美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
フジとウダツがお付き合いを始めて一ヶ月。夏休みまで、もう少しだ!
その前に、7月に入る前に期末テストなるものがありテスト勉強の為、みんなは結の家に集まり勉強(?)をしていた。
何故、結の家が集まり場所になったかという理由は簡単なようで複雑。結以外の家は何かかしら問題を抱えており、やすやすと友人を招き入れる環境でなかったからだ。
ショウと桔梗の家の場合。
ショウは家に招き入れる気満々だったが、桔梗が遠回しに“自分達の愛の巣に他人を入れるなんて断固拒否。穢れる、汚れる。”と、素敵な笑顔でお断りされた。
風雷の場合。
ある理由で庶民のボロアパートに住んでおり、部屋がとても狭くスペースがない事と壁がかなり薄く音漏れが酷く隣人に迷惑が掛かる為、無理。
陽毬の場合。
陽毬の家は下位なので、両親や兄妹達が地位やお金目的に何かしでかす恐れがある。
まして、上流階級でない一般のショウと桔梗は冷遇され気分を悪くするだろうと安易に予測され、とてもじゃないが家に招き入れる事なんてできないと自分の家族の事を考えドンヨリと心を沈ませながら断った。
フジの場合。
フジを溺愛する祖父母、両親が、友人達を品定めして門前払いする可能性があり、失礼極まりない事をしてしまいそうだと申し訳無さそうに丁寧にお断りしてきた。
その事で、陽毬のダイエット計画でフジの家に陽毬を招待した時、フジの妹が陽毬にあまりに酷いパワハラ、モラハラをして、陽毬を酷く傷つけた経緯があっての事だ。
まさか、こんな事になるなんてとフジは何度も何度も陽毬に謝ったが、これはフジのせいなんかではない。
むしろ、フジは陽毬に好意で家に呼び陽毬のダイエットを手伝ってくれているのだ。陽毬にとって、感謝しかないというのに。
…だが、同じ血が流れていてもフジの妹は絶対に許せないし大嫌いになったが。
そうなれば、寛大な心と優しさを持ち合わせている両親や兄弟のいる結の家一択である。
結も友達を家に招き入れるのは別に嫌じゃないし、むしろ楽しくなりそうだからいつでも遊びに来てほしいくらいの気持ちだ。
そうして始まった勉強会。
最初こそ、くだらない話などでグダグダ喋りようやく勉強しだして1時間弱。既に集中力切れの結と陽毬は、ソワソワしだしキョロキョロし始めていた。
みんな、よく頑張れるなぁ〜。とか、他人事のように暇を持て余し始めていた。
ショウも頑張りの限界がきて集中力が欠落し始めた頃合いを見て、桔梗が休憩の声を掛けた。
そして、みんな待望の休憩時間という名のお喋りタイム。その時、浮かない顔をしたフジが
「…みんなに相談したい事があるんだけど大丈夫?」
と、みんなの顔を窺った。
「もちろんだよ!!いくらでも、相談してくれっ!」
「おお!どんな悩み事ですかな?」
なんて、もう勉強なんてしたくない、教科書、ノートすら見たくもない結と陽毬は、ここぞとばかりに身を乗り出してフジを見てきた。
これで、今日は当分…いや!丸一日、勉強はしなくていいはずだという思惑の為に、フジの相談に乗る事をダシに使い勉強から逃げ出そうとしてるのは、桔梗、風雷、フジにはお見通しであった。桔梗と風雷には呆れられ、フジに苦笑いされてしまったが。
「…あ、その……、えぇ〜っと…」
と、何故か歯切れの悪いフジの様子に、みんな首を傾げついに短期な桔梗が
「……ウダツの事で何かあったのかな?」
なんて、内心イライラしながらも優しい笑みを絶やさずフジの悩み事に目処を立て、フジが相談しやすい流れを作った。
それに、ドキッとしたフジは最初こそどうして分かったの!?と、驚きの表情を浮かべ、直ぐに真っ赤になって少し困った表情をして
「…こんな事、凄く言いづらいんだけど。……私、もの凄く性欲が強いみたいなのっ!」
と、羞恥で自分の顔を覆い俯いてしまった。
悩み相談が、まさかのまさかなお話で異性とまるで縁のない様な結と陽毬には、とても刺激の強い内容で……とても、興味が湧いた。
「…ど、どどういう事ですかな?ウダツさんとお付き合いされて、およそ一ヵ月程経ちますか?まさか、二人がそんな大人の階段を登っていたなんて驚きですぞ!!」
陽毬は、とてもエグイ18禁から溺愛系のエロエロ同人誌をよく好み読み漁っているので、とってもとっても興味があり身を乗り出して聞いてきた。興奮し過ぎて、鼻息が荒い。
そんな様子の陽毬に、みんな若干引き気味だったが、ぶっちゃけ結もかなり興味あるので周りに合わせ平静を装いつつも内心では興奮しまくりである。
「…ち、違うわ!ウダツさんとは、そんな事……キスだってちゃんとした事がないの。いい所で、せいぜい手を繋ぐとか寄り添うくらいで…」
と、フジは大慌てで、真っ赤になりながら大人の階段を登った事を否定してきた。
だが、なのに何故フジは自分の事を性欲が強いだなんて言うのだろう?それが不思議で首を傾げる結と陽毬。
しかし、ショウや桔梗、風雷はフジの気持ちを察する事ができているらしく何とも言えない表情で分かる分かると頷いていた。
「…え?ヤッてもないのに性欲が強いって、どうして分かるんだい?」
と、大きく首を傾げながらダイレクトな質問をしてくる結に、困ったフジは苦笑いしつつも
「……付き合って思ったのがウダツさんは、性的な事に淡白な人だって事。特別な人と側にいて何て事ない日常を送るだけで満足みたいな感じがあるの。
もちろん、思った以上に紳士で優しくて…それでいて何をするでもなくても、両思いで一緒に居るだけで温かい気持ちになってとても心地良いの。
きっと、ウダツさんも私と同じ気持ちで居てくれてるって思うの。」
ウダツと一緒に居てとても幸せではあるが、フジとウダツの気持ちに何らかのズレが生じていて、それがフジを悩ませる原因だという。
その原因は、おそらくフジが冒頭に言っていた事に繋がるのだという事は何となく分かりフジの話の続きを待った。
すると
「…だけど…だけどよっ!!?」
と、さっきまでの少し困ったように柔らかく笑って話をしていたフジから一変!
机の上に両手私乗せると、ものすごい勢いで身を乗り出しみんなビックリして肩がビクッとしてしまった。
「…わ、私っ!!ウダツさんが好きで好きでたまらなくて気持ちが抑えられなくって!
食事をしたりお喋りするウダツさんを見て、ウダツさんのあの薄くて柔らかそうな愛らしい唇に…ウダツさんのセクシーな手で触れられたら、どんな感じなんだろう?
ウダツの側に居るだけで、ウダツさんの体に触れたい…私もいっぱい触れられて…全身隈なく愛したいし愛されたいって思うようになってしまって。」
相当勇気のいる内容らしく、最初は勢いで話していたが
段々とウダツの事を思い浮かべてか、うっとりした表情に変わり色っぽい雰囲気になり
結とショウ、陽毬は同性かつノーマルでありながらもフジの色っぽさにドキドキしてしまった。
「知らず知らずのうちに、ウダツさんの何気ない仕草でさえ…いえ、何もしなくても、ウダツさんの唇や手…体…全てをずっと見ていて。
…気がつけばエッチな妄想をしちゃうの。」
と、羞恥の為、消え入りそうな声でフジは顔を真っ赤にしながら話してきた。
本当はこんな話したくないだろうに。
おそらくフジにとって相談せずにいられないほどの大きな悩みなのだろう。
「ウダツさんの側に居るたびに、ウダツさんの事を考える度にエッチな事を想像して。
ムラムラが止まらないどころか、日に日にその気持ちが大きくなってきて……悶々とする日々を送ってるの。
…だけど、ウダツさんにはその気は無さそうだし…」
そこまで聞いて、結と陽毬は思った。
自分は恋人も居ないし、今後も絶望的だろうと思っている自分でさえエッチな事はいっぱい考えるし妄想だってする。
いつか、素敵な王子様が私を迎えに来る妄想だって暇さえあれば毎日のようにする。
だから、大好きな人と恋人になれたフジが、恋人と身も心も繋がりたいって気持ちになるのはごく当たり前の事なんじゃなかろうか?と。
だって、人間なんだもん。
「普段雰囲気も柔らかくて優しいのに、いざって時には男前でカッコいい無色透明なウダツさん。
そんな世界一素敵で完璧なウダツさんに、私が凄くエッチでがっつくような女だって思われたくない。それに、こんなに性欲が強くてハレンチでふしだらな事ばかり考えてるって知られたら、嫌われそうで怖くて相談もできないの。」
ここで、みんな思った。
フジの中で、“ウダツが神格化してる”と。
フジはウダツに対し、邪な気持ちで触れただけでウダツが穢れてしまうのではないかという恐れと責任を感じているように見える。
「…何より、無垢で純白なウダツと一緒にいると自分はなんて穢れた心を持ってるの?こんな煩悩だらけの私が、こんな素晴らしい男性の隣に居ていいの?って、疑心暗鬼に陥ってしまう事も多いの。
だから、ウダツさんに相応しいレディーになろうと努力してるつもりなんだけど、いくら努力を重ねてもウダツさんを性的な目で見る事はやめられないし…一秒毎ごとに悪化してる気がするわ。」
と、言ったところで
「……ブハッ!!?う、嘘だろ?何だよ、その妄想!あり得ないし、ヤバすぎでしょ。」
なんて、扉の向こうから思わず吹き出し笑いが止まらない蓮が、ノックも無しに結の部屋の扉を開けて入ってきた。
なんなの!?と、不快な気持ちになりながら図々しく部屋に入って来る蓮を見ると、手には飲み物とお菓子の乗ったトレーを持っていて
「…ああ、これね。颯真さん(ふうま。結の兄)に、これを持って行ってほしい。そして、結に勉強を教えてほしいって頼まれてさ。」
と、説明してきた。
って、事は、コイツもこの勉強会に参加するって事かよ。と、みんな微妙な顔をしていた。
さっき自分の事を笑われたフジはムッとしている。
そんな微妙な雰囲気も気にせず、蓮はちょうどフジと風雷の間ら辺に無理矢理場所を作り入ってきた。
多分、蓮にとって不細工達の側に居るのが嫌なのだろう。だから、とても美しい二人の間に入ったのは明白だ。
考えてみれば、学校で昼休みを一緒に過ごすようになって最初のうちは都合悪そうに結の側にいた蓮だったが、慣れてくると毎回フジと風雷の間を自分の場所としていた。
何故か分からないが、桔梗に苦手意識を持っており桔梗と風雷の間には入ろうとしないが。
そして、先程のフジに対しての失礼な態度も謝る事なく
「一ヶ月も付き合ってんのに、まだヤッてないとかフジ嬢の彼氏って甲斐性なしのビビリ君なんだね。」
と、ウダツを馬鹿にした発言をして、ここに居るみんなの心を苛立たせた。
「そんな腑抜けよりさ。そんなに、性欲持て余してるなら俺と恋人にならない?あ!もちろん、セフレでも大歓迎だよ。俺なら、フジ嬢の期待に添えると思うよ?」
と、蓮はみんなの前で堂々とフジを口説いた。
こんなピリリと冷たい雰囲気の中、よく口説けるもんだと、結と陽毬はいっそ清々しいくらいのクズだと呆れある意味感心している。
学校の昼休みの時も思ったが、蓮の中で美人でない結やショウ、陽毬はアウトオブ眼中というやつで一緒に居ても空気扱いされている。
…コイツ…本当に、ムカつく!と、結、陽毬、自分の命よりもショウが大切な桔梗はかなり腹を立てている。
今まで女性達を口説いてきたテクニックを駆使してフジを口説き、フジの手に触れようとした時
…パシンッ!!
と、フジは自分の手に伸びて来た蓮の手を叩き落とし
「やめてほしいわ!私には、ウダツさんという世界一の彼氏がいるのよ。それに、私はそんな安っぽい女じゃないの。
あなたには、あなたに見合った女性を選ぶべきだわ。今は、人選ミスという他ないわ。」
蓮がつけ入る隙間もないくらいにビシッと言った。それを見て
…おお!
カッコいい!!
と、結、ショウ、陽毬は憧れの眼差しで目を輝かせてフジを見ていた。
「ハハ!確かに人選ミスだね。
そもそもお前とフジは、恋愛観や結婚観、貞操概念に対する考え方からして全然違うんだから、そんな相手を選んだ時点で口説く相手を間違えてるよ。」
と、桔梗は柔らかな笑みを崩さないまま、蓮にダメ出しという指摘をしてきた。
…ムカッ!
な〜んか妙に突っかかってくる桔梗に、蓮は苛立ちながら
「じゃあ、久遠(桔梗)はどうやって自分と考え方が似てる女性を見極め見つけて、その女性に対してどんな素晴らしい口説き方をするのかな?是非とも、ご教授願いたいよ。」
と、口元を引くつかせながら聞いてきた。そんな蓮に、桔梗は少し困った風に笑うと
「残念ながら、口説くのはショウだけだからね。…あ!でも、ショウが喜びそうな事を考えて口説くのは楽しいよ。ショウに口説かれるのは、いつでも何処でも嬉しいけど。
…ああ、だけど。ショウ以外(好きな人以外)に口説かれるのは鳥肌ものだよ?」
普段、ショウ以外にはそこまでお喋りでない桔梗が珍しく饒舌だ。…嫌な感じで。
「俺にとってかなり迷惑極まりない困った話があるんだけどさ。
相当自分に自信がある勘違いお馬鹿さん達が、向こうから勝手に寄って来るんだよね。
あれやこれと趣向を凝らしたり貢ぎ物をしてきたり必死になって俺を口説いてくるから、あしらうのが面倒くさいよね。もう、いい加減にしろってウンザリもいい所だよ。」
なんて、さりげなくとんでもエピソードを話してきた。
口振りからして、ウンザリする程の人数をあしらってもあしらってもしつこく口説かれている様だ。
だが、桔梗が“相当自分に自信があるって勘違いしてるお馬鹿さん達”と表現しているが、その人達の殆どがとんでもないハイレベル、ハイスペックな方々なのだろう。
だが、桔梗を口説こうとしている恐れ知らずだと思う。
何様俺様桔梗様なので、そんなレベルでは眼中にも入らないどころかゴミカスか汚物にでも思えてるのだろう。
きっと、世界…どの宇宙や世界線を見渡しても、桔梗に並ぶ様な人物なんて存在しないであろう。いたら、奇跡としか思えない。
そんな桔梗だから、容姿やスペックについて辛辣な事を言っても許されのかもしれない。
許されるというより、いくらムカついても何も言い返せなくなるってのが適切かもしれない。
「…まあ、だけどさ。蓮の気持ちも分からなくはないよ?
だって、ザックリ言ってしまえば、蓮が美人以外受け付けないのと俺がショウ以外受け付けないのと似た感覚なんだろうかな?って、思うから。
そう考えたら、蓮の考え方も一理あると思う。それに、だいたいの人は蓮と似た感覚を持っていると思うよ?」
なんて、蓮の考え方も肯定しているが何故だろう?何か、引っかかる気がするのは。
「ただ、人間は“道徳”“理性”や“思いやり”といった倫理観を持ち合わせてるからセーブができてるし、それに反する人道から外れた事をすれば“悪”とみなされるだけの話だからね。」
…あれ?
蓮を肯定してる割に、なんだか蓮を馬鹿にした様な言い方になってきている。
「そんな中で、自分の理性を最小限に己の本能に忠実に生きるお前は、ある意味凄いって思うよ。
俺には、とてもじゃないけど真似できないな。生きにくい世の中は嫌だし、罪悪感に苛まれながらも、多くの人達から敵意を向けられ恨みやつらみを持たれたくないからね。…怖い、怖い。」
…褒めてるのか汚しているのか分からない言い方ではあるが、人道から外れた生き方はさぞ敵も多く苦労も絶えないだろう。
そんな中、本能に身を任せ生きている蓮はある意味凄いねと、遠回しに蓮を大バッシングしている。
桔梗にとって、蓮の考え方はとても抵抗のあるものらしく蓮に腹が立って仕方ない様だ。
遠回しに散々に言われた蓮は、カッチィ〜ンときて
「…久遠(桔梗)は随分、優良な優等生の良い子ちゃんなんだね。だけど、結局の話。
みんな、見た目だよ。見た目が全てだと思うよ?見た目の良し悪しだけで優遇もされれば冷遇もされる。世の中、そんなものだよね?
甘ちゃんでお綺麗な考え方だけじゃ、世の中を渡っていくには難しいんじゃない?」
と、言い返した。
「確かに俺が言ってる事は理想論であって、悲しい事に現実は違うよね。
だけど、夢を持って少しでも理想に近づけようと努力をしてる人ほど美しいものはないと思うけどね。
みんな、個々様々な考え方や理想があるから何とも言えない所もあるけど、単純に蓮の考え方や理想が俺は苦手だって話だよ。」
…あ、遂に言っちゃったなと結達は思った。
つまり、単純に桔梗の倫理観や価値観に反する蓮が大嫌いだと言ったのだ。
だけど、残念ながらこのメンバーは桔梗の考え方寄りの集まりな為、蓮の考え方を理解できる者は居なかったし不快感しか感じないのも事実だ。
「残念な事に、俺は生まれつき容姿や能力に恵まれたから、モテない人達の気持ちや低脳な人達の気持ちまではしっかり理解できる訳がないよ。
もし、君達みたいな残念な人達みたいな容姿や能力になれたなら、少しくらいは気持ちを察する事くらいできるかな?
…ま、そんな事できる訳ないんだからさ。いい加減、俺に僻みややっかみなんて止めて---」
と、結やショウ、陽毬を蔑む様に見渡しながら馬鹿にした笑みを浮かべ話す蓮に
「あるよ。」
なんて、蓮の話の途中で桔梗が割って入ってきた。
みんな、蓮のあまりの言い様にコイツどうしてやろうか!と、はらわたが煮えくりかえっていた時であった。
「そんな傲慢で高飛車な君にピッタリのアイテムがあるんだけど。使ってみない?」
と、言う桔梗にみんな大注目。何事かと、桔梗を見ていると桔梗は手のひらを見せるといつの間に手に持っていたのか、なんの前触れもなくシルバーのアンクレットを出した。
アンクレットは、細かく古代文字やら魔石がふんだんに使われていて相当高価な物だと分かる。なにせ、魔具自体がかなりの値段かつ特殊な審査か、特殊な会員証でも持ってなければ買う事すら許されない超貴重品である。
何故、そんな高価な物を一般市民だという久遠(桔梗)が持っているのかは分からない…と、言うより偽物の可能性の方が大いにある。
いや、偽物に違いない。
こうやって蓮を脅して揶揄っているだけなのだろうと蓮は思っていた。
「この魔具は、俺が使ってるこの簪(かんざし)と似た効果がある魔具なんだけど。
あ、大丈夫だよ。俺のは“特別製”だけど、君にあげるその魔具は本当に“微弱な効果”しかないオモチャみたいなものだから安心して使って大丈夫だよ。」
と、あくまで桔梗の使用している魔具はとてつもなく効果絶大なのに対し、蓮に渡そうとしている魔具はそれに比べたら笑っちゃうくらい大した事ないオモチャみたいな物だと強調してる。
からには桔梗の簪(かんざし)と、蓮にあげようとしているアンクレットでは効果の内容は同じでもレベルが違い過ぎるらしい。
そう強調して喋られると、自分と桔梗との格の違いまで間接的に見せつけられてる気がして、まるで馬鹿にされた気分になりムカついて仕方ない蓮だ。
「幼い頃、その魔具(魔道具)を強制的に身につけさせられたんだけど、俺には全然効果なくてね。急遽、俺用の“封じの魔具”を開発してそれを身につけさせられてる。
それでも、俺には効果が薄いって事で仕方なく俺自身が“お気に入り”に魔道と魔術、錬金術の複合術使って、向こうも納得の“封じの魔具”ができたって感じかな?
この簪(かんざし)は、俺にとってとても大切な物だから不快極まりない“効果”も気にならなくなったよ。」
ああ、確か桔梗の簪はショウの指輪とお揃いで作った特注品だったけ。そりゃ、二人の思い出が詰まっているから大切に違いない。
それを、自分の美貌や能力の大部分を封印する魔具にできる桔梗って…できない事なんて無いんじゃないかと思ってしまう。
「だって、そうだろ?何で、わざわざ自分の持ってる美貌や魔力、魔道の術や能力までも大幅に封印しなきゃいけないんだって思うよね?
自分の持って生まれたものを否定された気分がして不快極まりないよ。
だけど、それがショウと一緒にいられる条件ってなら…仕方ないよね。その要求を飲むしかないよね。」
と、いう桔梗の不満を聞き、一同は驚愕に満ちた顔で桔梗を凝視した。
……え?
今のこの状態でも、腰を抜かす程の美貌なのにそれを大幅に封印したって事は……は???
桔梗はどれだけの美貌隠し持ってんの!?なんだか、ある意味恐ろし過ぎて桔梗の本来の姿は見てはいけない気がしていた。
そして、魔力や魔道、能力も封印って……桔梗って、マジで一体何者なんだよ!!?
絶対、人間じゃないよね!!?
なんて、みんな桔梗に対し人間でない“何か”だと疑惑の念を持った。持ったからと言って今までとどう変わるという事はなかろうが。
ただただ、ビックリである。
しかし、その話が本当かどうか疑わしい極まりないが桔梗が言う事だし、それを否定しない風雷の様子を見れば信じがたいがそうなのだろうと思う。
だが、このグループみんなの事をよく知らない蓮だけは、桔梗の事を胡散臭そうに見て疑っていた。
「疑いたくなる気持ちも分かるけど、百聞は一見にしかずだからさ。騙されたと思って、一度身につけてみてもいいんじゃないかな?
デザインだって、別にダサくないと思うしアンクレットだから足首出さなきゃ別に見られる訳でもないんだし。」
と、物は試しと桔梗は貴重な魔具であるはずのアンクレットを飴か何かを渡すかのような軽い感覚でポイッと蓮に軽く投げ渡してきた。
小さく円を描くように、アンクレットは蓮の頭上に落ちてきて慌てて蓮はそれを受け取った。
…受け取ってしまったのである。
そして、桔梗をはじめ周りに促されたが、一人だけ風雷だけは
「軽はずみに身に付けるものではない。悪い事は言わない、止めておけ。」
と、忠告してきたが、何だか上から目線で言われてる気がしてムカついたので風雷の忠告はスルーしておいた。
どうせ、偽物だろと思いつつも周りが早く付けてみろとうるさいので渋々右足首にアンクレットを身につけた。
途端に、アンクレットの魔石が輝き古代文字と共鳴し「カチッ!」と、何故か鍵の掛かった様な音が聞こえた。
一瞬の出来事だったので、夢か幻の様に感じた。
…だが…
周りの視線に、何か只事ではない雰囲気を感じる。
それに、風の属性の魔道の力を持つ蓮だが…
魔力がすっからかんに消えてしまった事を直ぐに感じとり、何だか不味い事になったんじゃないかと今更ながらに思った。
蓮の魔力の事は、周りの奴らは知らないはず。
しかし、何なんだ?その驚愕に満ちた顔でこちらを見てくるのは?
と、不思議に思っていると
「…ま、まさか、ここまでなんて…」
「…いやぁ、ビックリだけど。しっかり、蓮君だって分かるのが凄いな。」
「…いやはや、九条(蓮)さんが超劣化版になると、こんな感じになるんでござるな。いくら、超劣化しようとも九条さんだって分かるのが素晴らしい限りですな。」
と、みんな口々に“超劣化版”とか“それでも蓮君だとしっかり分かる”だの感心したように自分を見ている。
「…みんなの反応が気になるよね?何も知らないままじゃ可哀想だし。自分の顔を見てみる?」
なんて、フジによく分からない事を言われたが、周りの反応が気になるのでよく分からないまま頷いた。
「……あんまり、気を落とさない様にね。」
フジは、自分の持っている鏡を蓮に向けてきた。
…すると…
……………………………は???
蓮は鏡を見て一瞬固まっていたが、すぐさまフジの鏡を奪いジッと自分の顔を隅々まで見た。
…自分だ!
間違いなく自分だが違う!!
例えるなら、結達が言ったように蓮をそのまま劣化させた顔になっている。
自慢の極上の顔は、今は平凡な顔にまで劣化している。思わず、自分の顔に触れた手触りも、前と違い手触りが悪いし…手まで劣化している。
まさかと思い蓮は、慌てたように立ち上がると立ち上がるスピードも遅く思うように自分の体を動かせない事にも驚く。
運動神経まで劣化しているのだ。
そして、やはりというか…蓮の自慢のスタイルも劣化している!その証拠に、制服のズボンは長く上着が短くなっている。だが、身長は変わらず。
思わず、蓮は
「…う、うわぁぁ〜〜〜ッッッ!!?」
と、ショックの声にならない悲鳴を上げ、鈍くなった運動神経の為体幹バランスが悪くなりドタッと尻餅をついてしまった。
転び方までカッコ悪い。
そんな蓮を見ていた一同は
「…凄い能力の“魔具”だな!全部、劣化してるのに、ちゃんと蓮君だって分かるよ。」
と、驚く結の言葉に大きくうなづいていた。
「…本物の魔具かよ!?なんで、こんな特殊なもの持ってるか分からないけど、取ってしまえば…!!」
蓮は焦ったように、慌てて身に付けたアンクレットを外そうと躍起になっていた。…しかし…
「…あ、あれ?」
だが、いくら外そうとしても外れない。
「…クソッ!?どうなってるんだ!!?こうなったら……!!!」
と、力づくでアンクレットを壊そうとするも、自分の指の関節と足首に食い込んだアンクレットのせいでそこを切って血が出て痛い目にあうだけだった。
「……ッ痛!?…はあ?こんな細いのに、なんで引きちぎれないんだよ!!」
と、パニック&怒りまくっている蓮。
陽毬はその光景を見て、脳内で某有名ゲームの呪いにかかった独特な短い音楽が聴こえてくるような錯覚を覚えた。
「…まるで、〇〇クエ〇トの“呪い”の様ですな。」
ボソリと、陽毬が呟くと
「そうだよ。そのアイテムは呪われてるよ。」
なんて、桔梗は何て事なく柔らかな笑みを崩さないまま答えた。
それには、みんなギョッとした顔で桔梗を見る。
「「「…呪われてる!?」」」
思わず、蓮、フジ、結が声を出す。
「うん。呪われてるよ。一度身に付けたらどうやっても外れないよ。」
表情を変えず、そんな事を言う桔梗に蓮は血相をかいて桔梗に力づくと桔梗の両肩に手を置こうとしたが、何か透明な壁の様な物に弾かれて触れる事ができなかった。
仕方がないので、その場で
「…ど、どうすれば、取れるの!?早く、取ってよ!!こんなんじゃ、恥ずかしくて人前を歩けないよ!!」
と、必死になって桔梗にお願いした。
「いいよ。どうせ、大した封じの能力もないオモチャみたいなものだから解くのも簡単だよ。」
そう言ってきたので、蓮はホッと胸を撫で下ろした。
「…よ、良かったぁ!なら、早く解いてくれないか?」
そう、安心しきった表情で桔梗に頼むと
「…え?嫌だけど?」
と、先程とはまるで逆の回答が返ってきた。それに、蓮は驚き
「…は?さっき、解いてくれるって言ってたよね?」
桔梗に抗議すると
「うん、言ったよ。もう、忘れたの?まだ、若いのにボケちゃったのかな?」
なんて、何の表情も変えず桔梗は言ってきた。
その返答に、みんな???である。
蓮は自分をおちょくってるとしか思えない桔梗の態度に怒りが込み上げ
「いい加減にしろよっ!呪いを解くって言ったり解かないって言ったり!!どっちなんだよ!
…本当は、この呪い解けないんじゃないの?」
と、怒りのままに桔梗を怒鳴りつけた。
すると、ヤレヤレといった感じで
「解かないとは言ってないよ。
…ただ、俺は腹が立ってるんだよね。俺の大事な人を貶す発言をしたお前にさ。
だから、俺の気が済むまでその呪いは解かないよ。」
「……え?」
「俺の気が済んだら解いてあげるから安心しなよ。いずれは、呪いが解けるんだからさ。
…あ。それと、そんな絶望的な顔しなくても、大丈夫だよ。“その呪い以上の力を持った聖なる力”を扱える“光”か“聖”の魔道を扱える人に頼めば簡単に外れるよ?」
なんて、なんて事ない事の様に言ってるが、つまり桔梗は光、聖の魔道のいずれかを扱えるが気が済むまで使う気がない。
だけど桔梗の少しばかりの優しさ(?)で、別に桔梗でなくても光か聖の魔道を使える者に頼めばその呪いは解けるというヒントはくれた。
桔梗にムカついた蓮は、桔梗以外に魔道が使えそうな風雷を一瞬だけ見たが…二人は大のつく親友らしいので、そんな奴に頼むのは自分のプライドが許さなかった。
それに、魔道自体使えるのも珍しいってのに、魔道の中でも光や聖なんて属性を持って生まれる人はとても希少な存在だ。
見た目だけで判断するのは良くないが、風雷に光や聖の属性があるとはとても思えない。
だから、自分に好意を持っている魔力持ちの女性達に頼る事にした。そして、さっそく、メールをしたが…魔道使いこそいたが、光、聖といった属性持ちはいなかった。
ガックリと項垂れる蓮に
「せいぜい、平々凡々の人達の気持ちを味わいなよ。…って、残念ながら今のお前の容姿は、中の下って感じだけどね。」
と、桔梗は蓮に一声かけて一人でトイレに行ってしまった。
そう、いつもどんな時でもショウからべったり離れない桔梗はトイレの時だけは、ショウから離れる。
その理由は単純で、自分がトイレしてる時にショウを待たせるのは嫌だし恥ずかしいという理由らしい。
ショウのトイレの時は着いて行くくせに。
だが、まあ。可愛らしい理由だとも思う。
しかし、この中で風雷だけは知ってる。プライベートだとショウのトイレの世話までしてるという事を。だから、風雷は桔梗の事をとんだ変態(ショウ限定)だと思っている。
そんな時だった。
いきなりショウはションボリと肩を落とした。
その異変にいち早く気が付いた風雷は
「……大丈夫だ。すぐ、戻ってくる。あまり、気を落とすな。」
と、よく分からない慰めの言葉をショウに言っていた。
そこで、みんな桔梗の帰りが遅い事に気が付いた。
同時に、この学校の制服を着た見知らぬ二人がいつの間にかショウの両隣に座っていた。
…だ、誰だよ!?お前らぁぁーーーーーーッッッ!!!??
いきなり現れ、しれっとした顔で親しそうにショウに話しかけている二人に、みんな声にならない声で突っ込んでいた。
その前に、7月に入る前に期末テストなるものがありテスト勉強の為、みんなは結の家に集まり勉強(?)をしていた。
何故、結の家が集まり場所になったかという理由は簡単なようで複雑。結以外の家は何かかしら問題を抱えており、やすやすと友人を招き入れる環境でなかったからだ。
ショウと桔梗の家の場合。
ショウは家に招き入れる気満々だったが、桔梗が遠回しに“自分達の愛の巣に他人を入れるなんて断固拒否。穢れる、汚れる。”と、素敵な笑顔でお断りされた。
風雷の場合。
ある理由で庶民のボロアパートに住んでおり、部屋がとても狭くスペースがない事と壁がかなり薄く音漏れが酷く隣人に迷惑が掛かる為、無理。
陽毬の場合。
陽毬の家は下位なので、両親や兄妹達が地位やお金目的に何かしでかす恐れがある。
まして、上流階級でない一般のショウと桔梗は冷遇され気分を悪くするだろうと安易に予測され、とてもじゃないが家に招き入れる事なんてできないと自分の家族の事を考えドンヨリと心を沈ませながら断った。
フジの場合。
フジを溺愛する祖父母、両親が、友人達を品定めして門前払いする可能性があり、失礼極まりない事をしてしまいそうだと申し訳無さそうに丁寧にお断りしてきた。
その事で、陽毬のダイエット計画でフジの家に陽毬を招待した時、フジの妹が陽毬にあまりに酷いパワハラ、モラハラをして、陽毬を酷く傷つけた経緯があっての事だ。
まさか、こんな事になるなんてとフジは何度も何度も陽毬に謝ったが、これはフジのせいなんかではない。
むしろ、フジは陽毬に好意で家に呼び陽毬のダイエットを手伝ってくれているのだ。陽毬にとって、感謝しかないというのに。
…だが、同じ血が流れていてもフジの妹は絶対に許せないし大嫌いになったが。
そうなれば、寛大な心と優しさを持ち合わせている両親や兄弟のいる結の家一択である。
結も友達を家に招き入れるのは別に嫌じゃないし、むしろ楽しくなりそうだからいつでも遊びに来てほしいくらいの気持ちだ。
そうして始まった勉強会。
最初こそ、くだらない話などでグダグダ喋りようやく勉強しだして1時間弱。既に集中力切れの結と陽毬は、ソワソワしだしキョロキョロし始めていた。
みんな、よく頑張れるなぁ〜。とか、他人事のように暇を持て余し始めていた。
ショウも頑張りの限界がきて集中力が欠落し始めた頃合いを見て、桔梗が休憩の声を掛けた。
そして、みんな待望の休憩時間という名のお喋りタイム。その時、浮かない顔をしたフジが
「…みんなに相談したい事があるんだけど大丈夫?」
と、みんなの顔を窺った。
「もちろんだよ!!いくらでも、相談してくれっ!」
「おお!どんな悩み事ですかな?」
なんて、もう勉強なんてしたくない、教科書、ノートすら見たくもない結と陽毬は、ここぞとばかりに身を乗り出してフジを見てきた。
これで、今日は当分…いや!丸一日、勉強はしなくていいはずだという思惑の為に、フジの相談に乗る事をダシに使い勉強から逃げ出そうとしてるのは、桔梗、風雷、フジにはお見通しであった。桔梗と風雷には呆れられ、フジに苦笑いされてしまったが。
「…あ、その……、えぇ〜っと…」
と、何故か歯切れの悪いフジの様子に、みんな首を傾げついに短期な桔梗が
「……ウダツの事で何かあったのかな?」
なんて、内心イライラしながらも優しい笑みを絶やさずフジの悩み事に目処を立て、フジが相談しやすい流れを作った。
それに、ドキッとしたフジは最初こそどうして分かったの!?と、驚きの表情を浮かべ、直ぐに真っ赤になって少し困った表情をして
「…こんな事、凄く言いづらいんだけど。……私、もの凄く性欲が強いみたいなのっ!」
と、羞恥で自分の顔を覆い俯いてしまった。
悩み相談が、まさかのまさかなお話で異性とまるで縁のない様な結と陽毬には、とても刺激の強い内容で……とても、興味が湧いた。
「…ど、どどういう事ですかな?ウダツさんとお付き合いされて、およそ一ヵ月程経ちますか?まさか、二人がそんな大人の階段を登っていたなんて驚きですぞ!!」
陽毬は、とてもエグイ18禁から溺愛系のエロエロ同人誌をよく好み読み漁っているので、とってもとっても興味があり身を乗り出して聞いてきた。興奮し過ぎて、鼻息が荒い。
そんな様子の陽毬に、みんな若干引き気味だったが、ぶっちゃけ結もかなり興味あるので周りに合わせ平静を装いつつも内心では興奮しまくりである。
「…ち、違うわ!ウダツさんとは、そんな事……キスだってちゃんとした事がないの。いい所で、せいぜい手を繋ぐとか寄り添うくらいで…」
と、フジは大慌てで、真っ赤になりながら大人の階段を登った事を否定してきた。
だが、なのに何故フジは自分の事を性欲が強いだなんて言うのだろう?それが不思議で首を傾げる結と陽毬。
しかし、ショウや桔梗、風雷はフジの気持ちを察する事ができているらしく何とも言えない表情で分かる分かると頷いていた。
「…え?ヤッてもないのに性欲が強いって、どうして分かるんだい?」
と、大きく首を傾げながらダイレクトな質問をしてくる結に、困ったフジは苦笑いしつつも
「……付き合って思ったのがウダツさんは、性的な事に淡白な人だって事。特別な人と側にいて何て事ない日常を送るだけで満足みたいな感じがあるの。
もちろん、思った以上に紳士で優しくて…それでいて何をするでもなくても、両思いで一緒に居るだけで温かい気持ちになってとても心地良いの。
きっと、ウダツさんも私と同じ気持ちで居てくれてるって思うの。」
ウダツと一緒に居てとても幸せではあるが、フジとウダツの気持ちに何らかのズレが生じていて、それがフジを悩ませる原因だという。
その原因は、おそらくフジが冒頭に言っていた事に繋がるのだという事は何となく分かりフジの話の続きを待った。
すると
「…だけど…だけどよっ!!?」
と、さっきまでの少し困ったように柔らかく笑って話をしていたフジから一変!
机の上に両手私乗せると、ものすごい勢いで身を乗り出しみんなビックリして肩がビクッとしてしまった。
「…わ、私っ!!ウダツさんが好きで好きでたまらなくて気持ちが抑えられなくって!
食事をしたりお喋りするウダツさんを見て、ウダツさんのあの薄くて柔らかそうな愛らしい唇に…ウダツさんのセクシーな手で触れられたら、どんな感じなんだろう?
ウダツの側に居るだけで、ウダツさんの体に触れたい…私もいっぱい触れられて…全身隈なく愛したいし愛されたいって思うようになってしまって。」
相当勇気のいる内容らしく、最初は勢いで話していたが
段々とウダツの事を思い浮かべてか、うっとりした表情に変わり色っぽい雰囲気になり
結とショウ、陽毬は同性かつノーマルでありながらもフジの色っぽさにドキドキしてしまった。
「知らず知らずのうちに、ウダツさんの何気ない仕草でさえ…いえ、何もしなくても、ウダツさんの唇や手…体…全てをずっと見ていて。
…気がつけばエッチな妄想をしちゃうの。」
と、羞恥の為、消え入りそうな声でフジは顔を真っ赤にしながら話してきた。
本当はこんな話したくないだろうに。
おそらくフジにとって相談せずにいられないほどの大きな悩みなのだろう。
「ウダツさんの側に居るたびに、ウダツさんの事を考える度にエッチな事を想像して。
ムラムラが止まらないどころか、日に日にその気持ちが大きくなってきて……悶々とする日々を送ってるの。
…だけど、ウダツさんにはその気は無さそうだし…」
そこまで聞いて、結と陽毬は思った。
自分は恋人も居ないし、今後も絶望的だろうと思っている自分でさえエッチな事はいっぱい考えるし妄想だってする。
いつか、素敵な王子様が私を迎えに来る妄想だって暇さえあれば毎日のようにする。
だから、大好きな人と恋人になれたフジが、恋人と身も心も繋がりたいって気持ちになるのはごく当たり前の事なんじゃなかろうか?と。
だって、人間なんだもん。
「普段雰囲気も柔らかくて優しいのに、いざって時には男前でカッコいい無色透明なウダツさん。
そんな世界一素敵で完璧なウダツさんに、私が凄くエッチでがっつくような女だって思われたくない。それに、こんなに性欲が強くてハレンチでふしだらな事ばかり考えてるって知られたら、嫌われそうで怖くて相談もできないの。」
ここで、みんな思った。
フジの中で、“ウダツが神格化してる”と。
フジはウダツに対し、邪な気持ちで触れただけでウダツが穢れてしまうのではないかという恐れと責任を感じているように見える。
「…何より、無垢で純白なウダツと一緒にいると自分はなんて穢れた心を持ってるの?こんな煩悩だらけの私が、こんな素晴らしい男性の隣に居ていいの?って、疑心暗鬼に陥ってしまう事も多いの。
だから、ウダツさんに相応しいレディーになろうと努力してるつもりなんだけど、いくら努力を重ねてもウダツさんを性的な目で見る事はやめられないし…一秒毎ごとに悪化してる気がするわ。」
と、言ったところで
「……ブハッ!!?う、嘘だろ?何だよ、その妄想!あり得ないし、ヤバすぎでしょ。」
なんて、扉の向こうから思わず吹き出し笑いが止まらない蓮が、ノックも無しに結の部屋の扉を開けて入ってきた。
なんなの!?と、不快な気持ちになりながら図々しく部屋に入って来る蓮を見ると、手には飲み物とお菓子の乗ったトレーを持っていて
「…ああ、これね。颯真さん(ふうま。結の兄)に、これを持って行ってほしい。そして、結に勉強を教えてほしいって頼まれてさ。」
と、説明してきた。
って、事は、コイツもこの勉強会に参加するって事かよ。と、みんな微妙な顔をしていた。
さっき自分の事を笑われたフジはムッとしている。
そんな微妙な雰囲気も気にせず、蓮はちょうどフジと風雷の間ら辺に無理矢理場所を作り入ってきた。
多分、蓮にとって不細工達の側に居るのが嫌なのだろう。だから、とても美しい二人の間に入ったのは明白だ。
考えてみれば、学校で昼休みを一緒に過ごすようになって最初のうちは都合悪そうに結の側にいた蓮だったが、慣れてくると毎回フジと風雷の間を自分の場所としていた。
何故か分からないが、桔梗に苦手意識を持っており桔梗と風雷の間には入ろうとしないが。
そして、先程のフジに対しての失礼な態度も謝る事なく
「一ヶ月も付き合ってんのに、まだヤッてないとかフジ嬢の彼氏って甲斐性なしのビビリ君なんだね。」
と、ウダツを馬鹿にした発言をして、ここに居るみんなの心を苛立たせた。
「そんな腑抜けよりさ。そんなに、性欲持て余してるなら俺と恋人にならない?あ!もちろん、セフレでも大歓迎だよ。俺なら、フジ嬢の期待に添えると思うよ?」
と、蓮はみんなの前で堂々とフジを口説いた。
こんなピリリと冷たい雰囲気の中、よく口説けるもんだと、結と陽毬はいっそ清々しいくらいのクズだと呆れある意味感心している。
学校の昼休みの時も思ったが、蓮の中で美人でない結やショウ、陽毬はアウトオブ眼中というやつで一緒に居ても空気扱いされている。
…コイツ…本当に、ムカつく!と、結、陽毬、自分の命よりもショウが大切な桔梗はかなり腹を立てている。
今まで女性達を口説いてきたテクニックを駆使してフジを口説き、フジの手に触れようとした時
…パシンッ!!
と、フジは自分の手に伸びて来た蓮の手を叩き落とし
「やめてほしいわ!私には、ウダツさんという世界一の彼氏がいるのよ。それに、私はそんな安っぽい女じゃないの。
あなたには、あなたに見合った女性を選ぶべきだわ。今は、人選ミスという他ないわ。」
蓮がつけ入る隙間もないくらいにビシッと言った。それを見て
…おお!
カッコいい!!
と、結、ショウ、陽毬は憧れの眼差しで目を輝かせてフジを見ていた。
「ハハ!確かに人選ミスだね。
そもそもお前とフジは、恋愛観や結婚観、貞操概念に対する考え方からして全然違うんだから、そんな相手を選んだ時点で口説く相手を間違えてるよ。」
と、桔梗は柔らかな笑みを崩さないまま、蓮にダメ出しという指摘をしてきた。
…ムカッ!
な〜んか妙に突っかかってくる桔梗に、蓮は苛立ちながら
「じゃあ、久遠(桔梗)はどうやって自分と考え方が似てる女性を見極め見つけて、その女性に対してどんな素晴らしい口説き方をするのかな?是非とも、ご教授願いたいよ。」
と、口元を引くつかせながら聞いてきた。そんな蓮に、桔梗は少し困った風に笑うと
「残念ながら、口説くのはショウだけだからね。…あ!でも、ショウが喜びそうな事を考えて口説くのは楽しいよ。ショウに口説かれるのは、いつでも何処でも嬉しいけど。
…ああ、だけど。ショウ以外(好きな人以外)に口説かれるのは鳥肌ものだよ?」
普段、ショウ以外にはそこまでお喋りでない桔梗が珍しく饒舌だ。…嫌な感じで。
「俺にとってかなり迷惑極まりない困った話があるんだけどさ。
相当自分に自信がある勘違いお馬鹿さん達が、向こうから勝手に寄って来るんだよね。
あれやこれと趣向を凝らしたり貢ぎ物をしてきたり必死になって俺を口説いてくるから、あしらうのが面倒くさいよね。もう、いい加減にしろってウンザリもいい所だよ。」
なんて、さりげなくとんでもエピソードを話してきた。
口振りからして、ウンザリする程の人数をあしらってもあしらってもしつこく口説かれている様だ。
だが、桔梗が“相当自分に自信があるって勘違いしてるお馬鹿さん達”と表現しているが、その人達の殆どがとんでもないハイレベル、ハイスペックな方々なのだろう。
だが、桔梗を口説こうとしている恐れ知らずだと思う。
何様俺様桔梗様なので、そんなレベルでは眼中にも入らないどころかゴミカスか汚物にでも思えてるのだろう。
きっと、世界…どの宇宙や世界線を見渡しても、桔梗に並ぶ様な人物なんて存在しないであろう。いたら、奇跡としか思えない。
そんな桔梗だから、容姿やスペックについて辛辣な事を言っても許されのかもしれない。
許されるというより、いくらムカついても何も言い返せなくなるってのが適切かもしれない。
「…まあ、だけどさ。蓮の気持ちも分からなくはないよ?
だって、ザックリ言ってしまえば、蓮が美人以外受け付けないのと俺がショウ以外受け付けないのと似た感覚なんだろうかな?って、思うから。
そう考えたら、蓮の考え方も一理あると思う。それに、だいたいの人は蓮と似た感覚を持っていると思うよ?」
なんて、蓮の考え方も肯定しているが何故だろう?何か、引っかかる気がするのは。
「ただ、人間は“道徳”“理性”や“思いやり”といった倫理観を持ち合わせてるからセーブができてるし、それに反する人道から外れた事をすれば“悪”とみなされるだけの話だからね。」
…あれ?
蓮を肯定してる割に、なんだか蓮を馬鹿にした様な言い方になってきている。
「そんな中で、自分の理性を最小限に己の本能に忠実に生きるお前は、ある意味凄いって思うよ。
俺には、とてもじゃないけど真似できないな。生きにくい世の中は嫌だし、罪悪感に苛まれながらも、多くの人達から敵意を向けられ恨みやつらみを持たれたくないからね。…怖い、怖い。」
…褒めてるのか汚しているのか分からない言い方ではあるが、人道から外れた生き方はさぞ敵も多く苦労も絶えないだろう。
そんな中、本能に身を任せ生きている蓮はある意味凄いねと、遠回しに蓮を大バッシングしている。
桔梗にとって、蓮の考え方はとても抵抗のあるものらしく蓮に腹が立って仕方ない様だ。
遠回しに散々に言われた蓮は、カッチィ〜ンときて
「…久遠(桔梗)は随分、優良な優等生の良い子ちゃんなんだね。だけど、結局の話。
みんな、見た目だよ。見た目が全てだと思うよ?見た目の良し悪しだけで優遇もされれば冷遇もされる。世の中、そんなものだよね?
甘ちゃんでお綺麗な考え方だけじゃ、世の中を渡っていくには難しいんじゃない?」
と、言い返した。
「確かに俺が言ってる事は理想論であって、悲しい事に現実は違うよね。
だけど、夢を持って少しでも理想に近づけようと努力をしてる人ほど美しいものはないと思うけどね。
みんな、個々様々な考え方や理想があるから何とも言えない所もあるけど、単純に蓮の考え方や理想が俺は苦手だって話だよ。」
…あ、遂に言っちゃったなと結達は思った。
つまり、単純に桔梗の倫理観や価値観に反する蓮が大嫌いだと言ったのだ。
だけど、残念ながらこのメンバーは桔梗の考え方寄りの集まりな為、蓮の考え方を理解できる者は居なかったし不快感しか感じないのも事実だ。
「残念な事に、俺は生まれつき容姿や能力に恵まれたから、モテない人達の気持ちや低脳な人達の気持ちまではしっかり理解できる訳がないよ。
もし、君達みたいな残念な人達みたいな容姿や能力になれたなら、少しくらいは気持ちを察する事くらいできるかな?
…ま、そんな事できる訳ないんだからさ。いい加減、俺に僻みややっかみなんて止めて---」
と、結やショウ、陽毬を蔑む様に見渡しながら馬鹿にした笑みを浮かべ話す蓮に
「あるよ。」
なんて、蓮の話の途中で桔梗が割って入ってきた。
みんな、蓮のあまりの言い様にコイツどうしてやろうか!と、はらわたが煮えくりかえっていた時であった。
「そんな傲慢で高飛車な君にピッタリのアイテムがあるんだけど。使ってみない?」
と、言う桔梗にみんな大注目。何事かと、桔梗を見ていると桔梗は手のひらを見せるといつの間に手に持っていたのか、なんの前触れもなくシルバーのアンクレットを出した。
アンクレットは、細かく古代文字やら魔石がふんだんに使われていて相当高価な物だと分かる。なにせ、魔具自体がかなりの値段かつ特殊な審査か、特殊な会員証でも持ってなければ買う事すら許されない超貴重品である。
何故、そんな高価な物を一般市民だという久遠(桔梗)が持っているのかは分からない…と、言うより偽物の可能性の方が大いにある。
いや、偽物に違いない。
こうやって蓮を脅して揶揄っているだけなのだろうと蓮は思っていた。
「この魔具は、俺が使ってるこの簪(かんざし)と似た効果がある魔具なんだけど。
あ、大丈夫だよ。俺のは“特別製”だけど、君にあげるその魔具は本当に“微弱な効果”しかないオモチャみたいなものだから安心して使って大丈夫だよ。」
と、あくまで桔梗の使用している魔具はとてつもなく効果絶大なのに対し、蓮に渡そうとしている魔具はそれに比べたら笑っちゃうくらい大した事ないオモチャみたいな物だと強調してる。
からには桔梗の簪(かんざし)と、蓮にあげようとしているアンクレットでは効果の内容は同じでもレベルが違い過ぎるらしい。
そう強調して喋られると、自分と桔梗との格の違いまで間接的に見せつけられてる気がして、まるで馬鹿にされた気分になりムカついて仕方ない蓮だ。
「幼い頃、その魔具(魔道具)を強制的に身につけさせられたんだけど、俺には全然効果なくてね。急遽、俺用の“封じの魔具”を開発してそれを身につけさせられてる。
それでも、俺には効果が薄いって事で仕方なく俺自身が“お気に入り”に魔道と魔術、錬金術の複合術使って、向こうも納得の“封じの魔具”ができたって感じかな?
この簪(かんざし)は、俺にとってとても大切な物だから不快極まりない“効果”も気にならなくなったよ。」
ああ、確か桔梗の簪はショウの指輪とお揃いで作った特注品だったけ。そりゃ、二人の思い出が詰まっているから大切に違いない。
それを、自分の美貌や能力の大部分を封印する魔具にできる桔梗って…できない事なんて無いんじゃないかと思ってしまう。
「だって、そうだろ?何で、わざわざ自分の持ってる美貌や魔力、魔道の術や能力までも大幅に封印しなきゃいけないんだって思うよね?
自分の持って生まれたものを否定された気分がして不快極まりないよ。
だけど、それがショウと一緒にいられる条件ってなら…仕方ないよね。その要求を飲むしかないよね。」
と、いう桔梗の不満を聞き、一同は驚愕に満ちた顔で桔梗を凝視した。
……え?
今のこの状態でも、腰を抜かす程の美貌なのにそれを大幅に封印したって事は……は???
桔梗はどれだけの美貌隠し持ってんの!?なんだか、ある意味恐ろし過ぎて桔梗の本来の姿は見てはいけない気がしていた。
そして、魔力や魔道、能力も封印って……桔梗って、マジで一体何者なんだよ!!?
絶対、人間じゃないよね!!?
なんて、みんな桔梗に対し人間でない“何か”だと疑惑の念を持った。持ったからと言って今までとどう変わるという事はなかろうが。
ただただ、ビックリである。
しかし、その話が本当かどうか疑わしい極まりないが桔梗が言う事だし、それを否定しない風雷の様子を見れば信じがたいがそうなのだろうと思う。
だが、このグループみんなの事をよく知らない蓮だけは、桔梗の事を胡散臭そうに見て疑っていた。
「疑いたくなる気持ちも分かるけど、百聞は一見にしかずだからさ。騙されたと思って、一度身につけてみてもいいんじゃないかな?
デザインだって、別にダサくないと思うしアンクレットだから足首出さなきゃ別に見られる訳でもないんだし。」
と、物は試しと桔梗は貴重な魔具であるはずのアンクレットを飴か何かを渡すかのような軽い感覚でポイッと蓮に軽く投げ渡してきた。
小さく円を描くように、アンクレットは蓮の頭上に落ちてきて慌てて蓮はそれを受け取った。
…受け取ってしまったのである。
そして、桔梗をはじめ周りに促されたが、一人だけ風雷だけは
「軽はずみに身に付けるものではない。悪い事は言わない、止めておけ。」
と、忠告してきたが、何だか上から目線で言われてる気がしてムカついたので風雷の忠告はスルーしておいた。
どうせ、偽物だろと思いつつも周りが早く付けてみろとうるさいので渋々右足首にアンクレットを身につけた。
途端に、アンクレットの魔石が輝き古代文字と共鳴し「カチッ!」と、何故か鍵の掛かった様な音が聞こえた。
一瞬の出来事だったので、夢か幻の様に感じた。
…だが…
周りの視線に、何か只事ではない雰囲気を感じる。
それに、風の属性の魔道の力を持つ蓮だが…
魔力がすっからかんに消えてしまった事を直ぐに感じとり、何だか不味い事になったんじゃないかと今更ながらに思った。
蓮の魔力の事は、周りの奴らは知らないはず。
しかし、何なんだ?その驚愕に満ちた顔でこちらを見てくるのは?
と、不思議に思っていると
「…ま、まさか、ここまでなんて…」
「…いやぁ、ビックリだけど。しっかり、蓮君だって分かるのが凄いな。」
「…いやはや、九条(蓮)さんが超劣化版になると、こんな感じになるんでござるな。いくら、超劣化しようとも九条さんだって分かるのが素晴らしい限りですな。」
と、みんな口々に“超劣化版”とか“それでも蓮君だとしっかり分かる”だの感心したように自分を見ている。
「…みんなの反応が気になるよね?何も知らないままじゃ可哀想だし。自分の顔を見てみる?」
なんて、フジによく分からない事を言われたが、周りの反応が気になるのでよく分からないまま頷いた。
「……あんまり、気を落とさない様にね。」
フジは、自分の持っている鏡を蓮に向けてきた。
…すると…
……………………………は???
蓮は鏡を見て一瞬固まっていたが、すぐさまフジの鏡を奪いジッと自分の顔を隅々まで見た。
…自分だ!
間違いなく自分だが違う!!
例えるなら、結達が言ったように蓮をそのまま劣化させた顔になっている。
自慢の極上の顔は、今は平凡な顔にまで劣化している。思わず、自分の顔に触れた手触りも、前と違い手触りが悪いし…手まで劣化している。
まさかと思い蓮は、慌てたように立ち上がると立ち上がるスピードも遅く思うように自分の体を動かせない事にも驚く。
運動神経まで劣化しているのだ。
そして、やはりというか…蓮の自慢のスタイルも劣化している!その証拠に、制服のズボンは長く上着が短くなっている。だが、身長は変わらず。
思わず、蓮は
「…う、うわぁぁ〜〜〜ッッッ!!?」
と、ショックの声にならない悲鳴を上げ、鈍くなった運動神経の為体幹バランスが悪くなりドタッと尻餅をついてしまった。
転び方までカッコ悪い。
そんな蓮を見ていた一同は
「…凄い能力の“魔具”だな!全部、劣化してるのに、ちゃんと蓮君だって分かるよ。」
と、驚く結の言葉に大きくうなづいていた。
「…本物の魔具かよ!?なんで、こんな特殊なもの持ってるか分からないけど、取ってしまえば…!!」
蓮は焦ったように、慌てて身に付けたアンクレットを外そうと躍起になっていた。…しかし…
「…あ、あれ?」
だが、いくら外そうとしても外れない。
「…クソッ!?どうなってるんだ!!?こうなったら……!!!」
と、力づくでアンクレットを壊そうとするも、自分の指の関節と足首に食い込んだアンクレットのせいでそこを切って血が出て痛い目にあうだけだった。
「……ッ痛!?…はあ?こんな細いのに、なんで引きちぎれないんだよ!!」
と、パニック&怒りまくっている蓮。
陽毬はその光景を見て、脳内で某有名ゲームの呪いにかかった独特な短い音楽が聴こえてくるような錯覚を覚えた。
「…まるで、〇〇クエ〇トの“呪い”の様ですな。」
ボソリと、陽毬が呟くと
「そうだよ。そのアイテムは呪われてるよ。」
なんて、桔梗は何て事なく柔らかな笑みを崩さないまま答えた。
それには、みんなギョッとした顔で桔梗を見る。
「「「…呪われてる!?」」」
思わず、蓮、フジ、結が声を出す。
「うん。呪われてるよ。一度身に付けたらどうやっても外れないよ。」
表情を変えず、そんな事を言う桔梗に蓮は血相をかいて桔梗に力づくと桔梗の両肩に手を置こうとしたが、何か透明な壁の様な物に弾かれて触れる事ができなかった。
仕方がないので、その場で
「…ど、どうすれば、取れるの!?早く、取ってよ!!こんなんじゃ、恥ずかしくて人前を歩けないよ!!」
と、必死になって桔梗にお願いした。
「いいよ。どうせ、大した封じの能力もないオモチャみたいなものだから解くのも簡単だよ。」
そう言ってきたので、蓮はホッと胸を撫で下ろした。
「…よ、良かったぁ!なら、早く解いてくれないか?」
そう、安心しきった表情で桔梗に頼むと
「…え?嫌だけど?」
と、先程とはまるで逆の回答が返ってきた。それに、蓮は驚き
「…は?さっき、解いてくれるって言ってたよね?」
桔梗に抗議すると
「うん、言ったよ。もう、忘れたの?まだ、若いのにボケちゃったのかな?」
なんて、何の表情も変えず桔梗は言ってきた。
その返答に、みんな???である。
蓮は自分をおちょくってるとしか思えない桔梗の態度に怒りが込み上げ
「いい加減にしろよっ!呪いを解くって言ったり解かないって言ったり!!どっちなんだよ!
…本当は、この呪い解けないんじゃないの?」
と、怒りのままに桔梗を怒鳴りつけた。
すると、ヤレヤレといった感じで
「解かないとは言ってないよ。
…ただ、俺は腹が立ってるんだよね。俺の大事な人を貶す発言をしたお前にさ。
だから、俺の気が済むまでその呪いは解かないよ。」
「……え?」
「俺の気が済んだら解いてあげるから安心しなよ。いずれは、呪いが解けるんだからさ。
…あ。それと、そんな絶望的な顔しなくても、大丈夫だよ。“その呪い以上の力を持った聖なる力”を扱える“光”か“聖”の魔道を扱える人に頼めば簡単に外れるよ?」
なんて、なんて事ない事の様に言ってるが、つまり桔梗は光、聖の魔道のいずれかを扱えるが気が済むまで使う気がない。
だけど桔梗の少しばかりの優しさ(?)で、別に桔梗でなくても光か聖の魔道を使える者に頼めばその呪いは解けるというヒントはくれた。
桔梗にムカついた蓮は、桔梗以外に魔道が使えそうな風雷を一瞬だけ見たが…二人は大のつく親友らしいので、そんな奴に頼むのは自分のプライドが許さなかった。
それに、魔道自体使えるのも珍しいってのに、魔道の中でも光や聖なんて属性を持って生まれる人はとても希少な存在だ。
見た目だけで判断するのは良くないが、風雷に光や聖の属性があるとはとても思えない。
だから、自分に好意を持っている魔力持ちの女性達に頼る事にした。そして、さっそく、メールをしたが…魔道使いこそいたが、光、聖といった属性持ちはいなかった。
ガックリと項垂れる蓮に
「せいぜい、平々凡々の人達の気持ちを味わいなよ。…って、残念ながら今のお前の容姿は、中の下って感じだけどね。」
と、桔梗は蓮に一声かけて一人でトイレに行ってしまった。
そう、いつもどんな時でもショウからべったり離れない桔梗はトイレの時だけは、ショウから離れる。
その理由は単純で、自分がトイレしてる時にショウを待たせるのは嫌だし恥ずかしいという理由らしい。
ショウのトイレの時は着いて行くくせに。
だが、まあ。可愛らしい理由だとも思う。
しかし、この中で風雷だけは知ってる。プライベートだとショウのトイレの世話までしてるという事を。だから、風雷は桔梗の事をとんだ変態(ショウ限定)だと思っている。
そんな時だった。
いきなりショウはションボリと肩を落とした。
その異変にいち早く気が付いた風雷は
「……大丈夫だ。すぐ、戻ってくる。あまり、気を落とすな。」
と、よく分からない慰めの言葉をショウに言っていた。
そこで、みんな桔梗の帰りが遅い事に気が付いた。
同時に、この学校の制服を着た見知らぬ二人がいつの間にかショウの両隣に座っていた。
…だ、誰だよ!?お前らぁぁーーーーーーッッッ!!!??
いきなり現れ、しれっとした顔で親しそうにショウに話しかけている二人に、みんな声にならない声で突っ込んでいた。