美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
その頃の結は、集合場所に着くとそこは

国や軍に関わる一般ではあまり知られてないだろう、しかし、その筋を目指す人達にとっては、専門のエリートが通う知る人ぞ知る超有名学校。
集合場所に着くなり案内人が来て、結がハナから貰った紹介状を確認の上、校内の体育館に案内された。
結はドキドキ、ソワソワしながらキョロキョロと周りを見ていた。…落ち着きがない。

ザッと見たところ、2000人程集まっているのではないだろうか?そして、8:2の割合で圧倒的に女性が少ない。

周りの子達は、10才〜18才までの年齢制限はあるものの、この合宿に参加するからには帝王か王直属の軍人•兵士を目指すエリート中のエリートなのだろう。

だが、どこを見回しても中学生以上の人達しかおらず、今回小学生の参加者は居ないようだった。

みんな、それぞれの学生服を着ている為分かりやすい。

小学生参加といえば、四年前と二年前に若干、10才という若さでこの強化合宿に参加した猛者が二人いたらしい。

現在過去、どの記録にも若干10才でこの強化合宿に参加できた者はこの二人しかいない。
しかも、リタイア者が多い中、突破した挙げ句、優勝まで掻っ攫ったという伝説まで作っている。

本来、中学生以上高校生未満だったのが、異例の強さを誇る二人の為に異例中の異例で、下は10才と繰り下がったという話も帝王・王直属の軍人・兵士を目指す者達の間では有名な話だ。

ちなみにだが、この強化合宿は推薦状がきて参加の有無で参加できる。選ばれしエリート達しか参加の許されない名誉ある合宿なのだ。

結は、時系列と年齢から推測してあの二人しか思い浮かばなかった。

…多分、あの人達だろうな。

どんだけ、凄いんだよ。凄すぎて笑うしかないよ。

と、心の中で苦笑いしながら、案内された列に立っていると

「…おい、見てみろよ。あの制服、お坊ちゃんお嬢様学校じゃん!お嬢様が、何でこんな所いるんだよ?」

「贅沢放題、甘やかされ放題のお嬢様が、こんな軍の強化合宿に参加って馬鹿にし過ぎじゃね?」

「まあ、そう言うなや。どうせ、秒で根を上げてリタイアするだろ。」

「お嬢様って、華奢で美人なイメージあったけど、アイツ容姿や体型が残念過ぎるお嬢様だな。ゴリラ界からきたお嬢様なんじゃね?」

「…ぷくくっ!ゴリラ界って、ウケっし!」

なんて、上流階級からきた結は珍しいらしく何かと注目の的になっていて、とても居心地の悪い結だ。

もちろん、推薦状をもらって集まった中には、上流階級の子達もいるがその子達は特別だ。

何故なら、家系が軍事関係であったり国に関わる大きな仕事をしている家柄で幼い頃から、専門の特別な学校に入学して一般の勉強の他にも国や軍について勉強やトレーニングを徹底しているから。

軍特別養成学校のエリート中のエリートといえる。

もちろん、社交界などにも参加するがお坊ちゃんやお嬢様の護衛見習いなどをして、いち早く実践練習も行っている。

そんな学校があるなんて!と、それを知った時とても羨ましく思い、両親に軍の学校に入学したいとおねだりしたが速攻で却下された。

それに、その学校に入学するには特別な面談とスキル、精神面をクリアしなければ入学ができないという、その世界では厳しい学校で有名な学校だ。

もちろん一般の学校同様に、全国各地に似たような学校がありそれぞれでレベルも全然違う。

そんな、幼い頃から徹底した知識と訓練を受け、その中から国からの推薦状が届くのだから本当に特別なエリートが選ばれるのだろうと思う。

ちなみに、その学校から参加した研修生達は現在過去とリタイア者が出た事がなし、必ずと言っていいほど優勝、準優勝、上位に食い込むなど立派な成績を収めている。

やっぱ、エリート校は違うなぁと結は憧れを持っていた。できれば、自分も小学生の頃からその学校に入学したかったよ。
その学校の存在を知ったのは、小学校高学年になってからだけど。それに、両親の大反対でその学校に入るのは完全に無理だったろうが。

全体を見回しても、やっぱりそのエリート達は立ち姿からして違った。

単純に、めちゃくちゃカッコいいと思う。

やっぱり、みんなエリート校から選ばれた人達の事を憧れの眼差しを向けている。

…たまに、嫉妬してやっかみやグチグチ嫌味を言っている人達もちらほらいる。
普通に、スタート時点から自分達とは全然違う人達だから悔しいし羨ましいのだろう。

そうこうしているうちに、幾つか勲章をつけた軍服の中年男性と少し若い男性が祭壇に上がってきた。


「静粛に!」

と、いう軍服の男の言葉に、さっきまでざわついていた声もピタリと止み、一気に緊張感高まるピリついた雰囲気に変わった。

「私は少尉であり、将来性のある若き猛者達の指導も任されている。これより、帝軍・王軍の研修生強化合宿を始める。
もし、ここでリタイアしても恥じる事はない。合宿を通し様々な面から見て判断し、それ次第で見込みがあるとすれば次にまた“推薦状”が届く。だが、もし“推薦状”が届かなかった場合は“帝軍・王軍”は、諦める他ない。」

ここで分かったのは、この合宿に失敗しても次のチャンスがあるという事。

だが、それには審査員の合格基準を突破していなければならない、将来性があると判断された人のみ。…だが、この合宿で失敗したとして、どれだけの者達が再度推薦状をもらう事ができるのだろうか?

そして、どれだけの者達がこの合宿で振り落とされるのだろう?

と、身の引き締まる思いをしながらも、やっぱり落ち着きのない結は目線だけで周りをキョロキョロしていた。

そこで、ある人物に目が止まりすこぶる驚いた。何故なら

とても人気がある為、倍率が高く超ハイレベルで有名な【聖・ノーブル学園】の生徒の中に、姿形が大樹そっくりの人物がいたから。

双子かと見間違うくらいにそっくりだ。

色の違いで、別人だと分かるが容姿があまりにそっくりで驚く。

大樹が青みがかった黒髪でナチュラルマッシュだが、そっくり君の髪はは薄紫色のツーブロックで背中くらい長い長髪をポニーテールにしている。
肌の色も大樹は、健康的な肌に対しそっくり君は褐色。目の色も、大樹は黒い目をしているが、そっくり君は金色に近い色をしていた。

色が違うだけで、ずいぶんと印象も変わるなぁ。大樹様はいかにも優等生って感じだけど、そっくり君はチャラそうに見える。

大地様も容姿だけ見ればチャラそうだが、中身はとても好感のもてる好少年だ。

見た目だけで判断するのはよしとこう。

なにせ、品行方正に見える蓮や大樹様なんて、超のつく女癖の悪い遊び人だからなぁ。

それを知ってるからこそ、結は自分の目で耳でしっかり相手を知ってからその人の事を判断しようと心に決めている。

そう思えるようになったのは、何だか認めるのが嫌だが…ある意味蓮のおかげであろう。痛い目も見たが、いい勉強にもなった。

…だが、ぶっちゃけ…

そっくりさんの言動も見た目通り…チャラい。だが、仲間達との信頼関係があるのか男女、年齢、見た目関係なく分け隔てない。
先輩らしき人に「年上には“敬語”だぞ!幹(みき)」と、注意されてるものの本気で叱ってないあたり仲がいいのだろう。

だが、そんな幹も開会式が始まった途端。
さっきまで、ダラダラ、プラプラ、ヘラヘラしてたのが嘘のように姿勢正しくピシッと立っていた。
表情も引き締まった顔に変わりチャラさが一切感じなくなった。

この切り替えの早さに脱帽する。仕事とプライベートをきっちりと割り切れる人なのだろう。

うん!カッコいいじゃないか!!

おうおう、数少ない女子達もチャラ…もとい、幹君だっけ?の良さに気がついて目がハートだ。同じ学校の女子達は、他の学校の女子達を鋭く牽制してるっぽいな。

あからさまに、興味ありませんって感じを通してる女子も、気にしないように踏ん張ってるけど…やっぱり幹君が気になるみたいだね。

…そこは、研修生と言う前に一人の人間だから不可抗力って、どうしようもない事さ。
容姿だって、生まれ持った才能の一つだしな。

そりゃ、こんなどえらいイケメン見て気にならない方が、おかしいと思うよ。タイプや好みじゃないって人は別としてね。


そして、さっそく始まる合宿。

合宿初日、みんな地味な作業着を着せられヘルメットを被せられた。
靴も安全靴のブーツで脛まで守れるよう頑丈な作りだ。加えて、膝と肘サポーターと過保護なくらいに重装備させられた。

だが、これから何の訓練が始まるのか聞かされていない。

みんな、これから何をするのかと不安がりながら着替えた。

着替え、校庭に集まった時に待ってた上官に、いきなりみんな怒鳴られた。

「遅いっ!!着替えてここに来るまで、10分は掛かってぞ!次から5分以内で来るように!!」

と、言われたが…部屋に行って慣れない作業服着て靴も履きづらいし500M先の校庭に階段を降りて集合なんて、どう考えても無理があると思った結だったし、結と同じ考えの人達も多くいてついつい小声ではあるが「無理があるだろ!?」と、そんな類の文句を漏らしてる者が多かった。

しかし、いたのだ。

5分以内…一番早くて2分で校庭に集合していた強者達が!

結達の部屋は女性寮である。2段ベットが4つの8人部屋だった。その中に、二人だけとんでもなく着替えが早い女性が!
結や他のメンバーが、学校の制服を脱いだ頃には、既に作業着に着替え終えていて「お先に。」と、一人は声を掛けもう一人はみんなの事なんて眼中にないらしく完全無視で部屋を出て行った。

彼女達が部屋を出てから、結達はようやく作業服を着ようと作業着を手に持とうとしていた所だった。

その時の結達は、彼女達二人の早着替えにただただ感心し「…早やぁ〜〜!!!」と、ビックリするだけだった。

まさか時間なんて測られてるとも知らない結達は、悠長に同室の子達と“緊張するね”、“これから何するんだろ?”なんて話しながら、ゆっくりと校庭に行き、それでも結達は最後ではなかったらしい。最後らへんにきた研修生達は、結達と同様に自己紹介やらどんな事をするかなど話しながらきた。

みんな、揃った所で冒頭の上官の怒号だ。

時間測ってるなら、急ぎだったら教えてくれてもいいのにと結達は思いながら不満が募る中、上官の話を聞いた。

「これから、基礎トレーニング60分。山を10K走ったのち、ロッククライミングのトレーニングを行ってもらう。
昼食後は震災地へと赴く。だから、震災地へ行った時に自分が何をするべきか知識と実践練習をここで学んだ後。さっそく、移動して実際に復興の手伝いをしに行く。」

と、いう内容に、不満そうにしている研修生達が殆ど出会った。

帝軍・王軍になれば、視察で震災地などに行くだろうが、現場の直接的な作業はしないのではないだろ。そういうのは、下っ端の仕事だろと思っているようだった。

そして、午前中地獄のようなトレーニングと午後の震災地復興の手伝いに行く為の知識や実践練習を入念に行い、ようやく昼食時間となった。

体力や力に自信があった者達もヘロヘロで、途中何度もお口からリバースしてる者も多く結もその中の一人であった。

…こんなハズじゃ…ッッッ!!!?

結はトレーニング中、何度も足を止めお口からのリバースを繰り返し、走ってるのに歩いてる状況…出来の悪い研修生がいれば、連帯責任でトレーニングが追加される。

その時の周りの

“やっとで終わったと思ったのに、お前のせいで追加メニューが増やされたじゃないか!”

“最悪だ!!もう限界だってのに、お前のせいで!”

と、こちらに向かってくる視線が辛かった。

もちろん、それは結だけではない。
結の他にもノルマを達成できずペナルティーが追加される者も多く、その人達も“お前のせいで”と、いう視線と雰囲気に精神を飲まれながら酷い屈辱と申し訳なさを感じながらメニューをこなさなければならなかった。

自分一人だけのペナルティーなら良かった。ここでは自分の少しのミスやノルマが達成できないと、連帯責任で全員がペナルティーをこなさなければならない。

その、精神的重圧がとてもキツイ。


結は体力や力、格闘技には絶対の自信があった。

自慢ではないが、学校でも自分の体力や力は圧倒的で他を寄せ付けなかったし。格闘技だって、国内最強女王とまで呼ばれてるくらいだ。

そんな結が、この強化合宿のトレーニングについていけてない。それどころか、みんなの足を引っ張ってペナルティーだらけである。

…こんなハズじゃなかった!と、何度も何度も心の中で叫んでいる。

自分でも信じられない気持ちでいる。いつも、運動や格闘技だけはてっぺんに居て下を見下ろしていた自分が…今はまるっきり逆の立場となっている。

体力自慢、力自慢ばかり集まっているのは分かっているが…ここまでも差があるなんて…

ようやく終えたトレーニング後も、ケロっとしている者達が1/3もいる事に驚く。
その中でもまだまだ、元気が有り余って居て軽い組み手をしてる強者までいる。

ここで結は、今まで自分は自分の運動能力に自惚れていたんじゃないかと感じ始めていた。

そのあとの、震災復興の手伝いにおいての説明や応急処置など、様々において短時間で頭に叩き込まれたが正直、全然ついていけず覚えられなかった。

そんな曖昧な状況で、震災地の一つに研修生達は連れ出された。

現場は……建物は崩れ砂や瓦礫に埋まっている。道路も信号機の半分以上泥や砂で埋まっている。

手のつけられない様な状況だったし、なんの臭いか分からないが異臭でまたお口からリバースしてしまった。

それは結だけでなく、他の研修生達の多くがお口からのリバースして更に異臭が強くなった。

しかし、これをどこから手をつけて、どう処理すればいいのか分からない。

しかも、埋もれた建物なのか瓦礫の下…或いは泥の中なのか、あちこちで悲鳴やら鳴き声、助けを求める悲痛な声が聞こえる。


…ドクン…


…な、なんなんだ、これは…!!?

結は、自分が想像していた合宿と程遠い合宿内容に愕然としていた。

結の脳内では、基礎トレーニングはもちろん、剣術や体術、魔導への対処法などを実践を交えての華やかで派手な練習を想像していた。

それが、……こんな……


そこには、結が想像だにしてなかった壮絶な光景が広がっていた。

災害地へ向かう途中の話では、悲惨な状況は大分収まり一般のボランティアの人達も呼べる状況まで進んでいるという話だった。

ニュースなどでも、徐々に落ち着きを取り戻して回復に向かっていると報じられていたはずだ。

だが、実際に現場に来て見れば…違う…自分が考えていた状況とはまるで違う、地獄のような状況だった。

…これで、大分回復してきている?

全然じゃないか!

…では、震災直後は?

震災が起きた時は……?

そう考えると…ゾッと全身が鉛をつけられたかのように動けなかった。


しかも、研修生達はみんなボランティア活動という名目で三日間、避難所で被災者のみなさんと一緒の空間で同じ様に過ごすという。

周りは魔導を使える研修生は、魔導で作業している軍人のサポートをしている。
軍人達はビビる研修生達を叱咤し的確な指示を出しながら、テキパキと埋もれた中から生命を見つけ出し、様々な魔導を駆使して出来るだけ被害者に負担がないよう。より、多くの命を救い出す為に、迅速に。そして正確に指示、実行していく。

その中には、大樹そっくりの幹も居て、自分の魔導を上手く駆使して活躍していた。

…すっげーーーッッッ!!?

軍人もビックリするくらいの活躍ぶりに、結は幹とあと数名の研修生の活躍に驚きカッコいいと思った。自分もあんな風に活躍できたらなぁ〜…と、見ていたら

「そこっ!何、突っ立ってるんだ!魔導が使える者が羨ましかろうが、今、自分のやれる事を全力でやれ!!お前がやってる事だって、アイツらに負けないくらいに立派な作業なんだ!
後ろばかり見てないで、前を向いて誇りを持ちひたすらに掘り続けろ!」

…怒られてしまった。

それは、結だけでなく魔導が使えない研修生の多くや、魔導を使えても微々たる事しか役に立てずモヤモヤしている研修生達も同じなようで、時たま自分の手や足を止めては幹達の活躍を羨み軍人に叱咤されつつも励まされていた。

魔導の使えない軍人や研修生達ができる事といったら今回の場合。ひたすらに泥や砂を麻袋に入れてトラックに積み上げる事。それだけだった。

だが、その作業は地味ではあるが相当なまでに大量と力を奪われるものだった。
水を含んだ泥や砂は重いし、泥なんてスコップから上手く剥がれず苦戦を強いられるものもある。
足場も悪く、砂のせいで足に踏ん張りがきかなかったり泥で滑ったり足がぬかるみにハマって足を抜くのに一苦労したり。

麻袋に満タンに入れるのはいいが、それはかなりの重さで持ち上げるのだけで一苦労だ。

ひたすらに、その繰り返しで一時間もすれば、全然あちこちが痛くて立ってるのすら辛くヘロヘロになっていた。

とにかく、この被災地は泥や砂が酷く、それを撤去していかなければ、物事が先に進めない状況であった。

だが、魔導で何とかしてしまいたい気持ちもあるが、この大量の泥や砂の中にどんな危険物があるか分からないし…人がこの中に多く飲み込まれてる事を思えば

その人達を出来るだけ、傷付けないよう遺族の方へ帰してあげたいという気持ちからも、ここは魔導を使う事が難しい場所だったのだ。

結は途方に暮れていた。

こんなに、ちまちまやってたらいつまで経っても終わらないよ!と、投げやりな気持ちになっていた。

スコップで掘っては麻袋に入れてトラックに積む、永遠ともとれる作業に嫌気をさす研修生達も多くぶつくさ文句を言っては軍人に酷く怒られていたし、この作業がいかに大切なのかも諭されていた。

自分がこんな事をしている間にも、たくさんの失われる命や悲鳴…助かる命などの生々しい声や音が聞こえてくる。

それを思い、そんな中自分は何の役に立っているのかと疑問に感じ…いかに自分が無力なのかとむざむざと思い知らされる。

結は、堪えきれない涙を流しながら、ひたすらに作業をした。

泥や土、汗まみれで作業を終えても、限られた水しか配給されないので、タオルを濡らし拭いてもあまり汚れは落とせなかった。

そして、用意されたダンボールで区切っただけの自分の空間で寝る。食べ物だって、あってないようなものだった。

誰かが、何か少しでも食べれるだけマシだ。食べれない人もいるなんて言葉を聞いた時には、配給された小さめなおにぎり一つと350mlのペットボトルの水を口に含むことさえ心苦しくて躊躇われた。

何にも役に立ってもないのに、貴重な食料を食べるなんて…。本当は私なんかよりもっと必要としてる人達がいる時に…と。
トイレやお風呂事情も…。

結は疲れのあまり、意図せず寝落ちたのだが、周りの揉め事、怒号…赤ん坊や幼い子供達の鳴き声…様々な声が聞こえ、“まだ、小さな子達もいるんだぞ!」と、駆けつけたい気持ちだったが、体が泥水のように重く床にへばりついたように動く事ができなかった。

疲れ過ぎて脳や体は眠っているのに、緊張のせいか脳の一部だけやけに敏感に動いていて聞きたくもない、嫌な言葉や音を拾ってくる。

…恐怖でしかない…

それに、四方ダンボールで仕切りがあるだけなので、少し動いただけでも大きく聞こえる。
少しビニールが擦れる音だけでも、かなり大きく聞こえる。

少し立っただけで、殆どみんなの姿が丸見えである。

プライベートも何もあったもんじゃない。


震災の話を聞いて、お嬢様育ちでお金の苦労を知らず過ごしてきた結は、助かった人から他県や海外に引っ越していて

家族を探してる人達が、時間を見つけ震災地に来ているものとばかり思っていた。

…だが、現場にきて、自分の考えはあまりに浅はかで考え無しの常識知らずだったと思い知らされた。

報道や人の話を見聞きしただけでも心が痛んだのだが、実際に現場にくればそんな生易しい気持ちなんて吹っ飛び、その場で泣き叫びたい気持ちになるし、状況によっては心が苦しくて辛くて気がおかしくなりそうになる。

なんと表現したらいいものか、ただ言える事は実際に現場に来なければ分からない、知らない事だらけだという事。

その日の夜、こんな訓練や生活なんてとてもじゃないけど耐えられないとリタイアする者達が多く、次の日の朝の朝礼には、最初の半数くらいまで研修生は減っていた。

そして、最終日三日目が終わる頃には、またリタイアする者、怪我や体調不良(精神的なものも含む)で、更に半数以下しか研修生は残っていなかった。

復興するにはまだまだ人手不足で、そこに残るしかない住人達の事も考えるとこのまま退散していいのかという罪悪感と何もできなかったという悔しさで結はなんとも言えない気持ちのまま合宿所へ戻るのだった。

合宿所へ着き

風呂やトイレ、歯磨き、食べ物、衣服、ある程度はプライベートが確保してある部屋などなど。

当初、合宿所に来たばかりの唯は、食器も布団もお風呂も何もかも汚くて、食事も粗末過ぎる。寝る部屋もプライバシーもない8人部屋だし布団は狭い固いで最悪だ。こんなの人が住む所じゃないと、ドン引きしていたのだが。

震災地から帰って来た唯は、合宿所での衣食住がこんなにもありがたく特別な事だったのかと感謝する気持ちしかなかった。

自分達が、普通だと思って生活している事の有り難さが身に染みる。自分達が、こうしてる間にも自分達では想像もできないほど世界中には様々な困難を抱えた人達がいる。

そう思うと、ギュッと胸が詰まり何とかしてあげられないのか?と、だが自分は何もできない…情け無いと自分の無力さが苦しくてしょうがなかった。
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