美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
入学初っ端から、衝撃的だった中学生活も二週間も経てば色々と見えてくる事がある。
昼休み、結、ショウ、陽毬、フジ、桔梗、風雷の五人は学校の屋上へと昼ごはんを食べに来ていた。
…う〜ん、学校内外…いや世界規模であろう三大美を目の前に
フジと風雷も、恐ろしい程の美形だけれど。
そんな二人と一緒にいても、異次元な美貌を放つ桔梗の異常なまでの美しさよ。
いや、この世のものとは思えない美貌の桔梗と一緒にいても、色褪せない美貌を持つ二人が凄いのか。桔梗の美貌が異常なのか…。
何にせよ、えげつない美貌の持ち主、三人と一緒に行動する事になるとは夢にも思わなかった結だ。人生、何があるか分からないものだなと思う。
それは、さて置いてだ。
この学校には学食はあるのだが、某一流シェフが監修したメニューを取り扱っている為人気も高く、ほとんどの三年生が学食を使っている。たまに極一部だけ家柄や富豪レベルによって学年関係なく堂々と食堂を使ってる生徒達もいるが。彼らは特別中の特別なのだろう。
それ以外の人達は学食を使えず、必然的にお弁当持参となっている。もちろん、例に漏れず一年生である結達もお弁当持参だ。
屋上で、それぞれお抱えのシェフが用意したお弁当を広げる。それぞれ、一流のシェフだけあって見事なお弁当ばかりだ。
しかし、この二週間、結は疑問に感じていた事があった。
中学で初めてできた友達。最初から打ち解けられるわけがない。だが、二週間経てば最初こそぎこちない結達でも徐々に打ち解け始めるってもんだ。
なので、結は思い切って自分が感じていた疑問を投げ掛ける事にした。だって、ずっと気になって気になって仕方なかったから!
なにせ、お弁当持参にも関わらず、ショウはお弁当を持ってこず手ぶらだ。ついでに、フジも。
代わりに桔梗が大きなお重箱だったりお弁当のバスケットを持参してくる。そして、お弁当の準備をするのも全て桔梗だ。
お弁当の準備が終わると、ショウと一緒に同じお弁当を仲良く食べているのだ。
桔梗はショウの横にピットリとくっ付いて、たまに「あ〜ん」なんて言って、ショウに食べさせたりもしている。
たまに、ショウの後ろから抱きつき、そこからお弁当を食べたり食べさせようと試みるが…
いかんせん、まだまだ成長期の桔梗は156センチ程と身長は小柄。ショウも142センチとかなりの小柄とはいえ少々横に大きめなショウを後ろから抱きお世話をするには、とてもじゃないが無理がある。
それができるのは身長差があっての事。
桔梗の思い描いていたシチュエーションができなくて、ガックリと肩を落とす桔梗がちょっと可哀想で可愛い。
いつも、紳士的で大人びている桔梗。
どこか達観していている雰囲気を漂わせている桔梗だから。そんな桔梗だから、尚更に可愛く思える。
諦めたらいいものを、理解はしていても理想を諦めきれない桔梗はたまにそれを試みて撃沈している。可哀想だが…うん、かわいい。
まだ、12才。男の子はこれからドンドン大きくなるのだから頑張れ!
と、思わず結と陽毬は心の中で、桔梗にエールを送る。
「…ん!これ、すっごい好き!」
と、キラキラ目を輝かせ桔梗を見るショウに
「でしょ?それ、今日一番の自信作。ショウに喜んでほしくて頑張っちゃった。」
なんて、桔梗は凄く嬉しそうに満面の笑みを浮かべ喜んでいた。そのあと、美味しそうにパクパク食べるショウの顔を愛おしそうに目を細め甘い甘ぁ〜〜〜い顔して見ている桔梗。
しかも、ショウの口が汚れると優しく口元を拭いてあげたり、色々とショウのお世話をしながら自分も食べている。
婚約者って言うより、お姫様のお世話係のようだ。
正直…いや、普通に、こんな超絶美人な桔梗にこんなに尽くしてもらっているショウがメチャクチャ羨ましい。マジで、心の底からそう思う。うん。
なんなら、ショウに土下座して自分のドクズ婚約者と素敵紳士桔梗様を交換して下さいってお願いしたい。
あんなドクズ婚約者はノシをつけてでも誰かにプレゼントしたいくらいだ。マジで、あんなゲスいらない。
と、自分のクソみたいな婚約者の顔がチラつきムカムカする気持ちを払いのけるように、結はその勢いのまま、今まで聞くに聞けなかった事を聞いてみた。
「なんで、毎日桔梗君が持ってくるお弁当を二人で食べてるの?ショウのお家のシェフはお弁当作ってくれないの?」
と、聞いてしまった。ついに聞いてしまったぞ!それに対し
「…ああ、そっか。それは不思議に感じても仕方ないよね。俺とショウは一緒の家に住んでるんだよ。」
穏やかに桔梗が答えた。
…えぇ〜〜〜ッッッ!!?
いくら婚約者といえど、まだ結婚もしてない若すぎる男女が同じ屋根の下に暮らしてるだとぉぉぉ〜〜〜ッッッ!!!?
あまりの衝撃発言に、結はフリーズし結のお抱えシェフお手製のミートボールをポロリと落っことした事にさえ気づかず二人を凝視した。お口もパッカーーーンだ。
「それに、弁当は俺がショウに食べてほしくて好きで作ってるんだし。あと、まさか一緒に住んでるのにショウに重い荷物持たせたくはないだろ?」
…んんっ!!?
いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい手の込んだ品の数々。栄養バランスも考えられた風な美味しそうなお弁当。(デザート付き)
それを毎日、桔梗が作ってんのっ!?
「えぇ〜〜〜っっっ!!!?」
と、驚く結に風雷はクスッと笑い、フジは耳を塞ぎ顰めっ面をしている。
ショウは、真っ赤になって恥ずかしそうに俯いちゃってる。それでいて、桔梗が褒められてると自分の事のように嬉しそうにはにかみくすぐったそうにしていた。
そんなショウにめざとく気がついた桔梗は
「〜〜〜っ!?…ショウ、かわいっ!」
なんて、可愛くて堪らないって感じに振り絞った声を出し、肌が黒くて分かりづらいが真っ赤になっていた。
気持ちが溢れた桔梗は、辛抱たまらんって雰囲気をバンバン出しショウを抱きしめ
「…はあ〜。どうして、俺のショウはこんなに可愛いんだろ?ショウのお婿さんになれる俺は世界一…ううん、宇宙一の幸せ者だよ。大好き。本当、好き!」
なんて、口から砂糖…砂を吐きそうなくらいゲロ甘な言葉をほざいている。しかも、結達の存在なんて忘れて、ショウの顔中にキスの嵐である。
ショウは、結達の存在を気にして茹で蛸の様に真っ赤になりながら、慌てて桔梗の愛の暴走を止めようと躍起になっている。
「…き、桔梗!ここ、お外でみんな見てるよっ!…は、恥ずかしいからぁ〜〜!」
「ふふ!恥ずかしいの?恥ずかしがってるショウもかわい〜っ!」
「…違うよ!そうじゃないくって…!…ここはね、学校だよ!?」
と、ついにショウは、桔梗の体を押し退けようとするも力の差があり過ぎて、桔梗の体はビクともしないし、ショウがジタバタしても桔梗の体幹が素晴らしくショウのジタバタも無意味であった。
格闘技大好きの結はピーンときた。桔梗のこの素晴らしい体幹!!相当なまでに鍛えてるし…とんでもない強者の匂いがする!
「えぇ〜〜?ここで必死になっちゃうんだ?そんなの、ますます可愛いだけだから。…ちゅっ!」
「…だ、ダメだ。…ど、どうしたらいいのぉ〜???」
…ショウが、桔梗の暴走を止める事を諦めて途方に暮れている。でも、みんなに見られて恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠し俯いてしまった。
普段は、誰もが羨むほど仲睦まじい二人。見ていて、なんだかホッコリする。
しかし、いくら婚約者同士だからって二人の距離感は近すぎると思うが、それを含めてもさほど不快感や嫌味を感じないのが不思議だ。
だが、たまに何かの拍子に桔梗のショウ大好きスイッチが入ってしまい、今回のように暴走してしまう事が多々ある。これに対してだけは
…見るに耐えない…。
ショウが困ってるし、助けるべきか…それをしてしまったら野暮じゃないか?どうするべきか悩んでしまう。困った二人である。
でも、何故かこの二人のラブラブは見てても許せちゃうんだよなと結は思っている。風雷もやれやれといった感じではあるが温かい目で二人を見てる。
「おうおう、いつもの光景ですな。今日も平和で何よりでござる。」
陽毬や風雷なんて、この光景は普通だとばかりの反応で大して気にしていない。
しかし、このいい空気をぶち壊す言葉の刃が切り割いてきた。
「あ〜、嫌だわぁ!この二人、距離感はバグりすぎて頭おかしくなっちゃいそう。
それもこれも、何もできないショウのせいだわ。出来損ないのショウのお世話をしなければいけない桔梗が気の毒過ぎて涙が出ちゃうわ。」
その言葉に、ショウはショックを受け俯き泣きそうになっている。すかさず、桔梗が優しくショウを抱き締め何かを囁いている。
陽毬もギョッとした顔をしてフジを見るが、フジの高圧的な雰囲気に負け恐怖で俯いてしまった。
「それにしても、ショウを婚約者に選ぶなんて、桔梗ってブス専なのかしら?眼科行った方がいいレベルだわ!
これ、幼少期からよ?よく、飽きもせず気持ち悪いくらいイチャイチャしてべったりできるなって呆れてものも言えないわ。」
フジは、ショウと桔梗の距離感が近いという結の反応は普通だと共感し、心底不愉快だとばかりに綺麗な顔を顰めて話してきた。
だが、フジのそれはあまりに言い過ぎだしショウはかなり傷ついてる。桔梗も不快に思っているはず。
陽毬もムカついているがフジが怖くて文句も言えず、代わりに俯いたまま何か呪いめいた事を聞こえないような小さな声でブツブツ言って小さな小さな抵抗をしていた。…ちょっと気味が悪い。
だけど、みんなと友達になって日の浅い結は、ここで揉めたら取り返しのつかない事になるのではないかと気を揉み、フジに注意したい気持ちをグッと抑えみんなの様子を伺っていた。
「この二人を知れば知るほど、見てて痛々しくてドン引きするわよ?なにせ、毎回お風呂もベットも一緒なのよ、その二人。しかも…」
と、フジが言い掛けた所で
ショウは傷ついた様な表情を浮かべ、俯いたままか細い声で「…ご、ごめんなさ…」と、謝りかけ、その謝罪は必要ないとばかりに
「フジ、喋り過ぎだし言い過ぎだ。
それに、二人が良くてしている事だ。周りに迷惑を掛けてる訳でもない。二人の許可なく、明け透けに二人のプライベートな事を口に出すのはどうかと思う。」
ショウの謝罪を遮るように、風雷は淡々とフジの言葉を制した。そんな風雷に、フジはムッとして
「風雷の恋は、報われなさそうだものね!
だって、ショウのお父様の部下であるゴリラ女が好きなんでしょ?
身長2メートルの筋肉ダルマ。確か、貧乏な庶民の中学校に通ってるのよね?
その傍ら、貧乏過ぎてお金を稼ぐ為にショウのお父様の職場でアルバイトをしているんでしょ?そんな女が好きだなんて、風雷の女性の好み疑っちゃうわぁ〜。」
と、お返しとばかりに風雷に悪態をついた。
それにしても、どこから聞き出したのかフジの情報量が凄い。
すると
「フジッ!」
普段、冷静沈着な風雷が珍しく声を荒げた。
その威圧感に、思わず結とショウ、陽毬、フジはビクッと肩が飛び跳ねた。
風雷の凍てつく様な雰囲気にのまれ恐怖しかない。
「…あの人の事を悪く言うのだけは許さない。」
そう言って、気分を害したのか風雷は冷たくそう言い放ち桔梗とショウに
「仕事あるから帰るな。」と、軽く挨拶してから、何か思い出したようにピタリと足を止めると桔梗を振り返り
「今日、実戦練習あるらしいぜ?負けねーよ?」
と、挑戦的な笑みを浮かべてきた。
「俺が勝つから問題ないよ。」
桔梗は意地悪そうに笑ってギラギラした目で風雷を見ている。
「じゃ、先行って待ってるからな。」
「おう。」
二人の挨拶なのだろう、二人は拳をコツンと突き合わせ挑発的に笑い合うと風雷はその場を去って行ってしまった。
なんだか、二人の友情の深さを見た気がした。
実戦練習って、何の練習してるんだろ?
風雷が去った事で、凍りつく様な恐怖から解放され結とショウは、…ハァ〜〜〜と安堵の息を漏らした。
ショウも怖かったんだな、私も怖かったよと声を掛けようとショウを見たが
「怖かったの?大丈夫?」と、桔梗にヨシヨシして慰めてもらっていたので、声なんて掛けられなかった。
……チッ!!
ショウには桔梗がいたか!
ヨシヨシとか羨ましすぎだろ!!私も性格のいいイケメンにヨシヨシされたいっ!
と、結が羨ましがってる横で
「…………私がいるのに!」
少し泣きそうになってるフジは、俯いて悔しそうに小さく震え呟いていた。
…あ、あれ?
もしかして、フジって…
え!?そんな感じっ!!?
もし、二人が付き合ったとしたら超絶美男美女カップル爆誕じゃん!お似合い過ぎる!!
きゃーーーーーっっっ!!!
と、結は友達の恋愛事情を少し垣間見た気がしてドキドキ興奮してしまった。
だが、ピリついた空気で、ぎこちなくなってしまった雰囲気に耐えられないので
「…あ、風雷君って、結構学校休んだり早退や遅刻が多いよな?もしかして、風雷君って不良だったりする?厳ついアクセサリーもいっぱい身に付けてるし。」
と、凍てついた空気を和らげるべく風雷について聞く結。
「違うわ。あまり、大きな声で言えない話だけど。風雷君は学生でありながら特別な仕事をしてるらしいの。
だから、学校側と相談して休みや早退遅刻は特別に許してもらってるみたい。アクセサリーも、職業柄必要なものらしくて特別に許可をもらってるらしいわ。」
…な、何ですとーーー!!?
風雷君、学生の身…しかも、中学生なのに仕事も掛け持ちしてるの!?
確かに、小学生で社長、ギャルで社長とかテレビで見た事あるけど
「…え?中学生なのに仕事してるの?しかも、特別な仕事ってどんな仕事してるの?社長とか?今は、小学生で社長してる人もいるくらいだもんな!」
実際に、身近にそんな人が居るとマジでそんな人居るんだと実感しかなり驚いてしまう。
テレビで、見て知っても驚きはせど、何処か現実味がなく感じていたが。
「…残念だけど、何の仕事をしているとか詳しい事は教えてもらえないの。
そもそも風雷も桔梗もコスモ大学、大学院を首席で卒業してるから中学校なんて通わなくていいんだけどね。」
…ギョギョギョーーーーーッッッ!!!??
…は、はあ???
こ、コスモ大学って言ったら、世界一頭いい大学じゃん!?それを二人で首席で卒業???
…え?
まだ、12才で誕生日が来たら13才になるピヨピヨの中学生だよね?
「…え?でも、同じ大学で二人同時に首席っておかしくない?」
と、結がつっこむと
「学科が違うのよ。確か、大学では風雷君は医学部魔導学科で、桔梗君は法学部。
大学院では、風雷君は経済学部、桔梗君は魔導部科学科よ。」
…う、うわぁ…
と、とんでもない…!なんて現実味のない話なんだろう。
桔梗君と風雷君は、容姿もさることながら頭の出来もとんでもなかったぁぁ〜〜〜
うわぁ〜、マジかぁ〜
同じ人間とは思えないなぁ。
マジで、こんな神様に愛され生まれた様な人間がいるなんて…不公平を感じてしまうな。
それにしても、フジさん桔梗君と風雷君について詳しくない?それも、ファンかストーカーばりに。
そんな何とも言えない微妙な雰囲気の中
「そういえば、結は大丈夫なの?」
フジは、なんて事なくズバッと結に聞いてきた。
うん、あの事だよな?…あの事!!
その事を思うと、結は胸糞悪い気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
昼休み、結、ショウ、陽毬、フジ、桔梗、風雷の五人は学校の屋上へと昼ごはんを食べに来ていた。
…う〜ん、学校内外…いや世界規模であろう三大美を目の前に
フジと風雷も、恐ろしい程の美形だけれど。
そんな二人と一緒にいても、異次元な美貌を放つ桔梗の異常なまでの美しさよ。
いや、この世のものとは思えない美貌の桔梗と一緒にいても、色褪せない美貌を持つ二人が凄いのか。桔梗の美貌が異常なのか…。
何にせよ、えげつない美貌の持ち主、三人と一緒に行動する事になるとは夢にも思わなかった結だ。人生、何があるか分からないものだなと思う。
それは、さて置いてだ。
この学校には学食はあるのだが、某一流シェフが監修したメニューを取り扱っている為人気も高く、ほとんどの三年生が学食を使っている。たまに極一部だけ家柄や富豪レベルによって学年関係なく堂々と食堂を使ってる生徒達もいるが。彼らは特別中の特別なのだろう。
それ以外の人達は学食を使えず、必然的にお弁当持参となっている。もちろん、例に漏れず一年生である結達もお弁当持参だ。
屋上で、それぞれお抱えのシェフが用意したお弁当を広げる。それぞれ、一流のシェフだけあって見事なお弁当ばかりだ。
しかし、この二週間、結は疑問に感じていた事があった。
中学で初めてできた友達。最初から打ち解けられるわけがない。だが、二週間経てば最初こそぎこちない結達でも徐々に打ち解け始めるってもんだ。
なので、結は思い切って自分が感じていた疑問を投げ掛ける事にした。だって、ずっと気になって気になって仕方なかったから!
なにせ、お弁当持参にも関わらず、ショウはお弁当を持ってこず手ぶらだ。ついでに、フジも。
代わりに桔梗が大きなお重箱だったりお弁当のバスケットを持参してくる。そして、お弁当の準備をするのも全て桔梗だ。
お弁当の準備が終わると、ショウと一緒に同じお弁当を仲良く食べているのだ。
桔梗はショウの横にピットリとくっ付いて、たまに「あ〜ん」なんて言って、ショウに食べさせたりもしている。
たまに、ショウの後ろから抱きつき、そこからお弁当を食べたり食べさせようと試みるが…
いかんせん、まだまだ成長期の桔梗は156センチ程と身長は小柄。ショウも142センチとかなりの小柄とはいえ少々横に大きめなショウを後ろから抱きお世話をするには、とてもじゃないが無理がある。
それができるのは身長差があっての事。
桔梗の思い描いていたシチュエーションができなくて、ガックリと肩を落とす桔梗がちょっと可哀想で可愛い。
いつも、紳士的で大人びている桔梗。
どこか達観していている雰囲気を漂わせている桔梗だから。そんな桔梗だから、尚更に可愛く思える。
諦めたらいいものを、理解はしていても理想を諦めきれない桔梗はたまにそれを試みて撃沈している。可哀想だが…うん、かわいい。
まだ、12才。男の子はこれからドンドン大きくなるのだから頑張れ!
と、思わず結と陽毬は心の中で、桔梗にエールを送る。
「…ん!これ、すっごい好き!」
と、キラキラ目を輝かせ桔梗を見るショウに
「でしょ?それ、今日一番の自信作。ショウに喜んでほしくて頑張っちゃった。」
なんて、桔梗は凄く嬉しそうに満面の笑みを浮かべ喜んでいた。そのあと、美味しそうにパクパク食べるショウの顔を愛おしそうに目を細め甘い甘ぁ〜〜〜い顔して見ている桔梗。
しかも、ショウの口が汚れると優しく口元を拭いてあげたり、色々とショウのお世話をしながら自分も食べている。
婚約者って言うより、お姫様のお世話係のようだ。
正直…いや、普通に、こんな超絶美人な桔梗にこんなに尽くしてもらっているショウがメチャクチャ羨ましい。マジで、心の底からそう思う。うん。
なんなら、ショウに土下座して自分のドクズ婚約者と素敵紳士桔梗様を交換して下さいってお願いしたい。
あんなドクズ婚約者はノシをつけてでも誰かにプレゼントしたいくらいだ。マジで、あんなゲスいらない。
と、自分のクソみたいな婚約者の顔がチラつきムカムカする気持ちを払いのけるように、結はその勢いのまま、今まで聞くに聞けなかった事を聞いてみた。
「なんで、毎日桔梗君が持ってくるお弁当を二人で食べてるの?ショウのお家のシェフはお弁当作ってくれないの?」
と、聞いてしまった。ついに聞いてしまったぞ!それに対し
「…ああ、そっか。それは不思議に感じても仕方ないよね。俺とショウは一緒の家に住んでるんだよ。」
穏やかに桔梗が答えた。
…えぇ〜〜〜ッッッ!!?
いくら婚約者といえど、まだ結婚もしてない若すぎる男女が同じ屋根の下に暮らしてるだとぉぉぉ〜〜〜ッッッ!!!?
あまりの衝撃発言に、結はフリーズし結のお抱えシェフお手製のミートボールをポロリと落っことした事にさえ気づかず二人を凝視した。お口もパッカーーーンだ。
「それに、弁当は俺がショウに食べてほしくて好きで作ってるんだし。あと、まさか一緒に住んでるのにショウに重い荷物持たせたくはないだろ?」
…んんっ!!?
いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい手の込んだ品の数々。栄養バランスも考えられた風な美味しそうなお弁当。(デザート付き)
それを毎日、桔梗が作ってんのっ!?
「えぇ〜〜〜っっっ!!!?」
と、驚く結に風雷はクスッと笑い、フジは耳を塞ぎ顰めっ面をしている。
ショウは、真っ赤になって恥ずかしそうに俯いちゃってる。それでいて、桔梗が褒められてると自分の事のように嬉しそうにはにかみくすぐったそうにしていた。
そんなショウにめざとく気がついた桔梗は
「〜〜〜っ!?…ショウ、かわいっ!」
なんて、可愛くて堪らないって感じに振り絞った声を出し、肌が黒くて分かりづらいが真っ赤になっていた。
気持ちが溢れた桔梗は、辛抱たまらんって雰囲気をバンバン出しショウを抱きしめ
「…はあ〜。どうして、俺のショウはこんなに可愛いんだろ?ショウのお婿さんになれる俺は世界一…ううん、宇宙一の幸せ者だよ。大好き。本当、好き!」
なんて、口から砂糖…砂を吐きそうなくらいゲロ甘な言葉をほざいている。しかも、結達の存在なんて忘れて、ショウの顔中にキスの嵐である。
ショウは、結達の存在を気にして茹で蛸の様に真っ赤になりながら、慌てて桔梗の愛の暴走を止めようと躍起になっている。
「…き、桔梗!ここ、お外でみんな見てるよっ!…は、恥ずかしいからぁ〜〜!」
「ふふ!恥ずかしいの?恥ずかしがってるショウもかわい〜っ!」
「…違うよ!そうじゃないくって…!…ここはね、学校だよ!?」
と、ついにショウは、桔梗の体を押し退けようとするも力の差があり過ぎて、桔梗の体はビクともしないし、ショウがジタバタしても桔梗の体幹が素晴らしくショウのジタバタも無意味であった。
格闘技大好きの結はピーンときた。桔梗のこの素晴らしい体幹!!相当なまでに鍛えてるし…とんでもない強者の匂いがする!
「えぇ〜〜?ここで必死になっちゃうんだ?そんなの、ますます可愛いだけだから。…ちゅっ!」
「…だ、ダメだ。…ど、どうしたらいいのぉ〜???」
…ショウが、桔梗の暴走を止める事を諦めて途方に暮れている。でも、みんなに見られて恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠し俯いてしまった。
普段は、誰もが羨むほど仲睦まじい二人。見ていて、なんだかホッコリする。
しかし、いくら婚約者同士だからって二人の距離感は近すぎると思うが、それを含めてもさほど不快感や嫌味を感じないのが不思議だ。
だが、たまに何かの拍子に桔梗のショウ大好きスイッチが入ってしまい、今回のように暴走してしまう事が多々ある。これに対してだけは
…見るに耐えない…。
ショウが困ってるし、助けるべきか…それをしてしまったら野暮じゃないか?どうするべきか悩んでしまう。困った二人である。
でも、何故かこの二人のラブラブは見てても許せちゃうんだよなと結は思っている。風雷もやれやれといった感じではあるが温かい目で二人を見てる。
「おうおう、いつもの光景ですな。今日も平和で何よりでござる。」
陽毬や風雷なんて、この光景は普通だとばかりの反応で大して気にしていない。
しかし、このいい空気をぶち壊す言葉の刃が切り割いてきた。
「あ〜、嫌だわぁ!この二人、距離感はバグりすぎて頭おかしくなっちゃいそう。
それもこれも、何もできないショウのせいだわ。出来損ないのショウのお世話をしなければいけない桔梗が気の毒過ぎて涙が出ちゃうわ。」
その言葉に、ショウはショックを受け俯き泣きそうになっている。すかさず、桔梗が優しくショウを抱き締め何かを囁いている。
陽毬もギョッとした顔をしてフジを見るが、フジの高圧的な雰囲気に負け恐怖で俯いてしまった。
「それにしても、ショウを婚約者に選ぶなんて、桔梗ってブス専なのかしら?眼科行った方がいいレベルだわ!
これ、幼少期からよ?よく、飽きもせず気持ち悪いくらいイチャイチャしてべったりできるなって呆れてものも言えないわ。」
フジは、ショウと桔梗の距離感が近いという結の反応は普通だと共感し、心底不愉快だとばかりに綺麗な顔を顰めて話してきた。
だが、フジのそれはあまりに言い過ぎだしショウはかなり傷ついてる。桔梗も不快に思っているはず。
陽毬もムカついているがフジが怖くて文句も言えず、代わりに俯いたまま何か呪いめいた事を聞こえないような小さな声でブツブツ言って小さな小さな抵抗をしていた。…ちょっと気味が悪い。
だけど、みんなと友達になって日の浅い結は、ここで揉めたら取り返しのつかない事になるのではないかと気を揉み、フジに注意したい気持ちをグッと抑えみんなの様子を伺っていた。
「この二人を知れば知るほど、見てて痛々しくてドン引きするわよ?なにせ、毎回お風呂もベットも一緒なのよ、その二人。しかも…」
と、フジが言い掛けた所で
ショウは傷ついた様な表情を浮かべ、俯いたままか細い声で「…ご、ごめんなさ…」と、謝りかけ、その謝罪は必要ないとばかりに
「フジ、喋り過ぎだし言い過ぎだ。
それに、二人が良くてしている事だ。周りに迷惑を掛けてる訳でもない。二人の許可なく、明け透けに二人のプライベートな事を口に出すのはどうかと思う。」
ショウの謝罪を遮るように、風雷は淡々とフジの言葉を制した。そんな風雷に、フジはムッとして
「風雷の恋は、報われなさそうだものね!
だって、ショウのお父様の部下であるゴリラ女が好きなんでしょ?
身長2メートルの筋肉ダルマ。確か、貧乏な庶民の中学校に通ってるのよね?
その傍ら、貧乏過ぎてお金を稼ぐ為にショウのお父様の職場でアルバイトをしているんでしょ?そんな女が好きだなんて、風雷の女性の好み疑っちゃうわぁ〜。」
と、お返しとばかりに風雷に悪態をついた。
それにしても、どこから聞き出したのかフジの情報量が凄い。
すると
「フジッ!」
普段、冷静沈着な風雷が珍しく声を荒げた。
その威圧感に、思わず結とショウ、陽毬、フジはビクッと肩が飛び跳ねた。
風雷の凍てつく様な雰囲気にのまれ恐怖しかない。
「…あの人の事を悪く言うのだけは許さない。」
そう言って、気分を害したのか風雷は冷たくそう言い放ち桔梗とショウに
「仕事あるから帰るな。」と、軽く挨拶してから、何か思い出したようにピタリと足を止めると桔梗を振り返り
「今日、実戦練習あるらしいぜ?負けねーよ?」
と、挑戦的な笑みを浮かべてきた。
「俺が勝つから問題ないよ。」
桔梗は意地悪そうに笑ってギラギラした目で風雷を見ている。
「じゃ、先行って待ってるからな。」
「おう。」
二人の挨拶なのだろう、二人は拳をコツンと突き合わせ挑発的に笑い合うと風雷はその場を去って行ってしまった。
なんだか、二人の友情の深さを見た気がした。
実戦練習って、何の練習してるんだろ?
風雷が去った事で、凍りつく様な恐怖から解放され結とショウは、…ハァ〜〜〜と安堵の息を漏らした。
ショウも怖かったんだな、私も怖かったよと声を掛けようとショウを見たが
「怖かったの?大丈夫?」と、桔梗にヨシヨシして慰めてもらっていたので、声なんて掛けられなかった。
……チッ!!
ショウには桔梗がいたか!
ヨシヨシとか羨ましすぎだろ!!私も性格のいいイケメンにヨシヨシされたいっ!
と、結が羨ましがってる横で
「…………私がいるのに!」
少し泣きそうになってるフジは、俯いて悔しそうに小さく震え呟いていた。
…あ、あれ?
もしかして、フジって…
え!?そんな感じっ!!?
もし、二人が付き合ったとしたら超絶美男美女カップル爆誕じゃん!お似合い過ぎる!!
きゃーーーーーっっっ!!!
と、結は友達の恋愛事情を少し垣間見た気がしてドキドキ興奮してしまった。
だが、ピリついた空気で、ぎこちなくなってしまった雰囲気に耐えられないので
「…あ、風雷君って、結構学校休んだり早退や遅刻が多いよな?もしかして、風雷君って不良だったりする?厳ついアクセサリーもいっぱい身に付けてるし。」
と、凍てついた空気を和らげるべく風雷について聞く結。
「違うわ。あまり、大きな声で言えない話だけど。風雷君は学生でありながら特別な仕事をしてるらしいの。
だから、学校側と相談して休みや早退遅刻は特別に許してもらってるみたい。アクセサリーも、職業柄必要なものらしくて特別に許可をもらってるらしいわ。」
…な、何ですとーーー!!?
風雷君、学生の身…しかも、中学生なのに仕事も掛け持ちしてるの!?
確かに、小学生で社長、ギャルで社長とかテレビで見た事あるけど
「…え?中学生なのに仕事してるの?しかも、特別な仕事ってどんな仕事してるの?社長とか?今は、小学生で社長してる人もいるくらいだもんな!」
実際に、身近にそんな人が居るとマジでそんな人居るんだと実感しかなり驚いてしまう。
テレビで、見て知っても驚きはせど、何処か現実味がなく感じていたが。
「…残念だけど、何の仕事をしているとか詳しい事は教えてもらえないの。
そもそも風雷も桔梗もコスモ大学、大学院を首席で卒業してるから中学校なんて通わなくていいんだけどね。」
…ギョギョギョーーーーーッッッ!!!??
…は、はあ???
こ、コスモ大学って言ったら、世界一頭いい大学じゃん!?それを二人で首席で卒業???
…え?
まだ、12才で誕生日が来たら13才になるピヨピヨの中学生だよね?
「…え?でも、同じ大学で二人同時に首席っておかしくない?」
と、結がつっこむと
「学科が違うのよ。確か、大学では風雷君は医学部魔導学科で、桔梗君は法学部。
大学院では、風雷君は経済学部、桔梗君は魔導部科学科よ。」
…う、うわぁ…
と、とんでもない…!なんて現実味のない話なんだろう。
桔梗君と風雷君は、容姿もさることながら頭の出来もとんでもなかったぁぁ〜〜〜
うわぁ〜、マジかぁ〜
同じ人間とは思えないなぁ。
マジで、こんな神様に愛され生まれた様な人間がいるなんて…不公平を感じてしまうな。
それにしても、フジさん桔梗君と風雷君について詳しくない?それも、ファンかストーカーばりに。
そんな何とも言えない微妙な雰囲気の中
「そういえば、結は大丈夫なの?」
フジは、なんて事なくズバッと結に聞いてきた。
うん、あの事だよな?…あの事!!
その事を思うと、結は胸糞悪い気持ちがふつふつと湧き上がってくる。