻拭いしてくれてたから、セフレには少し悪いなという罪悪感はあったけど、そこまで深く考える事はなかった。
いくつかにちょん切られ掻き出された肉片は、しっかり性別もあり心臓も動いていた“命”だった。
どんなに小さくても、そこには未来ある命が存在していたのだ。
そう思った瞬間、蓮の心に深い罪悪感と何人もの命を奪ってしまった罪を感じ絶望した。自分はなんて恐ろしくも残酷な事をしていたんだ。
自分は、知らずに取り返しのつかない事を繰り返していたんだ。そう思うと、命を奪われた肉片が“生きたかった”“どうして?”と、蓮を責める様に見ている気がして、蓮は怖くなって悲鳴をあげ失神してしまった。
この日は、蓮が失神してしまった為に蓮の心のケアを最優先し、午後からの孤児院のボランティアは強制的にお休みだ。
次の日、蓮はショック状態から回復できない蓮だったが、それでも非情な颯真は蓮を病院へ連れて行った。
「蓮君。俺は、敢えて君に助言はしない。この経験を経て君が感じ考えた事が、そうだと思うから。」
それだけ言って、いつも通りと変わらなく蓮に接した。
そして、一週間経った頃に望まれて生まれる赤ん坊の父親になる男と一緒に出産に立ち会った。だが、とても難産でかなり時間は掛かりようやく生まれてきた赤ん坊を見て、蓮は涙を流していた。
…良かった…
生まれてこられて、良かったな…と、赤ん坊が生まれてこれた事と、命の危険性があった母親も無事だった事に安堵して大泣きして何故か、さっきまで命掛けで赤ん坊を産んだ母親と父親になったばかりの男に「ありがとうございます」と、お礼を言われ慰められるというカオス展開になっていた。
そして、幸せそうな三人を見て、色々と思う気持ちがありまた泣いてしまった。
それを見て、颯真は
「なんだか、大きな赤ん坊の父親になった気分だよ。良い子だ、蓮。君は、とても優しい良い子だよ。」
と、言い、優しい笑みを浮かべ蓮の頭を撫でた。
良い子と言われ慣れてる蓮だが、周りの人達の言葉と颯真の言葉では全然違うく思えた。
口数の少ない不器用な人だけど、颯真の優しさに蓮は心がじんわりと温かくなるのを感じた。
この時から、蓮は颯真の事を親のように慕うようになっていた。
そして、孤児院の子供達との触れ合いで色々な問題に向き合い、どうして同じ人間なのに、そんな非道で残酷な事ができるのか。
人を何だと思っているんだと憤りを感じ、悪い人間を思い浮かべたとき自分の姿が見えてしまった。
…あ…
…ドックン…
それを感じた時、蓮はまた自分に絶望してしまった。
思い出されるのは、調子に乗って周りを見下していた自分。そして、颯真の妹である結の中身も知ろうとしないで外見と学力の無さを毛嫌いし嘲笑っていた。
…その時、結はどんな気持ちだったのだろう?
少なくとも、自分は結を傷つけていた事だけは分かる。底辺のザコが自分の言動で、傷付きドン底に落ちる様子が爽快だった。ストレス発散になっていた。
そうする事で、自分が王様か何か偉い人にでもなったかのような気持ちで気分が良かった。
少しばかりの罪悪感はあれど、少しだけだ。
そんな自分が思い出され、どうしようもない居た堪れない恥ずかしい気持ちになった。
…何様だよ、俺…
…うわぁ〜…
そう思った瞬間から、蓮は家で西園寺家族をよく見て気にかけるようになった。もちろん、結の事も。
そして、蓮親子を見ると結同様に顰めっ面をすると
「蓮君が、怪我をしているかもしれないよ?その手を離してあげてくれないかい?九条伯爵。」
やんわりと結の父親は、蓮の頭を地面に押し付ける蓮の父親に声を掛けた。
「西園寺伯爵、この度はこの馬鹿がとんでもない愚行をはたらき申し訳なく思っている!」
今度は、結から結の父親に体を方向転換して、またも蓮の頭を地面に叩き付けた。
あまりの痛さに
「……グゥッ!!?痛っ…!!!」
思わず、蓮は声を上げた。
すると、ますます結達親子は渋い顔をした。
「どうでもいいから、息子さんから手を離してあげて下さい。話はそれからです。」
結の兄が、そう言った所でようやく蓮の父親は蓮を解放した。
そして、顔をあげた蓮に結達は不快感を露わにした。
地面に叩き付けられた蓮の額は、痛々しい擦り傷になっており血まで流れている。
どれだけの力で、未熟な子供の頭を打ちつけたのか…
しかも、かなり痛むのか蓮は片方の腕を押さえ、いつから泣いていたのか瞼が腫れあがり鳴咽混じりにしゃくりあげている。
思わず、近くにいた結は
「ちょっと、ごめんな?」
と、言って蓮が庇っている腕を巻くった。すると、その腕には見ていても痛々しくなる程の手型のついた痣が見えた。
いくら何でも、地面に頭を打ちつけるにしろ腕を強く握り引きずるにしろやり過ぎだ。もはや、虐待以外の何者でもない。
「…これは酷いな。手当するから家に入ってくれないか?」
結が心配そうに、蓮に声を掛けると
「……う、家を助け……っ…助けて…下さい…!!」
と、結の父親達に向かって、鳴咽混じりに助けをこい土下座をした。
「…話は、後で聞くから。まずは、君の手当が最優先だよ。」
結の父親は、そう言うと結の兄と目くばせをし
「私は九条伯爵と話をするから、結と颯真(そうま)は蓮君の手当をしてあげてね。」
にっこり笑って結達に話し掛けると
「分かったよ。」
結はうなづいて、蓮を支え家の中に入っていった。そして、医者である颯真により手当をしてもらっている時に、怒る父親から解放されて安心したのか蓮はポツリ…ポツリと自分の話をし始めた。
小さい頃から、両親は自分には関心がなく放任主義で寂しい思いをしてきた事。
両親の関心を引きたくて勉強や習い事を一生懸命に頑張ったけど見向きもされなかった事。
何か悪い事でもすれば、両親の気を引けると悪い事をしても金と権力を使い揉み消された。
だけど、そこで自分を少しだけど叱ってきて構ってくれた事が嬉しくて、それから悪さをする癖がついた事。
だけど、何度も悪さをするうちに呆れられまた相手にされなくなった。
そんな時に、当時の父親のセフレに誘われるがまま性行為をした時、とても柔らかくて温かいものに包まれて…その時ばかりは寂しい気持ちが埋まる気がした。
その温もりが忘れられなくて、祖父や父親の愛人やセフレから誘いを受けてはを繰り返していった。
その内に、自分も祖父母や両親を見習いセフレを作りどんどん増えていった事。
その内、しっかり避妊してもセフレの一人が妊娠した時にパニックになったが、自分が知らない内に親の金と権力でその事も揉み消されて、そのセフレも中絶してからも全然平気そうにセフレ関係を続けていた事。
それから、相手が妊娠しても何とかなると思うようになって、自分自身避妊も厳かになっていたし相手が生で大丈夫と誘ってきたら、その誘いに乗って避妊をしなかった事。
など、話してきた。
最後あたり、本当に最低最悪…マジでクズだが。その原因の元を辿れば祖父母や両親の存在があった。
蓮は、まだまだ子供なのだ。
本来親から教わるべき倫理も教えてももらえなかった、親の愛情に飢えた放置児だ。しかも、どうやら祖父母や両親は蓮がクズになるお手本を見せてきたクズofクズなようだ。
それが当たり前だと教えてこられたのだ、蓮は。
クズではあるが、蓮もまた被害者だった。
そう思ったら、子供を持つ親の身としてはとてもやるせない気持ちになる颯真だ。
結もまさか、蓮にそんな事情があったとは思っておらず酷くショックを受け悲痛な気持ちになっていた。
「……俺に興味が無くて構う事なんてなかったと思ったら、借金の形に西園寺家の末っ子と結婚しなければ我が家は終わりだって言われて…。
本当は、俺に見合う女性と結婚したい。
…こんな風に結婚だなんて嫌だけど、借金してるし西園寺家には恩恵を受け続けてるって聞いたら逆らえないだろ?」
なんか、遠回しに結を馬鹿にされた気がして、ムッとした颯真は
「まあ、その話も今までしてきた蓮君の愚行によって白紙になったから、もう無理に結と結婚しなくて大丈夫だ。」
と、ニッコリと笑顔で言ってきた。
すると、下を俯いてた蓮は勢いよく顔をあげ
「…そ、そんな事したらっ!!家は……っっっ!!!?」
見捨てないで!助けてと、悲痛な面持ちで颯真を見てきた。そこで、颯真は深いため息を吐くと
「なら、条件を出そう。」
「…条件?」
「そう。これから、一ヵ月うちが経営している病院の産婦人科の診察、オペに看護助手の助手として立ち会う事。そして、孤児院へ行って子供達の面倒を見る事。
それができたら、今までの借金を全てチャラにしてあげるよ。」
そう、言ってきた。颯真の条件の意味が分からないが、産婦人科と聞いてこれは自分に対する嫌味だと感じ不快感を露わにした。
だが、たった一ヵ月ただ産婦人科で立ち会うだけ。孤児院の子供達の面倒を見るだけで、自分の家の借金が無くなる。そう考えたらチョロいと思った。だから
「やります!やらせて下さい。一ヵ月、産婦人科の立ち会い、孤児院の子供達の面倒を見れば本当に借金が無くなるんですよね?」
即答した。
「では、さっそく今日の午後から産婦人科に行くよ。そして、これから一ヵ月ここで住み込みで、俺と仕事場に向かう事になるがいいかい?」
…え?住み込み?
と、思ったが、いまの自分の家の居心地の悪さを考えたら、とても条件がいい話に思えた。…デブスと一緒に暮らすのは気色悪いが仕方ない。
「では、学校側には長期休みを取る事にしよう。君の頑張り次第で、君が学校に戻った時には君の悪い噂はだいぶ薄くなっていると思うよ。」
そう言ってくれた颯真は、蓮にとって救世主のように思えた。
だけど、一度あんな思いをしたら、あんな学校には絶対に戻りたくはない。めちゃくちゃ怖いし不愉快だし…トラウマだ。
これから一ヵ月、結と蓮は同じ屋根の下暮さなければならくなった。お互いに、不愉快極まりない。
だが、ありがたい事に西園寺家は5階建てで屋敷が広く部屋数も多い。各階にお風呂場とトイレが設置されている。
用意された蓮の部屋は一階で、結の部屋は5階にあるので滅多に顔を合わせる事がないだろう。
食事の時は、できるだけみんな一緒という約束事がなされている一家なので、その時だけ我慢すれば問題ない。…玄関でバッタリくらいはあるだろうが。
---学校の昼休み---
「ーーーって、事があって、あのクズと一緒に住んでるんだよ。そういっても、向こうが私を毛嫌いしてるからね。食事の時以外滅多に会う事はないし、食事もさっさと済まして自分の部屋に戻っていくからね。居ないに等しいよ。」
と、昨日あった出来事をショウ達に説明する結だ。ショウ達が誰かに言いふらすって事がないと信じてるから話せる内容だ。
「…ビックリですぞ!まさか、そんな事になっていただなんて。けど、まさか九条君にそんな過去があったなど想像も出来なかったでありますが…。けど、今も置かれてる状況は変わりないどころか、借金の話まで出て悪化…悲惨という他ないでありますな。」
陽毬は、蓮の話を聞きとても可哀想で、だけど今までの蓮のクズ行動はとてもではないが許されるものではないと複雑な気持ちになった。
「昨日、九条君が学校来た時なんか、周りの反応があまりに酷すぎて見ていられなかったわ。先生達まで、あからさまな嫌味や嫌がらせしてくるんだから!
先生方や周りの人達に、何か言ってしまいたい気持ちになったけど、下手に首を突っ込むと、今度は私とのありもしない変な噂が立ちかねないと思ったら何もできなかったけど…」
フジは、教室での出来事を思い出し苦々しい顔をしながら、不味そうなお弁当を食べては渋い顔をしていた。
「……とっても可哀想だね。でも、九条君のやってきた事はダメな事で許せない気持ちもあるよね。
何より、自分と同じ人を人として見れてない。借金があるって九条君を馬鹿にして虐めてる人達と自分の考え方が一緒だって事に気付けなきゃ、このまま変わらない同じ事の繰り返しになるよ。」
と、意外にもショウは、とても厳しい事を言っていたがその通りだと結達は思った。
「…けど、本当に許せないのは九条君をここまで追い込んだ九条君のお父さんとお母さん。
だけど、九条君が少しでも変わらない限り、九条君もお父さん、お母さんと同じ道を辿る事になるね。」
そうショウは言って、怒りを含んだ悲しそうな表情をしていた。
そんなショウに桔梗は
「ショウが、そう言うならそういう運命の人なんだろうね。俺を含めて多くの人は、なかなか自分の悪い所を認めたくなくて見て見ぬふりしてしまうから。」
と、言う桔梗の言葉に、コイツは本当に自分達と同い年の12才か!?年齢偽ってないか??
そう、結とフジ、陽毬は疑問を抱いてしまった。
「そして、自分の過ちを振り返り見つめ直して、変わろうとする努力をする、それは簡単そうに思えて実はとても難しい事だからね。
俺も、頭では分かっていても変わるなんて天地をひっくり返す様な大きな事でもない限り出来ないと思うから。もしかしたら、天地がひっくり返っても変われないかもしれない。」
なくて、変わる事の難しさを言葉にしながら、ショウの頭を撫で何度もショウの頭に慰めるようにキスをしていた。
…いやいや!あんた、何才だよ!?
と、結達は心の中で強く突っ込んだ。
「……ハア。こうなると大体の予想はついていたが何度経験しても、予想と実際にその現場を見るのとでは違うな。
想定外な事が起こるのは想定していても、何が起こるかまでは具合的には想像できない。その現場を実際に見た自分の気持ちも、な。」
と、風雷は桔梗を咎めるようにジロリと見た。だが、風雷の睨みも素知らぬ顔で桔梗はショウに構っている。
そんな桔梗に、風雷は困った奴だと再度深いため息を吐いていた。
そして、風雷君もあんた達、本当に私と同い年の中学生で間違いないよね?
その年にして、悟りでも開いてる???
と、ギョッとしながら桔梗と風雷を見る結達だった。
---なんてあったのが、一週間前---
またまた、昼休みに結達はいつもと同じ様に屋上でお弁当を食べていた。
「そういえば、結ちゃん。あれから、九条君はどうしてるの?」
と、ショウは蓮の事が気になっていたらしく、結に蓮の様子を聞いてきた。
それは、ショウだけでなくフジや陽毬達もとても気になるところ。女性陣はみんな、結に注目している。
「…あ〜…。九条君は、初日こそ張り切っていたんだけどね。初日、病院での見学でショッキングな事があって精神的に相当堪えたみたいでさ。青白い顔して精気を無くしたみたいな感じだったよ。」
確か、初日は結のお兄さんに付く感じで午後から産婦人科の見学だったはず。
…一体、何があったんだろう?
と、ドギマギしながらショウ達は、結の次の言葉を待った。
「毎日、午前中は兄さんに付いて、看護師の助手の助手に扮して産婦人科の見学。年齢を誤魔化す事と九条君だって、バレない様に女装させてるらしいよ。ウケるよな!
で、午後からは孤児院に行って子供達の面倒を見るボランティア。」
九条君は、中性的だしまだまだ成長途中だから女装めちゃくちゃ似合いそう。
と、ショウ達は蓮のナース姿を思い浮かべていた。
「毎日、死にそうな顔をして帰って来てるみたいだね。たまに、思い詰めたような酷い顔をしてる日もあったよ。
我が家のルールのせいで朝食と夕食の時は、嫌でも必ず顔を合わせるからさ。
初日の夕食なんて、九条君は夕飯を見ただけで吐きそうになっていたよ。せっかくのステーキだったのに。結局その日、九条君は何も食べれなかったみたい。」
……え?
本当、何があったんだろう?
内容を知るのが怖い…
「一週間経った今も、食欲もなくて全然元気がない状態だよ。だから、元々線が細かったけど、今は不健康に痩せちゃって病人みたいになってるよ。」
と、苦笑いしている結に、みんな複雑な気持ちで聞いていた。
蓮の様子を聞く限り、壮絶な場面に直面したっぽい。確かに、病院関係や孤児院となれば色々ありそうだ。
正直、産婦人科と孤児院と言っても詳しく知らないのでなんとも言えないが。あんまり想像がつかないが色々あったんだろうと思う。
---一方の蓮は、ナース姿に女装して産婦人科で颯真の後ろで見学させられている。---
初日、張り切って颯真の見学をしようとしたが、無理矢理女装させられ…事情が事情でやも得ないが。
初っ端から、運が悪く壮絶な場面に出くわしてしまった。何かと問われれば、とても人に言えないような壮絶な事だ。
あまりの事に、蓮はショックを受け現実として受け止めきれないものだった。
あとは、性病やら生理の悩み。おめでたなど、色々あったが、やはり初っ端の壮絶なものが頭から離れない。
終盤にも、命に関わる事を見て酷くショックを受け、こんなの見てられないと逃げ出したい気持ちになった。
最後に、颯真が
「蓮君は、お盛んで色んな女性と性行為をしてたみたいだからね。念の為に、性病があるか検査してみよう。」
と、言ってきて、そんなの自分には関係ないと思い断ったが強制だよと言われ、渋々検査を受けた。
…結果、初期段階ではあったが二つも性病が見つかり治療する事となってしまった。
…絶望だ。まさか、自分が性病にかかるなんて!恥ずかしい…。
全く症状がなかったから、まさか自分が性病にかかってるなんて思いもしなかった。
性病も様々で同じ種類の性病でも男女では、症状が違う事が多いらしい。
蓮のかかった性病は、悪化すると手術、入院が必要で長く薬を飲み退院してからもしばらく通院点滴しなければならない大変な病気だったっぽい。
初期で早い段階で見つかったので注射と一週間薬を飲み続ければ治るようだ。調べて良かったねと颯真に笑顔で言われた蓮は苦笑いするしかなかった。
複雑な気持ちだが、無理矢理でも検査してもらって良かったというしかない。
だけど、自分が性病になってたなんてショックが大きい。性病もショックだし、産婦人科の見学も壮絶で精神的ダメージが大きく当分立ち直れそうにない。
もう、産婦人科に行きたくないと思うが、借金を思えば行かなくてはならない。
これを一ヵ月…堪えられるだろうか不安しかない。
次の日には、午前は産婦人科、午後から孤児院だ。
この日の産婦人科は、精神的ダメージは少なく済んだ。でも、ダメージは大きい。
だが問題は孤児院で、これもまた壮絶。子供達みんな一人一人がそれぞれ様々な問題を抱えていて、あまりの事に泣いてしまった。
中には、見てられない聞いてられない程の生い立ちの子供達も多く、自分の育った環境がまだまだマシだった。…いや、この子達に比べれば幸せだったんだと思わざる得ない。
産婦人科の見学、孤児院でボランティアをする前までは、自分ほど不幸で可哀想な人はいない。どうして、自分ばかりこんな目にあうんだと悲観的にしか思えなかった。
…知らなかった…
こんな酷い世界があるなんて…
こんな日々を過ごし、5日目には産婦人科でオペ室に連れて行かれ残酷な手術を見せられた。
だけど、それは自分がセフレ達にさせていた事。無責任だが、自分が手術する訳でもないし親が勝手に尻拭いしてくれてたから、セフレには少し悪いなという罪悪感はあったけど、そこまで深く考える事はなかった。
いくつかにちょん切られ掻き出された肉片は、しっかり性別もあり心臓も動いていた“命”だった。
どんなに小さくても、そこには未来ある命が存在していたのだ。
そう思った瞬間、蓮の心に深い罪悪感と何人もの命を奪ってしまった罪を感じ絶望した。自分はなんて恐ろしくも残酷な事をしていたんだ。
自分は、知らずに取り返しのつかない事を繰り返していたんだ。そう思うと、命を奪われた肉片が“生きたかった”“どうして?”と、蓮を責める様に見ている気がして、蓮は怖くなって悲鳴をあげ失神してしまった。
この日は、蓮が失神してしまった為に蓮の心のケアを最優先し、午後からの孤児院のボランティアは強制的にお休みだ。
次の日、蓮はショック状態から回復できない蓮だったが、それでも非情な颯真は蓮を病院へ連れて行った。
「蓮君。俺は、敢えて君に助言はしない。この経験を経て君が感じ考えた事が、そうだと思うから。」
それだけ言って、いつも通りと変わらなく蓮に接した。
そして、一週間経った頃に望まれて生まれる赤ん坊の父親になる男と一緒に出産に立ち会った。だが、とても難産でかなり時間は掛かりようやく生まれてきた赤ん坊を見て、蓮は涙を流していた。
…良かった…
生まれてこられて、良かったな…と、赤ん坊が生まれてこれた事と、命の危険性があった母親も無事だった事に安堵して大泣きして何故か、さっきまで命掛けで赤ん坊を産んだ母親と父親になったばかりの男に「ありがとうございます」と、お礼を言われ慰められるというカオス展開になっていた。
そして、幸せそうな三人を見て、色々と思う気持ちがありまた泣いてしまった。
それを見て、颯真は
「なんだか、大きな赤ん坊の父親になった気分だよ。良い子だ、蓮。君は、とても優しい良い子だよ。」
と、言い、優しい笑みを浮かべ蓮の頭を撫でた。
良い子と言われ慣れてる蓮だが、周りの人達の言葉と颯真の言葉では全然違うく思えた。
口数の少ない不器用な人だけど、颯真の優しさに蓮は心がじんわりと温かくなるのを感じた。
この時から、蓮は颯真の事を親のように慕うようになっていた。
そして、孤児院の子供達との触れ合いで色々な問題に向き合い、どうして同じ人間なのに、そんな非道で残酷な事ができるのか。
人を何だと思っているんだと憤りを感じ、悪い人間を思い浮かべたとき自分の姿が見えてしまった。
…あ…
…ドックン…
それを感じた時、蓮はまた自分に絶望してしまった。
思い出されるのは、調子に乗って周りを見下していた自分。そして、颯真の妹である結の中身も知ろうとしないで外見と学力の無さを毛嫌いし嘲笑っていた。
…その時、結はどんな気持ちだったのだろう?
少なくとも、自分は結を傷つけていた事だけは分かる。底辺のザコが自分の言動で、傷付きドン底に落ちる様子が爽快だった。ストレス発散になっていた。
そうする事で、自分が王様か何か偉い人にでもなったかのような気持ちで気分が良かった。
少しばかりの罪悪感はあれど、少しだけだ。
そんな自分が思い出され、どうしようもない居た堪れない恥ずかしい気持ちになった。
…何様だよ、俺…
…うわぁ〜…
そう思った瞬間から、蓮は家で西園寺家族をよく見て気にかけるようになった。もちろん、結の事も。