美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
颯真の働いている産婦人科、孤児院の子供達のボランティアで蓮はいつもの如くグッタリしながら、結の兄である颯真と共に帰宅した。
使用人達が出迎えてくれて上着を脱がせてくれたり鞄を持ってもらったりしている。

3階からは、今度、2才になるとう颯真の子供がキャッキャ楽しそうにはしゃいでる声を中心に、颯真の奥さんとメイドも一緒に嬉しそうに笑い合ってる声が響いていた。

その微かな音を聞いて、いつも無口でクールな颯真に思わず小さな笑みが溢れ雰囲気が優しげに変わった。
できる仕事人間から、家族を愛するパパの顔に変わる瞬間だ。

そして、もう一つ。

一階奥の応接間の前に2人ほど使用人が立っている事から、応接間で何か大切な話をしているのだろう。

この屋敷は、応接間と書斎、夫婦の部屋だけにはしっかりと防音対策されている。

誰か偉い人でも呼んで仕事の話でもしてるのかな?いや、それにしたっていつも自分達を迎えに来てくれている叔母様の姿が見えないのも気になる。

この家は、その時わかる範囲で“何時に、どこへ。帰りの時間は?”と、しっかり報告するルールがある。

と、いう事は急遽何か用事ができただけだろうか?と、少し考え…自分には関係ないかと思い、一階にある自室へ戻る為、颯真にお疲れ様の挨拶をしようとした時だった。

…ガチャッッ!!!

勢いよく開けられる応接間の扉。その音に思わず後ろを振り向く蓮と颯真。

そこから、意気揚々と目をキラキラと輝かせた結が飛び出してきて、あまりに嬉しい事でもあったのだろう。

「…やた!やったーーーーーーッッッ!!!!!」

と、何回も綺麗なバク転を披露し、スキップ混じりでもの凄いスピードで結の自室のある5階へと新幹線の如く階段を走り抜け、嬉しさが込み上げ我慢ならない時にはその場でジャンプし手すりの上に飛び乗りそこから宙返り、手すりに両手で着地そこからのムーサルトで踊り場に着地。

結の人並離れた身体能力に、蓮は呆気に取られていた。

その間にも、踊り場で結は「やった、やった!…ウフフ!うっれしぃ〜!!!」と、独り言を言ってピョンピョン跳ねていた。そして、少し気持ちがおさまると、またとんでもないスピードで階段を駆け上がるのだった。

…この家には、立派なエレベーターがついてるというのに。

それより何より、結の人間離れした身体能力に驚かされる。これは、何かのスポーツ選手になってもトップを狙えるんじゃないのかと思ってしまう。

あまりの凄さに、結が部屋に戻った後も呆気に取られて結が居なくなってもそこの場所から目が離せなかった。

ドックンドックン!!!

あまりに驚きすぎて、心臓が忙しなく動いている。

…アイツ、お嬢様じゃなくて野生の妖魔か魔獣なんじゃないのか!?

と、驚いている蓮に次は応接間から結の両親の会話が聞こえてきた。応接間が開きっぱなしなので、今は防音の機能を無くしている。


「…まさか、結が軍に入隊したいなんて言い出すとは思わなかったな。てっきり、大好きな格闘技の世界に夢見ているのかと思っていたよ。」

…え?ちょっと理解し難い言葉が耳に入ってきたんだけど。

お嬢様が、軍に入隊?格闘技??

意味が分からない。

それに、大好きな格闘技って観戦の方だよね?まさか、お嬢様が護衛の為なら分かるけど
それ以外で本格的に格闘技なんて習う訳がないよね?

ちょっと、理解不能の言葉が聞こえちゃったんだけど、俺もハードな仕事から帰ってきたばっかりだし疲れちゃって聞き間違いでもしちゃったかな?

なんて、蓮は疲れてるなぁ〜俺、と思っていた時、更に結の両親の会話が耳に入った。

「今回の五日間の軍強化合宿に参加したら、きっと、訓練を目の当たりにして根をあげて逃げ出すだろうと思うよ。
それくらいに、厳しくも恐ろしい耐えられない訓練だと聞いた事があるからね。そこで、軍への入隊は諦めてくれるだろう。」

「…そうね。結は、自分に対して女の子としての魅力がないから結婚したくない。こんな自分と結婚する相手が可哀想だって言ってたこと…親として、とても悲しい気持ちになったわ。
結は、恋愛や結婚について諦めてるみたいだけど、そんなのはあまりに可哀想過ぎるわ。
女の子としての楽しみや幸せを知る事なく孤独になっていくんだから。
そんな辛い人生は、あの子に送ってほしくない!!あの時、“あの子”の分まで、この子に無償の愛で幸せにするって決めたんだから!!」

「……そうだね、私達の犯した罪は消えない。だからこそ、あの時、私達の子供達には幸せになれるよう惜しみないサポートをするって決めてる。」

と、いう訳ありな話をしていて、隣にいる颯真を見ると下唇を噛み

「……何が“あの子の分まで”だ。バカヤロー!…まだ、見つかってないんだぞ?」

聞き取れるか分からない声で、険しい表情で両親に反抗的な言葉を漏らしていた。

…何があったのか気になる所ではあるが。

とにかく、結の両親の話を聞く限り、結の両親は結が軍に入隊する事を断固反対しているようだ。

今回、合宿に参加させるのだって、夢みがちな結に厳しい現実を見せつけ無理だと諦めさせる為の事だったようだ。

…だけど、結が“恋愛や結婚を諦めてる”って、もしかしたら自分も大きく関わっているかもしれないと思った。

そもそも、“自分なんかと結婚する相手が可哀想”なんて、考えるあたり恋愛事を諦めきってる感じがする。

そこまで、追い込んだのは自分のせいだと思う。

今、思い返して、自分が結にどんな態度、言葉を投げつげたか。その時は何とも思わなかったし、もっと酷い事も言ってやろうとまで考えていたくらいだ。

しかし、色々な問題が自分に降りかかり、

それだけでなく颯真の付き添い&見学で産婦人科、ボランティアで孤児院で働き一週間くらいは経っているが、色んな問題を抱えている人達と触れ合う事で色んな事をギュッと詰め込んだような濃い一日を過ごしている。

その経験からか徐々に…少しずつではあるが、今まで考える事も知ろうとしなかった事も、意図せず勝手に考えるようになってきて、自分だけでなく人の気持ちについても思い考えるようになっていた。

なので、結の両親の言葉を聞き、結は今までの経験で恋愛や結婚に絶望し、嫌な事ばかりだと恋愛事への希望や憧れ全てに蓋をしてしまったであろう。

それほどまでに、結を傷付け追い込んでしまったのだ。

結だって、同じ人間でしかも女の子だ。

まだ、12才の女の子が恋愛や結婚を諦めるという事はそれだけ傷つきトラウマになってしまっているという事。

少なからず、その原因な蓮は酷い罪悪感に苛まれ、自分が結に対して行ってきた言動を思い出す度に、頭を抱える程恥ずかしく愚かな事をしてきたと今の今になって猛省した。

差別もいい所だ。

もしかしたら、結は自分がモテない事に悩み軍に入隊して恋愛事とは関係のない生活を送ろうと考えているのかもしれない。

と、想像すると、もの凄い罪の意識に囚われてしまう。…あまりに、結が不憫で可哀想に思ってしまった。

もしかしたら、いつか分からないが、結を好きになってくれる物好きな男がいるかもしれないのに。それすら諦めてしまうなんて…
まだ、12才でこれからが青春なのに。もう、恋愛に関して枯れてしまうなんて早くないか?

なんて、色々と失礼な事を思いつつ、蓮は結の悲惨な恋愛観を心配してしまった。結が、そうなった原因は自分だろうから責任を感じてしまう。だから、なおさらにだ。


「幸せって部分も大きいけど、人間って嫌でもだんだんと年老いてくるでしょ?若い時なら私達もいるけど…いずれかは必ず私達も結とお別れする時がくるわ。
そうなってくると本格的に結は独りぼっちになってしまう。すると、年々心細くなって“自分にも家族がいたらなぁ”って、思うはずよ。」

「そうだね。今は、まだまだ子供だから、年老いた先の事までは考えられないだろうね。
結が結婚しない事で、私が一番恐れているのは“孤独死”なんだ。誰にも看取れれず、誰にも気が付かれないまま苦しみもがきながら寂しくこの世を去っていく…そう考えただけで、怖くて仕方がないよね。」

「…ええ。まだ、私達が元気なうちなら全然いいのよ。だけど、私達が居なくなってからの事を思うと、結のその後の人生が心配で仕方がないのよ。」

なんて、唯の両親の結に対する思いを聞き、確かにその通りだと思ってしまった。
すると、蓮はますます自分に責任を感じてしまい自室に戻ると気がつけば、ネットで“孤独死”について検索してしまっていた。

………ゾッ………!!?

その結果や関連する記事や動画は、酷く寂しい…とにかく寂しい…誰もいない…

見てるこっちの心が病んでしまいそうに酷く心が痛んだ。

独身でも恋人がいるならまだしも、
結の言い分の通りそのまま順調にいけば、本当に独りぼっちになる未来しか見えない。

確かに親からすれば、娘の行く末が“孤独死“しか考えられないとなれば何が何でも結婚させようと躍起になる気持ちも分からなくない。

そこで、ベッドにゴロリとねっ転がりながら考える。

自分は飽きるほど恋愛もしてきたし、不特定多数のセフレもいた。

乱交こそした事はないが、一日にそれぞれ別のセフレと新たに出会った女とで計5人相手にした事もある。
正直、この年でアッチの方はすでにマンネリ気味である。行為自体、自分が動くのが面倒で女に勝手に動いてもらってる事がだんだんと多くなってきてる気がする。

そして調子に乗りすぎて痛い目に遭って、
今現在、人間不信気味。恋愛や…特に何回かの妊娠騒動、それから色々あって。
…あ!性病になってしまっていたという事も大きなショックだ。今は颯真さんのおかげで完治したけど。
だから、性行為がトラウマになっている。

そのせいで、恋愛や結婚に夢や希望を見出せなくなった俺。

あまりにモテなさ過ぎて恋愛に夢も希望も持てない可哀想な結。

丁度いいんじゃないか?

そんな俺達が結婚すれば、俺も結も上手くいくはずだ。

結婚しても、お互いに干渉はせずルームメイトとして同じ家に暮らす。
何か困り事があったら助け合う。ルームメイトだから、それくらいはしないとね。

老後の事を考え、施設から子供をもらってくればいいと思う。

と、蓮の中でいいアイディアとばかりに閃いたつもりでいた。

今は結は合宿かなんかで忙しそうだから、結が合宿を終えるのを待って相談してみよう。
これはお互い利害一致だから結も嫌な思いもせず快く頷いてくれるだろう、なんて簡単に考えていた。

ちなみだが、先週は結と結の友達のテスト結果が赤点まみれで補習三昧だったらしい。

…どんだけ、頭悪いんだよ…と、蓮は呆れる。
まだ、中一で初めてのテスト。だから、簡単な問題ばかりだったというのに…どうして、そこで赤点が取れてしまうのか。理解に苦しむ。

5教科中、3教科が赤点って…

理科16点、数学が…3点、極め付けは古代語0点を叩き出していた。

赤点を免れた教科だって国語42点、社会30点ギリギリ。

100点満点中の91点かな???って…ちっがーーーーう!!!

500満点中、91点かよ!?

どれだけ頭が悪いんだよ!!?

結の両親や颯真さんも、結の点数に頭を抱えて当たり前だよ。

どうすれば、毎日学校来てるのにこんな点数が叩き出せるのか謎過ぎるから!!

追試は、結のお友達にめちゃくちゃ頭がいい人がいるらしくて、しごきに扱かれて追試はギリギリ大丈夫だったらしいけど。

…再テストでギリギリって…

この学校の追試は、5教科だけは少し問題の内容を変えて再テストって形をとるらしい。しかも、50点以上取らなければ追追試なるものがあり補習となる。

まあ、結にとって最難関の追試を潜り抜け今に至るんだろうけど…もうちょっと勉強しろよって言いたくなる。


そして、あっという間に結の合宿日がやってきて、父親には

“危ないと思ったり嫌だと思ったら直ぐに帰ってくるんだよ?”

と、念を押され、母親は

“…本当に行ってしまうの!?嫌よ!危ないわ!!
結は女の子なんだし、まだ12才の中学生よ?何も軍人で無くたって結には、将来の選択肢がいくつもあるの。もっと、考えて考え直してほしいわ。”

なんて、“…女の子なのに…”と、顔を青白くしながら結を行く直前まで引き止めていた。

両親の心配そうな顔を見てられなくて、無理に笑顔を作って

「お父さん、お母さん、大丈夫だからな!行ってきまーーーす!!!」

と、元気よく手を振って走って行ってしまった。



---結が軍の訓練生強化合宿に出発した日---


「元気いっぱいの結ちゃんが、居ないととても寂しいでありますな。何でも、家の事情で5日ほど学校を休むらしいのですが、何でありましょうな?家の事情だから無闇に聞けませぬが。」

結の事を気にかけながら、陽毬は昼休みと放課後、家にいるプライベートな時間もくる大樹からのメールに少しウンザリしていた。

それを見て

「…毎日、大樹様とメールしてるみたいだけど、そんなに渋い顔して何か嫌な事でも書かれてるの?…無理には聞かないけど、良かったら相談くらい乗るわよ?」

大樹からのメールが来るたびに、微妙な表情をしてたまにため息までついてしまってる陽毬を心配して、つい我慢しきれずフジは声を掛けた。

「…聞いてくれるでありますか?」

ウンザリした表情の陽毬は、話を聞いてほしいとばかりにフジやショウの顔を見た。

「もちろんよ!嫌な事は溜め込むのは良くないわ。」

「私で良かったら聞くよ?」

と、フジとショウの返事が返ってきたので

「…実は、皆さまもご存知の通り色々あって“私と大樹様は、お友達になりましてな”。
それを機に毎日とは言いませぬが、メールがくるようになったのは…まあ、告白する前から振られた様な私にとって少々キツい事でありますが…。
まあ、ギリギリ許容範囲内と油断しておりました。」

陽毬は、少し喋りづらそうにポツリ、ポツリと話し始めた。

「…そうね。大樹様も色々とあったとは思うけど、陽毬の心を踏み躙った酷い人間には変わりない。
そんな人が、いきなり心を入れ替えたから“友達になってほしい”なんて、都合のいい話よね。
…しかも、陽毬は悪い人と知りつつも、頭では否定しつつも心では大樹様の魅力に心惹かれて複雑よね。そんな人から、ほぼ毎日メールが届くなんて陽毬にとっては不快極まりない気がするわ。」

フジは、できる限り陽毬の気持ちを考え寄り添った言葉を口に出した。

「まさに、その通りであります。
しかも、そのメールの内容と言うのが…。
“今、気になってる女性がいる。”と、その女性の容姿から性格まで細かく書いてきて、その女性について女性の目線からどう思うのか聞きたい。もう、真白の時のような思いをするのは絶対に嫌だから、慎重に女性を選びたいと相談してくるでありますよ。」

その内容に、ショウやフジ、桔梗や風雷までも、それはかなりキツイと思った。

何を好き好んで、好きな相手から恋愛相談を持ち掛けられなければならのか。

そして、陽毬の話では、大樹は当たり前の様に百発百中というほど告白を成功させてしまう。その告白が上手くいったという報告とお礼…。

しかも、気が多いのか飽き性なのか…付き合っては直ぐに別れ、また直ぐに付き合う。

その度に、陽毬に事細かく報告するという…

…これは、辛過ぎる…


「…当たり障りないように無難な答えは出しますがね。少しでも、大樹様の意中の女性を褒めると次の日には“陽毬のおかげで、恋人になる事ができた。ありがとう!”という、メール。
彼女ができて彼女に夢中になってる間はいいのですがね…。
その日のうちに彼女の粗が気になり始め、私に相談のメール。時間が経つ程、彼女の粗が目について嫌になって直ぐに別れる。
一週間もてばいい方、酷いと付き合ったその日に別れてますからな。しかも、全員その日のうちに男女の関係になってるみたいですな。」

相当な女好きで飽き性なんだなぁ。

そして、何より手が早い。

目に余る所業から綺麗さっぱり足を洗った今では、性格を含めほぼ全てにおいて完璧な男の唯一の欠点だろう。

しかし、特別に見目が良いとくれば、いくら女好きで飽き性だろうが“それでも、いい!少しの間だけでも”と、大樹に夢見る女性も多いだろう。

だから、大樹に恋人が途切れる事はない。

だが、大樹を好きな陽毬にとって、こんな損な役割はない。

しかし…実は、ある意味陽毬は大樹に対しての想いに踏ん切りがついている。

社交界で、“この世のものとは思えないほどの美しい歌声”が聞こえた時、現れた“大樹そっくりさん”。

おそらく、自分の作り上げた妄想か夢なのだろうが…
現実の恋多き男である大樹と違って、一途に自分を見てくれて…何もかもが素敵だった。

陽毬はその大樹そっくりさんに、すっかり心を奪われていた。だが、現実にはそんな人はいないだろう。

だから、陽毬は決心したのだ。

大樹そっくりさんは、自分の“推し”!!

自分が好きなのは、大樹そっくりさんであって大樹なんかじゃない。

現実の大樹は、容姿と声がそっくりなだけの友達。そう、思う事にしたのだ。

あの時の社交界での出来事とこの事を、ショウ達に伝えたらフジと桔梗は複雑そうに笑みを浮かべ、ショウは悲しそうな表情をし風雷は苦虫を噛んだ様な顔をしていた。

「どういう事だ?“歌”には、“幻想”も見せる効果もあるのか?」

そう風雷が、桔梗に訪ねると

「“今回の歌”には、そんな効果はないよ。
だから、その“そっくりさん”は実在する人物という事になるね。」

なんて、摩訶不思議な回答が返ってきた。

「それは、おかしな話よ。だって、その時大樹様は直ぐ近くにいた大地様とダンスを踊っていたもの。」

何をおかしな話してるの?私は、この目でしっかり見てるから知ってるわ!と、桔梗を不審な目で見ながらフジは言った。

「ああ、それは俺もしっかり見てた。」

「あ!それ、私もみたよー。大地君も大樹君も楽しそうだった。」

なんて、風雷とショウの目撃情報もあるので、会場で大地と踊っていたのは大樹で間違いないようだ。

では、幻想でも幻でもないというなら陽毬のいう“大樹のそっくりさん”は、一体何なのだろう?陽毬が言うには、容姿や声までそっくりだが性格が違うという話ではあるが。

「でも、大樹君にそっくりって事は…幹(みき)君かなぁ?」

と、ショウは何か思い当たる節があるのか、幹という名前を出してきた。

「確かに、それは大いにあり得るな。夜だったという事で、色までは把握できなかったんだろう。」

なんて、幹を知る面々が勝手に話を進めている。

「…え?ちょっと、待って。私、幹なんて令息知らないわよ?」

「私も聞いた事がないであります。」

フジと陽毬は、急に出てきた“幹”という人間の存在に困惑していた。

「幹君はね、大樹君と同い年だけど双子じゃないんだよ。…確か、お腹違いの兄弟!見た目も声もソックリでビックリしちゃうよ。
だけど、どうしてかな?大樹君は“令息”なのに幹君は“使用人”なんだって。同じ兄弟なのに変だよね?」

と、複雑そうな事情をサラッと話したショウに、フジと陽毬はギョッとした。

何で、ショウはそんな複雑そうな事まで知ってるの!?

でも、確かにいくらソックリでも“使用人”なら今まで名前を聞いた事がなくて当たり前だ。


…と、いう事は、陽毬の意中の相手は妄想でもなければ幻でもない“幹”君という実在する人物という事になる。


「それにしても、結ちゃんと一週間会えないの寂しいね。」

そう言ってきたショウに、フジと陽毬は大きく頷き、結についての面白エピソードやら何やらたくさん喋って笑って…結果…

「…早く、元気いっぱい結ちゃんに会いたいなぁ。」

だった。只今、ショウとフジ、陽毬はぷち結ロスである。
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