美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
蓮が西園寺家に居候してから一週間経った頃だった。結は風雷からのテレパシーを受け、今から三日後の学校終わりにハナという人物に会う事となり
今、目の前には
白金髪のゴリマッチョな男性を目の前に、学校から離れたファミレスの椅子に向かい合う形で座っていた。
…バックン、バックン、バックン!
「はじめましてだね。私の名前は、早乙女 花(さおとめ はな)だよ。いきなり、呼びつける形になってしまって、ごめんな。だけど、来てくれて嬉しいよ。」
と、声は勇ましいが女性の声をしている。
よくよく見れば、ハナはセーラー服を着ておりドーンと立派なオッパイが飛び出ていた。
優しげな平凡顔で男性か女性か悩む顔だが、体が180cmは軽く超えてるだろうか?ゴリマッチョ、かつ言動がガサツだったので一瞬だけ男子だと思ってしまった。
しかし、直ぐにメロンくらいあるだろうか素晴らしい巨乳に目がいき、まさか!?と、素知らぬ顔をしつつテーブル下を覗けば…ガニ股で大きく足は開いているが…スカートを履いてる。
…いや、上着を見ても普通にセーラー服だ。
だけど、上着のセーラー服を着ていただけでは、ハナの容姿は頭を混乱させるくらいに性別判断が難しかったのだ。
そして、当然のようにハナの横には風雷が座っており、見知った顔が見えるだけ幾分かは緊張がほぐれた。
「…は、はじめまして!西園寺 結です。」
と、緊張しながら結はペコっと頭を下げた。
そして、ファミレスという慣れない場所に更に緊張が増す。こう見えて、結は生粋のお嬢様だ。ファミレスという庶民が来る場所には入った事がなかった。
入店時、出迎えがない事やウェイターが椅子を引かない事にも驚いたし、自分が知っている食事のマナーとは全然違う。
ほとんど放置で自分でやらなければならない、座っていても、ハナはもちろん、他のお客さん達の行儀の悪さなど色々と目に付いてしまう。テーブル席も狭いし、なんか色々と安っぽい気がする。何もかもが新鮮で驚きしかない。
飲み物が運ばれてきても、飲むのに少し抵抗があった。
…え?
この陶器、オモチャ?
結構汚れてない?
全体的に、こんな野蛮で大丈夫なの?
…って、おいおい…!
一般庶民のハナさんは分かるが、何故風雷君はこんなにもファミレスに馴染んでんだ?
まるで、庶民の生活を経験した事があるかのようだよ。
と、ファミレスに慣れてる風の風雷に驚きを隠せず凝視してしまった。その視線に気が付き
「なに?」
風雷は、何があったのかと聞いてきた。
「…いや、なんだか慣れてるなと思って…」
結は、まさか庶民だとか野蛮そうだとか差別しているようで口にできる訳もなく、何て言ったらいいのかしどろもどろになりながら何とか言葉を出した。すると
「ああ、なるほどな。俺は“仕事上”だよ。
研修時代に、野宿でサバイバル生活を何度も経験してるし、ハナと一緒に行動するとなれば必然的に一般向けの生活になるからな。
何より、俺の仕事は一般市民の生活を知らなければやっていけない仕事だ。」
と、答えてきた。
…意味が分からない。
確かに、風雷君は学業と仕事を両立していると聞いた事があるけど…野宿とかサバイバル生活?一般市民の事をよく知らなければならない仕事?
いやいや!そんなヒントじゃ、全然分からないよ!!
「ここからが本題だよ、結。」
と、いきなりの呼び捨てに驚きつつも、本題だと言われて結はドキっとした。
すると、ハナはチラッと風雷に目くばせして、それに風雷はうなづいていた。なんだか、それを見ただけでも緊張が増す。
「これは絶対に秘密の事だ。どんなに仲がいい友達でも話しちゃいけないよ?その約束を前提に話したいけど、大丈夫かい?」
そう言ってくるハナに、言葉遣いがちょっと自分に似てるなと思いつつ緊張した面持ちでうなづいた。
「いきなりの話だけど、私は帝王直属の禁衛騎士団長だ。そして、風雷は禁衛騎士副団長。
って、言っても最近就いたばっかだし、まだ学生って事で私も風雷も今は“代理”って形になるけどね。高校まで卒業したら、代理でなくなる事は確定済みだよ。」
アッハハ!と、豪快に笑いながら、とんでもない告白をしてきたハナ。
……え!?
確か、ハナさんって中学校三年生だよね?
14才で、帝王直属の禁衛騎士団長!!?
…いや、まだ“代理”か。
…いやいや!!それにしたって、代理だろうがとんでもない話だよ!!
学校卒業したら、確実に帝王直属禁衛騎士団長、副団長なるんだよね?
……は???
風雷君なんて、私達と同じ中学校一年生の12才だよね?
風雷君が、副騎士団長とか…
おママごとじゃないんだから、そんな馬鹿な話がある訳がないじゃん!
帝王直属の禁衛騎士団長っていったら各国の王様達より上の地位だし、副騎士団長は各国の王様達と同等の地位だ。
こんな若さで、帝王直属の禁衛騎士団長と副騎士団長になるとか有り得ないと、結は疑いの眼差しで二人を見ていた。
ドッキドッキドッキ!!
キョットーーーンとする結に、ハナはアッハハ!!と、笑い
「その反応、いいねー!分かるよ、分かる気がする。こんな若造に、しかも女が帝王直属の騎士団長ってあり得ないよな。挙げ句、副騎士団長がまだ12才だってのもね。
私だって、自分の事なのに信じがたい話だけど、そうなんだよなぁ。ビックリするよな!私もビックリだ!アッハハ!」
ハナの反応を見る限り、どうやらガチの話っぽい。信じられないような話だけど。
「結に聞きたい事があってね。風雷から軍に入隊したいって話を聞いてね。」
と、言われ結はドキッとしながらも
「…はい。私の希望は、将来帝王様直属の軍に入隊したいと思ってます。」
緊張しながらも、自分の一番の希望をハナに告げた。
「そうか。そんな、お前に最大のチャンスを与えようって思ってね。」
「……チャンス…ですか?」
まだまだ、ハナの話に頭が追いついてない結は、ポカーンとしたままハナの話を聞いている。
「ああ、チャンスだ。実はな、急だが二日後に入隊希望者を集めた12才以上、18才以下で行う軍の強化合宿が5日間ある。
その強化合宿は、入隊希望者の試験や希望する配属先などに大きく関わる大事な合宿だよ。どうだい?参加してみないかい?」
と、すごい誘いを受け思ってもない大チャンスに結の心は踊ったが、しかし結には大きな問題があった。
「…すみません、直ぐには返事できないです。両親の許可を得ないと…」
なんて、言ったが女の子が格闘技だなんてと難色を示す両親が、この合宿を快く思わないだろう。大反対するのが目に見えている。
一瞬、希望に満ちた表情を浮かべたが、直ぐに表情を落とした結に
「結の両親の話も聞いてる。だが、敢えて聞こう。結にとっての夢は、その程度のものなのかい?なら、そこで終わりだよ。」
そう、ハナは言って席を立った。
そして
「あと、二日ある。その間に、自分の気持ちと向き合ってみてくれ。結の決断を尊重するよ。私は、これから学校の追試の勉強があるからね、アッハハ!ここで、失礼するよ。
時間を取らせて、すまなかったね、ありがとう。」
と、言葉を残して
「…追試って、笑い事じゃないからね?家に帰ったら、みっちり勉強だから覚悟しといて。
ハナは能天気過ぎるんだよ。テスト勉強の時、逃げ出して遊んでばっかいたから、こんな事になってるの分かってる?」
なんて小言をいう風雷と共に
「すまん、すまん。アッハハ!」
「〜〜〜っっっ!!!?もうっ!だから、笑い事じゃないんだって!!」
賑やかに、ファミレスを出て行ってしまった。
ハナの前だと、雰囲気も言葉遣いも柔らかくなる風雷に驚いたが。なんだか、あの風雷が可愛らしく見えてしまうのは普段とのギャップがあるからだろう。
ハナ達が去ってから、緊張の糸が切れ気の抜けた結はヘナヘナァ〜と体の力が抜け椅子にへたり込んでしまった。
…ドキドキドキ…!
そして、考えた。
確かに、このままでは親の言いなり。
結婚こそ女の幸せだと考えている面食いの両親に、どこかのイケメンの令息が犠牲となり結と結婚させられるのだろう。
自分で言うのも何だが、モテない、勉強苦手、マナーやダンス、駆け引きや話術などと言った上流層に必要なものの殆どが苦手な結と結婚させられるなんて可哀想だと思う。
…虚しく悲しい気持ちになるが、蓮にハッキリと言われたあの日から結は、人の気持ちなんてそんなもんだと自分の恋愛に諦めがついた。
諦めがついたというより、強制的に自分の心に蓋をした。
もし、仮にだ。自分とどこかの令息と結婚したとしよう。
そこで見えてくるのは、冷え切った夫婦生活だ。きっと、蓮のように結を毛嫌いして、一緒にいるのが苦痛でお互いに酷い生活を送るのだろう。
そう思うとゾッとしたし、相手に申し訳ない気持ちになる。
だけど、結を大切に愛情たっぷりに育ててくれた両親の気持ちを裏切りたくはない。
でも、自分は将来なりたいものがある。
結はとても悩み葛藤している。
…せっかくの大チャンスが舞い込んでるってのに、チャンスを棒に振るような事はしたくない。けど、両親の事を考えると心苦しい。
そんな結の頭に響くのはハナの“結にとって自分の夢は、その程度なのかい?なら、そこで終わりだよ”と、いう言葉。
両親には申し訳ないが、自分の将来がかかっている。何がなんでも説得しないと!
そう、強く決心する結だ。
そして、父親が仕事から帰って来るのをソワソワ、ドキドキしながら待ち、父親が帰って来る音が聞こえると自室からすっ飛んで父親の前に向かった。
「おや?珍しいね、お出迎えかい?」
と、結に気が付いた父親が嬉しそうに声を掛けてきた。こんな反応されると、これから話す内容が喋りづらい。結は、ズキズキ痛む心に叱咤して
「…あ、あのさ。お父さんとお母さんに話があるんだけど。」
緊張の面持ちで声を出す結に、何かを感じとったのか父親は
「分かったよ。今、私服に着替えらお母様と一緒に応接間に行くから、先に行っててくれるかな?」
と、優しい笑みを崩さないまま先に応接間に行ってるよう伝えた。
「…う、うん。」
結はドキドキしながら応接間に入り父親と母親を待った。使用人が結の好きなジュースとお菓子を用意してくれたが、とてもではないが口に入れる事ができなかった。
そして、いよいよ父親と母親が応接間に入り、結と向き合うように椅子に座ると
「…あらあら。珍しいわね、結の好物なのにまだ手をつけてないなんて…。それに、今日は姿勢がいいのね?…どうしたの?体調が悪いの?」
いつもと様子の違う結を心配し母親がオロオロし始めている。
「我々に話があるんだよね?どんな話かな?」
父親は、大丈夫だよと母親に声を掛けながら、結に聞いてきた。
ドッキン、ドッキンッ…!!!
ついに、きてしまったーーーーーッッッ!!!
と、結は緊張しながら
「…じ、実はさ!私、将来の夢があってさ。
難しい事ではあるだろうけど、帝王様直属の軍に入隊するのが夢なんだよね。
…そ、それでさ。その夢の登竜門って言われてる軍の合宿が二日後にあるらしいんだ。それに、参加したいんだけどっ!…だ、ダメかな?」
膝の上にギュッと握り拳を作り、口早に言い切った夢は
…言った、遂に言ってしまった。
と、バックン、バックンと強く心臓を打ち付ける音が聞こえる。結が将来の夢、合宿の話をした時、母親は目を大きく見開いて血の気が引きフラッと椅子の背もたれに寄り掛かった。
父親は、多少驚いた顔をして少し考える素振りを見せると
「結は、格闘技が好きなのは知っていたけれど将来の夢までは知らなかったなぁ。
だけど、軍の合宿が二日にあるんだって?いきなりな話だよね。もっと、早くに我々に相談するべきではなかったのかな?」
そう、結に聞いてきた。
「…あ、いや…!今日、軍の合宿の話を知ったんだ。…将来の夢を話さなかったのは…お父さんとお母さんが、悲しむと思ったから言えなかった。
…だって!お父さんとお母さんは、将来私に結婚してほしいんだろ?格闘技とか女の子のする事じゃないって、嫌な顔してただろ?」
と、苦しそうな表情を浮かべながら訴える結に、父親と母親は驚いた表情をして少し悲しそうな顔をしていた。
「…結にそんな表情をさせてしまう程、我々は結の気持ちを抑え込んでしまっていたんだね。
だけど、結の言う通り。私は結には将来、幸せな家庭を持ってほしいと思っているよ。それが、女性にとっての一番の幸せだと考えているからね。
それに、女性が戦う姿なんて痛ましくて見ていられないよ。」
「私もお父様と同じ意見よ。結は女の子なのよ?そんな、恐ろしい所になんて行ってほしくないわ。それだけじゃないわ。
軍事ごとや何かしらの競技では、まだまだ女性を軽視して差別してる人達も多いと私は感じてるわ。それに、どうあがいても力や体力では男性に敵わない。女性だというだけで虐められるかもしれない。
私の可愛い結が、そんな恐ろしい所に行くと考えただけで私は倒れてしまいそうになるわ。…だから、そんな危険な事はやめてほしいの。」
父親と母親は必死になって自分の気持ちを話し、遂には母親はハラハラと涙を流していた。
…ズキ…
まさか、両親が自分を思ってこんなにも考えて想ってくれていた事に結は驚いたし、母親を泣かせてしまって申し訳ない気持ちになった。
だけど、ここで折れてしまっては絶望しかない自分の未来しか見えない。何より、自分には夢がある。自分の腕っぷしがどこまで通用するにか試したい気持ちがかなり大きい。
だから格闘技の選手でもいいが、帝王直属の軍や王直属の軍のパレードを見た時にカッコイイ!!と、思ったのがキッカケ。
単純で安易な考えだとは思うが、カッコイイ!いつか、自分もあの中に入りたい!!と、心が躍り、いつしか結のなりたい夢にまで膨れ上がっていったのだ。
今、改めて考えると、幼稚な思いや考えだとは思うが、軍は具体的にどんな活動をするのかという興味と単純にカッコイイイメージがあってやってみたいという好奇心が強い。
「…けど、私は結婚したくないよ。どうせ、恋愛や結婚なんてさ、見たくれと外面で判断するんだろ?じゃあさ。私みたいに、外見が悪いわ男に好かれるような性格もスキルもない女はどうなるの?無理に自分を偽ったって、すぐにボロは出るよね?」
と、結は初めてしっかりと自分の内に秘めた考えや気持ちを両親に伝えた。
「…結っ!?あなたは、何て事を言うの?結は、かわいいわよ!!どうして、そんなに自分を下げる話をするの?
それに、まだ中学校一年生でしょ?誕生日もまだの12才。これからなのに、どうして今から恋愛を諦めてしまうの?大丈夫よ!」
「そうだよ、結。お母様の言う通りだよ。
結が幸せな結婚できるように、私とお母様が結にピッタリな素敵な男性を見つけるから安心してね。今回は、相手を見誤ってしまったけど、次こそは本当に素敵な男性を見つけるから大丈夫だよ。」
両親の言葉に、結はシラけた気持ちになる。
結の事を可愛いと言っておきながら、結にピッタリな男性を両親が探すという。
これは、なんとなくだが結でも察しがつく。
おそらくだが両親は、自分達は結の事を可愛いと思っているが世間一般は違う。
言い方は悪いが
だから、モテない可哀想な結に両親がいい男を用意してプレゼントしてあげようという粋な計らいのつもりなのだろうと。
政略結婚とか、そんなものはこの両親は考えていない。だって、兄と姉は恋愛結婚だから。
何より、両親も恋愛結婚で両親も兄、姉も結婚生活が上手くいっていて幸せっぽい。
自分達が幸せだから、結にもその幸せを知ってほしいと思っている節がある。
恋愛や結婚は、とても良いもので幸せなんだと。
そんな両親が、政略結婚なんて考えるとは思えない。結と婚約の話を持ちかけられた相手にとっては違うと思うが。相手にとったら政略結婚の何者でもないだろう。
両親は、モテなく将来結婚できないであろう娘を案じ焦りのあまり暴走しているのだろうと思う。
だが、両親は結に惜しみない愛情を注ぎ“かわいい”と、育ててくれている。
両親のいう“かわいい”は、親のよく目なのは分かっているが両親にとっては結は本当に“かわいい”と、思ってくれているみたいだ。それが、とても伝わってくる。
…とても、複雑な気持ちだ。
「…あのさ。お父さんとお母さんが私の事を思ってくれてるのは分かるけど、お父さんとお母さんが探して見つけてくれた相手はどうかな?
別に好きでもない女と婚約、結婚って、凄く嫌な事だと思うよ?それこそ、相手にとっては政略結婚で愛も何もない、お金か何か家の為だけのお飾り結婚だって思う。
そんな結婚はさ。お互いに冷え切った夫婦生活になると思うし、相手は美人な人と浮気すると思うよ。」
と、蓮との婚約関係を思い返して、結は両親にごもっともな話をした。結の話を聞いて、両親は何とも言えない複雑そうな表情をし
「……結が、そこまで考えていたなんて。
だけど、結が言ってる通りになるとは限らないよ。相手は、結と過ごすうちに結の良さを分かってくれるはずだよ?結は、とても良い子だからね。」
「そうよ!結はとっても可愛い、私達の自慢の娘なのよ。一緒にいて、結の良さに気付けないはずがないわ!」
と、何か夢見るように話す両親に頭を抱えながら
「そんな都合のいい話なんてないと思うよ。周りを見ても元婚約者の事にしろ、みんなとにかく見た目重視だよ。
みんな、見た目で判断してるし、それから女の子らしい立ち振る舞いを求めてるように見えるよ。
私みたいにモテない女子は、異性からは酷い扱いされるだけだからね?同じ人間とは見てもらえない、デブスだって差別を受けるんだ。中身もクソもあったもんじゃない。
それでも、さっき言った言葉を私に言えるの?」
結の話を聞いて、両親はかなりショックを受けた顔をしていた。
容姿だけで、異性から同じ人間扱いされず差別されるなんて…
そんな両親を見ながら、結は
どういう経緯でそうなったのか分からないけど。物凄いイケメンが、容姿がちょっと残念な女の子を溺愛してるって例外中の例外はあるが、これは言わないでおこうと思った。
こんなの宝くじの一等賞を当てる事より難しい稀中の稀な事だと思うから。
こんな話してしまったら、この両親の事だ。数%のほんの僅かな確率に掛けて今まで通り頑張ってしまうだろう。
それは阻止しなければならない。だから、敢えてこの話だけはお口チャックだ。
しばらくの沈黙が続き、父親がお茶を一口飲み一息つくと
「見た目とか云々ではなくて、結は本当に良い子だし可愛いらしい女の子だと私達家族は知っているよ。
そんな結の魅力に気付けない馬鹿どもが多いという話は理解したくはないけど、そんな愚かな人間達が多いという事は分かったよ。そして、結が最高峰の軍に入隊したいという夢があるという事も。」
そう、父親は前置きをして
「合宿に参加に行っていいよ。」
と、結の合宿参加を許可してくれた。
「…あ、あなたっっっ!!!?」
……え!?
マジで、許可してくれるの?
説得するのに、もっと時間がかかると思ったし最悪、両親に黙って合宿に参加しようと思っていた結は、目を輝かせ
「…あ、ありがとっ!!」
と、喜びの声をあげた。
「ただし、おそらく帝王または王配下における軍に入隊するにあたって、今回の合宿だけでなく研修生として定期的に何らかの訓練が行われるはずだよ。
…そうだね。一年、その全ての訓練に参加してみて、それでも軍に入隊したいというのであれば、私は結の夢を全力で応援しよう。」
そう言ってきた父親に、結はパァァッ!と、顔が明るくなり
「お父さん!ありがとう!私、頑張るね!!」
と、結は嬉しそうに飛び跳ねながら自分の部屋に戻っていった。
「こら!結っ!?レディーが家の中、走っちゃダメでしょ!!」
なんて、母親の声も耳に入らなかったようで、たまに堪えきれない笑い声を出しながら浮かれ調子で自室のある5階まで物凄いスピードで駆け上がって行った。
そんな結の様子を見て
「…結のあんなに嬉しそうな顔…もう、何年も見た事がなかったわ。」
と、母親は複雑そうな表情で結の後ろ姿を見送っていた。
「…だけど、結の気持ちは尊重したい気持ちはあるけど、やっぱり私は反対よ。だって、女の子がそんな危険な所に行って怪我だらけになるなんて想像もしたくないわ。」
「そこは大丈夫だよ。軍の訓練生となるが、訓練や合宿、現地での補助活動など、あまりに過酷過ぎて、どんな屈強な男でもリタイアする程らしい。
そんな恐ろしい所で、女の子でしかもお嬢様育ちの結がやっていける訳がない。
だけど、結は王配下の軍に強い憧れを抱いている。だから、自分の思い描く理想と現実をむざむざと見せつけられる事になるだろうね。
私達は結が、軍の夢を諦めて戻ってきたら心のケアをしっかりサポートしようね。」
「…そうね。結の性格柄、自分が実際に体験してみないと納得できないものね。
早めに、自分には無理だと分かって諦めてほしいわ。…はあ、こんな命と隣り合わせの危険な仕事でなかったら、いくらでも結の夢は応援できたのに…これは、とてもではないけど私は応援できないわ。」
と、両親はどうせ、お嬢様育ちの結には軍の訓練や現地の補助活動など、とても耐えられないとにらんでいた。
だから、結に自分で納得して夢を諦めてもらう為に、敢えて条件付きで軍の強化合宿の参加を許可した。
夢にやぶれて、しばらく落ち込むだろうがそこは辛抱強く我々夫婦が支え、新たな夢を一緒に探すサポートをしたいと考えていた。
もちろん、結の結婚も諦めてはいない!
きっと、結の可愛さや良さを分かって好きになってくれる人は必ず居るはずだ!と。
“あの子”の分まで、…いや、それ以上に結を幸せにしなければと両親は胸に強く誓っている。
今、目の前には
白金髪のゴリマッチョな男性を目の前に、学校から離れたファミレスの椅子に向かい合う形で座っていた。
…バックン、バックン、バックン!
「はじめましてだね。私の名前は、早乙女 花(さおとめ はな)だよ。いきなり、呼びつける形になってしまって、ごめんな。だけど、来てくれて嬉しいよ。」
と、声は勇ましいが女性の声をしている。
よくよく見れば、ハナはセーラー服を着ておりドーンと立派なオッパイが飛び出ていた。
優しげな平凡顔で男性か女性か悩む顔だが、体が180cmは軽く超えてるだろうか?ゴリマッチョ、かつ言動がガサツだったので一瞬だけ男子だと思ってしまった。
しかし、直ぐにメロンくらいあるだろうか素晴らしい巨乳に目がいき、まさか!?と、素知らぬ顔をしつつテーブル下を覗けば…ガニ股で大きく足は開いているが…スカートを履いてる。
…いや、上着を見ても普通にセーラー服だ。
だけど、上着のセーラー服を着ていただけでは、ハナの容姿は頭を混乱させるくらいに性別判断が難しかったのだ。
そして、当然のようにハナの横には風雷が座っており、見知った顔が見えるだけ幾分かは緊張がほぐれた。
「…は、はじめまして!西園寺 結です。」
と、緊張しながら結はペコっと頭を下げた。
そして、ファミレスという慣れない場所に更に緊張が増す。こう見えて、結は生粋のお嬢様だ。ファミレスという庶民が来る場所には入った事がなかった。
入店時、出迎えがない事やウェイターが椅子を引かない事にも驚いたし、自分が知っている食事のマナーとは全然違う。
ほとんど放置で自分でやらなければならない、座っていても、ハナはもちろん、他のお客さん達の行儀の悪さなど色々と目に付いてしまう。テーブル席も狭いし、なんか色々と安っぽい気がする。何もかもが新鮮で驚きしかない。
飲み物が運ばれてきても、飲むのに少し抵抗があった。
…え?
この陶器、オモチャ?
結構汚れてない?
全体的に、こんな野蛮で大丈夫なの?
…って、おいおい…!
一般庶民のハナさんは分かるが、何故風雷君はこんなにもファミレスに馴染んでんだ?
まるで、庶民の生活を経験した事があるかのようだよ。
と、ファミレスに慣れてる風の風雷に驚きを隠せず凝視してしまった。その視線に気が付き
「なに?」
風雷は、何があったのかと聞いてきた。
「…いや、なんだか慣れてるなと思って…」
結は、まさか庶民だとか野蛮そうだとか差別しているようで口にできる訳もなく、何て言ったらいいのかしどろもどろになりながら何とか言葉を出した。すると
「ああ、なるほどな。俺は“仕事上”だよ。
研修時代に、野宿でサバイバル生活を何度も経験してるし、ハナと一緒に行動するとなれば必然的に一般向けの生活になるからな。
何より、俺の仕事は一般市民の生活を知らなければやっていけない仕事だ。」
と、答えてきた。
…意味が分からない。
確かに、風雷君は学業と仕事を両立していると聞いた事があるけど…野宿とかサバイバル生活?一般市民の事をよく知らなければならない仕事?
いやいや!そんなヒントじゃ、全然分からないよ!!
「ここからが本題だよ、結。」
と、いきなりの呼び捨てに驚きつつも、本題だと言われて結はドキっとした。
すると、ハナはチラッと風雷に目くばせして、それに風雷はうなづいていた。なんだか、それを見ただけでも緊張が増す。
「これは絶対に秘密の事だ。どんなに仲がいい友達でも話しちゃいけないよ?その約束を前提に話したいけど、大丈夫かい?」
そう言ってくるハナに、言葉遣いがちょっと自分に似てるなと思いつつ緊張した面持ちでうなづいた。
「いきなりの話だけど、私は帝王直属の禁衛騎士団長だ。そして、風雷は禁衛騎士副団長。
って、言っても最近就いたばっかだし、まだ学生って事で私も風雷も今は“代理”って形になるけどね。高校まで卒業したら、代理でなくなる事は確定済みだよ。」
アッハハ!と、豪快に笑いながら、とんでもない告白をしてきたハナ。
……え!?
確か、ハナさんって中学校三年生だよね?
14才で、帝王直属の禁衛騎士団長!!?
…いや、まだ“代理”か。
…いやいや!!それにしたって、代理だろうがとんでもない話だよ!!
学校卒業したら、確実に帝王直属禁衛騎士団長、副団長なるんだよね?
……は???
風雷君なんて、私達と同じ中学校一年生の12才だよね?
風雷君が、副騎士団長とか…
おママごとじゃないんだから、そんな馬鹿な話がある訳がないじゃん!
帝王直属の禁衛騎士団長っていったら各国の王様達より上の地位だし、副騎士団長は各国の王様達と同等の地位だ。
こんな若さで、帝王直属の禁衛騎士団長と副騎士団長になるとか有り得ないと、結は疑いの眼差しで二人を見ていた。
ドッキドッキドッキ!!
キョットーーーンとする結に、ハナはアッハハ!!と、笑い
「その反応、いいねー!分かるよ、分かる気がする。こんな若造に、しかも女が帝王直属の騎士団長ってあり得ないよな。挙げ句、副騎士団長がまだ12才だってのもね。
私だって、自分の事なのに信じがたい話だけど、そうなんだよなぁ。ビックリするよな!私もビックリだ!アッハハ!」
ハナの反応を見る限り、どうやらガチの話っぽい。信じられないような話だけど。
「結に聞きたい事があってね。風雷から軍に入隊したいって話を聞いてね。」
と、言われ結はドキッとしながらも
「…はい。私の希望は、将来帝王様直属の軍に入隊したいと思ってます。」
緊張しながらも、自分の一番の希望をハナに告げた。
「そうか。そんな、お前に最大のチャンスを与えようって思ってね。」
「……チャンス…ですか?」
まだまだ、ハナの話に頭が追いついてない結は、ポカーンとしたままハナの話を聞いている。
「ああ、チャンスだ。実はな、急だが二日後に入隊希望者を集めた12才以上、18才以下で行う軍の強化合宿が5日間ある。
その強化合宿は、入隊希望者の試験や希望する配属先などに大きく関わる大事な合宿だよ。どうだい?参加してみないかい?」
と、すごい誘いを受け思ってもない大チャンスに結の心は踊ったが、しかし結には大きな問題があった。
「…すみません、直ぐには返事できないです。両親の許可を得ないと…」
なんて、言ったが女の子が格闘技だなんてと難色を示す両親が、この合宿を快く思わないだろう。大反対するのが目に見えている。
一瞬、希望に満ちた表情を浮かべたが、直ぐに表情を落とした結に
「結の両親の話も聞いてる。だが、敢えて聞こう。結にとっての夢は、その程度のものなのかい?なら、そこで終わりだよ。」
そう、ハナは言って席を立った。
そして
「あと、二日ある。その間に、自分の気持ちと向き合ってみてくれ。結の決断を尊重するよ。私は、これから学校の追試の勉強があるからね、アッハハ!ここで、失礼するよ。
時間を取らせて、すまなかったね、ありがとう。」
と、言葉を残して
「…追試って、笑い事じゃないからね?家に帰ったら、みっちり勉強だから覚悟しといて。
ハナは能天気過ぎるんだよ。テスト勉強の時、逃げ出して遊んでばっかいたから、こんな事になってるの分かってる?」
なんて小言をいう風雷と共に
「すまん、すまん。アッハハ!」
「〜〜〜っっっ!!!?もうっ!だから、笑い事じゃないんだって!!」
賑やかに、ファミレスを出て行ってしまった。
ハナの前だと、雰囲気も言葉遣いも柔らかくなる風雷に驚いたが。なんだか、あの風雷が可愛らしく見えてしまうのは普段とのギャップがあるからだろう。
ハナ達が去ってから、緊張の糸が切れ気の抜けた結はヘナヘナァ〜と体の力が抜け椅子にへたり込んでしまった。
…ドキドキドキ…!
そして、考えた。
確かに、このままでは親の言いなり。
結婚こそ女の幸せだと考えている面食いの両親に、どこかのイケメンの令息が犠牲となり結と結婚させられるのだろう。
自分で言うのも何だが、モテない、勉強苦手、マナーやダンス、駆け引きや話術などと言った上流層に必要なものの殆どが苦手な結と結婚させられるなんて可哀想だと思う。
…虚しく悲しい気持ちになるが、蓮にハッキリと言われたあの日から結は、人の気持ちなんてそんなもんだと自分の恋愛に諦めがついた。
諦めがついたというより、強制的に自分の心に蓋をした。
もし、仮にだ。自分とどこかの令息と結婚したとしよう。
そこで見えてくるのは、冷え切った夫婦生活だ。きっと、蓮のように結を毛嫌いして、一緒にいるのが苦痛でお互いに酷い生活を送るのだろう。
そう思うとゾッとしたし、相手に申し訳ない気持ちになる。
だけど、結を大切に愛情たっぷりに育ててくれた両親の気持ちを裏切りたくはない。
でも、自分は将来なりたいものがある。
結はとても悩み葛藤している。
…せっかくの大チャンスが舞い込んでるってのに、チャンスを棒に振るような事はしたくない。けど、両親の事を考えると心苦しい。
そんな結の頭に響くのはハナの“結にとって自分の夢は、その程度なのかい?なら、そこで終わりだよ”と、いう言葉。
両親には申し訳ないが、自分の将来がかかっている。何がなんでも説得しないと!
そう、強く決心する結だ。
そして、父親が仕事から帰って来るのをソワソワ、ドキドキしながら待ち、父親が帰って来る音が聞こえると自室からすっ飛んで父親の前に向かった。
「おや?珍しいね、お出迎えかい?」
と、結に気が付いた父親が嬉しそうに声を掛けてきた。こんな反応されると、これから話す内容が喋りづらい。結は、ズキズキ痛む心に叱咤して
「…あ、あのさ。お父さんとお母さんに話があるんだけど。」
緊張の面持ちで声を出す結に、何かを感じとったのか父親は
「分かったよ。今、私服に着替えらお母様と一緒に応接間に行くから、先に行っててくれるかな?」
と、優しい笑みを崩さないまま先に応接間に行ってるよう伝えた。
「…う、うん。」
結はドキドキしながら応接間に入り父親と母親を待った。使用人が結の好きなジュースとお菓子を用意してくれたが、とてもではないが口に入れる事ができなかった。
そして、いよいよ父親と母親が応接間に入り、結と向き合うように椅子に座ると
「…あらあら。珍しいわね、結の好物なのにまだ手をつけてないなんて…。それに、今日は姿勢がいいのね?…どうしたの?体調が悪いの?」
いつもと様子の違う結を心配し母親がオロオロし始めている。
「我々に話があるんだよね?どんな話かな?」
父親は、大丈夫だよと母親に声を掛けながら、結に聞いてきた。
ドッキン、ドッキンッ…!!!
ついに、きてしまったーーーーーッッッ!!!
と、結は緊張しながら
「…じ、実はさ!私、将来の夢があってさ。
難しい事ではあるだろうけど、帝王様直属の軍に入隊するのが夢なんだよね。
…そ、それでさ。その夢の登竜門って言われてる軍の合宿が二日後にあるらしいんだ。それに、参加したいんだけどっ!…だ、ダメかな?」
膝の上にギュッと握り拳を作り、口早に言い切った夢は
…言った、遂に言ってしまった。
と、バックン、バックンと強く心臓を打ち付ける音が聞こえる。結が将来の夢、合宿の話をした時、母親は目を大きく見開いて血の気が引きフラッと椅子の背もたれに寄り掛かった。
父親は、多少驚いた顔をして少し考える素振りを見せると
「結は、格闘技が好きなのは知っていたけれど将来の夢までは知らなかったなぁ。
だけど、軍の合宿が二日にあるんだって?いきなりな話だよね。もっと、早くに我々に相談するべきではなかったのかな?」
そう、結に聞いてきた。
「…あ、いや…!今日、軍の合宿の話を知ったんだ。…将来の夢を話さなかったのは…お父さんとお母さんが、悲しむと思ったから言えなかった。
…だって!お父さんとお母さんは、将来私に結婚してほしいんだろ?格闘技とか女の子のする事じゃないって、嫌な顔してただろ?」
と、苦しそうな表情を浮かべながら訴える結に、父親と母親は驚いた表情をして少し悲しそうな顔をしていた。
「…結にそんな表情をさせてしまう程、我々は結の気持ちを抑え込んでしまっていたんだね。
だけど、結の言う通り。私は結には将来、幸せな家庭を持ってほしいと思っているよ。それが、女性にとっての一番の幸せだと考えているからね。
それに、女性が戦う姿なんて痛ましくて見ていられないよ。」
「私もお父様と同じ意見よ。結は女の子なのよ?そんな、恐ろしい所になんて行ってほしくないわ。それだけじゃないわ。
軍事ごとや何かしらの競技では、まだまだ女性を軽視して差別してる人達も多いと私は感じてるわ。それに、どうあがいても力や体力では男性に敵わない。女性だというだけで虐められるかもしれない。
私の可愛い結が、そんな恐ろしい所に行くと考えただけで私は倒れてしまいそうになるわ。…だから、そんな危険な事はやめてほしいの。」
父親と母親は必死になって自分の気持ちを話し、遂には母親はハラハラと涙を流していた。
…ズキ…
まさか、両親が自分を思ってこんなにも考えて想ってくれていた事に結は驚いたし、母親を泣かせてしまって申し訳ない気持ちになった。
だけど、ここで折れてしまっては絶望しかない自分の未来しか見えない。何より、自分には夢がある。自分の腕っぷしがどこまで通用するにか試したい気持ちがかなり大きい。
だから格闘技の選手でもいいが、帝王直属の軍や王直属の軍のパレードを見た時にカッコイイ!!と、思ったのがキッカケ。
単純で安易な考えだとは思うが、カッコイイ!いつか、自分もあの中に入りたい!!と、心が躍り、いつしか結のなりたい夢にまで膨れ上がっていったのだ。
今、改めて考えると、幼稚な思いや考えだとは思うが、軍は具体的にどんな活動をするのかという興味と単純にカッコイイイメージがあってやってみたいという好奇心が強い。
「…けど、私は結婚したくないよ。どうせ、恋愛や結婚なんてさ、見たくれと外面で判断するんだろ?じゃあさ。私みたいに、外見が悪いわ男に好かれるような性格もスキルもない女はどうなるの?無理に自分を偽ったって、すぐにボロは出るよね?」
と、結は初めてしっかりと自分の内に秘めた考えや気持ちを両親に伝えた。
「…結っ!?あなたは、何て事を言うの?結は、かわいいわよ!!どうして、そんなに自分を下げる話をするの?
それに、まだ中学校一年生でしょ?誕生日もまだの12才。これからなのに、どうして今から恋愛を諦めてしまうの?大丈夫よ!」
「そうだよ、結。お母様の言う通りだよ。
結が幸せな結婚できるように、私とお母様が結にピッタリな素敵な男性を見つけるから安心してね。今回は、相手を見誤ってしまったけど、次こそは本当に素敵な男性を見つけるから大丈夫だよ。」
両親の言葉に、結はシラけた気持ちになる。
結の事を可愛いと言っておきながら、結にピッタリな男性を両親が探すという。
これは、なんとなくだが結でも察しがつく。
おそらくだが両親は、自分達は結の事を可愛いと思っているが世間一般は違う。
言い方は悪いが
だから、モテない可哀想な結に両親がいい男を用意してプレゼントしてあげようという粋な計らいのつもりなのだろうと。
政略結婚とか、そんなものはこの両親は考えていない。だって、兄と姉は恋愛結婚だから。
何より、両親も恋愛結婚で両親も兄、姉も結婚生活が上手くいっていて幸せっぽい。
自分達が幸せだから、結にもその幸せを知ってほしいと思っている節がある。
恋愛や結婚は、とても良いもので幸せなんだと。
そんな両親が、政略結婚なんて考えるとは思えない。結と婚約の話を持ちかけられた相手にとっては違うと思うが。相手にとったら政略結婚の何者でもないだろう。
両親は、モテなく将来結婚できないであろう娘を案じ焦りのあまり暴走しているのだろうと思う。
だが、両親は結に惜しみない愛情を注ぎ“かわいい”と、育ててくれている。
両親のいう“かわいい”は、親のよく目なのは分かっているが両親にとっては結は本当に“かわいい”と、思ってくれているみたいだ。それが、とても伝わってくる。
…とても、複雑な気持ちだ。
「…あのさ。お父さんとお母さんが私の事を思ってくれてるのは分かるけど、お父さんとお母さんが探して見つけてくれた相手はどうかな?
別に好きでもない女と婚約、結婚って、凄く嫌な事だと思うよ?それこそ、相手にとっては政略結婚で愛も何もない、お金か何か家の為だけのお飾り結婚だって思う。
そんな結婚はさ。お互いに冷え切った夫婦生活になると思うし、相手は美人な人と浮気すると思うよ。」
と、蓮との婚約関係を思い返して、結は両親にごもっともな話をした。結の話を聞いて、両親は何とも言えない複雑そうな表情をし
「……結が、そこまで考えていたなんて。
だけど、結が言ってる通りになるとは限らないよ。相手は、結と過ごすうちに結の良さを分かってくれるはずだよ?結は、とても良い子だからね。」
「そうよ!結はとっても可愛い、私達の自慢の娘なのよ。一緒にいて、結の良さに気付けないはずがないわ!」
と、何か夢見るように話す両親に頭を抱えながら
「そんな都合のいい話なんてないと思うよ。周りを見ても元婚約者の事にしろ、みんなとにかく見た目重視だよ。
みんな、見た目で判断してるし、それから女の子らしい立ち振る舞いを求めてるように見えるよ。
私みたいにモテない女子は、異性からは酷い扱いされるだけだからね?同じ人間とは見てもらえない、デブスだって差別を受けるんだ。中身もクソもあったもんじゃない。
それでも、さっき言った言葉を私に言えるの?」
結の話を聞いて、両親はかなりショックを受けた顔をしていた。
容姿だけで、異性から同じ人間扱いされず差別されるなんて…
そんな両親を見ながら、結は
どういう経緯でそうなったのか分からないけど。物凄いイケメンが、容姿がちょっと残念な女の子を溺愛してるって例外中の例外はあるが、これは言わないでおこうと思った。
こんなの宝くじの一等賞を当てる事より難しい稀中の稀な事だと思うから。
こんな話してしまったら、この両親の事だ。数%のほんの僅かな確率に掛けて今まで通り頑張ってしまうだろう。
それは阻止しなければならない。だから、敢えてこの話だけはお口チャックだ。
しばらくの沈黙が続き、父親がお茶を一口飲み一息つくと
「見た目とか云々ではなくて、結は本当に良い子だし可愛いらしい女の子だと私達家族は知っているよ。
そんな結の魅力に気付けない馬鹿どもが多いという話は理解したくはないけど、そんな愚かな人間達が多いという事は分かったよ。そして、結が最高峰の軍に入隊したいという夢があるという事も。」
そう、父親は前置きをして
「合宿に参加に行っていいよ。」
と、結の合宿参加を許可してくれた。
「…あ、あなたっっっ!!!?」
……え!?
マジで、許可してくれるの?
説得するのに、もっと時間がかかると思ったし最悪、両親に黙って合宿に参加しようと思っていた結は、目を輝かせ
「…あ、ありがとっ!!」
と、喜びの声をあげた。
「ただし、おそらく帝王または王配下における軍に入隊するにあたって、今回の合宿だけでなく研修生として定期的に何らかの訓練が行われるはずだよ。
…そうだね。一年、その全ての訓練に参加してみて、それでも軍に入隊したいというのであれば、私は結の夢を全力で応援しよう。」
そう言ってきた父親に、結はパァァッ!と、顔が明るくなり
「お父さん!ありがとう!私、頑張るね!!」
と、結は嬉しそうに飛び跳ねながら自分の部屋に戻っていった。
「こら!結っ!?レディーが家の中、走っちゃダメでしょ!!」
なんて、母親の声も耳に入らなかったようで、たまに堪えきれない笑い声を出しながら浮かれ調子で自室のある5階まで物凄いスピードで駆け上がって行った。
そんな結の様子を見て
「…結のあんなに嬉しそうな顔…もう、何年も見た事がなかったわ。」
と、母親は複雑そうな表情で結の後ろ姿を見送っていた。
「…だけど、結の気持ちは尊重したい気持ちはあるけど、やっぱり私は反対よ。だって、女の子がそんな危険な所に行って怪我だらけになるなんて想像もしたくないわ。」
「そこは大丈夫だよ。軍の訓練生となるが、訓練や合宿、現地での補助活動など、あまりに過酷過ぎて、どんな屈強な男でもリタイアする程らしい。
そんな恐ろしい所で、女の子でしかもお嬢様育ちの結がやっていける訳がない。
だけど、結は王配下の軍に強い憧れを抱いている。だから、自分の思い描く理想と現実をむざむざと見せつけられる事になるだろうね。
私達は結が、軍の夢を諦めて戻ってきたら心のケアをしっかりサポートしようね。」
「…そうね。結の性格柄、自分が実際に体験してみないと納得できないものね。
早めに、自分には無理だと分かって諦めてほしいわ。…はあ、こんな命と隣り合わせの危険な仕事でなかったら、いくらでも結の夢は応援できたのに…これは、とてもではないけど私は応援できないわ。」
と、両親はどうせ、お嬢様育ちの結には軍の訓練や現地の補助活動など、とても耐えられないとにらんでいた。
だから、結に自分で納得して夢を諦めてもらう為に、敢えて条件付きで軍の強化合宿の参加を許可した。
夢にやぶれて、しばらく落ち込むだろうがそこは辛抱強く我々夫婦が支え、新たな夢を一緒に探すサポートをしたいと考えていた。
もちろん、結の結婚も諦めてはいない!
きっと、結の可愛さや良さを分かって好きになってくれる人は必ず居るはずだ!と。
“あの子”の分まで、…いや、それ以上に結を幸せにしなければと両親は胸に強く誓っている。