美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
---次の日の早朝---


フジは、人見知りな陽毬の為に自分の家に招待し、陽毬と…何故か幹と共に家の周りをウォーキングしていた。

昨日の放課後、陽毬はダイエット計画を立てようという事で強制的に陽毬私自分の家に連行し、ネットで色々と調べ無理のないリバウンドしづらいダイエット方法を念入りに調べ

陽毬ダイエット計画を立てたのだった。

陽毬がその話を幹にしたところ、面白そうだという理由で自分も参加すると言い出し今に至るのだった。


「陽毬ちゃんはいいとして、どうして幹君も来ちゃってるの?どう考えたって、幹君にとってダイエットは必要ないでしょ?」

と、フジは理想的なフォームでウォーキングしつつ、幹にこんな事に付き合うだけつまらないだけでしょ?と、聞いてきた。

だって、幹はダイエットのダの字も見当たらないほど見事な美しいボディーをしている。

それに、大胸筋や広背筋、三角筋など、お尻もキュッと引き締まり小さく太腿四頭筋、下腿三頭筋など服越しからも相当鍛えられていると分かる。

きっと、その服の中にはボクサーやK-1選手もビックリな筋肉を隠し持ってるに違いない。

「え〜〜?オレは、楽しいよぉ〜。それに、ダイエットは人数が多い方が長続きするって思うし〜。」

なんて、おっちゃらけた風な喋り口調でヘラヘラ笑いながらも、しっかりとウォーキングをしていた。言動はチャラいが、軍人仕込みであろうか?完成された見事なウォーキングである。

ヘロヘロの汗ダクダクな陽毬は、どうして二人共こんなに歩いて平然としていられるのか同じ人間なのにと釈然としなかった。

ウォーキングは朝と夕方、20分づつの予定だ。これに慣れたら次は30分。最終的に1時間にする予定だ。

ウォーキング前には入念なストレッチをして、ウォーキング後もストレッチ。
慣れてきたら、そこにヨガも少しづつ取り入れるらしい。

食事も栄養士と相談して、健康的にかつヘルシーに!

オヤツは、10粒程度の無塩無添加ナッツや決められた分量のフルーツ。無糖ヨーグルト、高カカオのチョコレート。

朝は一番に白湯を飲む!

飲み物は、できるだけお茶類か水で常温か温かくして飲む。冷たい飲み物厳禁!

ただし、ご褒美がないと可哀想なので二週間に一回は好きな食事とスイーツ一つをご褒美に食べてもいい事にする。だが、分量は取り過ぎないよう気をつける。


こうして始まった、陽毬のダイエット計画。

陽毬は最初、嫌々だったしやる気もしなかったが、
フジも幹も陽毬にテンポを合わせてくれるし、たくさん褒めて励ましてくれるので単純な陽毬はドンドン調子づいて

いつの間にかやる気に満ちていた。

いつしか、三人でダイエットする事が楽しくなっていて、たまに幹が用事で来れなかった時はションボリしたが、そんな陽毬を見て何故かフジはニマニマするのであった。

そんな努力を続けて一ヵ月。なんと、128kgあった陽毬の体重は118kgにまで落ちていた。

その体重計を見て、フジと幹は自分の事のように喜んでくれて、そんな二人を見て自分の体重を見て陽毬は凄く嬉しくて思わずクフクフと笑ってしまった。

そんな陽毬に

…ちゅっ!

と、ほっぺに柔らかな感触と共にリップ音がして、思わずそこを見ると

「……あ、あれ?ひーちゃんがかわいいって思ったらチュウしちった!ごめん、ごめん。」

なんて、テヘペロっと小さく舌を出す幹の姿があった。そして、ごめんねと謝りながら自分がチュウした陽毬のほっぺを袖で拭きながら


「…だって、好きな子がさ〜。理由はなんであれ一生懸命頑張ってる姿見てるだけでもキュンキュンしちゃうのにさぁ〜。
頑張った結果が出始めてチョー喜んでるの見ちゃったら、ウルトラハイパーかわいいって思っちゃう訳じゃん。」

なんて、サラリと告白してきた。

それには、フジも陽毬も


「「……え???」」

で、ある。

あまりにも自然な流れだったので、単なる幹のチャラ発言かと思いフジと陽毬は冗談かな?そんな感じで、幹に返事を返していた。

「…そ、そその場が盛り上がろうとノリだけで、そんな発言は控えた方がいいで、あ、あ、あ、ありますぞ?
ノリで言った相手が私だから良かったものの、他の女性達は本気と受け取ってしまう方もいるはず。そんな軽はずみな事を言って、後で大変な目にあっても知りませぬぞ?」

「そうね。幹君はその場を楽しくしようとしてくれてるのかもしれないけど、そんな事しちゃったら勘違いしてしまう女の子達が続出してしまうわ。
恋愛が絡むと面倒な事になるから気をつけた方がいいわ。女の執念と思い込みは怖いわよぉ〜?」

なんて、今回の行動はやりすぎだと冗談っぽく注意した。

「えぇ〜〜〜!?」

と、幹は自分の身を抱き締め怖いアピールをしてふざけていた。

「でも、ダイジョーブゥ。俺がこんな事するの、ひーちゃんにだけだからぁ。てへ。」

幹は鼻歌交じりにご機嫌に笑いながら陽毬を見てきた。

それに、異性に免疫のない陽毬はボッ!!と、顔を真っ赤にして

「それでありますよ!そんな事を軽はずみに言うもんじゃないでありますよーーーっっっ!!!」

と、もう、どうしたらいいのか、もきーーーっっっ!意味不明な奇声をあげながらジタバタと奇妙な動きまでしていた。

その姿があまりに可笑しくて、フジと幹は思わず大爆笑していて

「…やっぱり、いいなぁ。ひーちゃん。」

幹は誰にも聞こえない様な声でそんな事を呟いていた。

「ねえ、ひーちゃん。」

いつに無く真剣な声で、声を掛けてくる幹にドキリとして思わず幹の顔を見る陽毬。

今、ちょうどフジがトイレに行って二人きりでストレッチをしていた時だ。

「ひーちゃんは、もし恋人を選ぶなら地位や家柄が良くないとダメな感じ?」

と、幹は妙な事を聞いてきた。
何故、そんな事を聞くのか不思議に感じつつ

「正直、そんなものクソほども興味ないでござる。」

陽毬は、即答した。そんな陽毬に幹は驚いた様に目を見開き陽毬を凝視している。

何故、そんなに驚くのだろう?

マジで興味ない。そんなものが無駄に多ければ多い程面倒事ばかりしかないと考えているから。

自分の両親の上の階級や富豪達に媚びを売ってる姿を見ているせいか、生活の為だけでない真っ黒な何かを感じ取っていてとても不快に思っていたのだ。

おそらく、両親はあまり良くない方法で今の地位をギリギリ保っているのだろう。

そして、自分達は無理だからと自分の子供達に、なんとか地位の高い人や富豪に取り入って何とかさせようという魂胆が見え見えなのも嫌だ。陽毬の両親は子供は自分の駒だと思ってる。

だが、残念な事に容姿だけでなく他も残念な陽毬には希望は持てないので役に立たないと、VIPの取り巻きをして媚びを売っている兄弟達ばかり可愛がる。

それでも、どんな変態か趣味の持ち主がいてもおかしくないし、親の依怗で陽毬も一応は自分達の子供で心底悪くは思っていない様だ。

だから、陽毬を餌に何かいい大物が釣れればと一攫千金を狙うハンターの如く、無謀にもさまざまな社交の場に陽毬を連れ回すのだった。もちろん陽毬の兄や妹も。

ちなみに、もちろんだが陽毬のそういった収穫はゼロで、むしろ“滑稽で惨めなピエロ”と社交界のいい笑い者である。

…めちゃくちゃ辛い…

だけど、両親に反抗しようが泣き喚こうが何が何でも引っ張り出されるのだ。これが、上流階級に生まれたお前の仕事だ。全うしなさいと。

…ふざけるな、バーカ!である。


「…え?普通さ、上流階級の人間って家柄とか気にしない?」

と、驚きを隠せず聞いてくる幹に

…ふ。と、影を帯び生気を無くした顔をしながら、自傷めいた笑いを小さく浮かべると

「…ええ、ええ。そうでしょうとも。どうせ、私は上流階級の風上にも置けない“変わり者”ですからな。
私が望むのは、自分の趣味を邪魔されない事。それさえあれば、何もいらんでござる!」

なんて、いう陽毬に幹は目をパチクリさせ驚いてる。そんな幹を置いて、更に陽毬は言う。

「…あ!よくよく考えてみれば!
それでも、趣味は堪能したいし腹は減るので必要最小限暮らしていけるお金は必要ですな!
…いやいや、その前に雨風しのげる家もないといけませんな。…色々、考えていると最小限の生活といっても、生活するに置いて色々必要なお金や物も多いですな。」

なんて言ってのけた陽毬に、幹は目をパチクリさせ

それから

「ブハッ!…雨風凌げるって…!!
それ、いいね!自分の趣味にまみれて生活できるってサイコーじゃん!!たのしそー。」

と、盛大に笑いながら最高だと陽毬を肯定してきた。そんな幹に逆に陽毬もビックリして、幹を凝視してしまっている。

…だって、まさか陽毬のこの考え方が肯定されると思ってなかったから。



-----一方の結の家では-----


一ヵ月の産婦人科の手伝い&見学、孤児施設のボランティア活動を終了し、それから早二週間経っているが未だに結の家に居候している蓮の姿があった。

何故なら、蓮は颯真の条件を何とか乗り切り家の借金をチャラにしてもらうという難題をクリアしたのだ。

そして、借用書が完済証明書に変わり蓮は見事に家の借金返済を成し遂げたのだった。

だが、今まで何代にもわたって借金をし続け借金が膨らむ一方だった過去があり信用ならないから、これからは何があってもお金は貸さないという条件付きでもある。

それでも、蓮の両親は膨大な家の借金が無くなった事を大いに喜び、蓮を盛大に褒めた。お前は、自慢の息子だと。

…なんて都合のいい事を言うのだろうと、蓮はモヤモヤしながらも家の借金を完済できた事に大きく安心していたし喜んだ。

蓮の両親は、完済証明書を何度も何度も見ては大いに喜び蓮を盛大に褒めたまでは良かった。


しかし、問題は次である。


「…借金返済はとても有り難いのだが。
知っての通りうちの長男は女性関係にだらしの無い愚息でしてな。
それが上流階級層に広まってしまった今、その愚息を持て余している状態だ。この愚息がいる限り、うちは周りから白い目で見られるばかり。とてもではないが耐えられない。そこで、どうだろうか?
貴殿さえ良ければ、この愚息を召使いでも下僕でもいいので引き取ってもらえないだろうか?」

なんて、家の為に必死になって借金返済を成し遂げた息子に対し、そんな事を言い出してきたのだこの両親は。

蓮の父親のこの発言に、西園寺家の応接間が一瞬ピシリと凍り付いた。

蓮なんて、両親の言葉を信じられずピシリと固まってしまっている。

その空気を割き、言葉を出したのは西園寺家長男である颯真であった。

「つまりは、蓮君は九条家の面汚しだから要らないと。だから、こちらで引き取ってほしいとそういう訳ですね?」

表情を変えず話す颯真に、蓮の両親は畏怖を感じヒクリと口元が引き攣ったが

「おお、さすがに話が早い。その通りだ。由緒正しい我が家系に、そんな恥さらしを置いておけん!」

と、堂々とそんなとんでもない事を言い出してきたのだ。それには、その場に居た結の父親、母親、颯真は、

この人達は自分の子供が可愛くないのか?

どうして、自分の子供を自分の道具かオモチャの様に言ってくるのだろうか?

家の尊厳を守る為なら、自分の子供がどうなろうと構わない。面倒だから捨ててしまおうと言ってるも同じだ。

…頭がおかしいとしか思えない。


その話を父親を真ん中にして、母親、蓮と座って居たのだが、段々と状況を飲み込んでいった蓮は

…どうして?

お父様やお母様、兄弟達、家の為に、颯真の出した条件を飲み一生懸命に条件を全うして借金全額完済したというのに。

借金返済したけど、一家の面汚しという汚名は返上できない。そういった理由で、使えるだけ使って、需要が無くなればこんなにも簡単に捨てるのか?

…実の息子の俺を…

と、放心状態になりショックから知らずのうちに涙が流れ出てきた。

蓮の両親はそんな息子の異変にも気が付いていない…
いや、気が付いていても自分が最優先で構ってられないのだろうか?

そんな様子を見た西園寺夫婦と颯真は、

最初こそ、お前たちの愚息は私達の大事な大事な愛娘を蔑ろにし酷く傷付けた。そのせいで、愛娘は恋愛や結婚を諦め、一生国に身を捧げる覚悟だと言い出している。

しかも、“私なんかと恋人、結婚する人が可哀想だ”と、自分を自虐する発言まで飛び出すくらいに傷つき自分に殻を作ってしまったのだ。

そんな、蓮を到底許す事などできようか?

いや、できない!!!

本当なら、顔も声やその名前さえ聞きたくないほどこちらは怒り心頭なんだ。

そんな事情も知りつつのこれだ。呆れて物も言えない。


しかし、事情ができて蓮を一ヵ月ばかり預かっていて感じ思った事がある。

この子は、親の愛情に飢え普通なら幼い頃に両親から教えられる筈の人としての常識を教えられてこなかった放置子。

一緒に暮らしてみれば、根が真面目で良い子だという事が分かってしまった。

おそらく、この子は真っ当な家庭で育っていたなら、こんな事にはならなかったと感じる。

この子から聞く、自分の家庭環境を聞く度に寂しいと泣くこの可哀想な子供に誰が救いの手を差し伸べなければならないのか。

それは、本来親がする事。それを投げ出しているのだ。九条家夫婦は。


「そうですか。ですが、この事に関しては蓮君の意見が一番大事な事です。それに、なんと言っても蓮君はまだまだ子供です。
なので、そちらの家に帰ってしまえばご両親も蓮君もギスギスしてしまい蓮君も自分の気持ちも決まらないでしょう。
ここは一旦、我が家で引き取らせてもらい蓮君なりの答えを見つけてほしいと考えています。
こちらは蓮君の意見を尊重しながら、色々と話し合いたいと思います。
なので、ここは一旦お引き取りいただき、また近いうちに話し合いの場を設けましょう。」

と、いう颯真の言葉で締め括られ、今の状態にあるのだ。

最初こそ、大泣きして「どうして?」と泣き叫び塞ぎ込んでいた蓮だったが、西園寺夫婦、事情を聞かされた結、特に颯真はそんな蓮を献身的に支え続け二週間。

徐々に、落ち着きを取り戻し、自分と向き合い今後について考えるようになった蓮は、度々颯真に相談し
意外な事に颯真や西園寺夫婦に相談できない同年代ならではの相談事は結に話す様になっていた。

とても、意外な事で結自身も驚いている。

颯真の条件で家の借金返済ができ完済書が無事に処理された時の事だ。
あんなに毛嫌いしていた筈の結に、蓮が声を掛けてきたのである。

「…あ、いや…ちょっとした相談っていうか…話がしたいんだけど、いいかな?」

今まで、こんな風に声を掛けられる事もなく、家の中で会っても結だけが「おはよう」「いってらっしゃい」「お疲れ!」「おやすみ」の簡単な挨拶はしていただけだったのに。
もちろん、結の挨拶は見事にスルーされるわけだが。

だが、一週間も過ぎればぎこちなくはあったが「…うん。」と、小さく返事をする様になり、一ヵ月近くになれば、結が挨拶すれば小さな声ではあるが挨拶を返してくれる様になっていたのである。この変化は、結の粘り勝ちというか。大進歩だと思う。

それだけでも十分だったが、次の日には自分の家に帰りお別れになるだろう蓮から話があると言われ結はビックリしたが、恋人でもないのにお互いの部屋はまずいだろうという事で家の中庭で話をする事となった。

中庭の洒落た椅子に似つかわしくなく「どっこいしょ!」と、おっさんの如くドガっと椅子にガニ股で座る結に、蓮は苦笑いしながら言った。

「…最近、ずっと考えてたんだけどさ。
やっぱり、俺たち結婚しない?」

と、とんでもない事を言い出してきたのだ。そに話に、唯は椅子からずり落ちそうになったが気を引き戻して

「…え?ハードな仕事ばかりで気が狂ったのかい?頭は大丈夫?」

心配する結に

「…頭の出来で、君に心配されるのは心外だ。俺の頭はしっかりしてるよ。まず、その理由を聞いてほしい。」

蓮が含みのある言い方をしていたから、これは何か蓮の事情が絡んでいるのだと察する事ができた。

「…で?その理由って、なんだい?」

さっきまでおバカ丸出しだったのに、まるで人の心を読んでるかのような雰囲気に変わった結に、ゾク…っと、一瞬全身に冷たいものが走ったが、意を決してここに来たのだ。だから、ずっと考えていた自分の考えとアイディアを話した。


「あんたは、恋や結婚はしたくない。軍で働きたいと思ってるんだろ?」

と、蓮が話した所で少しばかり嫌な予感がしつつ、

コイツ…私にまるで興味がないとばかり思ってたけど、そんな話は知ってるんだな。

…まあ、同じ家に住んでれば嫌でも耳にするだろうから、そこは仕方ないか。

そう、考えがいきつき少し苦笑いしながら

「…まあ、そんな所かな?」

と、渋々答えた。なんで、コイツに自分の話をしなきゃいけないんだと少し抵抗を感じつつ。

「…実は、俺もさ。今回の件で女性不信に陥ったみたいでさ。…自業自得なのは分かってるけど。
……俺の家に借金あるって知った途端、アイツら(恋人、セフレ達)手のひら返しが凄くてさ。態度も何もかもが変わってこっち見下して嘲笑ってくんだよ。」

なんて、顔を顰め俯き加減で話す蓮の声は震えている。きっと、この話をするのだって相当な勇気が入ったはずだ。

そんな蓮の話を結は茶化す訳でもなく、ただジッと聞いていた。

「セフレの中には、金払ってやる代わりに性奴隷になれって言う奴まで結構いてさ。
それまで、可愛く俺に擦り寄ってご機嫌伺いしてきてた奴らがだぜ?“蓮の為なら何だってしてあげる。”“蓮は私の一番だもん。蓮のいう事何でも聞いちゃう。”とか、言ってた奴らがさ。
いざ、俺が窮地に立たされて恋人やセフレ達に助けを求めたら、これだよ…信じられないよね。」

蓮の容姿は勿論の事誰もが羨むスペックが揃っている。いくら、蓮に借金があろうとも手放すには惜しいと感じた女性が多かったのだろう。

そして、あわよくば自分の性奴隷にして蓮をペットのように扱おうと思っていたのかもしれない。

それほどまでに、蓮は世の女性達にとって魅力的な男子なのであろう。

「なんか、すっげーショック受けたし。人間って、こんなに醜いのもなのかって絶望もした。
そうやって、グルグル考えてるうちに何もかもが面倒に思ったし…女って凄く汚い生き物って思ってしまった。
…だけど、こうやって何とかまともでいられるのは颯真さんのおかげだと思ってる。もちろん、あんたの父親や母親にもとても感謝してる。」

確かに、そんな手のひら返しされたら女性不信になってもおかしくない。

そして、兄貴に懐いてるなとは薄々感じてたが、蓮の颯真の事を話す様子や口ぶりが他とは違い柔らかく感じて、二人は良好な関係なのだなと結は感じた。

「だからさ。あんたは、恋や結婚を諦めてる。
だけど、あんたの両親はあんたに結婚させたがってる。俺は、色々あって女性不信になって、恋や結婚なんて無理だと思ってる。だから、丁度いいと考えたんだ。」

…だからって、なんだかこれは違う気がする。

蓮君は、どうしても私の事を自分より下だという考えが抜け切れないみたいだなぁ。

…上手く、言えないけど…なんだか嫌な気持ちになるよ。


「俺とあんたが結婚してもお互い恋愛感情なんてないし子供だって作らない。
だって、お互い好きじゃないし、おまえみたいな容姿の人を性的に見る事ができないから触れる事さえサブイボものなんだ。
だから、結婚したらルームシェアしたと思ってお互い干渉もせず自由に暮らせばいい。
両親に子供の事をせびられてきたら、施設から子供を引き取って自分達の子供として育てればいい。」


……グサッ!

正直で宜しいが、私にだって人並みに傷付く心ってのがあるんだよ?

そこんとこ分かってないよね。

それとも、自分より下の私には何言っても構わないって感じなのかな?

ズキズキ…

「どう?いい考えじゃない?
お互い利害一致な好条件じゃないかって思うんだけど。」

と、自信満々にプレゼンをした蓮はどうだと言わんばかりに自信に溢れている。
まるで、こんな素晴らしい提案ないだろ?いい考えだろとでも言いたげだ。

だが、そこに


「私は、絶対の絶対に反対ですわ。」

と、いう上品な声が聞こえてきた。

そこを振り向くと、そこには

黒髪パーマの気の強そうな美女が立っていた。服やアクセサリーもゴージャスで、胸元もガッツリ開いてるしスカートも深いスリットが入っていて目のやり場に困るセクシーな衣服を身に付けていた。

「ドーモ、初めまして。結の姉の菫(すみれ)よ。
なんだか実家が揉めてると聞いて来てみたんだけど…」

と、ジッと蓮を見つめると

「本当、大問題ね。九条 蓮君の事については家族以外からも色々とお話しが聞こえてくるわ。とても、おモテになるのね。
そして、同じ人間に対して何様かと思うくらいに差別して。同じ人間として驚くほど滑稽で恥ずかしい人間だわ。」

なんて、初対面にも関わらずズバズバと物申してきた。それに対して、蓮はカッとなり

「失礼ですが、俺は差別なんてしてるつもりはありませんが?俺のどういった所が差別していると言えるのしょう?」

と、ムッとした表情で結の姉である菫に質問してきた。すると、菫は大袈裟なくらいに目を大きく見開き扇で口元を隠すと

「それは無自覚で、人を差別してるという事なの?手のつけられないおバカさんなのね。」

なんて、ひどく驚いた表情を浮かべていた。

…なんなんだ、この人は!?

ムカつく!人の事を馬鹿にしてるのか!

と、蓮は腸が煮えくりかえる思いをしている。


「……ハア。本当に分かっていらっしゃらないのね。でも、子供だし…まだ救いようがあるかしら?そこを期待して言わせてもらうわ。」

結の姉だという菫は、偉そうに腕組みをし呆れたようにため息をつきながら蓮にとって憎ったらしい口を開いてきた。

「まず、蓮令息は結の事も考えてるようで自分の事しか考えてないわ。
女性不信になろうが、そのせいで恋も結婚も考えたくなかろうが、それは蓮令息の勝手。
だけど、結局の話。自分一人じゃ怖いものね。だからって、そんな自分都合をうちの可愛い妹に押し付けて巻き込まないでほしいわ。」


…なっ!何なんだ、この人!?

あんたに、俺の何が分かるって言うんだ!

と、思いつつ言い返せないのは思い当たる節があるため。


「あなたの話を聞いてると、結の気持ちなんてちっとも考えない。自分勝手に話を進めてるだけの独りよがりでしかないわ。最低でみみっちい男ね、あなたは。」


…最低でみみっちいとか!

な、何なんだよ…!!

蓮は、心の中で反論しているが、心に引っかかるものがあり菫の苦情を聞く事しかできなく、菫の勢いにたじろぐばかりだ。


「それに、あなたはうちの妹になんて言った?

“ おまえみたいな容姿の人を性的に見る事ができないから触れる事さえサブイボものなんだ。”

そもそも、紳士である筈のあなたがレディーに向かって“あんた”“おまえ”って言ってる事自体、もう結の事を見下してるんだけどね。
それも、大きな問題だけどそれ以上に、その言葉よく考えてごらんなさい?そんな酷い言葉の暴力を受けて平気な人間が存在すると思っているの?あなたは孤児院で何を学んできたの?」


痛い所を突かれ、蓮はグッ…!と、した。

「しかも、結婚すれば両親は喜ぶと思ってるでしょうが、じゃあ結の気持ちは?あなたの気持ちはどこにあるの?
もしかしたら、なんだかんだ言っても結に好きな人が出来るかもしれないし、蓮令息の女性不信も時間が解決してくれるかもしれない。その内、素晴らしい女性に出会い恋をするかもしれない。

なのに、これからどんな出会いが二人を待ってるかも分からないのに、蓮令息の身勝手な提案のせいで結の素敵な出会いが潰されてしまうかもしれない。その責任をあなたは取れるの?

それで、結を心の底から幸せにできるの?前提はそこよ!

心の底から幸せだと感じられるか。この人と一緒にいて良かったと思えるか。この人を何よりも大切にできるのか。
それが、できないならそんな馬鹿な提案はしないでほしいわ。」


と、菫が言い切った所で、酷く傷ついた結の心が我慢できなくなってしまってボロボロと涙が出てきてしまった。

止めようにも全然涙が止まってくれなくて、ゴシゴシと擦っても擦っても止まらない傷ついた涙。そんな結を菫は優しく抱きしめて


「…我慢しなくていいの!結は、何でも我慢してしまう癖があるわ。
甘え下手で不器用なかわいい子。結は本当に良い子なのね、蓮令息が傷つかないように何も反論しないで、言いたい事も我慢してずっと話を聞いてあげていたのね。」

と、背中を優しく撫でられると

「……本当は、そんなに自分がブサイクなのかって…そんなに酷いのかって傷ついたよ。自分で分かってるつもりでも、やっぱり…傷つかないわけない!私だって同じ人間だよ…女の子だよ…?」

なんて結は大泣きしながら、自分の胸の内を菫に話し悔しい、悲しい…辛いと何度も言っていた。

そんな結の姿を見てようやく自分の言った事の重大さに気付き、こんなにも結を傷付けていた事を知った。

それに、いつも男らしい結。だから、何を言ったって平気だと思っていた。だけど、実は誰かに守ってもらわなきゃいけないくらい、こんなにも弱々しい女の子だった事に気がついて

“結の見た目がこんななのに?普通の女の子気取りかよ…キモッ…!”

と、最低なショックを受けていた。

「覚えておきなさい。自分が辛いからって、人を傷付けていい理由にはならない。自分が辛いからこそ、その痛みを知ったなら同じく苦しむ人に優しくできる心を養いなさい。」

幼児のように泣きじゃくる結を宥めながら、菫は蓮をキッと睨んで忠告してきた。

菫のこの言葉には、蓮は心にグサリと突き刺さるものがあった。

…いい事をしたつもりが、浅はかであった事に気付きガックリしたと同時に

自分の性格の悪さをむざむざと自分で知る事になり、かなりのショックを受けた。だって、今の今まで自分が性格が悪いだなんて微塵も思ってなかったから。
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