美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜

…どうしよう!

結から、メールで幹の話を聞いた時は驚いた。

まさか、結と幹が色々あって知り合い、幹が自分(陽毬)と連絡を取り会いたがっているという話をされた。

直接、電話して詳しく聞きたかったが結は、今は家の事情でまだまだ忙しく電話はできそうにないという事だったので困惑しかない。

あの日のダンスの時、初めて出会いダンスをしながらお互いの話…と、言うより幹からの質問責めで陽毬が一方的に喋ってたと思う。

何故か、あの時だけは気持ちが高揚していて、いつもなら言わない話も面白おかしく喋ってしまっていた。

だが、面白い話などしていないし、むしろ好感が下がる話ばかりネチネチと喋ってた気がする。人にとっては、ドン引きな自分の趣味まで話してたから相手はどんな気持ちで聞いていたか知るのが怖い。

なのに、何故こんな自分と連絡を取り会いたがっているのか?

あまりに、失礼過ぎて直接会って詫びろとでもいうのか…考えれば考えるほど恐ろしい話である。

陽毬は自室のベットに寝転んで、結から受け取った幹の連絡先を眺めながら悩んでいた。

結局、何があるか怖いので幹へ連絡する事はなく、メモ帳を破って渡してきただろう幹の連絡先の書かれた紙も捨てるのも心痛い気がして、机の引き出しの奥底にしまって置いた。


それから、幹の事について何故だろうと悶々と悩む陽毬。忘れようとしても、あのダンスの日の出来事が忘れられない。そんな相手からのアクション。

しかし、それがまず信じられない。

自分が思いつくのは、やはり…自分が何かやらかして相手を怒らせるか不快な思いをさせた事くらい。

…ハア。さしづめ…

どうして、お前みたいなデブス眼鏡とダンスを踊らされたんだ。触れた部分が気持ち悪い。
だの、なんで、お前の気色悪い話を聞かされなきゃいけないんだ!?
だの何だのイチャモンをつけたいのだろう。

…だって、気がついたら幹君と踊ってた。それに、陽毬の事を知りたがり興味あり気に質問してきたのは幹君の方だ。

“ひーちゃん”なんて、陽毬の事を呼んで嫌な顔一つせず。それどころか、とっても楽しそうに陽毬に興味を示してフレンドリーに接してきたのは幹君なのに…。

まあ、無視してれば関わり合う事もないか。と、何度も思うが、やっぱりあのダンスの日が忘れられない。それを思い出しては、渡された連絡先の事。そこから連想される悪い予想。…陽毬の頭の中は、それをグルグルとループしていた。


それから、三日後の放課後。

学校中で、女子生徒達が慌ただしく窓や玄関から顔を覗かせキャーキャーと色めきたっている。まるで、アイドルと出会ったかのような騒ぎである。

結達も何事かと、窓の外を見る。

それを見て、結達は……ギョッ!!?とした。何故なら

校門前に、雷光 幹がいたから。

幹は携帯をいじったり、キャーキャー騒ぐ女子生徒達に手を振ってみたりして時間を潰していたらしかったが、結達に気がついたのか元気良く両手で手を振っている。

それを見て思わず、しゃがみ込み身を隠す陽毬。

しかし

「陽毬ちゃん。幹君から校門前で待ってるから来てほしいってメールきてるよ?」

と、幹と知り合いらしいショウが陽毬に話しかけてきた。ショウは、幹の事を何も疑っておらず早く行ってあげてね。と、いった感じだ。

結は、どうしたらいいのか分からないといった何とも言えない表情をしている。

「…あ!前の社交界で、幹君と初めて会ったんだもんね。それ以来会った事ないし会いづらいよね。じゃあ、一緒に行こ?
そしたら、平気だよ。幹君は、とってもいい子だから陽毬ちゃん達とも仲良くなってほしいな。」

なんて、ショウが言うもんだから、ショウの気持ちを蔑ろにできないので会わなければならない雰囲気になってしまった。


…な、何故でありますか!?

何故にこんな事にっっっ!!?


そう、ショウや結、桔梗、風雷に付き添われ、重い足取りで校門前まで来たら、アレよアレよと言う間に何故か陽毬は幹と二人デート(?)する事になってしまった。

ただいま、二人はプラプラと何処を目指すでも無く歩いている。


「ひーちゃん、いきなりゴメンねー。ひーちゃんの連絡待ってたんだけど、俺が痺れ切らしちゃってひーちゃん迎えに来ちゃった。」

と、幹は両手を合わせて謝っているが、その間にも恐ろしい事にいつの間にかお互いの連絡先まで交換してしまっていた。


…ドックンドックン…!

…い、いつの間にか連絡先を交換してしまったでござるぅぅ〜〜〜!!?

私の警戒心どこに行ったぁぁ〜〜???

陽毬は、幹の楽し気な雰囲気とノリで自分まで楽しい気持ちになり、ついホイホイと幹の調子に乗せられてしまっていた。

そして、気がつけば、である。

しょえぇぇ〜〜〜っっっ!!?

幹君はコミュ力お化けでありますかぁぁ〜〜〜!?

陽キャ、怖っ!!


「そっか!ひーちゃんの一番の推しは“餓狼君”ね!ひたすら一途に真っ直ぐ我が道を行く一匹狼!!カッコいいよなぁ〜。
俺は、他のキャラも魅力的だけど誰か選べって言われたら、“日影ちゃん”かな?」

と、またもやいつの間にか、陽毬が今現在一番にどハマりしている漫画の話になっていて

「…お!それは、それは!
日影ちゃんといえば、超絶人見知りで影に隠れてばかりの陰キャで主要キャラにも関わらず毎回人気投票ではランク外という残念な結果になってしまっているキャラクターですな。」

なんて、興奮気味に話す陽毬に

「そ。あんなに魅力的なキャラなのに、なーんでそんな人気ないのかふっしぎじゃない?」

と、幹が言うので

…わ、分かってる!

幹君は、この漫画を熟知している!!

陽毬は更に興奮してしまって、日影ちゃんについて幹と語りに語り合ってしまった。

…はっ!!?

またもや、幹君と楽しく話してしまった!

場所も変わっていて、今は人気ゆるキャラのカフェに来て、二人で可愛らしいキャラクターデザインのスイーツを堪能している。

ぶっちゃけ、チャラい見た目の幹には不釣り合いの店だ。だが、それを嫌がる素振りは一切見せず逆にめちゃくちゃ楽しんでいる。

陽キャの適応能力ハンパねーと陽毬は、幹に驚くばかりだ。

しかも、最初こそ緊張していたが気がつけば、幹と一緒にいるのは気が楽で自然体でいられる。おかげで、いつの間にか陽毬の普段の言葉遣いになっていた。

挙げ句、陽毬の迎えの車が来るのを一緒に待ち、姿が見えなくなるまでめっちゃ笑顔で元気良く手を振ってくれていた。…ちゃっかりと次のデートも取り付けて。

デートとは思ってないが、幹がおっちゃらけてデートというのでデートという事にしておいた陽毬だ。


…ドッキドキ!

や、やばい!

めちゃくちゃ楽しかった。そして、また直ぐにでも会いたいと思ってしまってる。

陽毬は今まで異性に、こんなにフレンドリーかつスキンシップが多く接してもらう事はもちろん、普通の女の子扱いさえされた事もなかったので困惑はしたものの純粋に嬉しかった。

大樹に悪い遊びのターゲットにされていた時も“一応は”女の子扱いはされていたが、嫌〜な雰囲気の感じる壁を感じターゲットにされてるって陽毬自身知っていたからかなのか嫌々陽毬に接している感じが否めず大樹といる時は不快な気持ちしかなかった。

それでも、嫌々だろうが何だろうが陽毬ははじめて女の子扱いされたせいなのか徐々に大樹に惹かれ好きになってしまった。

…そんな自分の単純さが憎い。

その気持ちと不快な気持ちのせめぎ合いで、大樹と関わる時は心の中は複雑であった。

ただ、幹の場合は不自然なく陽毬を普通の女の子として見てくれていたように感じて、不快さどころか普通の女の子のように純粋に異性である幹とも楽しく過ごせた。
その事に対しても驚き興奮してドキドキが止まらなかった。


…どうしよう!

まるで、自分が普通の女の子みたいに異性と仲良くしてるみたいな気分だったであります。

幹君と一緒にいる時は、それがあたかも当たり前の事のように感じて違和感なく一緒にいられたのでありますが…

幹君と離れて冷静になればなるほど、その事が自分にとってどんなに贅沢極まりないな事かと思わざる得ませぬ。

幹君…いや、幹様!様、様!!ありがたやぁ〜。

実際、幹君はどう思って私なんかと一緒にいたのかは…今は考えますまい。ただ、普通の女の子として純粋に楽しめた今日と言う日を噛み締めましょうぞ。

勝手にやってろ!と、言いたくなる大樹の女性相談。

告白してきた女子が自分の好みなんだけど、付き合っても大丈夫そうか。
また、自分が気になる女子がいるんだけどどう思う?

なんて、次は付き合ったは付き合ったで最初のうちはウンザリする様な見たくもない惚気話のオンパレード。

それから、徐々に恋人のアラが見え始めるとこんな所が嫌だとか相談までしてくる。

本当に迷惑な話だ。

陽毬が大樹の事を好きだって知っててこれだ。精神的にかなりキツイ。

だけど、今はそんなメールが届いても、幹との楽しい時間ばかりが頭に浮かんでくる。大樹の聞きたくもない恋愛相談を聞いてもどうでもいい気持ちになり、当たり障りないいつも通り適当な返事を返していた。

そして、また幹の事を考え浮かれるのであった。

と、陽毬は乙女チックな気分に浸りドキドキが止まらず、そのまま朝になってしまったのだった。

…ま、まずい!

もう、朝になってしまいましたぞ!でも、何故か眠くないであります!

陽毬は興奮のあまり一睡もできず、学校でお昼以外一日中爆睡していたという。



---それから、1ヶ月後---


学校や部活動がある為(陽毬はないが、幹は運動部に所属しているっぽい)、お互い会える時間は限られてるが。
それでも、ちょっとした話題ができた時や漫画やゲーム情報など、会えない日でも電話やメールは結構していた。

そうして、幹という人なりに惹かれてしまい…迂闊にも二度目の恋に落ちてしまった陽毬は自分の単純さ具合に落ち込んでいた。

もしかして、自分の心はコロコロ心変わりする不埒物かとも悩んでみたり…

それでも、大樹の事がトラウマになっていて

騙されるもんか!

…だけど、幹君を信じてみたい気持ちもある。

幹と恋人になるとか、そんな烏滸がましい事はできないが好きな気持ちを持っていてもいいだろうか?
そんな心の葛藤を抱えていた。

自分は、どうしたらいいでありますか?


---お昼休み---


いつものように、いつものメンバーで昼食をとっていたのだが何だか雰囲気が険悪である。

何故なら…

いつもベッタベタなカップルが珍しく大喧嘩していて

結やフジ、風雷までも、このイヤァァ〜〜〜な雰囲気はどうにかならないのかと頭を抱えていた。


「…ケンカしてても、一緒にご飯食べるんだな。」

お互いにプンスコプンスコ怒ってても、桔梗は普段通りショウの食事のお世話をしていてショウもそれを拒む事なく受け入れているが雰囲気は最悪である。

「もちろんだよ。どんなに、ショウに対して不愉快な気持ちや怒りがあっても…この上なく大好きなんだ。
自分がショウに対して怒ったからって、ショウの側を離れるなんて考えられない。俺は少しの時間でさえショウと離れたくないからね。何よりも愛おしいし愛してるんだから。」

と、珍しくムスッと不機嫌丸出しの桔梗は、さもそれが当然だと言わんばかりの事を言ってきた。

「…だから、“今はまだマシ”なのは分かった。
俺達のいるA組はコイツの機嫌の悪さでみんな、先生達までもがお前にビクついてる。そこに、ショウが居ないからな。」

そんな桔梗に、何度も

“いつも通り仮面を被ってでも、その最悪な雰囲気をどうにかしろ!周りに迷惑かけてるぞ。みんな怖がってる。”

と、授業中、休憩時間も何度もテレパシーで風雷は桔梗を説得したが、そのテレパシーもウザイとばかりに無効化魔導でシャットアウトしてきやがったのだ。
その態度に、何度桔梗の胸ぐらを掴んで殴ってやろうと思ったか分からない。

不機嫌の理由を聞いても、ツーンとそっぽを向くだけだし話にならなかった。

そして、休憩時間にショウ達の教室に行ってみれば一目瞭然で、ショウと桔梗が何らかの理由で喧嘩している事だけは分かった。

喧嘩の理由までは、短い休憩時間では聞き出す事はできなかったが。

だが、そんなにショウに対して怒っているのであれば、短い貴重な10分休憩を使ってわざわざショウの元に行かなくていいと思うのは風雷だけではなかっただろう。

だいたいの人は、相手に対してムカついたり怒ったりして喧嘩しているのであれば、喧嘩を売らない限りは自ら好き好んで喧嘩中の相手の所なんかに行かない。

自分の気持ちを落ち着かせる為や心の整理もあろだろうし、何より単純に喧嘩してたら相手に対し不愉快でしかないから近づきたくない。

モヤモヤしたりイライラしたりと、気になって仕方ないけど。


それが、桔梗という男にはないらしい。
ショウはプイっとソッポを向いて来ないでオーラを出しているが、そんなショウのトゲトゲも今回の桔梗には通用しないらしい。

まず、ショウと桔梗が喧嘩する事自体、昔から二人を知っている陽毬も風雷も見た事がなかった。それだけ、二人が喧嘩するという事は珍しいのである。

では、この二人がこんなにも喧嘩する原因は何なのか?…どう考えても思いつかない。

と、そこに

「昨日はエッチの日だったのに…。
ショウは、体調も悪くなかったし気分だって悪くなかったはずだ。…なのにさっ!
どうして、俺を拒んだの?ショウの体の事を考えて週3回で我慢してる俺の気持ち分かる!?」

ショウのツーンとした態度に、いい加減痺れを切らした桔梗は我を忘れてショウに聞いてきた。…怒り過ぎて周りが見えなくなっているらしい。

その内容に、男女の営み未経験な一同に衝撃が走ったし、そんな話を聞かされてどうしたらいい分からず脳内パニックでアワアワして二人を見ている事しかできなかった。

「本当は毎日したいんだよ?できるなら一日中、ショウと愛し合いたい。
だけど、ショウが他にやりたい事や興味がある事もあるだろうって!ショウの自由な時間を奪わないように妥協してるのに。それの何がそんなに気に入らないの?」


エッチした事ないけど、毎日とか一日中ってとんでもない話だと思うんだけど?

…もしかして、桔梗って噂に聞く“絶倫”って、やつなのだろうか?

桔梗は、とても美しい婀娜っぽいヴィラン顔に、まだ出来上がってない未熟な体。
今の年齢でしか出せないまだまだ青い未完成で危うさのある色っぽさを漂わせ妖艶極まりない。

桔梗の全てが濃艶、フェロモンの塊と言っても過言ではない。

そんな彼が、絶倫だと言っても納得できてしまう。

みんな、アダルトな話に耳をダンボにしてドキドキしながら、少しの漏らしもなく二人の会話に夢中の性に興味津々の思春期達である。


ドッキドキ!!

普通なら聞くこともない、す、凄い話を聞いてる!

…いや、二人は恋人同士なんだからそうなのかもしれないけど、二人がエッチな事をしていたという事実を知ってかなりショックだ。

勝手な話だが、二人はプラトニックな関係でほのぼのとした清いお付き合いをしているとばかり思っていたから。

それが、こんなハードな話をぶっ込まれて、みんな雷にでも撃たれたような衝撃を受けている。

「…だって、昨日は何だか“他に気になる事”があって、気分じゃなかったんだもん。」

と、恥ずかしそうに俯きながらショウは、自分だって怒ってるアピールで頬っぺたをぷくぅと膨らませて反論してきた。

「そんな可愛い事しても今回は納得できないからね!だから、“他に気になる事”ってなんなの?昨日、いくら聞いても教えてくれなかったよね?」

と、むくれるショウも可愛いとキュンキュンして、ショウに怒りつつも桔梗は後ろからショウを抱きしめショウの首元に可愛い!可愛い!と、猫のように頬を擦りつけていた。

「…それは、まだモヤモヤしてて“何かが変わりそう”なんだけど上手く説明できないの。
なのに、桔梗は私が気分じゃないって言ってるのに、無理矢理エッチな事してこようとしてた!」

「ショウが大好きで大好きで堪らないからエッチしたいの。触れ合いたくて堪らない。それに、無理矢理はしてないから。
エッチなアピールしてショウをその気にさせようと、ペッティングに近い事をしてたのは認めるけど、ショウが本気で嫌がる事は絶対してないはずだよ?
そこは、語弊あるからね!!“無理矢理”って言葉は訂正してよ。俺は、何よりショウが大切なんだから、ショウにだけは酷い事はしないよ!」

と、必死になって“無理矢理”を否定する桔梗に、ショウは昨日の事を思い出して徐々に顔が赤らんでいき、体を小さくしながら

「…あ…。…ご、ごめんなさい。桔梗は、無理矢理な事とか私が嫌がる事はしないのに…」

ショウは、桔梗の訴えを肯定し素直に謝った。
そんなショウに桔梗はホッとしたような顔をして「…うん、大丈夫だよ。」と、ショウの手を優しく触れ柔らかくにぎにぎしていた。

さっきのショウの言葉は…まあ、喧嘩によくある売り言葉に買い言葉でつい思ってもない事を勢いに乗せて言ってしまっただけなのは明白である。

しかし、桔梗の“ショウにだけは酷い事しない”という発言…ショウ以外であったらどんな酷い事してもいい様な発言にも取れる。
真白の件もあるから、その言葉に嘘が無さそうなのが恐ろしい。

それにしても、いつも落ち着いていて物腰の柔らかな桔梗がこんなにもムキになっている姿を見ると、自分達と同じ年相応に見え安心する。
…けど、話の内容が内容なので複雑な気持ちではあるけど。

すると、ショウはハッとした表情を浮かべて陽毬を見てきた。そして、桔梗に言った。

「…ふあっ!?…何となく“違和感”に気がついちゃった。…そっか…珍しい事が起き始めてるよ。」

ショウが驚いた表情で陽毬を見てから桔梗を見てきた。

「…珍しい事?」

「うん。“運命”って、変えることができない。
だけど、稀に“運命が変わる”事があるみたい。“今”がそう!“運命”が変わり始めてる。
…今はグニャグニャって変わり始めてるだけだから、相手の頑張り次第で軌道修正できるけど…このままじゃ“運命が変わっちゃう”。」

と、ショウが言ってきた事で、桔梗と風雷は顔を見合わせ驚いた表情をしていた。

「そっか。その違和感を感じ取って心が落ちるかなかったんだね。
…それなのに、ショウのそんな異変にも気付けなくてごめんね。そして、自分の欲ばかりをショウに押し付けようとして…本当にごめん。」

桔梗は、ショウに心底申し訳なさそうに謝ってきた。それに対してショウは

「…ううん。桔梗に上手く伝えられなかった私が悪いの。私がもっと、桔梗に納得してもらえるように説明できれば良かったんだけど…」

「…それは違う!ショウは俺に一生懸命伝えてくれようとしてた。だけど、それを俺が勘違いして…本当にごめん。」

と、よく分からないが、二人の間だけで通じる何かがあり仲直りできたらしい。訳が分からないが、とりあえず良かったと思う女性陣だった。


「でもさぁ。さっき、桔梗君がエッチの日だったのにって言ってたけど、エッチの日とか決められても気分じゃなかったら、どーすんの?
仕事やロボットじゃないんだからさ。人間ってその時によって気持ちって変わるもんだろ?
それでも、計画通り無理矢理にでも決行するのか?なんか、それって違わくない?」

と、結はデリカシーのカケラもなく桔梗にズケズケと聞いてきた。

「…こんなデリケートな話を聞いてくる結のデリカシーの無さに驚くけど、語弊があるようだから言っておくけど。エッチの日って明確に決めてないよ。
ただ、ショウの心や体のコンディションを見て判断してる。それが“エッチの日”って事にしてる。」

「でもさ。桔梗の話聞いてると年がら年中ショウに発情してるっぽく聞こえるんだけど。
それだけで足りんの?エッチしたいのに、できない時ってどうしてんの?
桔梗は浮気しなさそうだし、一人で処理してんの?そんな発情ばっかしてさ。大変じゃないの?」

「…本当、結嬢…お前のデリカシーどこに行っちゃったのかな?
浮気や不倫なんて天地がひっくり返ってもないし、そんな言葉が生まれる世の中に不条理を感じてるよ。そんな事はさて置きだよね。
俺の事何だと思ってるのって言いたい。少なくとも君達と同じ様な感情は持ち合わせているよ。それに、もうこれ以上は内緒。」

と、言ってそれ以上は教えてくれなかった。

この話は終わったとばかりに、普段通りみんなそれぞれの話をし始めた頃合いに


『ショウ、さっきお前が言っていた“運命が変わる”とは、どういう事だ?気のせいか分からないが、陽毬を見てからそんな事を言ってたな。
その“運命”とやらは、陽毬に関わる事なのか?」

風雷は自分が感じた違和感と疑問をテレパシーを使いショウに問い掛けてきた。
ショウにだけ、テレパシーを送っているがムカつく事にM魔道士様の桔梗には筒抜けなのだが。

『うん。陽毬ちゃんや大樹君、幹君に関わる人達には絶対言っちゃダメだよ?宇宙の波動が狂っちゃうから。』

と、テレパシーや、テレパシーに似た能力“言葉飛ばし”に小さい頃から慣れているショウは、それに対し普通に心の中で受け答えしている。

『…宇宙が狂う…だと?』

風雷は、ゾクッと背中に冷たいものが走った。

『“運命を変える”って、とってもとっても大変な事なの。だから、無いに等しい事だったから、昨日何が何だか分からない違和感ばかり感じて…それが何か分からなくて怖かったの。
桔梗にも上手く説明できなかった…ただ、ただ訳の分からない違和感ばかりが襲ってきて。』

と、ショウが訴えると桔梗はとても猛省して

『…ショウが“怖い”ってしきりに訴え掛けてたのは、そういう事だったんだね。
それを俺は、ショウが俺とエッチするのが怖いって勘違いして。…そんなに俺とのエッチが嫌だったのかって思ったんだ。』

『…え!?』

『そう考えたら凄くショックだったし、かなり凹んだよね。そして、どうしたらショウを怖がらせないように触れ合えるかってばかり考えてた。
……ショウが今まで感じた事のない未知な気持ちに不安を抱えて恐怖を感じてた時に、俺は…自分の欲望ばかりで…最低だ。』

かなり、落ち込んでいた。

そんな桔梗に

『…あのね。今回の事は特別(イレギュラー)なんだと思う。だから、桔梗は全然悪くないよ?
それに、桔梗との触り合いっこ好き。
いっぱいの大好きが伝わってきて、いっぱいいっぱい気持ちいいの。物心つく頃には、桔梗と触り合いっこしてたから、それが自然で当たり前な事だから“怖い”とか“嫌だ”って感じた事ないよ?』

と、言うショウに桔梗は酷く喜び、風雷は目眩で倒れたい気持ちになっていた。

まさかとは思っていたが、この二人…いや、桔梗の計算と欲望だと思うが、それにしても…

いつからか分からないが…幼稚園の頃から?…いや、桔梗の事だから赤ん坊の頃から…

……ん?

そうなれば、桔梗が赤ん坊の頃から3才になるまでの空白の期間。

ショウ(3才)の時の誘拐事件…何か繋がってくる気がする。

それにしたって、そんな幼い頃から…知りたくなかった。


『…ただ、桔梗が大きくなるにつれて、お◯◯◯んも大きくなってくるし桔梗の体力が凄くて受け止めるのが大変になったけど…だけど、とっても気---』

と、ショウが桔梗が天にも昇る様な嬉しい言葉を最後まで言い終わる前に、風雷は聞いてられないとばかりに

『そういう話は二人きりの時にしてくれ。
俺が知りたいのは、その“三人の運命”が変わる事によって、三人にどの様な悪影響が出るのか知りたい。また、周りにどの様な被害や影響を与えるのかもだ。』

風雷がショウに質問したせいで、最後までショウの嬉しい言葉を聞けなかった桔梗はギロリと風雷を睨んだ。

だけど、よっぽどショウの言葉が嬉しかったのであろう。この年中発情ヤロー(ショウ限定)は、猫のようにショウに顔や体を擦り付けて甘えていた。

ショウは飼い猫の甘えたに小さく構いつつ

『これは、まだ確定してないグニャグニャしてる感じ。…う〜ん、陽毬ちゃんの気持ちと行動次第で、大樹君と幹君の運命が大きく変わるよ。』

そう、預言者めいた事を言ってきた。
それに驚く桔梗と風雷ではない。ただ、大樹と幹は友達で親交も深いと思っているので、それによって二人の未来はどのように変わってしまうのか気になる。

『…どう、変わるのかまで分かるか?分かるなら教えてほしい。二人は、俺の友人達なんだ。不幸になってほしくない。』

と、風雷が自分の気持ちを言うと

『…私もみんな幸せになってほしいとは思うんだけど。今、確実に分かる事は……
陽毬ちゃんが大樹君を選んだ場合、幹君は破滅に向かっていく未来しかない。
もし、陽毬ちゃんが幹君を選んだなら、大樹君は後悔しかない苦しいばかりの人生になるよ。』

そう、ショウがしょんぼり言った所で、桔梗と風雷は複雑な気持ちに苛まれた。

『だけど、陽毬ちゃんにとっても大きい別れ道なの。
大樹君を選ぶと、大樹君の過去の恋人とかエッチな関係を持ってた人達に妬まれて酷い虐めを受けちゃう。
…それに、大樹君の浮気癖が治らなくて苦悩の日々を送る事になるよ。
もちろん、大樹君は陽毬ちゃんの事とってもとっても大切にするんだけど…。それとは別に色んな美人な女の人達と楽しんだりエッチしたいみたい。』


それを聞いて、桔梗と風雷は頭が痛くなってしまった。大樹はいい奴ではあるけど、女性関係はクソだと。

『陽毬ちゃんが幹君を選ぶとね。色々、変わってきちゃう。多分、二人とも最初凄く大変な目にあうと思う。
だけど、その苦悩や苦労を乗り越えた先には誰も想像して無かった輝かしい未来が二人を待ってるよ。』

そんな話を聞いても、桔梗と風雷は複雑な気持ちしかなかった。

本来の運命の道筋は、どうだったのかはショウにしか分からない事だけど。

大樹と幹の行動次第で、運命は大きく変わる事だけは分かった。

…だが、どっちに転がっても二人の友人である桔梗と風雷からすれば複雑な気持ちでしかなかった。

…しかしだ…

ショウの事は疑ってはいないが、誰もが欲しがるモテ男二人が…陽毬を巡って一悶着あるのか無いのか分からないが

女に困らない男が揃いも揃って…あんな…

と、思わず桔梗と風雷は陽毬を見てしまった。

…紫縁眼鏡を掛けた超デブだ。多分…130kgはありそうだ。顔立ちも肉に埋もれて、一般的に残念な顔をしている。容姿だけ見れば、異性として見れないし圏外であろう。

ここまで、意中の女性以外容姿などさほど気にした事はないが、友人二人が関わるとなれば分析もしたくなる。

…あり得ない…

特に清楚系かつスレンダーな美女を好む大樹にとって、陽毬の容姿は異性としてアウト オブ アウトだろう。

幹の場合は、女性の好みやタイプなど正直分からない。
幼い頃からスパルタ教育を受け、訓練などで異性どころではなかったはずだ。自分の事だけで精一杯。自分の周りを恨む事でいっぱいいっぱいなのだから。

そんな二人が、陽毬という女性一人によって人生が変わるという。

信じられない話だ。

陽毬は桔梗達に疑いの眼差しを向けられてるとも知らずに、大好きなアニメやゲームの話から、大樹の恋愛相談という迷惑なメールについてゲンナリしながら

「…今度は一日も持たなかったらしいですな。思ってたのと違ったとか何とか…。
でも、やる事はちゃっかりやってるみたいで生々しいであります。正直、ゲロゲロでありますよ。」

と、話す陽毬に

「…うわぁ〜…。なかなかだな、それ。ドクズの蓮君といい勝負ができそうだな。」

なんて、結は苦笑いしている。


「付き合って、即手を出すなど私には考えられない世界ですな。モテる人はみんな、それが当たり前なのでしょうか?
…ハア…。大樹様とメールしたり、たまにですが電話で話したりすると、夢も希望もないクソだと幻滅してしまいますぞ。」


「モテるからって、みんながみんなそうじゃないわ。たまたま、知り合った人達が悪かったのよ。
現に、ここにもモテモテの男子が二人いるわ。でも、そんな外道な事してないでしょ?
恋に一途で、意中の女の子をとても大切にしてるわ。希望を捨てないで?」

と、恋や結婚に夢も希望もないんだろうか?と、大樹や蓮の行動に幻滅している陽毬は男性不信になり掛けているようで、それを察したフジはいい男は必ずいるわ!希望を捨てないでと懸命に陽毬を説得していた。


「…確かに、そうかもしれませぬが…桔梗君と風雷君は異例中の異例。イレギュラー的貴重な存在なのでしょうな。そんな二人に選ばれた、ショウとハナさんはとても羨ましい限りですな。」

と、とうの昔から自分の恋愛は捨てていると、から笑いをする陽毬がとても痛々しく思えた。

だが、それに異論を申し立てた人がいた。


「違うわ!恋愛を諦めないで!まだ、諦めるには早すぎるわ。陽毬、私は前から思ってたの。
【陽毬は磨けば光る原石】だって!
まず、ダイエットしましょう。それだけでも、全然違ってくると思うわ。
陽毬は自分で気が付いてないみたいだけど、痩せて身なりを整えればかなりの美人になると確信してる!!」

なんて、努力の甲斐がありメキメキと上達して料理上手に近づきつつあるフジが立ち上がり、そう言ってきた。

だが、そこにいる誰もが…イヤイヤ、それはないから。と、何故かやる気に満ちているフジを節穴かとシラけた雰囲気で見ていた。

「さあ!大樹様を見返して、幹君もあっと言わせましょう!大丈夫、保証するわ。
陽毬は私なんか、目じゃないくらい美人になるから!
そうと決まれば、今日から一緒にダイエット頑張りましょう!」

と、何故かキラキラした目でフジは陽毬を大変身させようとダイエット計画を持ち出し、あまりのフジの張り切り具合と気迫に圧倒され陽毬は断る事ができなかった。

「……え……?…あ、ハイ…」

心の中で、もの凄く嫌だなぁ〜、面倒くせぇ〜と思ったが…それだけは口が裂けても言えなかった。

何より、フジのやる気に満ちた気迫と陽毬の為にと行動しようとしてくれる好意がとても嬉しかったからだ。
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