美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「はじめまして。桔梗様不在の時に、ショウ様のお世話をさせて頂きます【ロベ・レニー】と、申します。
桔梗様から、皆様がショウ様の大切なご友人だと伺っておりますので皆様だけには“幻術”を掛けずにいます。」
と、スラリモデル体型の原色の赤に近いだろうか?見たこともない様な赤い肌をしている美女は礼儀正しく、みんなに挨拶をしてきた。
髪は炎の様な黄色オレンジのグラデーション色をしていて、あちこちに飛び跳ねてる癖毛もあいまって炎を思わせる。爪の色はネイルだろうか?真っ黒で獣のように鋭く尖っている。
そして、目の色も独特で白目の部分が黒に近い赤茶、黒目部分はオレンジ色で瞳孔部分は丸く形取っているが、よくよく見るとダイヤ型の形が6個くっ付いている。例えるなら、ワンホールケーキを6等分に切ったような切れ目がある。
立ち振る舞いも凛としていて礼儀正しい。
凛々しく美しいという表現の似合いそうな美女である。
ショウと腕を絡めて恋人繋ぎしてピットリとショウにくっ付いているのが気になるが…。
「…チッ!あのクズ、二度と返って来んな!…ぺっ!」
と、何処かに向かって悪態を吐く美少年は、陶器のように白い肌にサラサラの銀髪。
目や眉、まつ毛までも銀色で全体的に真っ白…本当に真っ白なのだ。
日の当たり具合でキラキラと虹色に輝いて見える不思議な髪と目だ。
見た目からして、淡々としていて冷静かつ冷たい様な印象を受け神聖的な美しさを持っているが…。
中身は、野性味溢れ粗暴かつ乱暴そうである。外見と中身が伴っていない。
「あんまり、そう言わないであげてくれませんか?【ヴォイド】。“あんな人”より、ショウ様の心を癒すのが最優先でしょう?」
まるで最上級の灼熱を思わせる様な超美女、ロベ・レニーは冷静にヴォイドという超絶美男子を宥めた。
「…まあ、こんな機会でもない限り俺のショウ様に近づく事すら許されねーからな。
…ムカつくッ!絶対いつか、アイツぶっ殺してやる!!」
と、お人形さんの様な綺麗な顔を大きく歪めながら、ショウの腰に手を回し甘える様にショウの肩に自分の頭を乗せた。
ヴォイドは、2Mくらいはありそうな長身でその体勢はさぞキツかろうと思うのだが、本人が幸せを噛み締めるようにショウの首筋に顔をスリスリしているので…いい事にしよう。
しかし、見事な筋肉だと思う。かなりの筋肉をつけているが、美しさを損なわずそれがまた彼の美貌を引き立てるのだ。
そして、何よりロベ・レニーとヴォイドという二人は、ただそこにいるだけで圧倒的な存在感で全てにおいて別格だと一般的な感覚を持った陽毬でさえそう感じ萎縮してしまっている。
三人の様子を見ていて、ショウとロベ、ヴォイドの関係は、友達や知り合いとも全然違う
只ならぬ関係にしか思えず、とても気になった結は
「あの…二人はショウとはどういった関係なんですカ?」
慣れない丁寧語で、二人に聞くと
「「婚約者だ。」です。」
なんて、驚きの回答が返ってきた。
…………え?
と、その場にいるみんなは固まってしまった。そして、何故かヴォイドはドン引きしたようにロベを見ていた。
ショウの婚約者は桔梗じゃないの?
どうなってるの?と、困惑している。
みんなが困惑しているのをよそに、ヴォイドは無表情な顔が嘘の様に蕩ける様な表情をショウに向け、ショウの腰をクイっと持ち上げると人の目も憚らずショウの口にキスしようとしていた。
それを見て
「……ヴォイドッ!!!?馬鹿な真似はよしなさい!!」
と、何故か慌ててヴォイドを止めようとするロベを無視して、強行突破しようとしていた。
…だが、ヴォイドを止めてる割に、ロベは口だけで止める素振りも見せるどころか…楽しそうに目元は下がり口角が上がるのを必死に耐えている様に見える。
必死に口元を隠しているつもりだろうが、「クフクフッ!」と何が待ち遠しいのか楽しみ仕方ないといった興奮した笑いが漏れ出している。
そして、ショウとヴォイドの唇が触れるか触れないか微妙な所でヴォイドの口から上がほぼ粉砕して大小様々な肉片やら骨、血がスプレーの様に勢いよく宙を飛び散った。
その様子に、とんでもない衝撃的な場面を見てあまりのグロテスクさに一同は悲鳴をあげ目を覆ったり、腰を抜かしたりで騒然としたのだが
一瞬ではあったが、動体視力のずば抜けている結と風雷はヴォイドの目が額に3つ、両頬に一つづつ付いていて、腕も10本以上付いているように見えた。
一瞬だけ出て直ぐに消えたので見間違いかもしれない。
そんな中、一人だけその場に相応しくない雰囲気と声を出す美女がいた。
「ひゃーーーっっ!!これ、これっ!最高です。クフクフッ!」
…そう、ロベである。
何故か、ロベは別の意味で興奮し歓喜の声をあげている。興奮のあまり自分を抑えられないのか、たまにおぞましい色や形をした様々な武器の羽が飛び出してくる。
もっと興奮すると、まるで猛獣のように赤い毛で覆われた成人男性の5倍はあろうかという大きな手足まで出てきた。手足は人間の手足と猛獣の手足を掛け合わせたような形をしている。爪も鋭く分厚い凶器だ。
おそらく、探せば隠れた場所に色んな種類の武器が隠されている可能性があると風雷は考え…ゾッと背筋の凍る思いがした。
だが、みんな自分の事で精一杯でロベのソレに気付く人はヴォイドと風雷くらいしかいなかった。
しかし、驚く事にヴォイドの顔は一瞬で元通りになり
「…クソがッ!!!」
と、怒り奮闘なヴォイドの悔しそうに歪められた顔が見えるだけだった。
周りを見ても、血の一滴も地面には落ちてはおらず狐につままれた気持ちになりポカーンとヴォイドを見るしかない一同。
「だから、やめなさいと言ったのです。あの桔梗が何も無しに私達にショウ様を預ける訳がないでしょう?」
なんて、ヴォイドに声を掛けるロベは興奮した様に身を乗り出し声を弾ませながらヴォイドを注意した。…言ってる中身と彼女の行動がチグハグなのは気のせいだろうか?何だか、全然説得力がない。
…何か、彼女には違和感しかない。
そして、ショウ以外のみんなは混乱している。何が何だか分からない。何から、どう突っ込めばいいのかすら分からないカオス状態だ。
そこで、はじめて
「…私は、“偽物”だから。」
と、ショウは声を出した。
ようやく喋ったショウは笑っているが口元はひくつき今にも涙が溢れてきそうだ。
何だか、とんでもない複雑そうな理由がありそうだが、あまりにショウが悲しそうに笑みを浮かべるものだから聞かずにはいられない。
「…偽物って、どういう事だい?」
結は不思議そうに、ショウにそう訊ねると
「…私は、桔梗にとって“二番目”に大切なの。」
と、困った様な笑みを浮かべ答えてくる。
…おかしな事をいうショウだ。
桔梗は、あんなにもショウを超絶溺愛しているではないか。それはそれは、桔梗の命よりも大事にしていると桔梗が豪語するくらいに大切にされてる。それのどこが“二番目”だというのか?
「…私は…ううん。私には、もう一人…私の分身…双子の姉みたいな人がいるんだけど。
本当はね、桔梗はその人が本命なの。
だけど、色々あってその人は桔梗を受け入れる事ができなくて、桔梗以外に大切な人ができてしまったの。
だから、桔梗はその人への気持ちを誤魔化す為に、“その人にそっくりな私”をその人の“代わり”にしてるの。」
と、ショウはとんでもない爆弾発言をしてきた。
「…え?つまり、ショウには自分に瓜二つな双子のお姉さんがいて、桔梗君はそのお姉さんの事が好き。
だけど、お姉さんには桔梗君以外の恋人がいてつけ入る隙がないから、お姉さんに瓜二つなショウをお姉さんの代わりにしているって事?」
そう、やんわりとフジが要点をまとめ聞いてみると、ショウはコクリと頷いた。
「桔梗が、その人にやってあげたかった事、できなかった事、後悔している事…色んな後悔の気持ちを私で紛らわしてるだけ。
だから、“その人”がピンチに陥った時は簡単に私を放置して、その人のピンチを救う為にその人の元へ行っちゃうの。
そしたら、いつここに帰って来るかも分からない。早くて、数時間の時もあれば一ヵ月くらい帰って来ない時もあったから。」
そう話すショウの目から一粒の涙が溢れ、それをロベとヴォイドは甲斐甲斐しく慰め涙を優しく拭きとってあげている。
「私とヴォイドは、桔梗と同じショウ様の婚約者ですが…婚約者ランクというのがありまして…。
第一候補は桔梗、第二候補はヴォイド、第三候補はクエーサー、第四候補は灼 紅蓮(しゃく こうれん)、第五候補はトリトン、そして、第六候補が私…ロベ・レニーです。
ショウ様の婚約者候補は、他にも存在しますが正直私達とでは力や能力、ショウ様に対する気持ちの強さに雲泥の差がありますので実質、ショウ様の婚約者候補は六人と言えます。」
ビックリもビックリな話だ。
ショウに、六人の婚約者候補がいるなんて!!?
…え?
だけど、ショウと桔梗ってヤる事ヤっちゃってるんだよね?そこは大丈夫なの?
なんて、疑問も湧くが…
衝撃的な話の連発で、蓮の呪いの話もみんな頭からすっぽり抜けてしまっている。当の本人、蓮ですらそうなのだから。それだけの衝撃なのだ。
「…え?ショウのご両親は、桔梗君の事正式な婚約者として認めてるんじゃないの?」
と、結は無い頭を振り絞ってそんな疑問を投げ掛けた。
「ショウ様のご両親は、桔梗の事はショウ様の将来の伴侶として認めておりません。
ただ、桔梗のショウ様を思う気持ちの強さ。桔梗さえいればショウ様の安全は絶対と言い切れる程の偉大な力。
そして、…認めたくありませんが、ショウ様と両思いだという事で仕方なく婚約者第一候補となっています。」
確かに、桔梗のショウへの気持ちは生半可なものではなく狂気すら感じるほど大切にしている。容姿から能力は言わずもがなだし。
なのに、ショウのご両親が桔梗君をショウちゃんの将来の旦那さんとして認めたくないから、桔梗君以外にもショウちゃんの婚約者を集めてるって事だよな?
どうしてだろう?
と、結が頭を捻っていると
「理由は簡単です。
【桔梗の一番がショウ様ではないからです。】
だから、ショウ様を何よりも一番に愛し大切にできる人達を選び抜き私達がいます。
そして、ショウ様のご両親は第三候補のクエーサーを将来の伴侶とさせたいと熱望しています。」
ロベは、そう口に出して自分で自分を傷つけションボリしている風だった。
だって、現にショウと常に一緒にいて恋人関係にあるのが桔梗。ショウご両親に気に入られてるのが第三候補のクエーサーなのだから。
「本当は、ヴォイドもショウ様のご両親にとても気に入られてますが、根は優しいですが少々(?)傲慢で粗暴な性格の為、知らずにショウの心を傷付けてしまうのではと懸念してる所が見受けられます。」
…確かに、黙ってればクールな王子様みたいな綺麗な容姿をしているのに、中身が乱暴者っぽく思えて外と中身が反している気がする。
「なので、ショウ様のご両親…特にお父上は、馬鹿ですが頼れる兄貴肌のクエーサーをショウの将来の伴侶として迎え入れたいと考えている様です。
馬鹿だからなのか裏表もない性格です。ですが、野性的で鋭い勘の持ち主でもあり地頭はいい。そんな所がショウ様のお父上にかなり気に入られていますから。…本当、馬鹿ですが…。
…私だって、こんなにショウ様の事を思ってるし力だって申し分ないつもりもないのに…!」
と、ロベは悔しそうにしているが、恐らくこの傲慢さと包み隠さずペラペラと何でも喋ってしまう所をショウの両親は危うく感じて、伴侶候補から遠のけてしまってるのではないかと風雷とフジは考えた。
「……いや、テメーが一番ヤベー要注意人物だからだろが。何でこんなサイコパスが野放しになってるのか不思議でならねー。…それに---」
そこに、ヴォイドがロベの話に大きく突っ込んできた所で、みんな何事かと二人に注目した。
「テメーは第六候補でもなんでもないだろがっ!?」
と、ヴォイドが言った所で、みんな…何故かロベも…え?と、どういう事だと意味が分からなくて次の言葉を待った。
「確かに、ロベ、テメーは力や能力、マスターを思う気持ちだけは認める。それだけはな!
だが、それを上回るテメーのとんでもねーヤバさのせいで候補から大きく遠のいてんじゃねーか。
つか、勝手に第六候補とか名乗ってんじゃねーよ。それは、あくまでテメーの“そのヤバさ”がなかったならって想定の話で言われただけの話だろが。」
そう、ヴォイドが衝撃の話をしてきてロベを非難し指摘してきた。
「…え!?私が?こんなにお淑やかで慎ましい私が?あり得ないです。
冗談だとしても今すぐに訂正して下さい。ショウ様が勘違いしてしまったらどう責任を取るつもりですか!?」
心外だとばかりにショックな表情を浮かべ、悲しそうな顔をして見せるロベ。
しかし、よくよく彼女の様子を見ていると違和感。少し冷静になって思い返してみれば
桔梗のトラップ魔道によって、全身ぐちゃぐちゃになってるヴォイドを見てもロベはそれが何でもない事の様に平然と話をしている。
そして、時折ヴォイドの飛び散った肉片やら内臓…血飛沫など見て悦楽して興奮する様子が見受けられた。
会ったばかりなので何とも言えないが…
この美女…犯罪の匂いがする。
そう思った瞬間、結達は全身ゾォォ〜〜…っと凍り付く様な感覚に襲われた。
…どうか、この感は外れてますように…そう願うしかない。
それはひとまず考える事を放棄して
疑問だったのが
「…失礼ですが、ロベ・レニーさんは女性でありながらショウの婚約者なのですか?」
と、デリケートな事で誰も聞くに聞けなかった話を蓮は切り出してきた。
「…え?あ、はい。”私の種族”は、みんな女性の姿をしていて男性器も女性器も両方持ち合わせております。なので、異性という概念はさほどありません。」
ロベは、蓮の質問になんでそんな大したことない事を聞いてくるのかとさも当たり前の様に答えてきた。
つまり、ショウの婚約者になる人は性別なんて問題にすらならないなんて事ない話のようだ。
自分達が時代遅れなのか、ショウの家が特殊なのか分からないが少なくとも結達にとってはかなりの衝撃である。
この質問にロベは、首を傾げ不思議そうにしていた。
やっぱり、この話はロベにとって何でもない極々一般的で逆に、結達の常識に戸惑ってしまっている様だった。
「…何だか、今回はとても大変事に巻き込まれているみたいですね。」
と、話の途中にも関わらず、一方的に話を進めるマイペースなロベ。
「…うん。もしかしたら、ことと次第によっては桔梗は性別を無くして“あの子専属”になっちゃう。
つまり……桔梗は私を捨てて、“あの子”を取るって事だから。そしたら、桔梗は二度と【この世界】には戻って来ない。
…いつ、そうなってもおかしくないから覚悟しなきゃいけないのに…全然できない…。…どうしよう…」
ロベの話を聞いて、ショウは淋しそうに笑って空を見上げていた。そんなショウを見て、綺麗な顔を辛そうに歪めながらヴォイドはギュッとショウを抱きしめた。
「…だから、言ってんだろ!俺にしとけって!!」
抱きしめている間も、桔梗がかけた何かの魔道が発動しているのだろう。
衝動的にショウを抱き締めるヴォイドはブシュブシュとショウに触れた全ての部分に無数の刃物で深く斬り刻まれかつ電流も流れている様だ。
ヴォイドの体は斬り刻まれ電撃で痙攣と火傷もしている。それをヴォイドの治癒魔道なのか聖魔道なのか分からないが再生しては、桔梗のトラップで重傷になり…を繰り返している。
それでも、ショウの体から離れようとはせず、
「そんな事したら痛いよ!もう、やめてっ!!」
と、ヴォイドを心配し泣き叫ぶショウに
「…--マスターの
…グゥッ!…痛みに比……べ…たら、……ッッッ!!?大した…事…ねー……ッッッ!!」
と、喋られる状態でないにも関わらず、途切れ途切れではあるがショウを慰めようと必死になって悶絶、気絶級の激痛に耐え言葉を掛けている。
だが、徐々にヴォイドの体の再生速度が遅くなっていき、遂には傷や火傷が残るようになってようやくヴォイドはショウの体から自身の体を離した。
ヴォイドは床に手をつき滝のような汗をかき、酷い傷と火傷の為声を押し殺し呻き声を漏らしている。
体力の限界なのだろう、額に付いた目の白目部分はダークブルーの宝石のようだ。その中にたくさんの星の粒が輝いているように見える。その中の黒目部分にあたる部分は黄金だ。
それが真ん中に縦に付いていて、その両サイドに中心に付いている目より小ぶりだが同じような宝石の目が付いている。違うところは黒目部分で、左はルビーのように真っ赤な目、右はサファイアの様に青い目になっている。
宝石の目は、顔だけでなく10本全ての腕の肩、手の甲に付いている。多分だが、この分だと他の場所にも宝石の目が付いている可能性は高い。
“ヴォイドの本当の姿”を隠していられなくなるくらいにヴォイドは酷い状態なのだと分かる。
だが、治りはかなり遅いが少しずつではあるが治ってきてはいるようだ。しかし、かなり再生に時間が掛かっている様なので今日明日では完治はできなさそうに思える。
…いや、未知過ぎてよく分からないが素人判断でそう見える。
ヴォイドの悲惨な姿はもはやグロテスクなホラーでしかなく、それを見ていた結達は悲鳴をあげたり腰を抜かしたりで酷い錯乱状態になっていた。
それを落ち着かせようと必死な風雷は、結達の事で手一杯でショウ達に構ってられない状態で内心焦っていたが。
ヴォイドの状態は酷いものだが、一応ヴォイドの気が狂ってるのではないかと思うくらい無茶な行動が収まってホッとした。
仕方がないので結達を落ち着かせてから、あまりに酷い状態なので完治はおろか中傷程度まで回復出来れば上々と治癒魔道でヴォイドを治療に取り掛かった。…が!
「………は?…な、何だ…これは…ッッッ!!?」
治癒魔道を開始した途端に、あっという間にヴォイドの体は元通りになってしまったのである。
代わりに、風雷の魔力の殆どが治癒魔道で強制的に吸い取られた感覚に驚きと恐怖も感じたが…風雷の治癒魔道の力を借りて自身の力でヴォイドは自身の力を再生したようだ。
…こんな化け物が存在するなんてと、未知かつ恐ろしい生き物を見て風雷は恐怖を覚えた。
「ありがとうございます。私はヴォイドの様に再生能力も無ければ、医療魔道も使えませんからとても助かりました。」
と、ロベは丁寧にお礼をいいながらも
「…ハア、まだまだ楽しめるって思ってたのに邪魔しないでほしいものです。」
そう、ボソリと呟き興醒めしていた様子を風雷と結は見逃さなかった。
……ゾゾォォ〜〜〜……!
…こ、コイツ、マジでヤバイ奴なんじゃないか?
そう思った結と風雷は、ロベに強く警戒心を抱いた。それに、ロベを見た瞬間から結の野生の感がコイツに関わっちゃ絶対にダメだと警鐘が鳴りっぱなしだ。
ショウは大泣きしながら
「ありがと〜〜!!!」
と、嗚咽混じりに声にならない声で何回も何回も顔をべちゃべちゃにしながら風雷にお礼を言っていた。
「あのままだと今日はあの激痛に耐えなければならなかった。助かった、ありがとう。
しかし、自分達以外でこんなにも魔道を使いこなせる者が居るとは驚きだ。誇るべき素晴らしい魔道だ。」
ヴォイドは、風雷にお礼をいいつつ風雷の魔道の才能や能力を称賛した。
「…悔しいけど、魔道の才能や能力、潜在能力だけなら私以上になるかもしれませんね。魔道の属性も多種多様にあるようです。魔力量もとんでもないですね。何より、魔道のセンスが素晴らしいです。」
ここで、ヴォイドとロベには何がどうやって見えるのか感じるのか分からないが、瞬時に風雷の属性や魔力量まで見破られてしまった様だ。
「ヴォイドの事でだいぶ無理をさせてしまいました。おそらく、治癒開始してからあまりの激痛に耐えかねたヴォイドが無意識にあなたの力を無理矢理引き出してしまったのでしょう。」
そう言って、魔力を無理矢理引き出され、
限界を超えても尚マラソンを全速力で走りきり、グッタリと倒れこむマラソン選手の如く倒れ込む風雷は滝汗や激しい呼吸など体力の限界であった。
そんな瀕死状態といっても過言ではない状態の風雷に、ロベは自分の魔力を分け与えた。
おかげで、風雷の魔力はほぼ回復して元気になった訳だが。
何の呪文もなし、手や体を動かす儀式も無し、手を風雷に向ける事も無く、風雷の魔力を回復させてしまったのだ。
こんな事ができるのは、桔梗か自分くらいだと思っていたので驚きしかない。
「…スマネー。本当なら俺が、お前に魔力を返してやんなきゃなんねーんだが。再生能力の限界で魔力を返す事ができねーんだ。」
と、ヴォイドは申し訳なさそうに風雷に謝った。
「…いや、見ていられないあまり、こちらが勝手に治癒魔道を施しただけですのでお気になさらず。だが、助けられて良かった。」
風雷はそう言ったものの、あの勝手に必要以上の魔力を吸い取られる感覚にゾッとし、ヴォイドに治癒魔道を施すことにトラウマになっていた。…恐ろしい思いをしたと。
しかし…この二人。人の形をしているとはいえ、自分達の住む星の人間ではない。
二人とも、この星の人間も好む美形ではあるし、ざっくり見れば人間の形をしているが…細かな所もそうだが、あからさまに違う異形でもある。
信じられない話ではあるが…この星外からやってきた宇宙人というヤツなのかもしれないと、結達はそう思わざるえなかった。
では、そのこの星以外の宇宙人達と婚約者だというショウ。それに、存在自体チート過ぎる桔梗の存在。
何故、そんな人達と交流があるのか。そう思ったら急にショウが得体の知れないものに思えて少し気味が悪くなってしまった。
ショウって、一体何者なの?
そんな微妙な雰囲気が漂う中
「…事情があって俺は、知っている事なのだが。自分達が知らないだけで、普通にこの星の人間として暮らしてる別の星の人間も多く居る。気にしてたら、キリがない話でもある。」
なんて、風雷の口から衝撃的発言が飛び出し、結達はビックリ!?
そんな結達の反応を無視して風雷は話を続ける。
「そもそもの問題。この星の帝王が認めた者達が、この星の人間として暮らしている。或いは自由に行き来を許されている。
もちろん、それも許されず不法に侵入、人間に擬態した者や危害を加えた者達を取り仕切る警備隊も存在するから安心してほしい。」
…え!?
そんなの全然知らない!!!
この事だけでも驚きが過ぎるが、おそらく自分達が知らない何かは他にもたくさんあるんだろうなぁと思う結達であった。
「ただ、この星に人間として普通に暮らしている別の星出身の者達については、俺達と違い何らかの能力や力が発達していたり進化途中だったりと様々だが。
結局の話。別の星から、この星に移り住んだり別荘、観光に来たりしている者達も多いし。
俺達の星を取り仕切り守っている上位の方々にとって当たり前の事であり、それ専用の取り締まり条例もある。」
「ただ、一般人がその事実を知らないのは混乱を招く事と異端だと受け入れられず、善良な者達にさえ危害を加える恐れなど様々な理由でこの事実は秘密事項になっている。
……何の気まぐれか、一部、この宇宙の星以外のとんでもない方々が稀に居る事もあるが…その話はやめておこう。聞けば、頭がこんらがってしまうだろう。」
「注意事項として、その者達も普通の人間と同じ生き物あり心もある事だ。それをしっかりと覚えていてほしい。
つまるところ、普通の人間として接してほしい。…まあ、見分けがつかないだろうが。
もし、気が付いてしまった時の話だ。」
「そして、何故俺がこの話を打ち明けたのか。
それは、見ての通りこの星以外から来たこの方々の存在がバレた事。ショウと桔梗と親交があれば、どうしてもこういう機会が増える。
…ショウの父親の仕事上の関係でだ。ショウの父親の関係もあり、ショウや桔梗、俺もこの方々と知り合うキッカケができたからな。」
と、少し面倒そうに風雷はそう言ったのだった。それにしても、風雷はロベとヴォイドの事を“この方々”と、呼んでいる。少し気安い感じはあるが、彼らに丁寧語を使ってるあたりおそらくではあるが、彼らの星の中では身分の高い人達なのだろうと容易に想像ができてしまった。
みれば、彼らが身につけている衣服や装飾品は、自分達の星では身に付けないようなものばかり。
言ってみれば、ファンタジーゲームやアニメに出てきそうな衣服、装飾品である。この姿で、外を出歩けばコスプレしていると思われるだろう。
「見ての通り、この方々は俺達と大分容姿が違う部分がある。だから、この星で暮らす試験に合格できなかった。
今回の様に緊急事態やお忍びで遊びに来る事くらいしか、この星への入国は許されていない。」
と、風雷がある程度説明し終わると
「本当に残念です。私のこの肌の色や髪、目が、あからさまに、この星の人達と違い過ぎる事と……何でしょう?
試験で、“残虐性がありこの星では不適合者と判断する。”なんて、私の些細な趣味を否定されまして…はあ…。」
なんて、納得いかないとばかりにロベはションボリ肩を落としていた。
「俺の場合は見た目だな。中には、この星の人間にそっくりな体の性質に変身、変化、擬態して普通に暮らしている奴らも多いが、あいにく俺にはそんな能力はねーからな。
その中の一人が、お前達にとってお馴染みな桔梗だ。あいつの美貌はヤベー。
その美貌のグレードをグンと下げて、元々の……まあ、色々だ。それを隠して、この星の人間になりすましているからな。」
と、いうヴォイドの話に、変身、変化、擬態というワードに、やっぱり他の星の人達が普通にこの星で普通に暮らしているんだという現実味が少しだけ湧いてビビったが
それもそうと、桔梗……え?あれで、だいぶ、かなり美貌を抑えてるの?
それじゃあ、桔梗の本当の姿って…
そう思ったら、かなり興味も湧いたがそれ以上に恐ろしくなった。
だって、今だって世界中何処を見渡しても桔梗に敵う美貌の持ち主なんていないと断言できるほど、異常な美しさだから。
桔梗様から、皆様がショウ様の大切なご友人だと伺っておりますので皆様だけには“幻術”を掛けずにいます。」
と、スラリモデル体型の原色の赤に近いだろうか?見たこともない様な赤い肌をしている美女は礼儀正しく、みんなに挨拶をしてきた。
髪は炎の様な黄色オレンジのグラデーション色をしていて、あちこちに飛び跳ねてる癖毛もあいまって炎を思わせる。爪の色はネイルだろうか?真っ黒で獣のように鋭く尖っている。
そして、目の色も独特で白目の部分が黒に近い赤茶、黒目部分はオレンジ色で瞳孔部分は丸く形取っているが、よくよく見るとダイヤ型の形が6個くっ付いている。例えるなら、ワンホールケーキを6等分に切ったような切れ目がある。
立ち振る舞いも凛としていて礼儀正しい。
凛々しく美しいという表現の似合いそうな美女である。
ショウと腕を絡めて恋人繋ぎしてピットリとショウにくっ付いているのが気になるが…。
「…チッ!あのクズ、二度と返って来んな!…ぺっ!」
と、何処かに向かって悪態を吐く美少年は、陶器のように白い肌にサラサラの銀髪。
目や眉、まつ毛までも銀色で全体的に真っ白…本当に真っ白なのだ。
日の当たり具合でキラキラと虹色に輝いて見える不思議な髪と目だ。
見た目からして、淡々としていて冷静かつ冷たい様な印象を受け神聖的な美しさを持っているが…。
中身は、野性味溢れ粗暴かつ乱暴そうである。外見と中身が伴っていない。
「あんまり、そう言わないであげてくれませんか?【ヴォイド】。“あんな人”より、ショウ様の心を癒すのが最優先でしょう?」
まるで最上級の灼熱を思わせる様な超美女、ロベ・レニーは冷静にヴォイドという超絶美男子を宥めた。
「…まあ、こんな機会でもない限り俺のショウ様に近づく事すら許されねーからな。
…ムカつくッ!絶対いつか、アイツぶっ殺してやる!!」
と、お人形さんの様な綺麗な顔を大きく歪めながら、ショウの腰に手を回し甘える様にショウの肩に自分の頭を乗せた。
ヴォイドは、2Mくらいはありそうな長身でその体勢はさぞキツかろうと思うのだが、本人が幸せを噛み締めるようにショウの首筋に顔をスリスリしているので…いい事にしよう。
しかし、見事な筋肉だと思う。かなりの筋肉をつけているが、美しさを損なわずそれがまた彼の美貌を引き立てるのだ。
そして、何よりロベ・レニーとヴォイドという二人は、ただそこにいるだけで圧倒的な存在感で全てにおいて別格だと一般的な感覚を持った陽毬でさえそう感じ萎縮してしまっている。
三人の様子を見ていて、ショウとロベ、ヴォイドの関係は、友達や知り合いとも全然違う
只ならぬ関係にしか思えず、とても気になった結は
「あの…二人はショウとはどういった関係なんですカ?」
慣れない丁寧語で、二人に聞くと
「「婚約者だ。」です。」
なんて、驚きの回答が返ってきた。
…………え?
と、その場にいるみんなは固まってしまった。そして、何故かヴォイドはドン引きしたようにロベを見ていた。
ショウの婚約者は桔梗じゃないの?
どうなってるの?と、困惑している。
みんなが困惑しているのをよそに、ヴォイドは無表情な顔が嘘の様に蕩ける様な表情をショウに向け、ショウの腰をクイっと持ち上げると人の目も憚らずショウの口にキスしようとしていた。
それを見て
「……ヴォイドッ!!!?馬鹿な真似はよしなさい!!」
と、何故か慌ててヴォイドを止めようとするロベを無視して、強行突破しようとしていた。
…だが、ヴォイドを止めてる割に、ロベは口だけで止める素振りも見せるどころか…楽しそうに目元は下がり口角が上がるのを必死に耐えている様に見える。
必死に口元を隠しているつもりだろうが、「クフクフッ!」と何が待ち遠しいのか楽しみ仕方ないといった興奮した笑いが漏れ出している。
そして、ショウとヴォイドの唇が触れるか触れないか微妙な所でヴォイドの口から上がほぼ粉砕して大小様々な肉片やら骨、血がスプレーの様に勢いよく宙を飛び散った。
その様子に、とんでもない衝撃的な場面を見てあまりのグロテスクさに一同は悲鳴をあげ目を覆ったり、腰を抜かしたりで騒然としたのだが
一瞬ではあったが、動体視力のずば抜けている結と風雷はヴォイドの目が額に3つ、両頬に一つづつ付いていて、腕も10本以上付いているように見えた。
一瞬だけ出て直ぐに消えたので見間違いかもしれない。
そんな中、一人だけその場に相応しくない雰囲気と声を出す美女がいた。
「ひゃーーーっっ!!これ、これっ!最高です。クフクフッ!」
…そう、ロベである。
何故か、ロベは別の意味で興奮し歓喜の声をあげている。興奮のあまり自分を抑えられないのか、たまにおぞましい色や形をした様々な武器の羽が飛び出してくる。
もっと興奮すると、まるで猛獣のように赤い毛で覆われた成人男性の5倍はあろうかという大きな手足まで出てきた。手足は人間の手足と猛獣の手足を掛け合わせたような形をしている。爪も鋭く分厚い凶器だ。
おそらく、探せば隠れた場所に色んな種類の武器が隠されている可能性があると風雷は考え…ゾッと背筋の凍る思いがした。
だが、みんな自分の事で精一杯でロベのソレに気付く人はヴォイドと風雷くらいしかいなかった。
しかし、驚く事にヴォイドの顔は一瞬で元通りになり
「…クソがッ!!!」
と、怒り奮闘なヴォイドの悔しそうに歪められた顔が見えるだけだった。
周りを見ても、血の一滴も地面には落ちてはおらず狐につままれた気持ちになりポカーンとヴォイドを見るしかない一同。
「だから、やめなさいと言ったのです。あの桔梗が何も無しに私達にショウ様を預ける訳がないでしょう?」
なんて、ヴォイドに声を掛けるロベは興奮した様に身を乗り出し声を弾ませながらヴォイドを注意した。…言ってる中身と彼女の行動がチグハグなのは気のせいだろうか?何だか、全然説得力がない。
…何か、彼女には違和感しかない。
そして、ショウ以外のみんなは混乱している。何が何だか分からない。何から、どう突っ込めばいいのかすら分からないカオス状態だ。
そこで、はじめて
「…私は、“偽物”だから。」
と、ショウは声を出した。
ようやく喋ったショウは笑っているが口元はひくつき今にも涙が溢れてきそうだ。
何だか、とんでもない複雑そうな理由がありそうだが、あまりにショウが悲しそうに笑みを浮かべるものだから聞かずにはいられない。
「…偽物って、どういう事だい?」
結は不思議そうに、ショウにそう訊ねると
「…私は、桔梗にとって“二番目”に大切なの。」
と、困った様な笑みを浮かべ答えてくる。
…おかしな事をいうショウだ。
桔梗は、あんなにもショウを超絶溺愛しているではないか。それはそれは、桔梗の命よりも大事にしていると桔梗が豪語するくらいに大切にされてる。それのどこが“二番目”だというのか?
「…私は…ううん。私には、もう一人…私の分身…双子の姉みたいな人がいるんだけど。
本当はね、桔梗はその人が本命なの。
だけど、色々あってその人は桔梗を受け入れる事ができなくて、桔梗以外に大切な人ができてしまったの。
だから、桔梗はその人への気持ちを誤魔化す為に、“その人にそっくりな私”をその人の“代わり”にしてるの。」
と、ショウはとんでもない爆弾発言をしてきた。
「…え?つまり、ショウには自分に瓜二つな双子のお姉さんがいて、桔梗君はそのお姉さんの事が好き。
だけど、お姉さんには桔梗君以外の恋人がいてつけ入る隙がないから、お姉さんに瓜二つなショウをお姉さんの代わりにしているって事?」
そう、やんわりとフジが要点をまとめ聞いてみると、ショウはコクリと頷いた。
「桔梗が、その人にやってあげたかった事、できなかった事、後悔している事…色んな後悔の気持ちを私で紛らわしてるだけ。
だから、“その人”がピンチに陥った時は簡単に私を放置して、その人のピンチを救う為にその人の元へ行っちゃうの。
そしたら、いつここに帰って来るかも分からない。早くて、数時間の時もあれば一ヵ月くらい帰って来ない時もあったから。」
そう話すショウの目から一粒の涙が溢れ、それをロベとヴォイドは甲斐甲斐しく慰め涙を優しく拭きとってあげている。
「私とヴォイドは、桔梗と同じショウ様の婚約者ですが…婚約者ランクというのがありまして…。
第一候補は桔梗、第二候補はヴォイド、第三候補はクエーサー、第四候補は灼 紅蓮(しゃく こうれん)、第五候補はトリトン、そして、第六候補が私…ロベ・レニーです。
ショウ様の婚約者候補は、他にも存在しますが正直私達とでは力や能力、ショウ様に対する気持ちの強さに雲泥の差がありますので実質、ショウ様の婚約者候補は六人と言えます。」
ビックリもビックリな話だ。
ショウに、六人の婚約者候補がいるなんて!!?
…え?
だけど、ショウと桔梗ってヤる事ヤっちゃってるんだよね?そこは大丈夫なの?
なんて、疑問も湧くが…
衝撃的な話の連発で、蓮の呪いの話もみんな頭からすっぽり抜けてしまっている。当の本人、蓮ですらそうなのだから。それだけの衝撃なのだ。
「…え?ショウのご両親は、桔梗君の事正式な婚約者として認めてるんじゃないの?」
と、結は無い頭を振り絞ってそんな疑問を投げ掛けた。
「ショウ様のご両親は、桔梗の事はショウ様の将来の伴侶として認めておりません。
ただ、桔梗のショウ様を思う気持ちの強さ。桔梗さえいればショウ様の安全は絶対と言い切れる程の偉大な力。
そして、…認めたくありませんが、ショウ様と両思いだという事で仕方なく婚約者第一候補となっています。」
確かに、桔梗のショウへの気持ちは生半可なものではなく狂気すら感じるほど大切にしている。容姿から能力は言わずもがなだし。
なのに、ショウのご両親が桔梗君をショウちゃんの将来の旦那さんとして認めたくないから、桔梗君以外にもショウちゃんの婚約者を集めてるって事だよな?
どうしてだろう?
と、結が頭を捻っていると
「理由は簡単です。
【桔梗の一番がショウ様ではないからです。】
だから、ショウ様を何よりも一番に愛し大切にできる人達を選び抜き私達がいます。
そして、ショウ様のご両親は第三候補のクエーサーを将来の伴侶とさせたいと熱望しています。」
ロベは、そう口に出して自分で自分を傷つけションボリしている風だった。
だって、現にショウと常に一緒にいて恋人関係にあるのが桔梗。ショウご両親に気に入られてるのが第三候補のクエーサーなのだから。
「本当は、ヴォイドもショウ様のご両親にとても気に入られてますが、根は優しいですが少々(?)傲慢で粗暴な性格の為、知らずにショウの心を傷付けてしまうのではと懸念してる所が見受けられます。」
…確かに、黙ってればクールな王子様みたいな綺麗な容姿をしているのに、中身が乱暴者っぽく思えて外と中身が反している気がする。
「なので、ショウ様のご両親…特にお父上は、馬鹿ですが頼れる兄貴肌のクエーサーをショウの将来の伴侶として迎え入れたいと考えている様です。
馬鹿だからなのか裏表もない性格です。ですが、野性的で鋭い勘の持ち主でもあり地頭はいい。そんな所がショウ様のお父上にかなり気に入られていますから。…本当、馬鹿ですが…。
…私だって、こんなにショウ様の事を思ってるし力だって申し分ないつもりもないのに…!」
と、ロベは悔しそうにしているが、恐らくこの傲慢さと包み隠さずペラペラと何でも喋ってしまう所をショウの両親は危うく感じて、伴侶候補から遠のけてしまってるのではないかと風雷とフジは考えた。
「……いや、テメーが一番ヤベー要注意人物だからだろが。何でこんなサイコパスが野放しになってるのか不思議でならねー。…それに---」
そこに、ヴォイドがロベの話に大きく突っ込んできた所で、みんな何事かと二人に注目した。
「テメーは第六候補でもなんでもないだろがっ!?」
と、ヴォイドが言った所で、みんな…何故かロベも…え?と、どういう事だと意味が分からなくて次の言葉を待った。
「確かに、ロベ、テメーは力や能力、マスターを思う気持ちだけは認める。それだけはな!
だが、それを上回るテメーのとんでもねーヤバさのせいで候補から大きく遠のいてんじゃねーか。
つか、勝手に第六候補とか名乗ってんじゃねーよ。それは、あくまでテメーの“そのヤバさ”がなかったならって想定の話で言われただけの話だろが。」
そう、ヴォイドが衝撃の話をしてきてロベを非難し指摘してきた。
「…え!?私が?こんなにお淑やかで慎ましい私が?あり得ないです。
冗談だとしても今すぐに訂正して下さい。ショウ様が勘違いしてしまったらどう責任を取るつもりですか!?」
心外だとばかりにショックな表情を浮かべ、悲しそうな顔をして見せるロベ。
しかし、よくよく彼女の様子を見ていると違和感。少し冷静になって思い返してみれば
桔梗のトラップ魔道によって、全身ぐちゃぐちゃになってるヴォイドを見てもロベはそれが何でもない事の様に平然と話をしている。
そして、時折ヴォイドの飛び散った肉片やら内臓…血飛沫など見て悦楽して興奮する様子が見受けられた。
会ったばかりなので何とも言えないが…
この美女…犯罪の匂いがする。
そう思った瞬間、結達は全身ゾォォ〜〜…っと凍り付く様な感覚に襲われた。
…どうか、この感は外れてますように…そう願うしかない。
それはひとまず考える事を放棄して
疑問だったのが
「…失礼ですが、ロベ・レニーさんは女性でありながらショウの婚約者なのですか?」
と、デリケートな事で誰も聞くに聞けなかった話を蓮は切り出してきた。
「…え?あ、はい。”私の種族”は、みんな女性の姿をしていて男性器も女性器も両方持ち合わせております。なので、異性という概念はさほどありません。」
ロベは、蓮の質問になんでそんな大したことない事を聞いてくるのかとさも当たり前の様に答えてきた。
つまり、ショウの婚約者になる人は性別なんて問題にすらならないなんて事ない話のようだ。
自分達が時代遅れなのか、ショウの家が特殊なのか分からないが少なくとも結達にとってはかなりの衝撃である。
この質問にロベは、首を傾げ不思議そうにしていた。
やっぱり、この話はロベにとって何でもない極々一般的で逆に、結達の常識に戸惑ってしまっている様だった。
「…何だか、今回はとても大変事に巻き込まれているみたいですね。」
と、話の途中にも関わらず、一方的に話を進めるマイペースなロベ。
「…うん。もしかしたら、ことと次第によっては桔梗は性別を無くして“あの子専属”になっちゃう。
つまり……桔梗は私を捨てて、“あの子”を取るって事だから。そしたら、桔梗は二度と【この世界】には戻って来ない。
…いつ、そうなってもおかしくないから覚悟しなきゃいけないのに…全然できない…。…どうしよう…」
ロベの話を聞いて、ショウは淋しそうに笑って空を見上げていた。そんなショウを見て、綺麗な顔を辛そうに歪めながらヴォイドはギュッとショウを抱きしめた。
「…だから、言ってんだろ!俺にしとけって!!」
抱きしめている間も、桔梗がかけた何かの魔道が発動しているのだろう。
衝動的にショウを抱き締めるヴォイドはブシュブシュとショウに触れた全ての部分に無数の刃物で深く斬り刻まれかつ電流も流れている様だ。
ヴォイドの体は斬り刻まれ電撃で痙攣と火傷もしている。それをヴォイドの治癒魔道なのか聖魔道なのか分からないが再生しては、桔梗のトラップで重傷になり…を繰り返している。
それでも、ショウの体から離れようとはせず、
「そんな事したら痛いよ!もう、やめてっ!!」
と、ヴォイドを心配し泣き叫ぶショウに
「…--マスターの
…グゥッ!…痛みに比……べ…たら、……ッッッ!!?大した…事…ねー……ッッッ!!」
と、喋られる状態でないにも関わらず、途切れ途切れではあるがショウを慰めようと必死になって悶絶、気絶級の激痛に耐え言葉を掛けている。
だが、徐々にヴォイドの体の再生速度が遅くなっていき、遂には傷や火傷が残るようになってようやくヴォイドはショウの体から自身の体を離した。
ヴォイドは床に手をつき滝のような汗をかき、酷い傷と火傷の為声を押し殺し呻き声を漏らしている。
体力の限界なのだろう、額に付いた目の白目部分はダークブルーの宝石のようだ。その中にたくさんの星の粒が輝いているように見える。その中の黒目部分にあたる部分は黄金だ。
それが真ん中に縦に付いていて、その両サイドに中心に付いている目より小ぶりだが同じような宝石の目が付いている。違うところは黒目部分で、左はルビーのように真っ赤な目、右はサファイアの様に青い目になっている。
宝石の目は、顔だけでなく10本全ての腕の肩、手の甲に付いている。多分だが、この分だと他の場所にも宝石の目が付いている可能性は高い。
“ヴォイドの本当の姿”を隠していられなくなるくらいにヴォイドは酷い状態なのだと分かる。
だが、治りはかなり遅いが少しずつではあるが治ってきてはいるようだ。しかし、かなり再生に時間が掛かっている様なので今日明日では完治はできなさそうに思える。
…いや、未知過ぎてよく分からないが素人判断でそう見える。
ヴォイドの悲惨な姿はもはやグロテスクなホラーでしかなく、それを見ていた結達は悲鳴をあげたり腰を抜かしたりで酷い錯乱状態になっていた。
それを落ち着かせようと必死な風雷は、結達の事で手一杯でショウ達に構ってられない状態で内心焦っていたが。
ヴォイドの状態は酷いものだが、一応ヴォイドの気が狂ってるのではないかと思うくらい無茶な行動が収まってホッとした。
仕方がないので結達を落ち着かせてから、あまりに酷い状態なので完治はおろか中傷程度まで回復出来れば上々と治癒魔道でヴォイドを治療に取り掛かった。…が!
「………は?…な、何だ…これは…ッッッ!!?」
治癒魔道を開始した途端に、あっという間にヴォイドの体は元通りになってしまったのである。
代わりに、風雷の魔力の殆どが治癒魔道で強制的に吸い取られた感覚に驚きと恐怖も感じたが…風雷の治癒魔道の力を借りて自身の力でヴォイドは自身の力を再生したようだ。
…こんな化け物が存在するなんてと、未知かつ恐ろしい生き物を見て風雷は恐怖を覚えた。
「ありがとうございます。私はヴォイドの様に再生能力も無ければ、医療魔道も使えませんからとても助かりました。」
と、ロベは丁寧にお礼をいいながらも
「…ハア、まだまだ楽しめるって思ってたのに邪魔しないでほしいものです。」
そう、ボソリと呟き興醒めしていた様子を風雷と結は見逃さなかった。
……ゾゾォォ〜〜〜……!
…こ、コイツ、マジでヤバイ奴なんじゃないか?
そう思った結と風雷は、ロベに強く警戒心を抱いた。それに、ロベを見た瞬間から結の野生の感がコイツに関わっちゃ絶対にダメだと警鐘が鳴りっぱなしだ。
ショウは大泣きしながら
「ありがと〜〜!!!」
と、嗚咽混じりに声にならない声で何回も何回も顔をべちゃべちゃにしながら風雷にお礼を言っていた。
「あのままだと今日はあの激痛に耐えなければならなかった。助かった、ありがとう。
しかし、自分達以外でこんなにも魔道を使いこなせる者が居るとは驚きだ。誇るべき素晴らしい魔道だ。」
ヴォイドは、風雷にお礼をいいつつ風雷の魔道の才能や能力を称賛した。
「…悔しいけど、魔道の才能や能力、潜在能力だけなら私以上になるかもしれませんね。魔道の属性も多種多様にあるようです。魔力量もとんでもないですね。何より、魔道のセンスが素晴らしいです。」
ここで、ヴォイドとロベには何がどうやって見えるのか感じるのか分からないが、瞬時に風雷の属性や魔力量まで見破られてしまった様だ。
「ヴォイドの事でだいぶ無理をさせてしまいました。おそらく、治癒開始してからあまりの激痛に耐えかねたヴォイドが無意識にあなたの力を無理矢理引き出してしまったのでしょう。」
そう言って、魔力を無理矢理引き出され、
限界を超えても尚マラソンを全速力で走りきり、グッタリと倒れこむマラソン選手の如く倒れ込む風雷は滝汗や激しい呼吸など体力の限界であった。
そんな瀕死状態といっても過言ではない状態の風雷に、ロベは自分の魔力を分け与えた。
おかげで、風雷の魔力はほぼ回復して元気になった訳だが。
何の呪文もなし、手や体を動かす儀式も無し、手を風雷に向ける事も無く、風雷の魔力を回復させてしまったのだ。
こんな事ができるのは、桔梗か自分くらいだと思っていたので驚きしかない。
「…スマネー。本当なら俺が、お前に魔力を返してやんなきゃなんねーんだが。再生能力の限界で魔力を返す事ができねーんだ。」
と、ヴォイドは申し訳なさそうに風雷に謝った。
「…いや、見ていられないあまり、こちらが勝手に治癒魔道を施しただけですのでお気になさらず。だが、助けられて良かった。」
風雷はそう言ったものの、あの勝手に必要以上の魔力を吸い取られる感覚にゾッとし、ヴォイドに治癒魔道を施すことにトラウマになっていた。…恐ろしい思いをしたと。
しかし…この二人。人の形をしているとはいえ、自分達の住む星の人間ではない。
二人とも、この星の人間も好む美形ではあるし、ざっくり見れば人間の形をしているが…細かな所もそうだが、あからさまに違う異形でもある。
信じられない話ではあるが…この星外からやってきた宇宙人というヤツなのかもしれないと、結達はそう思わざるえなかった。
では、そのこの星以外の宇宙人達と婚約者だというショウ。それに、存在自体チート過ぎる桔梗の存在。
何故、そんな人達と交流があるのか。そう思ったら急にショウが得体の知れないものに思えて少し気味が悪くなってしまった。
ショウって、一体何者なの?
そんな微妙な雰囲気が漂う中
「…事情があって俺は、知っている事なのだが。自分達が知らないだけで、普通にこの星の人間として暮らしてる別の星の人間も多く居る。気にしてたら、キリがない話でもある。」
なんて、風雷の口から衝撃的発言が飛び出し、結達はビックリ!?
そんな結達の反応を無視して風雷は話を続ける。
「そもそもの問題。この星の帝王が認めた者達が、この星の人間として暮らしている。或いは自由に行き来を許されている。
もちろん、それも許されず不法に侵入、人間に擬態した者や危害を加えた者達を取り仕切る警備隊も存在するから安心してほしい。」
…え!?
そんなの全然知らない!!!
この事だけでも驚きが過ぎるが、おそらく自分達が知らない何かは他にもたくさんあるんだろうなぁと思う結達であった。
「ただ、この星に人間として普通に暮らしている別の星出身の者達については、俺達と違い何らかの能力や力が発達していたり進化途中だったりと様々だが。
結局の話。別の星から、この星に移り住んだり別荘、観光に来たりしている者達も多いし。
俺達の星を取り仕切り守っている上位の方々にとって当たり前の事であり、それ専用の取り締まり条例もある。」
「ただ、一般人がその事実を知らないのは混乱を招く事と異端だと受け入れられず、善良な者達にさえ危害を加える恐れなど様々な理由でこの事実は秘密事項になっている。
……何の気まぐれか、一部、この宇宙の星以外のとんでもない方々が稀に居る事もあるが…その話はやめておこう。聞けば、頭がこんらがってしまうだろう。」
「注意事項として、その者達も普通の人間と同じ生き物あり心もある事だ。それをしっかりと覚えていてほしい。
つまるところ、普通の人間として接してほしい。…まあ、見分けがつかないだろうが。
もし、気が付いてしまった時の話だ。」
「そして、何故俺がこの話を打ち明けたのか。
それは、見ての通りこの星以外から来たこの方々の存在がバレた事。ショウと桔梗と親交があれば、どうしてもこういう機会が増える。
…ショウの父親の仕事上の関係でだ。ショウの父親の関係もあり、ショウや桔梗、俺もこの方々と知り合うキッカケができたからな。」
と、少し面倒そうに風雷はそう言ったのだった。それにしても、風雷はロベとヴォイドの事を“この方々”と、呼んでいる。少し気安い感じはあるが、彼らに丁寧語を使ってるあたりおそらくではあるが、彼らの星の中では身分の高い人達なのだろうと容易に想像ができてしまった。
みれば、彼らが身につけている衣服や装飾品は、自分達の星では身に付けないようなものばかり。
言ってみれば、ファンタジーゲームやアニメに出てきそうな衣服、装飾品である。この姿で、外を出歩けばコスプレしていると思われるだろう。
「見ての通り、この方々は俺達と大分容姿が違う部分がある。だから、この星で暮らす試験に合格できなかった。
今回の様に緊急事態やお忍びで遊びに来る事くらいしか、この星への入国は許されていない。」
と、風雷がある程度説明し終わると
「本当に残念です。私のこの肌の色や髪、目が、あからさまに、この星の人達と違い過ぎる事と……何でしょう?
試験で、“残虐性がありこの星では不適合者と判断する。”なんて、私の些細な趣味を否定されまして…はあ…。」
なんて、納得いかないとばかりにロベはションボリ肩を落としていた。
「俺の場合は見た目だな。中には、この星の人間にそっくりな体の性質に変身、変化、擬態して普通に暮らしている奴らも多いが、あいにく俺にはそんな能力はねーからな。
その中の一人が、お前達にとってお馴染みな桔梗だ。あいつの美貌はヤベー。
その美貌のグレードをグンと下げて、元々の……まあ、色々だ。それを隠して、この星の人間になりすましているからな。」
と、いうヴォイドの話に、変身、変化、擬態というワードに、やっぱり他の星の人達が普通にこの星で普通に暮らしているんだという現実味が少しだけ湧いてビビったが
それもそうと、桔梗……え?あれで、だいぶ、かなり美貌を抑えてるの?
それじゃあ、桔梗の本当の姿って…
そう思ったら、かなり興味も湧いたがそれ以上に恐ろしくなった。
だって、今だって世界中何処を見渡しても桔梗に敵う美貌の持ち主なんていないと断言できるほど、異常な美しさだから。