美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
【強化合宿、残り二日】
「合宿も残り二日となった。毎回ながら、リタイア者も多く出た。そして、残ったお前らには午前中は基礎トレーニング。午後からは、サバイバルゲームをしてもらう。」
「チームはA、B、Cの三チームに分かれてもらう。チームは、不公平がないよう個々の能力やスキルを見て公平に割り当てたつもりだ。
リーダー、副リーダーは、震災地での活動を見て適性能力を判断させてもらい決めた。異論は許されない。
各チームに分かれ、作戦を練る時間を与えよう。」
と、上官からの指示が出され、みんなそれぞれのチームへと向かう。
丁寧にもリーダーと選ばれた者は、分かりやすい様にA、B、Cとデカデカとついたプラカードを持って立っていた。
結が上官に渡された紙には“C”とついていて、Cのプラカードを持っているリーダー…幹の元へと向かった。
幹と同じチームになれた事を喜ぶ女子、同じチームになれなくて残念がる女子とやはり、幹はとてもモテていた。
そりゃ、こんなにイケメンで震災地で活躍してたら惚れちゃう子だって多いだろう。
余談だが、震災地で被災者の女子の多くが幹にほの字で男性からもなかなかに人気があった。
それに、この短期間に何度か研修生や被災者の女子から告白されてるのを見かけた事がある。
モテるって羨ましいけど、モテ過ぎるのも結構シンドいだろうなと何度かその現場を目撃してしまった結は苦笑いするしかなかった。
そこに集まった面々は、ザッと数えて100人程度。A、B、Cのチーム全部合わせても、300人程しか居なかった。
最初、集まった人数はざっくりではあるが2000人くらいはいたと思う。
そこから考えると、大分減ったなという感想だ。
そこからが、リーダーの見せ所であった。個性豊かでバラバラだったはずの他人が、いつの間にかお調子者でチャラい幹ワールド炸裂に引き込まれ和やかムードになっていたのだ。
まるで、昔からの仲間と錯覚してしまいそうになるくらい幹は、人の懐に入るのがとても上手かった。
気がつけば、結も気を許したあはは!と、心から笑った。
昨日までの心の苦しさを抱えつつも、なんだか前を向いて頑張れそうな気がしてきた。それは、結だけでなく被災地で大きくショックを受け立ち直れてなかった者達も幹独特のチャラい鼓舞で、元気を取り戻していくのが目に見えて分かった。
言動がチャラいが、芯が通っていて真っ直ぐ。全体的に目を向け、全体の様子をしっかり見て細かな所まで把握しようとしている。
そして、会話はチャラいがみんなと話をして、その人の個性や能力、長所短所を見極めている様に感じた。
そして、それぞれの得意、不得意分野を聞き作戦を練る。作戦も、みんなの話に耳を傾けながらも意見して、みんなが納得する形で話をまとめ上げてしまった。
これが、上に立つ素質のある人ってやつなんだなぁ。
最初は、こんなチャラい奴に無理だろ。ハズレくじを引いたってガッカリしたけど見る目が変わったよ。
だから、この人がリーダーに選ばれるのか。納得だ。
最初、幹のチームになった人達の多くは、結のようにハズレくじを引いたとガッカリしていたし、こんな奴をリーダーにするなんて上官は何を考えてるんだ。
コイツが、リーダーやるくらいなら自分がリーダーになった方が遥かにいい!と、あからさまに顰めっ面したり、悪態をつく者まで居たはずなのだが…
そんな悪態をついた奴と顰めっ面をした奴と、特に仲が良くなってる気がするには気のせいだろうか?
まあ、基本的に全体的にみんな分け隔てなく平等に接しているようだ。
「俺さぁ〜、何事にも信頼関係って大事だと思ってんだよね。だから、みんなの事が少しでも知りたかったからさ!そんな、俺もイケてるけど、俺に負けないくらいみんなもイケてるぜ!」
いい話なのだろうが、最後あたりで少し台無しになってしまっている。そこを、色んな人が突っ込んできて、更に場が盛り上がり士気が高まる。
そこで、午後からのサバイバルゲームの作戦会議は終了して、休憩時間の後、地獄の基礎トレーニングが始まる。
そして、みんな解散となり、それぞれ休憩に入った。もちろん、結も次の基礎トレーニングの為に十分に休憩を取ろうと芝生の上に寝転んで休もうとした。
その時
「結ちゃん。チョピっといい?」
と、気配もなく、後ろから声がしたと思ったら、幹に横からズイッと顔を近づけられビックリして
「…どわっ!!?」
結は、体が後ろにのけぞってしまった。いきなり、イケメンのドアップはビビる。
「何かあったんですか?」
まだ、ビックリしてドキドキしてる心臓を誤魔化しつつ、結は隣で後頭部に両手を組み上を見上げながらプラプラ歩き誘導する幹に聞いた。
「…う〜ん。ちょっち、聞きづらい所はあるんだけどさぁ。結ちゃんって、星彩中学校に通ってるんだよね?」
…結がお嬢様学校だから、何か嫌味の一つでも言われるのかと…少し構える結に
「変な事聞いちゃうけど、“財前 陽毬”って、知ってる?その子も、結ちゃんと同じ学校に通ってて学年も一緒だからさ。もしかしたら、ひーちゃんの事、知ってるかな?って、思って声掛けちゃった。」
幹は、テヘっと愛嬌ある顔で笑って、結に陽毬について聞いてきたのだ。
ドキッ!
……え!?
「…あ、あんた、どうして、陽毬ちゃんの事知ってるだ…あ…!知ってるんですか?」
と、驚く様子の結を見て、幹は分かりやすい子だなぁ〜と心の中で苦笑いしつつ
「知ってるも何も。合宿前にあった、鷹司家新当主、そして新当主の婚約者お披露目会のパーティーがあったろ?
そこで、俺は護衛としてその場にいたわけ。」
…ま、マジか!?
「仕事サボってプラプラしてたらさ。人気のない塔でボンヤリしてるポッチャリ令嬢がいてさ。」
…って!?護衛、サボってたんかーい!
「そしたら“姫”のご機嫌が良かったみたいで、“姫が歌った。”その時の姫の気持ちは“とにかく楽しい!嬉しい!!”だったらしくてさ。
気がついたら、そのポッチャリ令嬢とダンスを踊ってたんだよ。
その中で、色んな話をしたよ。大樹の事やら真白嬢の事、ポッチャリ令嬢、財前 陽毬の家の事情とかさ。あと、お互いの趣味の話とか!」
…え?
私も近くにいたオッさんとダンスしたけど、ダンスが楽しくて仕方がない。楽しい!嬉しい!最高だって気持ちでいっぱいで、自分の気持ちに夢中で話す事なんてしなかったけど…。
陽毬ちゃんと幹さんは、あの最高に楽しかったダンスの中、色んな話をしたんだ。
「でさ!その短時間で、ひーちゃんの事好きになっちゃった。」
……えっ!!?
「だけど、歌が止んでダンスも終了した時に、自分のこの気持ちが何なのか分からなかったんだよね〜。で、思わず、ひーちゃんから逃げちゃった。」
…なるほど。
これで、陽毬ちゃんの話と繋がってきたぞ。
「今まで、恋愛とか考える暇がなくてさ〜。
だから、自分の気持ちに気付くまで時間掛かっちゃったよね〜。オレったら、ど〜んかぁ〜んくぅ〜ん!」
なって、おっちゃらけながら言うから本気かどうかよく分からなかった。
「学校行ったらさ。オレの連絡先渡してもらいたいなぁ〜なんて。」
と、幹は紙に自分の携帯番号とメールのアドレスが書いてある紙を結に渡してきた。
しかも、ご丁寧に
“*雷光 幹(らいこう みき)
*聖・ノーブル学園中学校三年
*趣味は寝ること。プラプラ散歩。ゲーム全般、漫画を読む事。”
少しの自己紹介まで書いてある。
「陽毬ちゃんは、人見知りだからね。これ、渡しても連絡いくとは思えないんですけど…。
まあ、一応は渡しますね?」
と、結は幹の連絡先を受け取った。
「マジ!?ありがと!じゃあねー!」
結との約束が取れた事で、幹は満面の笑みでお礼を言って去って行ってしまった。
…さ、騒がしい人だな
結が苦笑いしながら渡された連絡先をポケットにしまうと、携帯電話の持ち込み禁止ってなかなか面倒だなと思った。
携帯があったら、陽毬に連絡して色々とできるし、もしかしたら幹となんらかの進展があったかもしれないのに。
なんて考えながら、芝生にゴロリと横になって休む結を幹は目線だけでチラリと見ると
「…ほ〜んと、単純ちゃんだなぁ。単純過ぎて、逆に心配になっちゃうな。
でも、これで大樹の悔しがる顔が見れるかもしれないってね!
……それにしても、お嬢様だから直ぐに根をあげるかと思ったら最後まで乗り切っちゃったよ、あの子。凄いじゃん!」
幹は、足取りも軽くクスクス笑いながら自分のお気に入りの休憩場所を探して歩いていた。
そうして、終えた強化合宿。
結局、最後まで残ったのは僅か、120名ほどだけであった。その中に、結は何とか食らいつきやり遂げた。
…内容は、圧倒的経験不足と実力不足、知識不足で、みんなの足手まといになっていたのは言うまでもない。
嫌な顔をされながらもネチネチ嫌味を言われ、少し(?)虐められもしたが。それでも、結は最後まで乗り切ったのだ。
自分でも、あんな状況でよく最後まで残れたと思う。今は誰が何と言おうとも、自分で自分を褒めたい気持ちだった。
何度も逃げ出そうとしては、ここで逃げたら地獄の結婚生活という最低最悪の未来が待ってる!
そんなのは絶対に嫌だという気持ちだけで、何とか踏み止まり、陰でたくさん泣きながらも頑張った五日間。長いようで短かったような不思議な気持ちだ。
ようやく、家に帰れば泣きながら両親が結を出迎え、それはそれは過保護もいい所でアレやこれやと世話をしたがり、結が部屋に戻るまでベッタリだった。
正直、疲れてるし思う事もいっぱいあったので、早く自室で休みたかったし考えたい事もあった。
だが、結の気持ちを汲み取り両親はとても嫌だったろうにその気持ちをグッと堪え結を強化合宿に送り出してくれた両親には、ひたすらに感謝しかない。
だから、両親の過保護はウザかったが我慢してある程度は受け入れた。度が過ぎる事は、さすがに断ったが…。
結、無事帰還の花火を打ち上げようとか。
無茶なトレーニングで痛んだ体を癒す為に、人気のマッサージ師を呼んだり
きっと、恐ろしい事ばかり体験して心が病んでるかもしれないと、心の癒しが必要だとアロマテラピストを呼んだり
食事もわざわざ、野蛮な物しか食べさせてもらってないに違いないと、わざわざ人気の有名シェフを呼び料理させたりと…
もう、色々だ。頑張った娘を労いたい気持ちは分かるが…さすがに、やり過ぎだと思う。
ウンザリもするし、うざったくもあるが、両親の気持ちが嬉しい。
ようやく一人になれた結は、何故か泣いた。自分でもよく分からないけど無性に泣きたくて、枕に顔を押し当てて声を塞ぎ大声で泣いた。
結の部屋の前まで来ていた蓮は、その押し殺して泣く結の声を聞いてギュッと胸が締め付けられる様に痛かった。
きっと、自分では想像がつかないほど過酷な訓練をしてきたのだろう。よっぽど、辛かったに違いない。
…本当は、自分と結の婚約について話したいと思ってきたんだが、今はその時ではないだろう、と、蓮は自分の部屋へと戻って行った。
本当なら、こんな時に側に寄り添ってあげるのがベストなのだろうが、何せ自分と結はそんな関係でもないし友人ですらない。
自分はただの居候で、結は居候先の子供に過ぎない。そんな、他人とも少し違うがそれでも他人な関係だ。
そんなこんなで月曜日。結は元気よく学校へ行った。そこで、ショウ達は結が学校に来た事を大いに喜び、これまで学校であった事、個人の変化や噂なども話し足りないくらいだった様で色んな事を教えてくれた。
あと、結がいなくて凄く寂しかった事を伝えてこられた時は、こんなに自分の事を思ってくれる友達がいる事にとても嬉しく感じた。
友達がいるっていいもんだなぁ〜と、らしくもなくジィ〜ンときてしまった。
ちなみに、結は合宿が終わり家に帰る迎えの車の中で、色々あって雷光 幹(らいこう みき)と関わり、幹から陽毬への連絡先を預かっているとメールをした。
そして、預かり物は陽毬の下駄箱に入れておくという事で話はついた。
その預かり物を陽毬がどうしたのかは分からないが、遅かれ早かれ自分の友達に恋人ができそうな予感がしている。
…幹がどんな人物かはあまり分からないが、少なくとも合宿で見た幹はとても好感のもてる人物ではあった。
恋愛に傷つき、今も苦しめられている陽毬に、どうか幸せになってほしいと自分の事は棚上げで結は心からそう願った。
…どうか、幹さんがいい人でありますように。
そして、一刻も早く大樹様への思いや未練を断ち切れますようにと。
「合宿も残り二日となった。毎回ながら、リタイア者も多く出た。そして、残ったお前らには午前中は基礎トレーニング。午後からは、サバイバルゲームをしてもらう。」
「チームはA、B、Cの三チームに分かれてもらう。チームは、不公平がないよう個々の能力やスキルを見て公平に割り当てたつもりだ。
リーダー、副リーダーは、震災地での活動を見て適性能力を判断させてもらい決めた。異論は許されない。
各チームに分かれ、作戦を練る時間を与えよう。」
と、上官からの指示が出され、みんなそれぞれのチームへと向かう。
丁寧にもリーダーと選ばれた者は、分かりやすい様にA、B、Cとデカデカとついたプラカードを持って立っていた。
結が上官に渡された紙には“C”とついていて、Cのプラカードを持っているリーダー…幹の元へと向かった。
幹と同じチームになれた事を喜ぶ女子、同じチームになれなくて残念がる女子とやはり、幹はとてもモテていた。
そりゃ、こんなにイケメンで震災地で活躍してたら惚れちゃう子だって多いだろう。
余談だが、震災地で被災者の女子の多くが幹にほの字で男性からもなかなかに人気があった。
それに、この短期間に何度か研修生や被災者の女子から告白されてるのを見かけた事がある。
モテるって羨ましいけど、モテ過ぎるのも結構シンドいだろうなと何度かその現場を目撃してしまった結は苦笑いするしかなかった。
そこに集まった面々は、ザッと数えて100人程度。A、B、Cのチーム全部合わせても、300人程しか居なかった。
最初、集まった人数はざっくりではあるが2000人くらいはいたと思う。
そこから考えると、大分減ったなという感想だ。
そこからが、リーダーの見せ所であった。個性豊かでバラバラだったはずの他人が、いつの間にかお調子者でチャラい幹ワールド炸裂に引き込まれ和やかムードになっていたのだ。
まるで、昔からの仲間と錯覚してしまいそうになるくらい幹は、人の懐に入るのがとても上手かった。
気がつけば、結も気を許したあはは!と、心から笑った。
昨日までの心の苦しさを抱えつつも、なんだか前を向いて頑張れそうな気がしてきた。それは、結だけでなく被災地で大きくショックを受け立ち直れてなかった者達も幹独特のチャラい鼓舞で、元気を取り戻していくのが目に見えて分かった。
言動がチャラいが、芯が通っていて真っ直ぐ。全体的に目を向け、全体の様子をしっかり見て細かな所まで把握しようとしている。
そして、会話はチャラいがみんなと話をして、その人の個性や能力、長所短所を見極めている様に感じた。
そして、それぞれの得意、不得意分野を聞き作戦を練る。作戦も、みんなの話に耳を傾けながらも意見して、みんなが納得する形で話をまとめ上げてしまった。
これが、上に立つ素質のある人ってやつなんだなぁ。
最初は、こんなチャラい奴に無理だろ。ハズレくじを引いたってガッカリしたけど見る目が変わったよ。
だから、この人がリーダーに選ばれるのか。納得だ。
最初、幹のチームになった人達の多くは、結のようにハズレくじを引いたとガッカリしていたし、こんな奴をリーダーにするなんて上官は何を考えてるんだ。
コイツが、リーダーやるくらいなら自分がリーダーになった方が遥かにいい!と、あからさまに顰めっ面したり、悪態をつく者まで居たはずなのだが…
そんな悪態をついた奴と顰めっ面をした奴と、特に仲が良くなってる気がするには気のせいだろうか?
まあ、基本的に全体的にみんな分け隔てなく平等に接しているようだ。
「俺さぁ〜、何事にも信頼関係って大事だと思ってんだよね。だから、みんなの事が少しでも知りたかったからさ!そんな、俺もイケてるけど、俺に負けないくらいみんなもイケてるぜ!」
いい話なのだろうが、最後あたりで少し台無しになってしまっている。そこを、色んな人が突っ込んできて、更に場が盛り上がり士気が高まる。
そこで、午後からのサバイバルゲームの作戦会議は終了して、休憩時間の後、地獄の基礎トレーニングが始まる。
そして、みんな解散となり、それぞれ休憩に入った。もちろん、結も次の基礎トレーニングの為に十分に休憩を取ろうと芝生の上に寝転んで休もうとした。
その時
「結ちゃん。チョピっといい?」
と、気配もなく、後ろから声がしたと思ったら、幹に横からズイッと顔を近づけられビックリして
「…どわっ!!?」
結は、体が後ろにのけぞってしまった。いきなり、イケメンのドアップはビビる。
「何かあったんですか?」
まだ、ビックリしてドキドキしてる心臓を誤魔化しつつ、結は隣で後頭部に両手を組み上を見上げながらプラプラ歩き誘導する幹に聞いた。
「…う〜ん。ちょっち、聞きづらい所はあるんだけどさぁ。結ちゃんって、星彩中学校に通ってるんだよね?」
…結がお嬢様学校だから、何か嫌味の一つでも言われるのかと…少し構える結に
「変な事聞いちゃうけど、“財前 陽毬”って、知ってる?その子も、結ちゃんと同じ学校に通ってて学年も一緒だからさ。もしかしたら、ひーちゃんの事、知ってるかな?って、思って声掛けちゃった。」
幹は、テヘっと愛嬌ある顔で笑って、結に陽毬について聞いてきたのだ。
ドキッ!
……え!?
「…あ、あんた、どうして、陽毬ちゃんの事知ってるだ…あ…!知ってるんですか?」
と、驚く様子の結を見て、幹は分かりやすい子だなぁ〜と心の中で苦笑いしつつ
「知ってるも何も。合宿前にあった、鷹司家新当主、そして新当主の婚約者お披露目会のパーティーがあったろ?
そこで、俺は護衛としてその場にいたわけ。」
…ま、マジか!?
「仕事サボってプラプラしてたらさ。人気のない塔でボンヤリしてるポッチャリ令嬢がいてさ。」
…って!?護衛、サボってたんかーい!
「そしたら“姫”のご機嫌が良かったみたいで、“姫が歌った。”その時の姫の気持ちは“とにかく楽しい!嬉しい!!”だったらしくてさ。
気がついたら、そのポッチャリ令嬢とダンスを踊ってたんだよ。
その中で、色んな話をしたよ。大樹の事やら真白嬢の事、ポッチャリ令嬢、財前 陽毬の家の事情とかさ。あと、お互いの趣味の話とか!」
…え?
私も近くにいたオッさんとダンスしたけど、ダンスが楽しくて仕方がない。楽しい!嬉しい!最高だって気持ちでいっぱいで、自分の気持ちに夢中で話す事なんてしなかったけど…。
陽毬ちゃんと幹さんは、あの最高に楽しかったダンスの中、色んな話をしたんだ。
「でさ!その短時間で、ひーちゃんの事好きになっちゃった。」
……えっ!!?
「だけど、歌が止んでダンスも終了した時に、自分のこの気持ちが何なのか分からなかったんだよね〜。で、思わず、ひーちゃんから逃げちゃった。」
…なるほど。
これで、陽毬ちゃんの話と繋がってきたぞ。
「今まで、恋愛とか考える暇がなくてさ〜。
だから、自分の気持ちに気付くまで時間掛かっちゃったよね〜。オレったら、ど〜んかぁ〜んくぅ〜ん!」
なって、おっちゃらけながら言うから本気かどうかよく分からなかった。
「学校行ったらさ。オレの連絡先渡してもらいたいなぁ〜なんて。」
と、幹は紙に自分の携帯番号とメールのアドレスが書いてある紙を結に渡してきた。
しかも、ご丁寧に
“*雷光 幹(らいこう みき)
*聖・ノーブル学園中学校三年
*趣味は寝ること。プラプラ散歩。ゲーム全般、漫画を読む事。”
少しの自己紹介まで書いてある。
「陽毬ちゃんは、人見知りだからね。これ、渡しても連絡いくとは思えないんですけど…。
まあ、一応は渡しますね?」
と、結は幹の連絡先を受け取った。
「マジ!?ありがと!じゃあねー!」
結との約束が取れた事で、幹は満面の笑みでお礼を言って去って行ってしまった。
…さ、騒がしい人だな
結が苦笑いしながら渡された連絡先をポケットにしまうと、携帯電話の持ち込み禁止ってなかなか面倒だなと思った。
携帯があったら、陽毬に連絡して色々とできるし、もしかしたら幹となんらかの進展があったかもしれないのに。
なんて考えながら、芝生にゴロリと横になって休む結を幹は目線だけでチラリと見ると
「…ほ〜んと、単純ちゃんだなぁ。単純過ぎて、逆に心配になっちゃうな。
でも、これで大樹の悔しがる顔が見れるかもしれないってね!
……それにしても、お嬢様だから直ぐに根をあげるかと思ったら最後まで乗り切っちゃったよ、あの子。凄いじゃん!」
幹は、足取りも軽くクスクス笑いながら自分のお気に入りの休憩場所を探して歩いていた。
そうして、終えた強化合宿。
結局、最後まで残ったのは僅か、120名ほどだけであった。その中に、結は何とか食らいつきやり遂げた。
…内容は、圧倒的経験不足と実力不足、知識不足で、みんなの足手まといになっていたのは言うまでもない。
嫌な顔をされながらもネチネチ嫌味を言われ、少し(?)虐められもしたが。それでも、結は最後まで乗り切ったのだ。
自分でも、あんな状況でよく最後まで残れたと思う。今は誰が何と言おうとも、自分で自分を褒めたい気持ちだった。
何度も逃げ出そうとしては、ここで逃げたら地獄の結婚生活という最低最悪の未来が待ってる!
そんなのは絶対に嫌だという気持ちだけで、何とか踏み止まり、陰でたくさん泣きながらも頑張った五日間。長いようで短かったような不思議な気持ちだ。
ようやく、家に帰れば泣きながら両親が結を出迎え、それはそれは過保護もいい所でアレやこれやと世話をしたがり、結が部屋に戻るまでベッタリだった。
正直、疲れてるし思う事もいっぱいあったので、早く自室で休みたかったし考えたい事もあった。
だが、結の気持ちを汲み取り両親はとても嫌だったろうにその気持ちをグッと堪え結を強化合宿に送り出してくれた両親には、ひたすらに感謝しかない。
だから、両親の過保護はウザかったが我慢してある程度は受け入れた。度が過ぎる事は、さすがに断ったが…。
結、無事帰還の花火を打ち上げようとか。
無茶なトレーニングで痛んだ体を癒す為に、人気のマッサージ師を呼んだり
きっと、恐ろしい事ばかり体験して心が病んでるかもしれないと、心の癒しが必要だとアロマテラピストを呼んだり
食事もわざわざ、野蛮な物しか食べさせてもらってないに違いないと、わざわざ人気の有名シェフを呼び料理させたりと…
もう、色々だ。頑張った娘を労いたい気持ちは分かるが…さすがに、やり過ぎだと思う。
ウンザリもするし、うざったくもあるが、両親の気持ちが嬉しい。
ようやく一人になれた結は、何故か泣いた。自分でもよく分からないけど無性に泣きたくて、枕に顔を押し当てて声を塞ぎ大声で泣いた。
結の部屋の前まで来ていた蓮は、その押し殺して泣く結の声を聞いてギュッと胸が締め付けられる様に痛かった。
きっと、自分では想像がつかないほど過酷な訓練をしてきたのだろう。よっぽど、辛かったに違いない。
…本当は、自分と結の婚約について話したいと思ってきたんだが、今はその時ではないだろう、と、蓮は自分の部屋へと戻って行った。
本当なら、こんな時に側に寄り添ってあげるのがベストなのだろうが、何せ自分と結はそんな関係でもないし友人ですらない。
自分はただの居候で、結は居候先の子供に過ぎない。そんな、他人とも少し違うがそれでも他人な関係だ。
そんなこんなで月曜日。結は元気よく学校へ行った。そこで、ショウ達は結が学校に来た事を大いに喜び、これまで学校であった事、個人の変化や噂なども話し足りないくらいだった様で色んな事を教えてくれた。
あと、結がいなくて凄く寂しかった事を伝えてこられた時は、こんなに自分の事を思ってくれる友達がいる事にとても嬉しく感じた。
友達がいるっていいもんだなぁ〜と、らしくもなくジィ〜ンときてしまった。
ちなみに、結は合宿が終わり家に帰る迎えの車の中で、色々あって雷光 幹(らいこう みき)と関わり、幹から陽毬への連絡先を預かっているとメールをした。
そして、預かり物は陽毬の下駄箱に入れておくという事で話はついた。
その預かり物を陽毬がどうしたのかは分からないが、遅かれ早かれ自分の友達に恋人ができそうな予感がしている。
…幹がどんな人物かはあまり分からないが、少なくとも合宿で見た幹はとても好感のもてる人物ではあった。
恋愛に傷つき、今も苦しめられている陽毬に、どうか幸せになってほしいと自分の事は棚上げで結は心からそう願った。
…どうか、幹さんがいい人でありますように。
そして、一刻も早く大樹様への思いや未練を断ち切れますようにと。