美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
次の日のお昼休み…いつものメンバーの中に、何故か九条 蓮がいた。

メンバーは事前に、九条 蓮も休み時間一緒になるかもしれないという事情を結から連絡を受け承諾はしていたものの違和感が半端ない。

だからかぎこちない微妙な空気が漂っている。

それは、さて置き

西園寺家の力で、九条家の借金の噂はデマだという話があり借金の話で周りから九条家が白い目で見られる事は無くなった。

何故なら、西園寺家に借金があるとされてるのに、その西園寺家が九条家にお金を貸した覚えが無いというのだから。

早とちりな誰かの聞き間違いで、そんなデマが一人歩きしてありもしない借金の噂が出回ったのだろうと借金問題は解決した。

ただ問題は、蓮の女性問題だった。

こればかりは、どうにもできず。これから、蓮が自分の信頼回復に向けて地道に頑張るしかない。

ただ、前の騒動で学校にトラウマができた蓮は学校に行くのを嫌がった。だが、西園寺家ではそれは許さなかった。

それは自業自得だと。

直ぐに帰って来てもいいから、とりあえず学校に行きなさい。

結も同じ学校なんだから、できる限り結は蓮君の力になってあげなさい。

と、いう事で、結はげんなりしながらも

「…まあ、周りが怖かったら休憩時間に私の所に来ればいいよ。」

そう言って蓮を教室まで送り出したが、小休憩の時には、蓮は結の所に来る事はなかった。
だが、昼休みのチャイムが鳴ると都合悪そうに結の教室に顔を出した蓮の姿があった。

いつも通り屋上でお弁当を食べてる時、フジは言った。


「…まあ、蓮君が教室に来た時はみんな、蓮君の事を腫れ物扱いしてたんだけど。
先生から、“九条は、優秀者が集まる勉強合宿に参加して昨日帰って来た。”って、説明があって蓮君が一ヶ月以上不在だった理由が分かったわ。
ありもしない借金のデマまで出回ってて、夜逃げしたとか笑い者にしてた子達も真実を知ったら手のひら返しよ。」

と、呆れたように色とりどりの美味しそうなお弁当のおかずを口に頬張っていた。

「蓮令息が教室に馴染んできた頃には、蓮令息狙いの女子達が群がってきてたからな。
蓮令息を批判している女子達の中には、周りの目がに気になるから周りに話を合わせてるだけで、ハンターの如く蓮令息を射止めようともくろんでいる輩も多く見られた。
遊び人グループの男子達は、蓮令息の事をリスペクトしてる。経験豊富なモテ男ってな。」

そう話す風雷の言葉から察するに、ようは女性問題があろうが無かろうがイケメンはモテるって話だ。だから、小休憩の時に結の所に避難して来る必要がなかったのだろう。

しかし、西園寺家の手回しが良かったのか、こうも上手くいくなんて驚きだ。
これで、蓮は今まで通り普通の学校生活を送れるだろう。

だが、昨日結に話した通り蓮は女性不信やら様々なトラウマから長い休憩時間となる昼休み時間、彼らと一緒にいるのが苦痛で結の元にやって来たらしい。

しかし、ここで蓮の疑問が炸裂する。


「…変わったメンバーの集まりだね。まとまりが何一つない。…本当にみんな結の友達なの?」

ここにいる面々を見て、圧倒されている蓮はそんな疑問を投げかけた。

「もっちのろんでござるよ。ここにいるメンバーはみんな友達でござる。」

と、答える陽毬の容姿と独特な喋り方に、

気持ち悪い女だなぁ〜…。

絶対、近寄りたくないし話したくもないよ。

と、ドン引きした。

「…へ、へぇ〜。
…いや、それより、そこの二人距離感バグってない?何か、おかしいよ?」

そう言って、桔梗がショウにお弁当を食べさせたり甲斐甲斐しくお世話をしている光景を見た。
その二人の距離感はゼロである。何なら、絡みついていると錯覚する程ぴっとりとくっ付いている。

二人は、蓮の事には気が付いていないようだ。何やら、二人にとって大事な話をしているようでそれどころではないらしい。

どんな重大な話をしているのかと耳を立ててみれば

「…はあ。昨日も“無し”だったのに今日は体育があるから、今日も無理なんて…俺、ムラムラして◯ん◯が爆破しそうだよ。」

と、桔梗がショウにご飯を食べさせてあげながら、食事中に話す内容でない下品な話をしている。しかも、隠語も隠してない。
そして、特殊に作られた大きなマスクで隠しても分かる恐ろしい程の美貌があからさまにションボリした顔をし肩を落としている。

「…お外で、そんな話しちゃ恥ずかしいよ!
その話は誰もいない時にって言ってるのにな。
それに、最後までしなくても毎日触り合いっこしてるよね?…それでも?」

ショウは周りを気にしながら、羞恥で真っ赤な顔をして桔梗の耳に小声でヒソヒソ話している。これが普通の反応かと思う。

ただ、その友達の中で下ネタが好きな子が多いのなら分かるが、なにせこのグループは下ネタが苦手で奥手な子が多いのだ。(大変興味はあるが、羞恥の為人前で下ネタを話なしたくない。)
そんなグループの中で堂々とシモの話をされたら、苦手な子達はたまったもんじゃないだろう。

人を見て、話す内容を考えなければならないだろう。

なのに、下ネタが苦手なグループの中で桔梗は堂々と男女の営みに触れる様な話を普通に話している。
コイツは、どうにかしているんじゃなかろうか?と、蓮以外の面々は思っている。

ショウは桔梗の暴走を止めようと桔梗を咎めてみたり口を塞いでみたりするも

「なぁ〜に、そんな可愛い事気にしてるの?
かわいいっ!ここにいる奴らは空気と一緒だから全然気にしなくていいのに。クスクス!」

なんて、桔梗はショウの行動に少し驚いた表情を浮かべると、直ぐにキュンキュンした可愛らしい顔に変わり桔梗の周りから小さなハートがたくさんポンポン飛び出る錯覚が見える。

ショウが可愛くて仕方がないとばかりに、ショウの頭やぷくぷく頬っぺたに何度も小さくキスをしていた。

いつもの事なのか、こうなったら止まらない事を知っているショウは少し諦めた顔をして苦笑いしている。そして、周りのみんなにごめんね?の合図をしている。

その仕草を見て、また桔梗はかわいい!!と、暴走するのだ。

だから、桔梗の暴走が止まるまでショウは下手に動けない。


「……ごめんね?ショウが可愛過ぎるし俺の体もまだまだ若いから、それだけじゃ足りないよ。…本当は、毎日でも繋がりたい。
けど、ショウの体の事を考えるとそうもいかない事だって分かる。分かってるけど…ショウが大好き過ぎて気持ちが止まらないんだ。…ごめんね?」

と、自分の容姿を理解しているのか、その美貌を遺憾無く発揮して桔梗は首をコテンとして潤んだ瞳でショウを見てきた。
ショウがちょっと怒っちゃってるのに気付き、許してもらえる確信のあるあざと作戦である。

すると、ショウは桔梗の両頬をぷっくりした手で挟み、少しぷくぅ〜と頬っぺたを膨らませて見せると

「こういうお話は、二人だけの時だけだよ!
とってもとっても恥ずかしいし、他の人に聞かれたくないよ?」

と、叱ってから

「…でも、桔梗が私の事いっぱいいっぱい考えてくれてるの知ってるよ?たくさん我慢してる事も。いつも、ありがと。……大好き。」

なんて、照れて顔を真っ赤にしながら、最後なんか恥ずかしさのあまり桔梗の胸に顔を隠しちゃった姿に桔梗は悶えた。

俺のショウが可愛い過ぎる!!!

もう、どうしてくれようか?

どうしよう!…かわいい、かわいいよぉぉ〜〜〜!!!!!


なんて、イチャラブを見て蓮は


「……え?あの二人…恋人なの…?」

と、信じられないモノを見るかのように結を見てきた。

「ああ、見て分かる通り正真正銘の恋人兼婚約者。
ちなみに、二人が結婚できる15才になったら速攻で結婚するらしいよ。」

そんな話を当たり前の事のように話す結に、蓮はドでかい雷に打たれた気持ちだ。

「……え???…だって、見てみろよ。二人の容姿!!?久遠 桔梗の容姿とそこの女子の容姿があまりに釣り合ってないどころの話じゃない!久遠は、世界でも有名な大学院まで卒業した天才なんだよね?
そこの女子は、落ちこぼれクラスのF組なだけでなく、どの社交の場でも見かけた事がないんだけど?なんて苗字なの?」

と、様々な衝撃のごったがいで、何処から突っ込めばいいのか分からない様子であった。

「…何処から話せばいいか分からないけど、
“そこの女子”は、宝来 ショウと言って別に御令嬢でもなんでもないわ。私もよく分かってないけど、かなりのお金持ちの“一般人”らしいわ。
久遠 桔梗は、ショウの従者兼婚約者だって。」

そう、話してくれたフジを見て更に衝撃を受ける、蓮。

緊張とあまりの居心地の悪さに俯いてばかりの蓮は、
今になって、最近社交界で話題になっている“謎の美の女神”がいる事に気がついた。


…ドキーーーーーンッッッ!!!!??


様々な美女や美少女を見てきたが、こんなに美しい美少女…今まで見た事がない。

しかも、桔梗や風雷と一緒にいても霞まない程の絶世とも言える美貌。

…美しい、容姿だけならず仕草やどの動きをとっても何処をどう見ても美しい。

ドキドキドキ!

すっかり、フジの美貌に骨抜きになった蓮は

「…宜しかったら、お名前を教えてくださいませんか?」

と、どうしてもこの美少女とお近付きになりたくて名前を聞いてきた。それには、結や陽毬…桔梗や風雷までも…「…プッ!」と、吹き出していた。

「……え?同じクラスメイトだし、社交界でも何度も会った事…あるわよね?…色々あって、忘れちゃったのかしら?私は、常盤 フジよ。
大丈夫?色々あったかもしれないけど、気を確かに持って!あんまり気に病まないでね?」

心配そうに見てくるフジに、蓮は腰を抜かす程驚いた。

この女神のような美少女が、
“あの常盤 フジ”!!?
…し、信じられない…!

あの傲慢我が儘女王様が、こんな……嘘でしょ???

蓮が、驚くのも仕方ないとみんな、うんうん頷いている。

それほどまでに変わったのだ。常盤 フジは、恋する乙女のパワーで!

フジが変わった理由を知ってる人は、蓮を抜かしたここにいる面々とウダツの親友である大地だけ。

こんなにも努力して頑張ってるフジの恋が成就するのを願うばかりだ。


…なんだろう…ここにいるメンバーは。

色々、情報がごったがいして情報が渋滞してしまっている。

そもそも、宝来や久遠なんて苗字、上流階級で聞いた事がないと思ったら“一般人”?

一般人に“従者”がついてて、このお坊ちゃんお嬢様学校にも入学できる程の財力があるのに上流階級ではない???

意味が分からな過ぎる。

そもそも、朱雀院 風雷なんて…朱雀院って苗字も聞いた事がないから風雷も一般人…なのかな?

「…久遠も宝来も一般人なら、朱雀院も一般人なのかな?」

と、蓮は疑問を風雷に投げかけた。

「俺は今のところ“留学生”として、この国に滞在している。名前(本名)は別にあるが、高校まで学校を卒業したらこの国に永住する。だから、その為にこの国の名前を作った。」

似ているようで、どこかこの国の人とは顔の作りや体の作りなどが違うなとは思っていたが、風雷はまさかの外国人であった。

それを初めて知ったのだろう。他のメンバーからも驚きの声が上がっていた。

色々質問責めされる風雷だが、「これ以上はノーコメントだ。」と、言ってそれ以上教えてくれなかった。

だが、ショウと桔梗だけは風雷の事情を知っているようだ。

この三人の関係性も謎である。

と、いうか一般人であるショウと桔梗が何故、そんな事まで知っているのかも謎だ。


「…あ〜あ。今週の土曜日から十日間“アイツら”俺達の家に泊まりに来るから憂鬱だなぁ。
…だって、アイツら来たらアイツらショウを独占するから。寝る時だって、アイツら来たらショウを奪われちゃうしさ!……あっ!いい事、思いついた。
“ショウも中学生になったから、いい加減子離れして!”って、言おう。うん!ショウも中学生になったんだし、うん!いい考え!」

と、いい事を閃いたとばかりに桔梗はブスくれた顔から一変してご機嫌さんになっていた。

そんな桔梗に苦笑いしながら

「…桔梗は、どうして私のお父さんとお母さんの事“アイツら”って、呼ぶの?
お父さんとお母さん帰って来ても、いつもお父さんとケンカばかりだし…仲良くしてほしいな。」

ショウは少し寂しそうに桔梗にお願いした。そんなショウを見て、ズキリと心が痛んだのか少しションボリした雰囲気を漂わせ桔梗は言った。

「…ごめんね?本当はショウの両親と仲良くしたい気持ちは山々なんだけど……」

そこまで言って、次の言葉が喉に引っかかっているらしくそれ以上声に出せず苦々しく笑って見せた。

「……そっか。そ、だよね。
桔梗にとったら簡単に許せる事じゃないもんね?私のお父さんとお母さんが、ごめんね?」

と、ショウは泣きそうな顔になって桔梗の顔を見ていた。そんなショウを見て心がギュッと締め付けられるように苦しくなった桔梗は

「その事はショウが謝る事じゃないし、ショウは全然悪くないよ。だから、そんな顔しないで?」

そう言って、力強くショウを抱き締めた。
何かを思い出したかのように苦虫を噛み潰したような顔をする桔梗の胸の中、ショウは肩を震わせ小さく泣いていた。

それを複雑そうな表情で見る風雷と、何がなんだか分からない他のメンバー達だ。

その様子を見ても、ショウと桔梗、そしてショウの両親についての何らかの事情をやはり風雷は知っているように見える。


だが、ここで

「良かったじゃないか!フジちゃんのおかげで蓮君は、女性不信を克服できたんじゃないか?」

と、結がニマニマした顔で蓮を見てきた。

…ドキィーーーッッ!!!

「…いや。それとは、ちょっと違う…と、思う。」

この絶世の美少女がまさかフジだなんて気が付かず口説いてしまった自分ではあるが、決して女性不信を克服できた訳ではない。
自分で言ってて意味不明であるが、フジがあまりに美し過ぎるがいけない。

今現在のフジを見た瞬間、本当に女神様が降臨してきた様な錯覚に陥ったのだ。それくらいに、フジの何もかもが美しい。

だから、人の心を魅了してしまう程美しすぎるフジがいけないと蓮は心の中で言い訳していた。

だが、ここでみんな思った。

蓮が“とても気に入った女性”が現れれば、蓮の女性不信も即解決するのだろうと。ちょっとやそっと気に入った女性ではダメだろうが。

…まあ、正直克服できないままの方が、世の女性達の為になるだろう。

そして、この雰囲気をどうにかしたくて自分から意識を逸らす為に、蓮は気になっていた事を口にした。

「…まだ、信じられない気持ちだけど。
久遠(桔梗)と宝来(ショウ)は将来を誓いあった婚約者同士なのは…抵抗あるけど分かった。
だけど、さっきから話を聞いてると久遠(桔梗)の性欲が旺盛に感じるんだけど…俺が言うのもなんだけど…避妊は大丈夫なの?」

と、自分の何回もの大失態が頭をよぎり、そして颯真の元で産婦人科、孤児院に携わる機会があり多く考えさせられる事があった。
自業自得ではあるが自分の罪の大きさに押しつぶされそうになり悪夢に魘され眠れない日々も多くある。

ぶっちゃけ、浅はかだとか軽薄だとは思われるだろうが自分と関係を持った女性に申し訳無さはさほど感じない。だって、お互いに合意の上で男女の関係になってるんだから。

だけど、自分達の浅はかさから運悪く宿ってしまった生命。その小さな小さな命を奪ったのだ、自分達は。

どんなに、人の形をしてなくてもあったのだ。そこに命が。それを、まだ生まれてない。ただの肉片だと命を軽視して、それを奪った。

颯真から、いくら肉片にしか見えなくても、その命は“心”を持ち母の体を通し外が見えるらしい。母親の気持ちが分かるらしい。そこから、様々な情報を得ていると聞いた時

そんな嘘の様な話信じはしなかったが、だが…もしも…そう考えてしまった時…ゾッとした。

そこにあった命が、その中でどれほどまでに恐怖し怯えて過ごしていたかと思えば……考えたくないけど考えてしまう。

こんなの俺に反省させる為の颯真の作り話だと思っているが…だけど…。

そんな葛藤を何度も何度も繰り返し。

その内、蓮の行き着いた考えは、その小さな命は生まれてくる事を拒まれ罪もないのに処刑されてるもんじゃないかと。

これは、一生背負わなければならない蓮の消える事のない罪だ。


そういう経緯があったからこそ、性欲まみれな話をする桔梗にこんな話を持ち掛けてしまったのである。

そんな蓮の心情を知らない面々は、なんつーデリケートな事を聞くんだ!?こんな話、いくら仲が良くてもなかなか聞けないし…
そんな経験も異性とお付き合いした事さえないメンバーにとって刺激が強すぎる話だ。

ただでさえ、メンバーに害がないと安心したのか桔梗はさすがに詳しい内容までは言わないものの、平気で性の話をするようになっていて。それだけでも刺激が強すぎるっていうのに。

男女の経験がある人達は、みんなこんなものなのか?…いや、少なくともショウは違う。そういった話を人前で話したがらない。

なら、おかしいのはやはりコイツらだ。コイツらは性に関するネジがぶっ飛んでるに違いないとメンバーはうんうんと自分で頷いていた。

と、いうか桔梗はショウ以外どうでもいい節があるので自分達の事を空気か何かだと思ってるに違いない。失礼な奴だ。

それは置き、蓮が質問した事に対し、桔梗はくだらないとばかりに小さく笑うと


「それは、全く問題ないよ。俺は子供ができないようにパイプカットしてる。それに、今までもこれからもショウしか知らない体だから性病の心配もさほどないからね。」

なんて爆弾発言をしてきた。それには、蓮は唖然としてしまった。

他のメンバーは「…え?パイプカット??なに、それ???」と、乙女達は顔を見合わせて“知ってる?”“ううん!全然、聞いた事ないよ。”などと首を傾げている。

パイプカットの事は、風雷は仕事柄嫌でも耳にした事はあるし、蓮は産婦人科で学んだから知っているだけだ。
何かの情報番組などで知ってる人もいるかもしれないが。まだ、中学校に入ったばかりの純情な乙女達が知らなくて当たり前の話である。

本当は、桔梗もショウも子供のできない体なのだが、それは伏せ“そういう事にしておいた。”
理由を話す義理もないし、色々と説明が面倒な話なのでそういう事にでもしておかなければならない。

あまりに驚いたのと、同時に

「…なっ、なんて馬鹿な事をしたんだ!?
いざ、子供が欲しくなった時どうする?一度、パイプカットをしてしまうと元通りという訳にはいかないし、時間の経過と共に種を作る機能が低下してしまうリスクがあるんだぞ?
それに、久遠(桔梗)は成長途中のまだまだ未成熟な体なんだ。そんな未熟な体でそんな事をしてしまったら、どんな障害が出てくるかも分からないんだよ?」

と、蓮は産婦人科でのある出来事で、パイプカットの存在を知りそのメリットとデメリットの話を聞く機会があったのだ。だから、ついムキになって気が付けばこんな事を口に出していた。

しかし、そんな蓮に

「桔梗は何事もショウが一番なんだ。一般的に度が過ぎると思われるかもしれないが、ショウの事を第一に考えた結果なんだ。それに関して、蓮令息がどやかく言う事ではないと思うが?」

風雷は、冷静にそう言って酷く困惑する蓮を黙らせた。

蓮はなんて愚かな事してるんだ、コイツらは何も分かってない!と、心の中で頭を抱え不服そうな顔をしている。

そんな蓮の心情を察してか


「…何かまでは言えないが。桔梗の場合は様々な事情があり、きちんと話し合いをしての事だ。自分の快楽の為だけに安易に考えて行動した訳ではない。」

と、風雷は補足して

…どうして、俺が桔梗の尻拭いしなければならないんだと内心イライラしながらも風雷は桔梗のフォローをした。

その話を聞いて、まだまだ不満気ではあるが納得せざるを得ない蓮だ。
色々な事情ってなんだ?と知りたく思うが、他人のプライベートな話をズケズケと聞くほど蓮は常識はずれではない。

それからは、昼食とたわいもないお喋りをそれぞれ楽しんでいる。そんな中、蓮は何度もショウと桔梗をチラ見して、

コイツら…本当に婚約者…いや、それはそうとヤる事やってんのが信じられない!!?

だって、どう見ても不釣り合いもいいところのこの二人だよ???

二人が一緒いる事が不自然過ぎて違和感しか感じないんだけど。

…なんて、いうのかな?

絵面が違う?ジャンルが違う??

例えがおかしいかもしれないけど

少女漫画のモテモテな超絶イケメンヒーローとギャグ漫画のアホ面のモブキャラが恋人同士だって言ってるような違和感。

世界一美しい大輪の花と、規格外で売り物にもならない不恰好な野菜が一緒の美しい花瓶に飾られてるくらいに不自然過ぎる。

…例えはイマイチだが本当に違い過ぎる。住んでる世界…種族さえも違うんじゃないかと思ってしまう。同じ人間同士とは思えない。


…そもそも、こんなチビデブス相手にできるわけ?…自分はとてもじゃないけど、本当…無理!!絶対、無理!!!

想像しただけで、サブイボと寒気が止まらなくなる。吐き気がする。


…久遠(桔梗)は、宝来(ショウ)の家に何か弱味でも握られて脅しでもかけられてるんだろうか?

久遠(桔梗)はどんな理由があるのか分からないが、宝来(ショウ)の家に一緒に住んでいるらしいから。

しかも、物心つく頃には宝来(ショウ)の従者として働き宝来(ショウ)の身の回りの世話をしているという。

…久遠(桔梗)は、この世の者とは思えないあり得ない程の美貌の持ち主だ。
まさかとは思うが、宝来(ショウ)の親が裏の世界で禁止されてる人身売買で、久遠(桔梗)のあまりの美貌に見惚れ奴隷として買ったのかもしれない。

久遠(桔梗)が宝来(ショウ)の両親を心底嫌っているような口ぶりや雰囲気、宝来(ショウ)が言う“私のお父さんとお母さんがごめんね”と、謝っている事から、そんな事が想像できてしまう。

しかも、久遠(桔梗)の仕事は宝来(ショウ)の従者とは表向きの仕事で本当の仕事は、宝来(ショウ)の下僕兼性奴隷なのだろう。

で、なければ、久遠(桔梗)の様な超絶極上が宝来(ショウ)の様なチビデブスかつ超底辺女と性行為をする筈がない。…あまりに気色悪過ぎる。
パイプカットだって無理矢理されたに違いない。…気の毒過ぎる…

どんなに嫌でも生きる為、悲惨な環境から逃げ出せず無理矢理な行為を虐げられているのだろう。

…可哀想に…


と、蓮は勝手な妄想で桔梗を酷く憐れんだ。


だが、そこですぐさま敏感に反応したのは桔梗で

「言っておくけど。俺は捨て子でもなければ、奴隷として売られてた訳でもないからね。」

普段からこういった話をされる事が多いのだろう。少しウンザリした顔をしながら言ってきた。

……ギクッ!!?

まるで自分の心を読まれたかの様に、蓮が考えていた事への答えがまるまる返ってくる。
こっちは何も言ってないのに、ここまで的確な答えを出されると怖い。

「ざっくり説明すれば、ショウの押し掛け旦那みたいな感じかな?
従者ってのは名ばかりで、ショウの世話は俺が好き好んで率先してやってる事だし趣味みたいなものだよ。やり遂げた時の達成感、興奮もあるから楽しくて仕方ないよ。何気ない事が幸せで堪らない。」

なんて、蓮には理解不能な回答をしてくる桔梗。

…人の世話が趣味?そういう性分とかじゃなくて趣味??訳が分からない。

「あと、俺とショウの両親の関係性を聞いて、変な誤解したかもしれないけどさ。
ショウの両親は、結婚も恋人関係もまだまだ早過ぎるって、俺達の関係を否定してるんだよ。特にあのクソおy……ショウの父親がさ。
そういう事情があって、俺とショウの両親の仲はあまり良好とはいえないってところかな?」

色々と伏せられ誤魔化されてる部分も多いが、桔梗はショウに関してあらぬ誤解だけは避けたくて嫌々ながらも、大まかな説明をしてきた。

何がなんだかよく分からないが…

とりあえず、無理矢理ショウの元で働かされてる訳ではないらしい。

それに、信じられない話だが桔梗がショウをとても好きらしい事も分かりたくないが分かったが分かりたくない。

色々と謎だらけではあるが、他人の家庭の事情にあまり踏み込んではいけないだろうと質問責めしたい気持ちをグッと飲み込んでおいた。

ショウに対して在らぬ誤解が解けた途端に桔梗は蓮に興味を無くし、またショウに構い倒している。めちゃくちゃに楽しそうである。

「…まあ、あの二人に関しては色々と謎だよな。」

何か腑に落ちない顔をしている蓮に結はそう話しかけてきた。

「そうね。幼少時代からのショウちゃんと桔梗君を知る私ですら、あの二人…と、いうか家自体が謎なのよね。
今さらだけど、こんなに長い付き合いなのに未だにショウちゃんや桔梗君のご両親にもお会いした事もないわ。」

「そもそも、それが普通だと育ってきたショウちゃんでありますからな。事情を知る桔梗君は大事な所で話をはぐらかすか完全にスルーしますからな。」

「そうそう!色々知りたくて、少し前までたくさん質問していたわ。それでも、頑なに教えてくれないのよね。…けど、今考えたらプライベートな話…いくら、友達だからといって礼儀がなさ過ぎたわ。」

と、幼い頃からこの二人を知る友達でさえ、二人の家の事情など殆ど知らない様だ。


……謎すぎる……


「謎といえば、ショウちゃんと桔梗君に負けず劣らず、風雷君も謎だらけだよな。」

そう言ってきた結の言葉に、ショウと桔梗以外みんな確かにと頷いていた。

こんな中、ショウだけは何が謎なんだろう?と、一人首を傾げていた。

それを見て、

「なぜ、宝来(ショウ)は分からないの!?お前は、容姿だけでなく頭も残念なの!?」

と、蓮は思わず言葉が滑ってしまった。

そんな底辺残念女が、どうして桔梗の様な超ハイスペックに好かれるのか…それも謎すぎるし!!単に、桔梗の趣味が悪過ぎるだけなのだろうが。

それにしても

「久遠(桔梗)の様な極上の男子がさ。よりにもよって、こんな…残飯女子を好きになるなんて世も末だ。桔梗の何もかもが残念に思えてくるよ。…勿体無いよ、本当に勿体ない!」

蓮は居た堪れない気持ちになっている。

そんな蓮の考えが明け透けに見えて、桔梗はとても不愉快そうに顔を歪め、ショウはしょんぼり苦笑い。
他の女性陣は軽蔑したような目で蓮を見ている。風雷は素知らぬ顔をしていて感情が全く読み取れない。

そして、自分は何も悪い事を言ってないのに、どうしてこんなに雰囲気が悪くなったのか分からなく困惑する蓮だ。

「…はあ。いくら悪気がないからと言って、自分の発した言葉には責任を持つべきだ。蓮令息は、もう少し人の気持ちを考えた方がいい。」

そう、助言したのは意外にも風雷だった。

だが、そんな助言されても、先程の言葉の何がいけなかったのか理解できない蓮だった。

しかし、ここで


「九条にそんな気持ちが分かる訳ないよ。
だって、魂が揺さぶられるほど人を好きになった事が無さそうだからね。
そんな人間、まず居ないだろう事も理解しているつもりだよ。
人を見た目やスペックで判断して好きになる事は否定しないし、そんなものだよ。普通だと思う。だから、九条の反応が一般的なんだろうね。」

と、桔梗がまさかの発言をしてきた。それには、みんなギョッとした顔で桔梗を凝視している。

「自分の愚かさを分からない時ほど恐ろしい事はないよ。…だって、その事が原因で自分の一番大切なものを失うんだからさ。」

そして、何だか桔梗の様子がおかしくなってきている気がする。フルフルと小刻みに震え出し、何故か離すまいと必死になってショウに絡み付いている。


「…………。……俺は、もう“二度とあんな間違いなんてしたくない…いや、絶対にしない”。
何回…何十、何千回と同じ過ちを冒し痛い目を見ても、その過ちの原因を自分が理解していなければ永遠とそれを繰り返すよ。
終わってしまったら、いくら後悔して悔いても嘆いても何をどう足掻いてもどうにもできない。…そんなものだよ。きっと、九条もそれと同類の人間だよ。」

と、何故か自分が経験してきたかのように達観する桔梗の目の焦点が合ってない。何処を見てるのかも不明で目を開けたまま何か悪夢でも見ているかのように見える。

しかし、この桔梗の話ぶりは、まるで何千何万年と永遠を生きている、人でない何者かに思え怖く感じた。

だが、先程の言葉を吐き出してから桔梗は、この事に関して何も言わなくなった。
代わりに、酷く重い罪を懺悔をしているかの様な姿の桔梗は、とても苦しそうで見ているこちらの心が辛くなった。

桔梗を心配するショウに「…大丈夫じゃないよ。苦しいよ…助けて…!…ミア、俺のミア…、居るよね?ミアは俺と一緒にいるよね?離れたりしないよね?」と、縋り付く桔梗はそのままショウと共に消えてしまった。

瞬間移動を使ったのは明白だが。
一体、桔梗に何があったのだろうか?今の姿はかなり異常で、何かおかしな事を叫んでいるし…どう声を掛けてあげたらいいのか分からないし怖すぎて声も掛けられない。


桔梗と風雷が魔道士だって知らない蓮は、急に消えたショウと桔梗に酷く驚いてパニックになっていた。
だが、何故か直ぐにショウ達は現れ“いつも通り”楽しそうにイチャイチャしていた。なので、一瞬消えたように見えたのは自分の目の錯覚だと蓮は思った。


それを見て、さっきまでの二人の様子とあまりに違い過ぎる事から、おそらく桔梗か風雷が“幻術”という魔導を使ってこの場に居ないであろうショウ達の幻影を見せて周りを誤魔化しているのだろうと結達は察する事ができた。

そこに

「…あ〜…。お前達からすれば違和感あるだろ?桔梗の様に“幻術の中に洗脳と幻覚を取り入れ記憶操作”もできればいいのだが…。
何せ、そんな高度な芸当は不可能に近い。少し間違えれば、人の脳と精神を壊す恐ろしい複合術だ。それを最も簡単にやってのける桔梗が異常だと思う。…俺の未熟さへの言い訳になってしまって恥ずかしい限りだ。
だが、学校にいる人達は騙されてくれるだろう。」

と、少し苦笑いする風雷の姿があった。

どうやら、この幻術は風雷が作ったものらしい。本人は未熟だと言っていたが、ちゃんと普段通りの二人に見えている。
魔導に詳しくない結達でさえ、それだけでもかなり凄い事だと分かる。きっと、風雷のようにここまで幻術を操れる魔道士も数少ないに違いない。

「先程、見ての通り桔梗には気が狂ってしまう程の“いくつかのトラウマ”がある。
ちょっとやそっとでは問題ないのだが、蓮令息の話の中に桔梗にとって大きな地雷だったんだろう。」

一体何があって、そんなトラウマができてしまったのだろうと結をはじめみんな桔梗が心配になる。

「別に、蓮令息が悪い訳でもないし桔梗も悪くない。ただ、先程の地雷によって桔梗はとても苦しみもがいているはずだ。過呼吸になり意識は錯乱、幻覚も見えている様だったからな。」

なんて、話を聞いてかなり重症じゃないかと、みんな驚き

「病院に行かなくて大丈夫なの?…心配だわ。」

と、フジが心配そうな声をあげると

「ショウがいるから大丈夫だ。」

風雷は答えた。

「…え?ショウがいれば大丈夫って、どういう事なんだ?あんなヤバイ状態になってるんだ。冗談言ってる場合じゃないだろ!急いで病院の先生に診てもらわなきゃマズイぞ!?」

結は冗談なんて言ってる場合かよ!一刻も早く病院の先生に処置してもらわないと焦り、風雷に抗議すると

「冗談のように思うかもしれないが、これは冗談ではなく至極真面目な話だ。
さすがにプライバシーの問題もあるから、おっ広げには話せないが、“こうなった桔梗”にとってショウが一番の治療であり薬だって事だ。もっと言うなら、“桔梗の発作”を治せるのはショウしかいない。それしか言えない。」

風雷は、そう言ってから何か思い出したらしく

「…ああ。あと、桔梗が口走っていた“ミア”とは、ショウの名前だ。あまり公言できない事だがショウにはいくつかの名前がある。

宝来 ミア・エリー・ショウと、言う。

一般的に呼ぶ名前はショウ。恋人や夫しか呼ぶ事が許されない名前がミア。特別な事があった時にショウの両親又は夫となる者しか呼ぶ事が許されない名前がエリーだ。
だから、桔梗が浮気して他の女の名前を呼んでるとか、そういった事ではないから安心してほしい。」


…まあ、桔梗が正気を取り戻せば医療魔導の“記憶操作”で、“桔梗が錯乱した事”“ショウの真命”の事については、ここに居るみんなの記憶を消し改ざんしてしまうのだろうがな。

と、先を読む風雷。他の面々は

…え?なんで、そんなに名前があるの?
それに、その場によって名前を使い分けるとか…そんな事ある?

なんて、みんな困惑していた。
だが、この話について風雷はそれ以上は口を閉ざしてしまった。

また、ショウについて謎が一つ増えてしまった。

みんなの会話についていけない蓮は、いきなりイチャイチャし出したショウ達にウゲェ〜と思いながら自分の昼食を食べ、目に毒な二人を気にしない様にした。
< 32 / 39 >

この作品をシェア

pagetop